なぜ山は長い時間をかけて削られるのか?

山が長い時間をかけて削られるのは、雨・川・雪・氷・風・重力などが岩石を少しずつ壊し、その破片を山の外へ運び続けるからです。まず風化によって硬い岩石が割れたり変質したりし、その後、流水や斜面崩壊、氷河などができた土砂や岩片を移動させます。こうした作用が何千年、何万年、さらに長い時間にわたって繰り返されることで、谷が深くなり、尾根が低くなり、山の形そのものが変化します。

産業技術総合研究所の地質調査総合センターは、風化を「岩石や鉱物が地表で大気や水にさらされ、分解・破砕される現象」と説明しています。また日本の山地を扱った地形学研究では、山の高さは隆起だけでなく侵食によっても変わり、隆起がなければ山地の高度は時間とともに低下していくことが示されています。

つまり山は、できたあと静止している地形ではありません。地下から山を持ち上げる力と、地表から山を削る力が同時に働く、変化し続ける地形なのです。

目次

「風化」と「侵食」は同じではない

山が削られる仕組みを理解するうえで、まず区別したいのが風化と侵食です。

風化とは、岩石がその場所にあるまま、細かく砕けたり鉱物が変質したりすることです。一方、侵食とは、風化などで生じた岩片や土砂が、水、氷、風、重力などによって取り除かれ、別の場所へ運ばれることです。

たとえば山肌の岩に割れ目が増えて砂状になるまでが風化、その砂が雨水に流されて谷へ運ばれるのが侵食です。

アメリカ国立公園局も、岩石がその場でほぐれる過程をweathering、そこから物質が水・風・氷などで移動する過程をerosionとして区別しています。

雨や水は岩石を少しずつ弱くする

山の岩石は一見すると非常に硬く見えます。しかし地表に露出した岩石は、長い時間にわたり雨水や空気に触れ続けます。

地質調査総合センターによると、風化には岩石を細かく砕く物理的風化と、鉱物を化学的に変化させる化学的風化があります。

物理的風化では、温度変化、凍結と融解、岩盤の圧力解放などによって割れ目が広がり、岩石が小さくなります。

化学的風化では、水や水に溶けた二酸化炭素などが鉱物と反応し、成分が溶け出したり、別の鉱物へ変化したりします。新鮮で硬かった岩石も、こうして次第にもろくなり、土砂として移動しやすくなります。

凍結と融解で岩が割れることがある

寒冷な山地では、岩の割れ目に入った水が凍ったり解けたりする現象が繰り返されます。

水は凍ると体積が増えるため、割れ目の内部に力がかかります。凍結・融解が何度も起こると、すでに存在していた割れ目が広がり、岩片がはがれ落ちやすくなります。

高山で岩場の下に角ばった岩屑が大量にたまっていることがあるのは、こうした物理的風化や落石の影響です。

ただし、どの山でも凍結破砕が主役になるわけではありません。温暖湿潤な地域では化学的風化や流水による侵食が大きな役割を持ち、乾燥地では別の風化条件が重要になります。

川は谷を深くしながら山を削る

風化でできた土砂や岩片を山の外へ運ぶ代表的な力が川です。

雨が降ると水は斜面を流れ、小さな溝をつくります。流れが集まると沢になり、さらに河川になります。流れる水は土砂を運ぶだけでなく、河床の岩盤を削り、谷を深くします。

国土地理院は、河川侵食によって谷や河川争奪地形などが発達することを紹介しています。山地で河川の高低差が大きいほど、水の流れは土砂を下流へ運び出す重要な経路になります。

川が山を削るときには、水そのものだけでなく、水が運ぶ砂や礫も働きます。流れている石や砂が河床や岩壁へぶつかり、こすりながら削るためです。

豪雨は短時間でも大きな侵食を起こす

山の侵食は、毎日同じ速さで進むわけではありません。

普段はほとんど変化していないように見える斜面でも、台風や集中豪雨によって大量の水が流れると、数時間から数日で大きく削られることがあります。

強い雨は地表の土砂を流し、沢の水量を増やし、斜面内部へ水を浸透させます。その結果、表層崩壊、地すべり、土石流などが発生し、大量の岩石や土砂が一度に谷へ移動します。

長期的な山地侵食は、こうしたまれな大規模現象と、日常的な小さな変化の両方が積み重なって進みます。

重力そのものも山を低くする力になる

山には急な斜面が多く、岩石や土砂には常に重力が働いています。

風化によって岩盤が弱くなったり、雨で地下水が増えたりすると、斜面を支える力が弱まり、落石、崩壊、地すべりが起こることがあります。

地質調査総合センターも、山地の急傾斜地では斜面崩壊が起こり得る一方、その起こりやすさには地質や地下水条件が大きく影響すると説明しています。

崩れた土砂が斜面の下に残っただけでは、山全体から物質が失われたことにはなりません。しかしその土砂を川がさらに下流へ運び去れば、山地から物質が実際に外へ搬出されます。

氷河は山を削る巨大なやすりになる

高緯度や高山では、氷河も非常に強い侵食作用を持ちます。

氷河は止まっている氷の塊ではなく、自重によってゆっくり斜面を流れます。その底には岩石や砂が取り込まれており、氷河が移動すると岩盤をこすって削ります。この作用を磨耗といいます。

また、氷河底の割れ目に沿って岩石の塊を引きはがし、そのまま運び去るプラッキングも起こります。

アメリカ国立公園局は、氷河がこうした作用によってU字谷、急な谷壁、アレート、ホーンなど特徴的な山岳地形を形成すると説明しています。

氷河がなくなった現在の山でも、過去の氷河侵食でつくられた谷や尖った稜線が残っている場合があります。

風も山を削るが、場所によって重要度は違う

風も砂や細かな粒子を動かし、地表を削ることがあります。

特に乾燥地域や植生の少ない高山では、強風が細粒物質を吹き飛ばし、岩石表面へ砂粒を衝突させることで風食を起こします。

ただし、日本のような湿潤な山地では、多くの場合、流水や斜面崩壊の方が山地侵食への寄与は大きいと考えられます。

山を削る主役は地域の気候によって変わり、水、氷、風、重力が同じ割合で働くわけではありません。

岩石の種類によって削られる速さが違う

山は一様な材料でできているわけではありません。

硬く風化しにくい岩石もあれば、水を含むと崩れやすい地層、割れ目の多い岩盤、化学的に溶けやすい岩石もあります。

そのため同じ雨や川の作用を受けても、場所によって侵食速度は異なります。

侵食されにくい岩石は尾根や岩峰として残りやすく、侵食されやすい岩石は谷になりやすくなります。このように岩石の強さの違いによって地形に差が生まれる現象を差別侵食と呼びます。

山が長い時間をかけて削られても、表面が均一に低くなるのではなく、谷・尾根・崖など複雑な地形が発達する理由の一つです。

植物は侵食を防ぐ一方、風化にも関わる

森林の根は土壌を支え、雨粒が直接地面へ当たるのを弱めるため、表面侵食を抑える働きを持ちます。

一方、植物の根が岩の割れ目へ入り込んで成長すると、岩石を押し広げることがあります。また土壌中の生物活動によって生じる有機酸は、化学的風化にも関係します。

つまり植生は「山が削られるのを止める」だけの存在ではありません。土砂移動を抑制しつつ、長期的には土壌形成や岩石風化にも関わっています。

削られた岩石はどこへ行くのか

侵食された岩石や土砂は消えてなくなるわけではありません。

斜面から谷へ落ちた岩片は川へ入り、礫、砂、泥へと細かくなりながら下流へ運ばれます。川の流れが弱くなる扇状地や平野では一部が堆積し、さらに細かな粒子は河口から海へ運ばれます。

山地の侵食は、下流側から見ると堆積地形をつくる材料の供給でもあります。

つまり、一つの場所では山が削られて低くなり、その物質が別の場所では平野、三角州、海底堆積物などをつくります。侵食と堆積は地球表面の物質循環の両側なのです。

山は高くなりながら同時に削られることもある

山が削られているなら、最終的にはすべての山がすぐ低くなりそうに思えるかもしれません。

しかし実際の山地では、プレート運動や断層運動による隆起が同時に進んでいる場合があります。

地震学・地形学の研究では、侵食は山脈形成を理解する重要な要素であり、隆起がなければ山地高度は侵食で低下する一方、隆起が続く場所では侵食との競争で山の高さや起伏が決まると考えられています。

隆起が侵食より速ければ山地は高くなり、侵食が隆起より速ければ平均高度は低下します。両者が長期的に近い速さなら、山の平均的な高さが大きく変わらなくても、内部では岩石が持ち上げられ、削られ、運び去られ続けます。

侵食が激しいと隆起も変わることがある

山から大量の岩石が取り除かれると、その分だけ地殻の荷重が軽くなります。

地殻はその下のマントルの上で浮力を受けているため、大規模な侵食による荷重減少が、長期的には地殻の上昇を促すことがあります。これはアイソスタシーと呼ばれる考え方に関係します。

そのため、侵食は単純に山を低くするだけでなく、地下の地殻変動と相互作用する場合があります。

ただし、侵食で失われた高さがそのまま全部戻るわけではありません。山地の高さは、プレート運動、地殻の厚さ、岩石強度、侵食速度など多くの要因で決まります。

「古い山ほど必ず低い」とは限らない

長い時間ほど侵食が進むなら、古い山はすべて低いように思えるかもしれません。

たしかに隆起が止まり、侵食だけが長く続けば、山地は一般に低くなっていきます。しかし古い岩石からなる山でも、その後の地殻変動で再び隆起すれば、高く険しい地形になることがあります。

反対に比較的新しい山でも、柔らかい岩石や強い降雨によって急速に削られる場合があります。

山の高さや険しさは、単純な「年齢」ではなく、隆起と侵食の履歴で決まります。

山が削られる速さは一定ではない

山地侵食の速さは、地域と時代によって大きく異なります。

雨量が多いか、氷河があるか、岩石が硬いか、斜面が急か、植生があるか、地震が多いかなどによって変化します。

さらに侵食は、少しずつ連続的に進むだけでなく、大地震や豪雨のときに一気に進むことがあります。

そのため、「山は1年に何mmずつ均等に低くなる」と考えるのは正確ではありません。長期平均では小さな速度に見えても、その中には大規模崩壊のような短時間の変化が含まれています。

山を削る主な作用を整理すると

  • 物理的風化:凍結融解や温度変化などで岩石が細かく砕ける。
  • 化学的風化:水や二酸化炭素などとの反応で鉱物が変質・溶解する。
  • 河川侵食:流水が谷を削り、砂や礫を下流へ運ぶ。
  • 斜面崩壊・地すべり:重力によって大量の岩石や土砂が低い場所へ移動する。
  • 氷河侵食:氷が岩盤を磨耗・剥離し、大量の岩石を運ぶ。
  • 風食:乾燥地や高山などで細粒物質を運び、岩石表面を削る。
  • 差別侵食:岩石の強さや性質の違いによって、谷や尾根が異なる速さで削られる。

結局、なぜ山は長い時間をかけて削られるのか

山の岩石が風化によって弱くなり、その岩片や土砂を雨、川、氷河、風、重力などが繰り返し運び去るからです。

一回一回の変化は小さくても、何千年、何万年という時間が積み重なれば、川は谷を深くし、斜面崩壊は山腹を後退させ、氷河は岩盤を削り、山の形を大きく変えます。

しかも山地では侵食だけでなく隆起も起きています。山が高くなりながら同時に削られることもあり、現在の標高や険しさは、その二つの作用の長期的な競争の結果です。

つまり山は、完成したまま残る巨大な岩の塊ではありません。岩石が壊れ、運ばれ、別の場所へ堆積し、その一方で地殻が持ち上がるという地球表面の循環の中で、少しずつ姿を変え続けているのです。

参考資料

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