発達した台風の衛星画像を見ると、中心に丸い穴のような「目」が見えることがあります。では、なぜ台風の中心には、雲の少ない目ができるのでしょうか。
結論からいうと、台風の中心を取り巻く眼の壁で非常に強い上昇流が続く一方、その内側の中心部では空気がゆっくり下降するためです。下降した空気は圧縮されて暖まり、乾燥しやすくなるため雲ができにくくなります。さらに、中心へ向かう強い回転流は眼の壁付近で大きく曲げられ、中心部へ直接入り込みにくくなります。こうした力学と熱力学の組み合わせによって、台風の目が形成・維持されます。
台風の目とはどんな場所か
気象庁は、台風の眼を「台風の中心付近で風が弱く雲が少ない部分」と説明しています。
発達した台風では、目の直径は数十km程度になることが多く、その周囲には眼の壁と呼ばれる発達した積乱雲の輪があります。
NOAAによると、目は地表付近で最も気圧が低く、上空では周囲より暖かい領域です。一方、その周囲の眼の壁では最も強い上昇流や風が集中します。
眼の壁では空気が激しく上昇している
台風の地上付近では、暖かく湿った空気が渦を巻きながら中心へ流れ込みます。
その空気は中心のすぐ外側、眼の壁付近で強く上昇します。積乱雲の中で水蒸気が凝結すると潜熱が放出され、上昇流がさらに維持されます。
このため眼の壁は、台風の中でも特に積乱雲が発達し、強い雨と風が集中する場所になります。
なぜ中心部では逆に空気が下降するのか
眼の壁で大量の空気が上昇すると、その循環に対応して中心部では空気がゆっくり下降します。
NOAAは、眼の壁の対流が中心部の空気を下降させる仕組みを、目の形成・維持を説明する重要な要素の一つとしています。
この下降流は眼の中全体で一様に強いわけではありませんが、上空から下向きへ空気が動くことで、目の中の空気は暖まり、乾燥しやすくなります。
下降する空気はなぜ暖かく乾くのか
空気が下降すると、周囲の気圧が高くなるため圧縮されます。圧縮された空気は外部から熱を受け取らなくても温度が上がります。これを断熱昇温といいます。
温度が上がると相対湿度は下がるため、雲粒が蒸発しやすくなります。
その結果、台風の中心部では雲が少なくなり、衛星画像で目がはっきり見えることがあります。
目の中が暖かいのはなぜか
台風の目の上空は、周囲より暖かい「暖気核」の一部になっています。
NOAAの観測では、目の上空には暖かく乾燥した空気があり、その下に比較的湿った空気が存在することがあります。
この暖かさは、主に下降する空気の断熱昇温によってつくられます。暖かい空気柱は台風中心部の低い気圧を支える要素にもなります。
中心へ向かう風はなぜ目の中まで入らないのか
台風の地上付近では、空気が中心へ向かいながら非常に速く回転しています。
中心へ近づくほど回転速度が大きくなり、空気には外向きの見かけの力が強く働きます。気象庁は、風が中心に近づいて速くなるほど外側へ引っ張られる力が強まり、中心へ風が入り込みにくい領域ができると説明しています。
ただし、目の形成を遠心力だけで説明するのは単純化しすぎです。実際には、眼の壁の強い対流、下降流、圧力分布、回転流の力学などが組み合わさっています。
目と眼の壁は一体の構造
台風の目だけを切り離して考えることはできません。
目のすぐ外側には眼の壁があり、そこでは強い上昇流が続きます。その内側では下降流が生じて暖かく乾いた空気がつくられます。
つまり、目と眼の壁は、上昇と下降が隣り合う一つの立体的な循環として成立しています。
なぜすべての台風に明瞭な目があるわけではないのか
弱い熱帯低気圧や発達途中の台風では、中心付近の対流が十分に組織化されておらず、明瞭な目が見えないことがあります。
目がはっきり形成されるには、強い回転、まとまった眼の壁、上空までそろった渦構造などが必要です。
そのため、一般に強く発達した台風ほど衛星画像で明瞭な目が見えやすくなります。
目の大きさは一定ではない
台風の目の大きさは一定ではありません。NOAAによると、目の直径は非常に小さいものから100kmを超えるものまであります。
発達中の台風では、目が小さく締まるように変化する場合があります。一方、内部構造の変化によって目が大きくなることもあります。
したがって、目が大きいほど必ず強い、あるいは小さいほど必ず強いと単純にはいえません。
目が縮むと台風は強くなるのか
NOAAの研究では、台風が発達するときに目が縮小することが観測されています。
中心へ向かう回転流がより内側へ集中すると、眼の壁付近の風が強まりやすくなります。また、眼の壁の対流が強まることで、中心部の下降流や暖気核も強くなることがあります。
ただし、目の大きさだけで強度変化を判断することはできません。海面水温、鉛直シア、内部の雨帯構造なども影響します。
二重の眼の壁ができることもある
非常に強い台風では、内側の眼の壁の外に新しい眼の壁が形成されることがあります。これを眼の壁置換と呼びます。
外側の眼の壁が発達すると、内側の眼の壁は弱まり、新しい眼の壁へ置き換わっていきます。
この過程では、一時的に最大風速が弱まったり、風の強い範囲が広がったりすることがあります。目の大きさも変化します。
目の中で青空が見えることがある理由
目の中では下降流によって空気が暖まり乾燥するため、雲が少なくなることがあります。
そのため、発達した台風の目が陸上を通過すると、一時的に雨がやみ、風が弱まり、青空が見えることさえあります。
しかし、これは台風が去ったことを意味しません。目の反対側の眼の壁が近づくと、風向きが反転し、再び猛烈な風雨になることがあります。
台風の目ができる仕組みは完全に解明されているのか
目と眼の壁の基本的な構造はよく観測されていますが、目が最初に形成される過程の細部には研究が続いている部分があります。
NOAAは、眼の壁の対流によって中心部へ下降流が生じる考え方や、回転流の力学によって中心部から空気が外へ移される考え方など、複数の仕組みが関係すると説明しています。
そのため、「一つの力だけで目ができる」と断定するより、強い回転と眼の壁の対流による空気の再配置が組み合わさって形成されると考えるのが適切です。
関連する台風の仕組み
台風が渦を巻く構造になる理由については、なぜ台風は渦を巻く構造になるのか?で詳しく解説しています。
台風の進路が決まる仕組みについては、なぜ台風の進路は周囲の風に流されて決まるのか?、高潮の仕組みについては、なぜ台風で高潮が起こるのか?も参考になります。
まとめ
台風の中心に目ができるのは、眼の壁で強い上昇流が続く一方、その内側の中心部では空気が下降し、断熱昇温によって暖かく乾燥するためです。
さらに、中心へ向かう高速の回転流は眼の壁付近で大きく曲げられ、中心部へ直接入り込みにくくなります。
このように、台風の目は単なる「雲の切れ間」ではなく、眼の壁の対流、下降流、暖気核、回転流の力学が組み合わさってつくられる、台風内部の重要な構造です。
参考資料
- 気象庁「台風の目はどうしてできるのですか?」
- 気象庁「台風に伴う風の特性」
- NOAA/AOML Hurricane FAQ
- NOAA/AOML「Hurricane Eye Dynamics and Thermodynamics」

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