なぜ台風は発生しやすい場所と発生しにくい場所があるのか?

台風は、どの暖かい海でも同じように発生するわけではありません。西北太平洋では毎年多くの台風が発生しますが、赤道のすぐ近くでは発生しにくく、同じ熱帯でもほとんど発生しない海域があります。

では、なぜ台風には発生しやすい場所と発生しにくい場所があるのでしょうか。結論からいうと、暖かい海、十分な湿り気、弱い鉛直シア、低層の渦、赤道からある程度離れた位置など、複数の条件が同時にそろう必要があり、そのそろいやすさが海域や季節によって違うからです。

目次

暖かい海だけでは台風は発生しない

気象庁は、一般に台風は海面水温が26〜27℃程度以上の海域で発生すると説明しています。ただし、海面水温が高いだけでは台風の発生・発達にはつながりません。

台風は、海から供給される熱と水蒸気を使って積乱雲を発達させ、その凝結で放出される潜熱を循環の維持に利用します。そのため暖かい海は重要ですが、それは必要条件の一つにすぎません。

同じように海面水温が高くても、上空の風が強すぎたり、中層の空気が乾いていたり、もともとの低気圧性の渦がなかったりすれば、台風は発生しにくくなります。

赤道のすぐ近くではなぜ発生しにくいのか

台風ができるには、集まった空気が中心へ一直線に流れ込むだけでなく、回転する渦として組織化される必要があります。その回転を支える重要な要素が、地球の自転によるコリオリ効果です。

コリオリ効果は赤道でほぼゼロになり、赤道から離れるほど強くなります。NOAA/AOMLは、熱帯低気圧の発生には赤道からおよそ500km程度以上離れていることが有利だと説明しています。

そのため、赤道直下は海水温が高くても、台風の渦を維持する力学的条件が不足しやすく、発生しにくい場所になります。

もともとの「弱い渦」が必要

台風は、何もない海面から突然巨大な渦として生まれるわけではありません。NOAA/AOMLは、発生前に下層の収束と相対渦度を持つ擾乱が必要だとしています。

西北太平洋では、モンスーントラフや熱帯収束帯など、低層の風が集まりやすく、回転を持つ擾乱ができやすい大規模な気流場があります。こうした場所では、積乱雲の集団がまとまり、熱帯低気圧へ発達するきっかけが増えます。

一方、海面水温が高くても、低層の風が発散していたり、渦を持つ擾乱がほとんど生まれなかったりする海域では、台風の発生は少なくなります。

中層の空気が湿っていることも重要

台風の発生には、対流圏の中層が比較的湿っていることも重要です。

発達中の積乱雲に乾いた空気が入り込むと、雲粒や雨滴の蒸発が増え、空気が冷やされて下降流が生じやすくなります。すると上昇流が弱まり、積乱雲の集団が長時間維持されにくくなります。

そのため、湿った空気が広い範囲にある海域のほうが、複数の積乱雲がまとまって台風へ成長しやすくなります。

鉛直シアが弱い場所ほど発生しやすい

鉛直シアとは、高度による風向や風速の違いです。発生途中の熱帯低気圧はまだ構造が弱いため、強い鉛直シアを受けると、下層の循環と上空の積乱雲がずれやすくなります。

NOAA/AOMLは、弱い鉛直シアが熱帯低気圧の発生に有利な条件の一つだとしています。強いシアが続くと、深い対流が中心から離れ、暖気核を作るための加熱がまとまりにくくなります。

そのため、同じ海面水温でも、上空の風が穏やかな海域と強いシアが卓越する海域では、発生しやすさが大きく違います。

なぜ西北太平洋では台風が多いのか

西北太平洋は、広い暖水域を持ち、モンスーン循環や熱帯収束帯によって低層の収束と渦が生じやすい海域です。さらに、季節によっては中層の湿度が高く、鉛直シアも比較的弱くなります。

つまり、一つの条件が特別だからではなく、台風発生に必要な複数の条件が広い範囲で同時にそろいやすいことが、発生数の多さにつながります。

一方、海域によっては暖かい海があっても、強い鉛直シアや乾燥空気、低層渦度の不足などが発生を抑えます。

なぜ南大西洋では台風に相当する熱帯低気圧が少ないのか

南大西洋では、熱帯低気圧がまったく発生しないわけではありませんが、非常にまれです。

NOAA/AOMLは、南大西洋で熱帯低気圧が少ない主な理由として、対流圏の鉛直シアが強いことと、低層の収束や渦を作る熱帯収束帯が海上で発達しにくいことを挙げています。

この例からも、海面水温だけでは発生しやすさを説明できないことが分かります。

季節によって発生しやすい場所が変わる

台風の発生条件は季節によって移動します。北半球では夏から秋にかけて海が十分暖まり、熱帯の大気循環も台風発生に適した状態になりやすくなります。

NOAA/AOMLは、熱帯低気圧の主な季節が夏から秋になる理由として、暖かい海、対流しやすい大気、弱い鉛直シア、大規模な渦の供給が同時に最もそろいやすくなることを説明しています。

したがって、同じ海域でも一年中同じ確率で台風が発生するわけではありません。

海面水温26〜27℃は「絶対の境界」ではない

気象庁が示す26〜27℃という値は、台風が発生しやすい海面水温の目安です。しかし、それを超えた瞬間に台風が発生するわけではありません。

海の暖かさは水深方向にも重要です。表面だけが暖かく、その下に冷たい水がある場合は、風で海がかき混ぜられると海面水温が下がりやすくなります。

また、大気側の湿度、安定度、鉛直シア、低層の渦などが不利なら、高い海面水温があっても台風は発生しません。逆に、条件が非常に整っていれば、単純な一つの温度だけでは説明できない発達もあります。

条件が全部そろっても必ず発生するわけではない

台風発生の難しい点は、有利な条件がそろっていても、必ず熱帯低気圧が台風へ発達するわけではないことです。

NOAA/AOMLも、暖水、湿度、低シア、コリオリ効果、既存の擾乱などは必要な条件ではあるものの、十分条件ではないとしています。

積乱雲群がどのようにまとまり、中心付近の圧力低下と回転が強まり、暖気核を作れるかには、より小さな規模の大気過程も関係します。そのため、発生予測は進路予報より難しい場合があります。

「発生しやすい場所」は固定されているわけではない

長期平均では発生しやすい海域がありますが、年ごとの大気海洋状態によって発生位置は変化します。

たとえば海面水温の分布、モンスーントラフの位置、鉛直シアや湿度の分布が変われば、同じ季節でも台風が発生しやすい場所は東西・南北にずれることがあります。

このため、台風の発生域は「地図上の決まった場所」ではなく、複数の条件がその時々に重なる領域と考えるのが適切です。

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まとめ

台風に発生しやすい場所と発生しにくい場所があるのは、暖かい海だけでなく、赤道からの距離、低層の渦、湿った大気、弱い鉛直シア、不安定な大気など複数の条件が同時に必要だからです。

赤道付近ではコリオリ効果が弱く、強い鉛直シアがある海域では積乱雲がまとまりにくく、低層の渦が少ない場所では発生のきっかけそのものが不足します。

そのため、台風の発生域は単に「海が暖かい場所」ではなく、海と大気の条件が重なって熱帯低気圧が組織化されやすい場所です。

参考資料

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