なぜ表層雪崩では弱層の破壊が広がると雪の板が一気に滑り出すのか?

雪崩というと、斜面の雪が重さに耐えられなくなって、そのまま下へ滑り落ちる現象のように見えます。しかし表層雪崩の中でも特に危険な「雪板状の雪崩」では、もっと特徴的な仕組みが働いています。

結論からいうと、弱い雪の層の一部で小さな破壊が始まり、その破壊が横方向へ広がると、上に乗っていたまとまりのある雪の板が広い範囲で支えを失い、斜面方向へ一気に滑り出すからです。つまり重要なのは、弱層が「ある」ことだけでなく、そこで生じた破壊がどこまで広がるかです。

目次

表層雪崩は積雪内部にすべり面ができる雪崩

防災科学技術研究所は、斜面上の積雪では重力による駆動力と、それを斜面にとどめる支持力が釣り合っていると説明しています。雪の内部で滑るものが表層雪崩、地表面で滑るものが全層雪崩です。

表層雪崩では、積雪の中に周囲より弱い層があり、その上にまとまりのある雪が積もっていると、弱い層がすべり面になりやすくなります。

雪の「板」と弱層の組み合わせが重要

SLFは、雪板雪崩が起こるには、まとまりのある雪の層である「slab」が、その下の弱層の上に載っていることが必要だと説明しています。

この上側の雪は、ばらばらの粒ではなく、ある程度ひとかたまりとして力を伝える性質をもっています。だからこそ、弱層の一部が壊れたとき、その影響が周囲へ伝わりやすくなります。

最初は小さな破壊から始まる

雪板雪崩は、斜面全体が同時に壊れるわけではありません。最初は弱層のごく一部で小さな破壊が起こります。

SLFやAvalanche.orgでは、この段階をfailure initiation、つまり破壊の開始として説明しています。自然発生なら新雪や風で運ばれた雪による荷重の増加、人為発生ならスキーヤーなどの追加荷重がきっかけになることがあります。

小さな破壊が「臨界サイズ」を超えると広がり始める

弱層にできた小さな亀裂は、必ずそのまま広がるわけではありません。途中で止まることもあります。

しかし亀裂がある大きさまで成長すると、亀裂の先端に応力が集中し、周囲の弱層をさらに壊しやすくなります。Avalanche.orgは、この大きさをcritical sizeと説明しています。

つまり雪崩につながるかどうかは、「最初の破壊が起きたか」だけでなく、「その破壊が自力で広がれる大きさに達したか」が重要です。

弱層がつぶれると上の雪板が曲がる

弱層が壊れると、その部分では上に載っている雪板を下から支える力が失われます。すると雪板はわずかにたわみます。

SLFの研究では、この雪板の曲がりが、弱層内の亀裂先端へ力を集中させ、破壊をさらに広げる重要な要因になるとされています。

弱層の破壊と雪板の変形が互いに影響し合うことで、亀裂は最初の一点から広い範囲へ進みやすくなります。

亀裂が横へ広がると広い範囲が同時に不安定になる

弱層の破壊が数十メートル、場合によってはそれ以上に広がると、その上の雪板も広い範囲で支えを失います。

SLFは、雪板雪崩では弱層内の小さな破壊が急速に伝播し、その結果として雪板全体が広い面積で解放されると説明しています。

このため、足元の一点で加わった荷重が、離れた場所の雪崩発生につながる「リモートトリガー」が起こることもあります。

雪板そのものにも破断が起こる

弱層の亀裂が十分に広がると、上に載る雪板には引っ張りや曲げの力が強くかかります。

やがて雪板自身にも破断が生じ、上端に特徴的な破断面ができます。SLFは、弱層の破壊伝播の後に雪板の引張破壊が起こり、雪板が斜面から切り離されると説明しています。

支えを失った雪板が斜面方向へ滑り出す

弱層から切り離された雪板には、重力によって斜面下方へ動こうとする力が働いています。

斜面が十分に急で、すべり面との摩擦より斜面方向の力が強ければ、雪板は一気に滑り出します。これが雪板状の表層雪崩の発生です。

弱層があるだけでは雪崩にならない

積雪の中に弱層があっても、その上の雪がまとまりをもっていなかったり、亀裂が途中で止まったりすれば、大きな雪板雪崩にはならないことがあります。

逆に、弱層が広く連続し、上の雪板が適度な硬さと厚さをもち、亀裂が広がりやすい条件がそろうと、広範囲の雪が一度に動く可能性が高くなります。

「壊れやすさ」と「壊れた後に広がりやすいか」は別の問題

雪崩研究では、最初の破壊が起きやすいかと、その破壊が広い範囲へ伝播しやすいかは区別して考えられます。

SLFの研究では、深く埋もれた弱層は人の荷重では壊しにくい一方、いったん臨界亀裂ができると上の厚い雪板が多くのエネルギーを供給し、亀裂伝播を助ける場合があるとされています。

つまり「きっかけが入りやすい条件」と「雪崩が大きく広がりやすい条件」は必ずしも同じではありません。

短時間の降雪は弱層への荷重を増やす

防災科学技術研究所は、短時間のまとまった降雪を雪崩の駆動力を増やす要因の一つとして挙げています。

弱層の上に新しい雪が急に積もると、その重さで弱層へかかる応力が増え、破壊開始のきっかけが生まれやすくなります。

風で運ばれた雪も雪板をつくる

強風は雪を斜面の一部へ集め、風下側に密でまとまりのある雪を形成することがあります。

このような雪が弱層の上へ急に載ると、荷重が増えるだけでなく、亀裂を横へ伝えやすい雪板がつくられることがあります。

弱層は雪質の変化によってできる

弱層は、雪が降った時期やその後の気温、温度勾配、風、日射などの違いによって形成されます。

防災科研は、支持力の小さい層が形成されることを、雪崩発生につながる支持力低下の原因として挙げています。

積雪は一様な塊ではなく、性質の違う層が重なる構造なので、その境界や内部に弱い部分ができることがあります。

融雪や雨では別の形で支持力が低下する

融雪や雨によって液体水が増えると、雪粒同士の結びつきや積雪底面との摩擦が弱くなることがあります。

防災科研は、融雪や降雨による雪粒子の融解や積雪底面の摩擦低下を、雪崩の支持力が下がる原因として説明しています。

このため雪崩は寒い時期の乾いた雪だけでなく、気温上昇や雨の後にも起こります。

表層雪崩と全層雪崩では「壊れる場所」が違う

表層雪崩では、積雪内部の弱層などがすべり面になり、その上側の雪が滑ります。

一方、全層雪崩では積雪全体が地面との境界から滑り落ちます。国土交通省も、両者はすべり面の位置で分類されると説明しています。

したがって、弱層内の亀裂伝播という仕組みは、特に雪板状の表層雪崩を理解するときに重要です。

「なぜ斜面に積もった雪は雪崩を起こすことがあるのか?」との違いは「なぜ雪崩が起きるか」ではなく「破壊がどう広がるか」

なぜ斜面に積もった雪は雪崩を起こすことがあるのか?では、重力による駆動力と支持力の釣り合い、新雪、弱層、融雪、雨など、雪崩が起こる理由を広く扱っています。

この記事ではそこから一段深く入り、雪板状の表層雪崩で、弱層の局所的な破壊がなぜ横方向へ伝播し、上の雪板を広い範囲で一気に滑らせるのかという破壊過程そのものに焦点を絞っています。

雪板雪崩は「一点の破壊」が「面の破壊」へ変わる現象

雪板雪崩の特徴は、小さな局所破壊が広い面積へ拡大することです。

弱層が局所的に壊れ、雪板がたわみ、亀裂先端へ応力が集中し、破壊が次の場所へ進みます。これが連鎖すると、最初は一点だった破壊が斜面全体へ広がります。

その後、雪板自身が切れ、斜面方向へ滑り始めます。雪崩の急激さは、この破壊伝播の速さにあります。

まとめ

表層雪崩で雪の板が一気に滑り出すのは、弱層の一部で始まった小さな破壊が横方向へ広がり、上にあるまとまりのある雪板が広い範囲で支えを失うためです。

弱層の破壊、雪板のたわみ、亀裂先端への応力集中、亀裂伝播、雪板の破断、滑走という段階が連続して進みます。

つまり、雪板状の表層雪崩の本質は「弱い層があること」だけではなく、その弱層の破壊が一点から面へ広がる破壊メカニズムにあるのです。

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参考資料

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