風が吹くと、気温は上がることも下がることもあります。強い風なら必ず寒くなるわけではありません。大きな理由は、風がその場所の空気を入れ替え、別の場所から暖かい空気や冷たい空気を運び、さらに地表付近と上空の空気を混ぜるからです。
そのため、風による気温変化は「風速」だけでは決まりません。どこから吹いてくる風か、風上の海や陸がどのくらい暖かいか、山を越えてきたか、昼か夜か、夏か冬か、地表付近に温度差があるか、といった条件によって結果が変わります。
たとえば冬に大陸側から冷たい空気が流れ込めば、風とともに気温が下がります。反対に暖かい地域から空気が運ばれれば、曇っていても気温が上がることがあります。沿岸では海風が日中の暑さを和らげる場合があり、山の風下ではフェーン現象によって気温が急上昇することもあります。
風はどうやって気温を変えるの?
風とは空気の水平運動です。空気にはそれぞれ温度や湿度があるため、風が吹くということは、ある場所に別の性質を持った空気が運ばれてくることでもあります。
米国国立気象局では、大気の性質が風によって運ばれることを移流と呼んでいます。暖かい空気が水平風によって入ってくるのが暖気移流、冷たい空気が入ってくるのが寒気移流です。暖気移流が続けば気温は上がりやすく、寒気移流が続けば気温は下がりやすくなります。
ただし、風は空気を運ぶだけではありません。地表付近の冷たい空気と少し上の暖かい空気を混ぜたり、逆に日中に地面で暖められた空気を上へ運んだりする働きもあります。この「運ぶ」と「混ぜる」の二つが、風と気温の関係を複雑にしています。
なぜ同じ風速でも気温の変化が違うの?
風速が同じでも、風上にある空気の温度が違えば結果は変わります。たとえば同じ秒速5メートルの風でも、冷たい海の上を通ってきた風と、暖められた陸地の上を通ってきた風では、運んでくる空気の性質が違います。
また、風向が少し変わるだけで、風上が海から陸へ、あるいは平野から山地へ変わることがあります。気温を考えるときに重要なのは「どれくらい強い風か」だけではなく、「どこから何を運んできた風か」です。
気象庁も、寒気を周囲より低温な空気、暖気を周囲より高温な空気として説明し、寒気の流入によって気温が下がることがあるとしています。風向と気圧配置が変われば、その場所へ入ってくる空気の種類も変わるため、気温の変化も変わります。
季節によって風の影響が変わるのはなぜ?
日本付近では季節によって卓越しやすい風向が変わります。気象庁は、冬には大陸から海洋へ向かう北西の季節風が吹きやすく、夏には海洋側から大陸側へ向かう南東または南西の風が吹きやすいと説明しています。
季節が変わると、風上にある大陸や海の温度も変わります。そのため同じ方角の風でも、季節によって運ぶ空気の温度や湿度が異なります。
冬は寒気を運ぶ風が気温を下げやすい
冬の日本付近では、大陸側に非常に冷たい空気が蓄積することがあります。冬型の気圧配置が強まると、この寒気が北西の季節風によって日本付近へ運ばれます。すると、日差しがあっても気温が上がりにくかったり、時間とともに気温が下がったりすることがあります。
このような日は、「晴れているから暖かくなる」という日射の効果よりも、風によって入れ替わる空気の冷たさが強く影響する場合があります。
暖かい季節は南からの風で気温が上がることがある
春から夏にかけて、南寄りの風によって暖かい空気が流れ込むと、気温が上がりやすくなります。特に低気圧や前線の位置によって暖気が強く流れ込むと、雲が多い日でも高い気温になることがあります。
季節の変わり目には、暖気と寒気のどちらが入りやすいかが短期間で変化します。そのため風向が変わっただけで、前日より大幅に暖かくなったり寒くなったりすることがあります。
海風はなぜ日中の気温を下げることがあるの?
海と陸では温まり方が違います。晴れた日の昼間は陸地が海面より早く暖まるため、沿岸では比較的冷たい海上の空気が陸へ流れ込むことがあります。これが海風です。
気象庁は海風を、日中に気温の低い海面から気温の高い陸地へ向かって吹く風としています。米国国立気象局も、海風は暖まり方の異なる海と陸の温度差によって生じ、海風前線の通過時には風向変化とともに気温が急に下がることがあると説明しています。
そのため、夏の沿岸では午前中に気温が上がっていても、海風が入り始めると昇温が止まったり、気温が少し下がったりすることがあります。
海風がいつも涼しくするとは限らない
海面水温が高い場合には、海から来る空気もそれほど冷たくありません。また、強い一般風が吹いていると、局地的な海風そのものが発達しにくいことがあります。気象庁は、海陸風は気圧の傾きが小さいときに明瞭になりやすいとしています。
したがって「海から風が吹けば必ず気温が下がる」とは限りません。海と陸の温度差、広い範囲の風向・風速、海面水温などの組み合わせによって影響が変わります。
夜の風は最低気温を上げることがあるの?
あります。晴れて風が弱い夜は、地面が放射冷却で冷え、地表のすぐ近くに冷たい空気がたまりやすくなります。このとき少し上空の空気の方が暖かい場合があります。
そこで風が強まると、地表付近の冷たい空気と上の比較的暖かい空気が混ざります。すると地上の気温が下がり続けにくくなり、風が弱い場合より最低気温が高くなることがあります。
一方、風そのものが非常に冷たい空気を運んでいる場合は、混合の効果より寒気移流の効果が強くなり、風が吹くほど気温が下がることもあります。夜の風と最低気温の関係は、「混ぜる効果」と「何を運んでいるか」の両方を見る必要があります。
昼の風は気温上昇を抑えることがある
晴れた昼間は地面が日射で暖められ、地表近くの空気も暖まります。風が弱いと、この暖かい空気が地表付近にたまりやすくなります。
風が強まると、地面近くの暖かい空気が上の空気と混ざり、また別の場所へ運ばれます。そのため地表付近だけが極端に高温になるのを抑えることがあります。海風が入る沿岸では、冷たい空気の移流と混合の両方が働く場合があります。
ただし、暖気移流が強い日やフェーンが起きている日には、風が強いことがむしろ高温と結びつく場合もあります。風速だけを見て最高気温を判断できないのはこのためです。
山を越える風で気温が上がるのはなぜ?
風が山を越えると、風下側で高温・乾燥になることがあります。これがフェーン現象です。気象庁は、湿った空気が山を越える際に雨を降らせ、その後に山を吹き下りると乾燥して気温が高くなる現象などをフェーン現象としています。
山を下る空気は気圧が高くなる方向へ移動し、圧縮されて温度が上がります。また、山の風上側で水蒸気が凝結して雨を降らせる過程を伴う場合には、風下側の空気はより乾燥して高温になりやすくなります。
北陸地方気象台の解説では、フェーン現象によって平年より最高気温が大きく高くなった事例も示されています。山地がある地域では、単なる南風・西風というだけでなく、その風がどの山をどのように越えてきたかが重要です。
地形によって風と気温の関係が変わる
山や谷、盆地、海岸線、都市の建物などは風の流れを変えます。谷に沿って風が集中したり、山の風下で下降流が強まったり、建物によって風が弱まったりすることがあります。
夜の盆地では冷たい空気が低い場所にたまりやすい一方、風が強まって冷気だまりが崩れると気温が上がることがあります。反対に、山から冷たい空気が流れ下る局地風が強まれば、低地の気温が下がることもあります。
このため、同じ気圧配置でも地形が違えば、風向・風速と気温変化の関係が異なります。山の多い日本では、広域の風だけでなく局地的な風も重要です。
風が強いと「寒く感じる」のと気温が下がるのは同じ?
同じではありません。風が強いと、皮膚の周りにある暖められた空気が入れ替わりやすくなり、体から熱が奪われやすくなります。そのため実際の気温が変わっていなくても、より寒く感じることがあります。
一方、気象観測でいう気温は、適切な通風条件のもとで測った空気そのものの温度です。風による体感の変化と、風が暖気・寒気を運んで実際の気温を変える現象は分けて考える必要があります。
気象庁も、気温と湿度から求める不快指数について、実際の体感には風速などの条件も関係するため必ずしも一致しないと説明しています。風は気温そのものにも体感にも影響しますが、仕組みは同じではありません。
風による気温変化を見るときのポイント
風と気温の関係を考えるときは、風速だけでなく次の条件を見ると理解しやすくなります。
- 風はどの方角から吹いているか
- 風上の地域は暖かいか冷たいか
- 海上を通ってきた風か、陸上を通ってきた風か
- 山を越えて下降してきた風か
- 昼か夜か
- 地表付近と上空にどの程度の温度差があるか
- 季節風や前線、低気圧など大規模な気圧配置はどうなっているか
- 局地的な海風や谷風が発達しやすい条件か
たとえば、夏の午後に海から風が入れば昇温が抑えられる可能性がありますが、山越えの乾いた風なら逆に高温になることがあります。冬の夜に風が強まった場合も、暖気を運んでいるのか、冷気を運んでいるのか、単に地表付近の空気を混ぜているのかで結果は変わります。
まとめ
風による気温の変化が季節や環境によって違うのは、風が単に「空気を動かす」だけでなく、暖気や寒気を運ぶ移流、地表付近と上空を混ぜる作用、海陸差や山地による局地的な変化を同時に起こすからです。
冬の季節風は寒気を運んで気温を下げることがあり、暖かい季節の南寄りの風は暖気を運んで気温を上げることがあります。沿岸では海風が日中の高温を抑える場合があり、山の風下ではフェーン現象によって気温が急上昇することがあります。また夜間には、風による混合が放射冷却でできた冷たい空気を崩し、最低気温を上げる場合もあります。
したがって「風が強いから気温が下がる」と一方向に考えることはできません。風向、風速、風上の空気の性質、季節、昼夜、海や山などの環境条件を合わせて見ることで、風による気温変化を理解できます。

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