なぜ深い湖では春夏より秋冬の方が蒸発量が多くなることがあるのか?

「蒸発は暑い夏ほど多い」と考えたくなりますが、深い湖では必ずしもそうではありません。実際、十和田湖では春・夏より秋・冬の方が蒸発量が多いという観測結果があります。

理由は、深い湖では夏に受け取った太陽エネルギーの多くが湖水の加熱に使われ、その熱が秋から冬にかけてゆっくり放出されるからです。

つまり、湖面蒸発の季節変化は、その日の気温や日射だけでは決まりません。湖にどれだけ熱が蓄えられ、いつ放出されるかという「熱の季節遅れ」が大きく影響します。

目次

十和田湖では本当に秋冬の蒸発量が多いの?

十和田湖で行われた観測では、5〜8月の春・夏に蒸発量が少なく、9月以降の秋・冬に蒸発量が多いという結果が得られました。

十和田湖は最大水深が300mを超える非常に深い湖です。そのため湖全体が大きな熱容量を持ち、短時間では水温が変わりません。

研究では、春・夏には湖水温が気温より低くなりやすく、湖上の大気が安定して蒸発が抑えられる一方、秋・冬には湖水温が気温より高くなり、蒸発が促進されると説明されています。

なぜ夏に強い日射を受けても蒸発が最大にならないの?

夏に湖へ届く日射エネルギーは大きいですが、そのすべてがすぐ蒸発へ使われるわけではありません。

一部は湖水そのものを暖めるために使われ、湖の内部へ蓄えられます。

深い湖では大量の水を暖める必要があるため、受け取った熱を長期間ため込むことができます。

このため、日射が最も強い時期と、蒸発が最も多い時期には時間差が生じます。

湖の「熱容量」が大きいとはどういうこと?

水は、同じ質量の土や岩に比べて、温度を1℃変えるのに多くの熱を必要とします。

さらに深い湖では、表面だけでなく水の混合によって熱が深い層まで運ばれます。

その結果、夏に湖が吸収したエネルギーは、数日で失われるのではなく、秋以降まで湖の内部に残ります。

この蓄熱が、秋冬の蒸発を支える重要なエネルギー源になります。

秋になると湖に蓄えた熱はどうなるの?

秋になると日射は弱まり、気温も下がり始めます。

しかし湖水はすぐには冷えません。夏に蓄えた熱を持っているため、周囲の空気より暖かい状態が続くことがあります。

湖面から大気へ熱が移動すると、そのエネルギーの一部が水の蒸発に使われます。

米国地質調査所がLake Meadで行った研究でも、春・夏に湖水へ蓄えられた熱が秋に放出されるため、蒸発のピークが正味放射のピークより約2か月遅れることが確認されています。

冬でも湖が空気より暖かいと蒸発するの?

します。

冬の空気が冷たく乾燥していても、湖水がそれより暖かければ、水面から大気へ熱が供給されます。

さらに、暖かい水面の飽和水蒸気圧は、冷たい空気の水蒸気圧より高くなりやすいため、水面から空気へ水蒸気が移動します。

このため、寒い季節でも湖面蒸発が活発になる場合があります。

大気が「不安定」になると蒸発が増えるのはなぜ?

秋冬に湖面が周囲の空気より暖かいと、湖面近くの空気が下から暖められます。

暖められた空気は軽くなって上昇し、その代わりに上から冷たい空気が降りてきます。

この対流によって、湖面近くの湿った空気が次々に上空へ運ばれます。

水面のすぐ上に湿った空気がたまりにくくなるため、水面と大気との水蒸気差が保たれ、蒸発が続きやすくなります。

春夏はなぜ逆に蒸発が抑えられることがあるの?

春から初夏は気温が先に上がっても、深い湖は冬の冷えを残しています。

そのため、湖水温が空気より低くなることがあります。

冷たい湖面に接した空気は重くなり、上下方向の混合が弱くなります。

この安定した大気では、湖面近くの湿った空気が上空へ運ばれにくいため、蒸発が抑えられます。

十和田湖の研究では、条件によっては水蒸気が大気から湖面へ凝結することもあると報告されています。

浅い湖でも秋冬の蒸発が多くなるの?

深い湖ほど顕著とは限りません。

浅い湖は含まれる水の量が少なく、熱を蓄える能力も小さいため、日射や気温の変化に比較的早く反応します。

そのため浅い湖では、夏の日射が強い時期に蒸発量も増えやすくなります。

深い湖と浅い湖では、蒸発を動かすエネルギーの「ため方」と「放出する時期」が違います。

野尻湖の研究ではどうだったの?

十和田湖より浅い野尻湖でも、蒸発量の季節変化が調べられています。

野尻湖では蒸発量が多い時期は8〜10月、少ない時期は2〜4月でした。

十和田湖ほど冬側へ蒸発ピークがずれないものの、夏の日射ピークより遅れて蒸発が多くなる傾向があります。

この比較から、湖が深いほど蓄熱量が大きくなり、蒸発の季節変化の遅れも強く現れることが分かります。

海外の湖でも同じような季節遅れはあるの?

あります。

米国地質調査所によるLake Meadの観測では、春・夏に受け取った放射エネルギーの多くが湖水を暖めるために使われ、秋になると蓄えた熱が放出されて高い蒸発量が維持されると報告されています。

また、深さの異なるフロリダの二つの湖を比較した研究でも、深い湖では浅い湖より蒸発の季節ピークが遅れました。

つまり、湖の深さと蓄熱は、地域が違っても蒸発の季節変化を左右する重要な要因です。

蒸発量は蓄熱だけで決まるの?

決まりません。

湖面蒸発には、風速、気温、湿度、水面温度、水蒸気圧差、大気の安定度なども影響します。

強い風が吹けば、湖面近くの湿った空気が運び去られ、蒸発が増えやすくなります。

空気が非常に湿っていれば、水面と空気との水蒸気圧差が小さくなり、蒸発は抑えられます。

したがって、深い湖で秋冬の蒸発が多いというのは、蓄熱が大きな役割を持つ代表的な条件であり、すべての湖で必ず同じ季節変化になるわけではありません。

湖面に氷が張ればどうなるの?

湖面が氷で覆われると、液体の水面と大気が直接接しなくなります。

そのため、開水面からの蒸発は大きく抑えられます。

寒冷地の深い湖でも、結氷するかどうか、どのくらいの期間氷に覆われるかによって冬の蒸発量は変わります。

十和田湖のように深さだけでなく気候条件も含めて考える必要があります。

夜にも蒸発が続くのはなぜ?

浅い水たまりでは、日没後に急速に冷えて蒸発が弱まることがあります。

しかし深い湖は昼間や夏に蓄えた熱を持っているため、夜でも水面から大気へ熱を供給できます。

Lake Meadの研究では、蓄えた熱の放出によって夜間の蒸発も維持され、夜間蒸発が総蒸発量の大きな割合を占めていました。

これも、深い水域では「今の日射」だけで蒸発を説明できない例です。

湖の蒸発と季節の気温変化には共通点がある

海や深い湖では、夏至に日射が最大になっても、その日に水温が最高になるわけではありません。

熱を蓄えるため、水温のピークは日射のピークより遅れます。

蒸発も水温や蓄熱の影響を受けるため、日射ピークより後に最大になることがあります。

この「入力されたエネルギーと応答のピークがずれる」という考え方は、季節の気温変化と共通しています。

深い湖の蒸発を考えるときのポイント

  • 夏の日射の一部は湖水の加熱に使われる
  • 深い湖ほど多くの熱を蓄えられる
  • 秋冬には蓄えた熱が湖面から放出される
  • 湖面が空気より暖かいと対流が起こりやすい
  • 対流や風は湿った空気を湖面から運び去る
  • 蒸発ピークは日射ピークより遅れることがある
  • 浅い湖では季節遅れが小さいことが多い

まとめ

深い湖で春夏より秋冬の方が蒸発量が多くなることがあるのは、夏に受け取った太陽エネルギーを湖水が大量に蓄え、その熱を秋冬に放出して蒸発へ使うためです。

春夏は湖水が空気より冷たく、大気が安定して蒸発が抑えられることがあります。一方、秋冬は湖水が空気より暖かくなり、対流が起こって蒸発が促進されます。

十和田湖、野尻湖、Lake Meadなどの観測は、湖の深さと蓄熱が蒸発の季節変化を大きく左右することを示しています。

蒸発を考えるときは「夏だから多い」と決めつけず、その水域がいつ熱を受け取り、どれだけ蓄え、いつ放出しているかを見ることが重要です。

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参考資料

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