なぜ飛行機の離着陸で耳が詰まったり痛くなったりするのか?

飛行機の離着陸で耳が詰まったり痛くなったりするのは、機内の気圧が変わる速さに、中耳の空気圧を調整する耳管の働きが追いつかず、鼓膜の外側と内側に一時的な圧力差が生じるからです。

耳の奥にある中耳は、鼓膜によって外耳道と隔てられています。中耳の空気圧は、鼻の奥と中耳をつなぐ「耳管」が開くことで外気圧に近づけられます。ところが飛行機が上昇・下降すると、機内の気圧は比較的短時間で変わります。

耳管が十分に開かないと、中耳だけ古い気圧のまま取り残され、鼓膜が外側または内側へ押されます。その変形が「耳がふさがった感じ」「ボワーンとする感じ」「痛み」として感じられます。

目次

耳の中で気圧を調整している場所はどこ?

中心的な役割を持つのは耳管です。

耳管は、中耳と鼻の奥にある上咽頭をつなぐ細い管です。普段は閉じていますが、飲み込む、あくびをする、口を動かすといった動作で一時的に開きます。

耳管が開くと、中耳と外界の間で空気が移動し、鼓膜の両側の圧力差が小さくなります。

鼓膜の外側と内側にはどんな空間があるの?

鼓膜の外側は外耳道で、外気とつながっています。

鼓膜の内側には中耳腔があり、そこには空気が入っています。

つまり鼓膜は、外の空気と中耳の空気の間に張られた薄い膜です。

両側の圧力がほぼ同じなら、鼓膜は正常な位置で振動しやすくなります。

飛行機が上昇すると機内の気圧はどうなるの?

飛行機が高度を上げると、機外の大気圧は下がります。

旅客機の客室は与圧されていますが、地上とまったく同じ気圧に保たれているわけではありません。上昇に伴って客室内の気圧も徐々に低下します。

そのため、上昇中は一時的に中耳の方が外気より高い圧力になることがあります。

上昇中はなぜ比較的「耳抜き」しやすいの?

中耳の空気圧が外気より高くなると、その空気は耳管を通って外側へ抜ける方向に働きます。

健康な耳管では、この外向きの空気移動は比較的起こりやすいとされています。

そのため、上昇中よりも下降中の方が耳の詰まりや痛みが問題になりやすいことがあります。

飛行機が下降すると何が起こるの?

下降すると客室内の気圧は上昇します。

ところが中耳の圧力がすぐに追いつかなければ、外耳道側の圧力の方が高くなります。

すると鼓膜は中耳側へ押し込まれるように変形します。

この状態が強くなると、耳閉感や痛みが生じます。

なぜ着陸前に耳が痛くなりやすいの?

下降時には、外気圧の上昇に合わせて空気を中耳へ入れなければならないからです。

そのためには耳管が能動的に開く必要があります。

耳管が狭い、腫れている、開きにくいといった状態では、外側の気圧だけが先に高くなり、中耳が負圧になります。

この圧力差で鼓膜が内側へ引かれ、痛みが出やすくなります。

「耳が詰まる感じ」は鼓膜が動きにくくなるから?

その影響があります。

鼓膜の両側に圧力差があると、鼓膜は正常な位置から押されたり引かれたりします。

すると音による振動が伝わりにくくなり、音がこもる、聞こえにくい、ふたをされたように感じることがあります。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、中耳の圧調整がうまくいかない状態で耳のつまり感が起こると説明しています。

耳管は普段ずっと開いているの?

いいえ。

耳管は通常は閉じており、飲み込む、あくびをするなどの動作で一時的に開きます。

普段ずっと開いていると、自分の声や呼吸音が耳に響きやすくなるため、必要なときだけ開く仕組みになっています。

なぜあくびや嚥下で耳が楽になるの?

あくびや飲み込みによって耳管を開く筋肉が働き、中耳と鼻の奥の間に空気の通り道ができるからです。

その結果、中耳の空気圧が外気圧に近づき、鼓膜にかかっていた圧力差が小さくなります。

「パチッ」「ポコッ」と感じたあとに耳が楽になるのは、圧が調整されたためです。

ガムをかむとよいと言われるのはなぜ?

あごを動かし、唾液を飲み込む回数が増えるからです。

飲み込む動作は耳管を開くきっかけになります。

Merck Manualも、上昇時の耳の圧調整には、口を開ける、あくびをする、ガムをかむ、飲み込むといった方法が役立つ場合があると説明しています。

耳抜きとは何をしているの?

耳抜きは、中耳と外気の圧力差を小さくするために耳管へ空気を通す操作です。

代表的には、鼻をつまみ、口を閉じて、鼻の奥へごく軽く圧をかける方法があります。

ただし強く吹きすぎる必要はありません。強い痛みがあるときや耳に病気がある場合は、無理に続けないことが大切です。

なぜ風邪をひいていると耳が痛くなりやすいの?

鼻やのどの粘膜が腫れると、耳管の入口も腫れて狭くなりやすいからです。

すると耳管が開きにくくなり、中耳と外気の圧力調整が遅れます。

Merck Manualは、上気道感染やアレルギーなどで耳管機能が妨げられると、気圧変化の際に中耳と外界の圧力差が生じやすいと説明しています。

鼻炎やアレルギーでも同じ?

同じようなことが起こります。

鼻の奥の粘膜が腫れると耳管が開きにくくなるため、離着陸時の圧調整が難しくなることがあります。

つまり、耳の問題に見えても、実際には鼻や上咽頭の状態が大きく関係します。

子どもは大人より耳が痛くなりやすいの?

なりやすい傾向があります。

子どもの耳管は大人より短く、角度や機能も発達途中です。

また、小さな子どもは意識的に耳抜きをすることが難しく、下降中に眠っていると飲み込む回数も減ります。

そのため、着陸時に耳の不快感を訴えたり泣いたりすることがあります。

飛行機の耳の痛みには名前があるの?

あります。

急激な気圧変化で中耳と外界に圧力差が生じ、耳の痛みや鼓膜の障害が起こる状態は「耳の気圧外傷」や「航空性中耳炎」と呼ばれます。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、飛行機に乗ったときの急激な気圧変化に耳管の働きが追いつかず起こる航空性中耳炎を紹介しています。

航空性中耳炎ではどんな症状が出るの?

耳が詰まる感じ、耳痛、聞こえにくさなどが代表的です。

PubMedに収載された航空性耳気圧外傷のレビューでも、中耳と外気の圧力差によって耳閉感、耳痛、難聴が起こるとされています。

重い場合には鼓膜の損傷が起こることもあります。

耳が「ポン」と鳴るのは危険なの?

必ずしも危険ではありません。

耳管が開いて中耳の空気圧が外気圧に近づくときに、「ポン」「パチッ」と感じることがあります。

その後に耳の詰まりが軽くなるなら、圧調整が起こった可能性があります。

ただし強い痛み、出血、強いめまい、聞こえにくさが続く場合は別です。

なぜダイビングでも同じように耳が痛くなるの?

周囲の圧力が変化するからです。

飛行機では高度変化によって気圧が変わり、ダイビングでは水深変化によって周囲の圧力が変わります。

どちらも中耳の圧力が周囲の圧力に追いつかないと、鼓膜に圧力差がかかります。

そのため基本的な仕組みは共通しています。

飛行機の客室は与圧されているのに、なぜ耳は痛くなるの?

与圧されていても客室の気圧は一定ではないからです。

上昇時には徐々に低下し、下降時には再び上昇します。

変化量は機外より小さく抑えられていますが、中耳にとっては十分に圧力調整が必要な変化です。

なぜ高い高度を飛んでいる最中より離着陸で症状が出やすいの?

大切なのは高度そのものより、気圧が変化する速さだからです。

巡航中は客室の気圧が比較的安定しています。

一方、上昇・下降中は気圧が連続的に変化するため、耳管が何度も圧を調整する必要があります。

そのため離陸後や着陸前に症状が出やすくなります。

着陸時の方がつらい人が多いのはなぜ?

下降時には中耳へ空気を入れる必要があり、その方向の圧調整には耳管が十分に開く必要があるからです。

上昇時には中耳の余分な空気が外へ抜けやすいのに対し、下降時には外から中耳へ空気を入れる動作が必要になります。

耳管が腫れていると、この差が症状として現れやすくなります。

圧力差が大きくなると鼓膜はどうなるの?

中耳の圧力が低いと鼓膜は内側へ引かれ、逆に中耳の圧力が高いと外側へ膨らみます。

Merck Manualは、この圧力差が痛みを起こし、強い場合には鼓膜を傷つけることもあると説明しています。

耳が詰まったまましばらく戻らないこともあるの?

あります。

耳管の開きが悪いと、中耳の圧力がすぐには外気圧と一致しないことがあります。

また、気圧差によって中耳粘膜が腫れたり液体がたまったりすると、耳閉感が長引くことがあります。

強い症状や聞こえにくさが続く場合は、耳鼻咽喉科で確認が必要です。

「気圧が低いと耳が痛い」ということなの?

単純に低い気圧そのものが痛みを起こすわけではありません。

重要なのは、外気圧と中耳圧の間に差が生じることです。

ゆっくり変化して耳管が十分に調整できれば、高い場所でも耳が痛くならないことがあります。

天気による気圧変化でも同じ仕組み?

外気圧が変わるという点は共通しています。

ただし、天気による気圧変化は通常、飛行機の離着陸ほど急激ではありません。

そのため健康な耳管では問題にならないことが多く、飛行機のような急速な変化とは状況が異なります。

「標高が高いほど気圧が下がる」記事とは何が違うの?

高度の記事では、標高が高くなるほど頭上にある空気柱が減り、外気圧そのものが下がる物理的な理由が中心です。

一方、この記事では、その外気圧の変化に中耳の圧力調整が追いつかないと、鼓膜の両側に圧力差が生じ、耳閉感や痛みが出る理由を扱っています。

「気圧計」の記事とは何が違うの?

気圧計の記事では、大気圧を機器がどのように測るかが中心です。

一方、この記事では、人間の耳の中で外気圧の変化を耳管がどのように調整しているかを説明しています。

まとめ

飛行機の離着陸で耳が詰まったり痛くなったりするのは、客室の気圧変化に中耳の気圧調整が追いつかず、鼓膜の外側と内側に一時的な圧力差が生じるからです。

中耳の圧力は、鼻の奥と中耳をつなぐ耳管が開くことで調整されます。飲み込む、あくびをするなどで耳管が開くと、圧力差が小さくなって耳の詰まりが軽くなります。

一方、風邪や鼻炎で耳管が腫れていると調整が難しく、特に下降・着陸時に耳閉感や痛みが強くなりやすくなります。

飛行機で耳が詰まる本質は、「高い場所だから」ではなく、「外気圧の変化に中耳の圧力調整が間に合わず、鼓膜に圧力差がかかるから」なのです。

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参考資料

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