惑星の重力というと、「物を下へ落とす力」と考えがちです。しかし惑星全体を物理的に見ると、重力はもっと広い空間に広がる重力場として表すのが基本です。
惑星をつくるすべての物質は質量を持ち、その質量が周囲の物体を引きます。惑星がほぼ球形で、内部の物質分布も大きくは球対称とみなせるなら、外側から見た重力は、惑星の全質量が中心に集まっているかのように計算できます。その強さは中心から遠ざかるほど距離の2乗に反比例して弱くなります。
一方、惑星内部では事情が少し違います。球対称なら、ある半径より外側にある球殻の引力は互いに打ち消し合い、その地点より内側に含まれる質量が重力を決めます。そのため中心では全方向からの引力がつり合い、重力加速度は0になります。
つまり惑星の重力は、質量分布が空間に作る重力場を、中心からの距離と内部に含まれる質量によって表す仕組みとして理解できます。
重力は「惑星と物体の間だけに突然生じる力」ではない
ニュートンの万有引力の法則では、質量を持つ物体どうしは互いに引き合います。
惑星の近くに物体が来たときだけ重力が発生するのではなく、惑星の質量は周囲の空間に重力場を作っています。そこへ別の物体を置くと、その物体が重力場に応じて加速されます。
OpenStaxは、質量Mが作る重力場の強さを、中心から距離rの場所でg = GM/r²と表せることを説明しています。ここでGは万有引力定数です。
この表現を使うと、「1kgの物体を置いた場合」「100kgの物体を置いた場合」を個別に考えなくても、その場所そのものがどれだけ強い重力場にあるかを記述できます。
落ちる物体の質量が違っても重力加速度が同じになる理由
万有引力の大きさは、惑星の質量Mと落下する物体の質量mの積に比例します。
一方、ニュートンの運動方程式では、同じ力を受けたときの加速度は物体の質量mが大きいほど小さくなります。
この二つを組み合わせると、落下物体側の質量mは式から消え、加速度はg = GM/r²となります。
そのため空気抵抗などを無視すれば、重い物体も軽い物体も同じ場所では同じ重力加速度を受けます。「重い物体のほうが引力は大きい」のは正しい一方、その物体自身も動かしにくいため、加速度としては同じになるのです。
惑星の外側では重力は距離の2乗に反比例して弱くなる
球対称に近い惑星の外側では、惑星全体の質量を中心に集めた一点質量のように扱えます。
このとき重力加速度はg = GM/r²です。中心からの距離が2倍になれば重力は4分の1、3倍になれば9分の1になります。
OpenStaxは、逆二乗則を、中心から広がる効果が半径rの球面全体へ分散し、その球面積がr²に比例して増えることと結び付けて説明しています。
惑星から離れても重力が突然なくなる境界があるわけではなく、距離とともに連続的に弱くなります。
「宇宙空間だから無重力」ではない
国際宇宙ステーションのように地球の上空を周回している場所でも、地球の重力は十分に働いています。
OpenStaxの例では、地表から約400km上空でも重力加速度は地表より少し小さい程度です。
宇宙飛行士が浮いて見えるのは、重力がないからではありません。宇宙船と宇宙飛行士が一緒に地球へ向かって自由落下しながら、横向きの速度によって地球を外し続けて公転しているからです。
重力場は惑星の表面だけに存在するものではなく、衛星軌道よりさらに遠くまで続いています。
なぜ球形の惑星では重力がほぼ中心方向を向くのか
惑星の表面の一点を考えると、惑星内部のさまざまな場所にある物質から引力を受けます。
惑星が球対称なら、中心軸から左右にずれた方向の引力成分は、反対側にある物質からの成分と打ち消し合います。
一方、中心方向の成分は全体として加わります。
その結果、球対称な惑星の重力場はほぼ中心方向を向きます。私たちが「下」と感じる方向が、おおむね地球中心へ向くのはこのためです。
球対称なら惑星の外側では全質量が中心にあるように計算できる
球対称な質量分布については、球殻定理と呼ばれる重要な性質があります。
球の外側にいる物体に対しては、球全体の重力は、その全質量が球の中心に一点として集まっている場合と同じになります。
この性質があるため、複雑な内部構造を持つ惑星でも、十分外側の重力を考えるときは質量Mと中心からの距離rという少数の量で近似できます。
惑星や衛星の公転計算で中心天体を一点質量として扱えるのは、この球対称近似が非常によく効くからです。
惑星内部では外側の球殻の引力が打ち消し合う
惑星内部に入ると、外側と同じg = GM/r²に「惑星全質量M」を入れることはできません。
球対称な場合、現在いる半径より外側にある球殻からの重力は、全方向からの引力が打ち消し合って合計0になります。
その地点の重力を決めるのは、中心からその半径までに含まれる質量M(r)です。
したがって内部では、重力加速度を概念的にg(r) = G M(r)/r²と考えます。
惑星の中心では重力加速度が0になる
惑星中心では、あらゆる方向にほぼ同じだけ質量があります。
右から引く力と左から引く力、上から引く力と下から引く力が対称に打ち消し合うため、合計の重力加速度は0になります。
「惑星の中心は周囲に大量の物質があるから重力が最も強い」と思うかもしれませんが、方向まで含めた重力場では逆です。
中心では引力そのものが存在しないのではなく、全方向からの引力がつり合うため、合力が0になります。
内部の重力は中心から表面まで単純に増えるとは限らない
密度がどこでも同じ理想的な球なら、中心から外へ進むほど内側に含まれる質量がr³に比例して増えるため、gは中心からの距離rに比例して大きくなります。
しかし実際の惑星は密度が一様ではありません。地球では中心部に高密度の核があり、外側へ向かって密度構造が変わります。
OpenStaxも、現実の地球内部の重力分布は一様密度モデルとは異なることを示しています。
したがって「中心から表面へ一直線に一定割合で強くなる」とは限らず、内部の密度分布を含めて計算する必要があります。
表面重力は惑星の質量と半径の組み合わせで決まる
惑星表面付近では、中心からの距離rを惑星半径Rと考えれば、表面重力はおおむねg = GM/R²で表せます。
この式から、同じ半径なら質量が大きいほど表面重力は強くなり、同じ質量なら半径が小さいほど強くなることが分かります。
そのため「質量が大きい惑星ほど必ず表面重力も質量比と同じだけ大きい」ということにはなりません。
JPLの惑星物理パラメータでも、各惑星について質量・半径・赤道重力が別々の量として掲載されています。
大きな惑星でも表面重力が極端に大きいとは限らない
木星は地球よりはるかに大きな質量を持ちますが、半径も大きいため、雲頂付近の重力加速度は地球の数百倍にはなりません。
反対に、同じ質量なら半径が小さく高密度な惑星ほど表面重力は強くなります。
ここで重要なのは、W01175で扱う「惑星ごとの重力の比較」そのものではなく、質量と半径が式の中で別の役割を持つという仕組みです。
質量は重力場を強くする方向、半径は表面を中心から遠ざけて重力を弱くする方向に働きます。
重力場は「力」ではなく「加速度」で表すと比較しやすい
ある場所で物体が受ける重力そのものは、置く物体の質量によって変わります。
しかし重力加速度gなら、置く物体の質量に依存せず、その場所の重力場の強さを表せます。
地球表面付近では約9.8m/s²という値がよく使われます。
国土地理院も、重力の大きさを重力加速度として表し、測地学ではGalという単位も使うと説明しています。
重力ポテンシャルを使うと「高さ」と重力を結び付けられる
重力場には、重力ポテンシャルという別の表し方があります。
重力ポテンシャルは、ある場所に物体を置いたときの重力による位置エネルギーを、単位質量あたりで表した量です。
同じ重力ポテンシャルを持つ場所を結んだ面を等ポテンシャル面と呼びます。
国土地理院は、地球の平均海面に最もよく整合する重力の等ポテンシャル面をジオイドとして定義しています。重力場を考えるとき、「どちら向きに落ちるか」だけでなく、「どの高さが同じ重力ポテンシャルか」という見方も重要です。
自転する惑星では「引力」と実際に感じる重力を分ける必要がある
ニュートンの万有引力から求める中心向きの力は、惑星の質量が作る引力です。
しかし惑星表面は自転しています。回転する座標系で見ると、赤道方向には遠心力に相当する効果が加わります。
国土地理院は地球上の「重力」を、地球の引力と自転による遠心力の合力として説明しています。
そのため、惑星表面で実際に測る重さと、質量だけが作る純粋な万有引力を厳密に区別する場合があります。
赤道では自転のため実効的な重力が少し小さくなる
自転による遠心的な効果は、自転軸から遠いほど大きくなります。
地球では赤道が自転軸から最も遠く、極では自転軸上に近いため、この効果は赤道で最大、極でほぼ0です。
さらに地球は自転によって赤道方向にふくらんでいるため、赤道では地球中心からの距離も少し大きくなります。
国土地理院は、こうした理由により赤道上の重力が北極・南極より約0.5%小さいと説明しています。ただし、場所による違いの詳しい比較や時間変化はW01175・W01185側の主題として残します。
惑星の内部密度が一様でないと重力場にも細かな凹凸ができる
惑星が完全な球で、内部密度も球対称なら、重力場もきれいな球対称になります。
しかし実際の惑星には山脈、海盆、地殻厚の違い、核やマントルの不均一などがあります。
そのため重力場には場所ごとのわずかな違いが生じます。
国土地理院は、地下の密度構造の違いによって重力値が変化することを説明しています。こうした重力異常を測ると、直接見えない地下構造を推定できます。
重力場を精密に測ると惑星内部を調べられる
惑星の周囲を回る探査機の軌道は、その惑星の重力場によって決まります。
もし惑星内部の質量分布が完全に球対称でなければ、探査機の速度や軌道にも非常に小さな変化が現れます。
その変化を精密に測定すれば、惑星内部の質量分布や扁平さについて情報を得られます。
重力は内部を直接見る光ではありませんが、物質の量と配置に応じて変化するため、惑星内部を探る重要な観測手段になります。
惑星の質量は衛星や探査機の運動から測れる
惑星の質量を直接はかりに載せて測ることはできません。
しかし、その惑星の周囲を回る衛星や探査機の軌道を測れば、重力の強さを通してGMを高精度に求められます。
公転周期や軌道サイズは中心天体の重力と結び付いているためです。
このように、惑星が作る重力場を測ることと、惑星の質量を測ることは表裏一体の関係にあります。
巨大惑星では「表面重力」の表面をどう決めるかが重要
地球や火星には固体表面がありますが、木星や土星には地球のような明確な地面がありません。
そのため巨大惑星の半径や「表面重力」を示すときは、一定の大気圧となる基準面などを使います。
JPLの惑星物理パラメータでは、惑星ごとに基準となる半径と赤道重力が整理されています。
重力の式そのものは同じでも、「どの距離rで値を評価するか」をそろえなければ、惑星間の比較はできません。
ニュートン重力は惑星の重力を理解する基本モデル
惑星や衛星の通常の運動、表面重力、探査機の軌道など、多くの場面ではニュートンの万有引力が非常によい近似になります。
より高精度な軌道計算では一般相対論などの補正が必要になる場合がありますが、初心者が惑星重力の構造を理解するうえでは、まず質量・距離・重力場というニュートン力学の枠組みが基本です。
その枠組みだけでも、なぜ外側で逆二乗則になるのか、なぜ中心で重力が0になるのか、なぜ表面重力が質量と半径の両方で決まるのかを一つの体系として説明できます。
W01155との違いは「重力の作用」ではなく「重力場の構造」
W01155では、重力が惑星を球形にし、内部を圧縮・分化させ、大気や衛星を束縛するなど、「重力が惑星へ何をするか」を中心に扱いました。
一方、この記事では「その重力自体がどのような仕組みで空間に分布するか」が中心です。
万有引力、重力場、逆二乗則、球殻定理、内部での包有質量、重力ポテンシャル、表面重力という概念を使って、惑星重力の構造そのものを整理しています。
W01175・W01185との違いは「比較や変化」ではなく基本構造
後続のW01175では、地球・火星・木星などで重力がなぜ違うかを、質量・半径・自転などの条件を比較して扱う予定です。
またW01185では、場所・時間・観測条件によって重力値が変わったり、変わって見えたりする条件を中心に扱います。
この記事ではそれらの比較へ進む前の土台として、球対称な惑星を基本モデルに「重力場が何から生まれ、距離と内部質量によってどう表されるか」に焦点を限定しています。
まとめ
惑星の重力が中心へ向かう重力場として表せるのは、惑星をつくる質量が互いに重力を生み、球対称に近い質量分布では横方向の引力成分が打ち消し合って、中心方向の成分が残るからです。
惑星の外側では、全質量が中心に集まっているかのように扱え、重力加速度はg = GM/r²で距離の2乗に反比例して弱くなります。惑星内部では、その地点より外側の球殻の引力が打ち消し合い、内側に含まれる質量M(r)が重力を決めます。中心では全方向の引力がつり合うため重力加速度は0です。
表面重力は主に惑星の質量と半径で決まり、自転を考えると実際に感じる重力には遠心的な効果も加わります。さらに内部密度の偏りは重力場に細かな違いを作り、その測定から惑星内部を推定できます。
つまり惑星の重力は、単に物体を落とす力ではなく、惑星の質量分布が空間全体に作り、外側・表面・内部で連続的につながる重力場なのです。

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