銀河団という名前からは、「たくさんの銀河が集まった場所」を想像しやすいでしょう。実際、銀河団には数百から数千もの銀河が含まれます。しかし、銀河団の質量や重力を詳しく調べると、目に見える銀河だけでは全体を説明できません。銀河と銀河の間には数千万度にもなる高温ガスが広がり、そのさらに大きな質量成分として暗黒物質が分布しています。
つまり銀河団は、単なる銀河の寄せ集めではありません。暗黒物質がつくる巨大な重力の井戸の中に、銀河と高温ガスが束縛された一つの巨大な重力系です。そして、その構造は宇宙初期から物質が重力で集まり、小さな構造が合体しながら大きくなってきた結果だと考えられています。
結論:暗黒物質の重力井戸に銀河とガスが集まり、階層的に成長するから
銀河団が成り立つ基本的な仕組みは重力です。宇宙初期には物質の密度が完全に均一ではなく、わずかな濃淡がありました。密度が少し高い場所は周囲より重力が強いため、さらに物質を引き寄せます。この差が時間とともに成長し、暗黒物質が集まった「ハロー」ができます。
小さな暗黒物質ハローは互いに合体し、より大きなハローへ成長します。その中で通常の物質であるガスが集まり、冷えて星や銀河をつくります。さらに銀河を含むハロー同士が集まることで、銀河群や銀河団の規模へ発達します。
国立天文台の宇宙構造形成シミュレーションでも、暗黒物質の小さな塊が重力で合体し、大きなハローへ成長しながら、その中で銀河が形成され、やがて銀河団ができる階層的な過程が示されています。
銀河団には何が入っているのか
銀河団の主要な成分は、大きく三つに分けられます。第一は、望遠鏡で目立って見える多数の銀河です。第二は、銀河と銀河の間を満たす高温の銀河団ガスです。第三は、光を出さない暗黒物質です。
見た目では銀河が主役に見えますが、質量の割合ではそうではありません。NASAの解説では、銀河団の質量の大部分は暗黒物質で、通常物質の中でも星より高温ガスの方が大きな質量を持つとされています。国立天文台も、X線観測によって銀河間空間に数千万度の高温ガスが満ち、その質量が銀河の星の総量を上回ることが分かったと説明しています。
したがって、可視光の写真に写る銀河だけを見ても、銀河団全体の姿を知ることはできません。可視光、X線、重力レンズなど異なる観測を組み合わせて初めて、銀河団の質量と構造が見えてきます。
なぜ銀河同士の間に高温ガスがあるのか
銀河団の中にあるガスは、個々の銀河だけに閉じ込められているわけではありません。銀河団全体の重力場の中に、非常に薄いプラズマとして広がっています。これを銀河団ガス、またはintracluster mediumと呼びます。
銀河団が形成される過程では、宇宙のフィラメントに沿ってガスや小さな銀河群が流れ込みます。物質が巨大な重力井戸へ落ち込むと、その運動エネルギーの一部が衝撃波などによって熱へ変わります。また、銀河団同士や銀河群同士の合体でもガスは激しく圧縮・加熱されます。
その結果、ガスは数千万度、場合によってはさらに高い温度になります。この温度では原子から電子が離れたプラズマになり、可視光よりもX線を強く放射します。そこでX線望遠鏡を使うと、肉眼では空っぽに見える銀河間空間に高温ガスが広がっていることが分かります。
高温ガスが逃げずに残るのはなぜか
数千万度のガスは粒子が非常に高速で運動しています。それほど熱いガスを銀河団の内部に長期間とどめるには、強い重力が必要です。
ところが、目に見える銀河や高温ガス自身の質量だけでは、その重力が十分ではありません。銀河団内を動く銀河の速度や、高温ガスの温度・密度分布を調べると、観測できる通常物質よりはるかに大きな総質量が必要になります。
この「見えない追加質量」を説明するのが暗黒物質です。暗黒物質は光を出しませんが、質量を持ち、重力を通じて銀河やガスの運動に影響すると考えられています。銀河団では、暗黒物質が広い範囲に分布して巨大な重力井戸をつくり、その中に銀河とガスが束縛されています。
暗黒物質は見えないのに、どうやって銀河団内の分布を調べるのか
暗黒物質は望遠鏡で直接撮影できません。しかし、重力の効果は観測できます。その代表的な方法が重力レンズです。
銀河団の背後にある遠方銀河の光は、手前の銀河団の重力によって曲げられます。背景銀河の像がどの方向へどれだけゆがむかを多数測れば、途中にある総質量がどこにどれだけ分布しているかを推定できます。
すばる望遠鏡を使った研究では、背景銀河の弱いゆがみを測定し、銀河団内の暗黒物質分布が復元されています。この方法は、物質が光っているかどうかではなく重力そのものに反応するため、暗黒物質を調べる強力な手段です。
さらに、銀河団同士が衝突した例では、X線で見える高温ガスと、重力レンズから求めた主な質量の位置がずれる場合があります。ガスは衝突して減速しやすいのに対し、暗黒物質はそのような圧力をほとんど受けないと考えられており、この違いも銀河団の成分を調べる手掛かりになります。
銀河団は宇宙のどこにでも同じように分布しているわけではない
銀河や銀河団は、宇宙空間にランダムに均等配置されているわけではありません。大規模に見ると、銀河は糸のようなフィラメントや壁状構造に沿って集まり、その間には銀河が少ないボイドがあります。この網目状の構造を「宇宙の大規模構造」や「コズミックウェブ」と呼びます。
銀河団は、こうしたフィラメントが交わる密度の高い場所に形成されやすいと考えられています。NASAは、重力によって物質が集まることでコズミックウェブが成長し、物質が集中する交点に銀河団などの大きな構造が形成されると説明しています。
ESAのX線観測でも、巨大銀河団へ向かって複数のガスのフィラメントが伸びている例が観測されています。つまり銀河団は完成した孤立構造ではなく、周囲のコズミックウェブから物質を取り込みながら成長する構造なのです。
銀河団はどのように大きくなっていくのか
銀河団の成長は、一度にすべての銀河が集まって完成するわけではありません。小さな暗黒物質ハローが合体し、その中の銀河やガスも一緒に取り込まれます。銀河群規模の構造が銀河団へ落ち込み、銀河団同士が合体することもあります。
合体のとき、個々の銀河は互いの間隔が大きいため、星同士が直接衝突することはほとんどありません。一方、高温ガスは広がったプラズマなので、別の銀河団のガスと衝突し、衝撃波や乱流を生みます。そのため、X線観測では銀河団が最近合体した痕跡を見つけられることがあります。
暗黒物質と銀河は主に重力で運動し、ガスは重力に加えて圧力や衝突の影響を受けます。この性質の違いが、合体中の銀河団に複雑な構造を生みます。
銀河団の中心にはなぜ巨大な銀河があることが多いのか
多くの銀河団では、中心付近に非常に明るく大きな銀河が見られます。銀河団の深い重力井戸の中心では、長い時間の中で銀河同士の相互作用や合体が起きやすく、中心銀河が成長すると考えられています。
ただし、すべての銀河団が完全に落ち着いた左右対称の構造をしているわけではありません。形成途中や合体直後の銀河団では、暗黒物質、銀河、高温ガスの中心位置が一致しないことがあります。銀河団の形は、その銀河団がどのような合体史を経験してきたかを反映しています。
「銀河群」と「銀河団」は何が違うのか
銀河の集まりには、比較的小規模な「銀河群」と、より大規模な「銀河団」があります。天の川銀河が属する局所銀河群も、重力で結ばれた銀河の集団です。
一般に銀河群は数十個程度までの銀河を含む小規模な系で、銀河団は数百から数千規模の銀河を含むことがあります。ただし、厳密な境界を銀河数だけで一意に決められるわけではありません。総質量、X線ガス、力学的状態なども含めて扱われます。
重要なのは、どちらも重力で束縛された構造だという点です。小さな銀河群がより大きな構造へ取り込まれ、銀河団の一部になることもあります。
銀河団と超銀河団は同じものではない
さらに大きな尺度には「超銀河団」と呼ばれる構造があります。ただし、銀河団と超銀河団には重要な違いがあります。
銀河団は全体として重力に束縛された系として扱われます。一方、超銀河団は複数の銀河団や銀河群が大規模構造の中でまとまって見える領域ですが、その全体が一つの重力系として束縛されているとは限りません。
したがって、「銀河群→銀河団→超銀河団」と単純に同じ種類の天体が大きくなっただけと考えるのは正確ではありません。銀河団は重力的にまとまった巨大天体であり、超銀河団はさらに広い宇宙の大規模構造を表す概念です。
なぜ銀河団を調べると宇宙全体のことが分かるのか
銀河団は、宇宙で最も大規模な重力束縛構造の一つです。そのため、銀河団がいつ、どのくらいの数形成されたかは、宇宙の物質量や構造形成の速度に強く左右されます。
また、銀河団の総質量に対して、暗黒物質、高温ガス、星がどの程度含まれているかを測ることで、宇宙の物質構成を調べる手掛かりになります。さらに、銀河団の重力レンズやX線放射、宇宙背景放射に対するスニヤエフ・ゼルドビッチ効果など、複数の観測方法を組み合わせれば、銀河団を異なる角度から測定できます。
つまり銀河団は、銀河進化を調べる場所であると同時に、暗黒物質や宇宙の大規模構造、宇宙論を検証する「宇宙規模の実験室」でもあるのです。
まとめ
銀河団は、数百から数千の銀河が偶然近くに見えているだけの集まりではありません。暗黒物質がつくる巨大な重力井戸の中に、銀河と数千万度の高温ガスが束縛された巨大な構造です。
宇宙初期のわずかな密度差が重力で成長し、暗黒物質ハローが合体して大きくなります。その中にガスと銀河が集まり、コズミックウェブの密度の高い交点で銀河団が形成されます。形成後も周囲の銀河群やガス、暗黒物質を取り込み、銀河団同士の合体を経験しながら成長します。
見える銀河は銀河団の一部分にすぎません。X線で見える高温ガスと、重力レンズなどから推定される暗黒物質まで含めて初めて、銀河団がどのような仕組みで成り立っているのかを理解できます。
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参考資料
- 国立天文台「X線分光で探る銀河団」
- 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト「ダークマターハローの形成・進化(III. 網目構造・ボイド構造の形成)」
- NASA Science「Large Scale Structures」
- ESA「Cosmic filaments exposed near huge cluster」
- NASA「Painting Galaxy Clusters by Numbers (and Physics)」

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