なぜ彗星のガスは、核の氷から生まれ、コマやイオンの尾へ変化するのか?

彗星が太陽へ近づくと、核の周囲にはガスとダストからなる大きなコマが生まれ、さらにその一部は細長いイオンの尾へ変化します。この「ガス」は、彗星の外から集まってくるものではありません。もともと核の中に氷として含まれていた水や二酸化炭素、一酸化炭素などの揮発性物質が、太陽に温められて気体になり、宇宙空間へ流れ出したものです。

しかも、核から出た直後のガスが、そのままずっと同じ分子のまま存在するわけではありません。太陽の紫外線を受けると分子が分解されたり、電子を失ってイオンになったりします。こうして彗星のガスは、核からコマへ広がる間に化学的・電気的な状態を変え、一部は太陽風に取り込まれてイオンの尾をつくります。

目次

結論:彗星のガスは、氷の昇華から始まり、太陽光と太陽風によって姿を変えていく

彗星のガスの仕組みは、大きく四つの段階に分けると理解しやすくなります。第一に、太陽の熱で核に含まれる氷が昇華します。第二に、できた中性ガスが核の弱い重力を離れて周囲へ膨張し、コマを形成します。第三に、太陽の紫外線によって分子が分解・電離され、別の分子や原子、イオンへ変化します。第四に、電気を帯びたイオンの一部が太陽風や太陽の磁場の影響を受け、太陽とは反対方向へ流されてイオンの尾をつくります。

国立天文台は、彗星が太陽に近づくと本体からガスと塵が放出されてコマができ、電気を帯びたガスは太陽風に流されてイオンの尾を形成すると説明しています。NASAも、太陽の熱によって彗星の氷が気体へ変わり、巨大なコマと二種類の尾が生じるとしています。

彗星のガスは、もともと核の中では「氷」として存在する

太陽から遠い場所にある彗星は非常に低温で、水や二酸化炭素、一酸化炭素などの揮発性物質の多くが固体の状態で核に含まれています。彗星が内側の太陽系へ入って太陽から受けるエネルギーが増えると、こうした氷が温められます。

真空に近い彗星表面では、氷は必ずしも液体を経由する必要はありません。固体から直接気体へ変わる「昇華」が起こります。ESAのロゼッタ探査でも、67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星が太陽へ近づくにつれて、表面や浅い地下の氷が昇華し、ガスが核から逃げ出してコマを成長させる様子が観測されました。

このため、彗星のガス活動は核の温度と強く関係します。ただし「太陽に近いほど水だけが増える」と単純には言えません。物質ごとに揮発しやすさが異なるため、太陽から比較的遠い場所では一酸化炭素や二酸化炭素などが活動を支え、より太陽へ近づくと水の昇華が強くなることがあります。

核から出たガスは、なぜコマとして大きく広がるのか

昇華した分子は、核表面から宇宙空間へ向かって流れ出します。彗星の核は一般に小さく重力も弱いため、十分な速度を持ったガス分子は簡単に核から離れることができます。宇宙空間には地球の大気のような圧力がほとんどないので、流出したガスは周囲へ広く膨張していきます。

このガスと、ガス流によって運び出されたダストが核を包むように広がった領域がコマです。NASAは、彗星のコマが数十万km規模にまで広がる場合があると説明しています。直径数km程度の核に比べると、コマは桁違いに大きな構造です。

ただしコマは、地球の大気のように静止した厚い気体層ではありません。核から絶えず新しいガスが供給され、そのガスが外側へ膨張し続ける「流れ」のある領域です。核から遠ざかるほど密度は低くなり、太陽光との反応によって分子の種類も変わっていきます。

コマのガスは、核から出た分子だけでできているわけではない

彗星のガスを理解するうえで重要なのが、「親分子」と「娘分子」という考え方です。核から直接放出された水、二酸化炭素、一酸化炭素、アンモニア、メタン、シアン化水素などは、親分子として扱われます。

これらの分子が太陽の紫外線を吸収すると、化学結合が切れて別の分子や原子になることがあります。たとえば水分子からはOHなどが生じ、シアン化水素などからはCNが生じます。こうして核から直接出たわけではない成分が、コマの中で二次的につくられます。

ESAの地上観測解説では、67P彗星のコマでCNやOHなどが分光観測され、CNは親分子が太陽光で分解されて生じると説明されています。したがって、望遠鏡で見つかる「彗星のガス成分」のすべてが、核表面からそのまま噴き出した分子というわけではありません。

太陽の紫外線は、ガスを光らせるだけでなく分解・電離する

彗星のガスは太陽光を受けることで観測しやすくなります。ガス分子や分解生成物は特定の波長の光を吸収し、そのエネルギーを別の光として放出することがあります。この蛍光によって、コマのガスは特有の色やスペクトルを示します。

一方、紫外線には分子を壊したり、電子をはじき出したりする働きもあります。分子が電子を失うと、電気を帯びた「イオン」になります。ESAのロゼッタ観測では、水や二酸化炭素などの分子が太陽からの紫外線や、そこで生じた高エネルギー電子によって分解される過程が調べられました。

このためコマは、単に核から出たガスが薄まっていく場所ではなく、太陽光によって化学反応と電離が進む巨大な反応領域でもあります。

イオンになったガスは、なぜ太陽と反対側へ流されるのか

中性のガスと、電気を帯びたイオンでは、その後の動き方が変わります。太陽からは「太陽風」と呼ばれる高速のプラズマが吹き出しています。太陽風には磁場も伴っているため、コマの中で生まれたイオンは電磁気的な力を受けます。

その結果、彗星由来のイオンは太陽風に取り込まれるように加速され、太陽とは反対側へ運ばれます。これがイオンの尾、またはプラズマの尾です。国立天文台は、電気を帯びたガスが太陽風に流されて太陽と反対方向へ細長く伸びると説明しています。

ダストの尾もおおむね太陽と反対側へ伸びますが、仕組みは同じではありません。ダストは主に太陽光圧によって押されるのに対し、イオンの尾では太陽風と磁場との相互作用が重要です。そのためイオンの尾は比較的細く直線的になりやすく、青みを帯びて見えることもあります。

水・二酸化炭素・一酸化炭素は同じ割合で出るわけではない

彗星のガス組成は一定ではありません。67P彗星を長期間観測したロゼッタでは、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素をはじめ、多数の分子が検出されました。また、それぞれの放出量は太陽からの距離、季節、核のどの場所が照らされているかによって変化しました。

これは、核の内部が均一な氷の塊ではないことを示しています。表面のダスト層の厚さ、地下の氷の分布、亀裂、日照条件などによって、ある場所では水が多く出て、別の場所では二酸化炭素や一酸化炭素の割合が高くなることがあります。

ESAのロゼッタ資料では、67P彗星のコマから水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素などが検出されています。さらに多くの有機分子や窒素を含む化合物も見つかっており、彗星のガスは単純な「水蒸気」ではなく、多種類の揮発性物質が混ざった複雑なものです。

ガスの噴き出し方は、彗星の場所や時間によって変わる

彗星の核全体から均一にガスが出るわけではありません。日光が強く当たる場所、氷が表面近くにある場所、亀裂や崖の周辺などでは活動が強くなり、ジェット状にガスが噴き出すことがあります。

また彗星は自転しているため、同じ地点でも昼と夜が入れ替わります。日照が変わると表面温度も変わり、昇華量が周期的に増減します。公転に伴う季節変化も加わるため、ガスの放出量は時間とともに複雑に変化します。

ときには短時間に活動が急増するアウトバーストも起こります。表面の崩落や新しい氷の露出などが引き金になれば、普段とは異なる大量のガスやダストが一時的に放出されます。したがって、ある瞬間のガス組成や放出量だけで彗星全体を代表させることはできません。

彗星のガスを調べると、核の中身を直接掘らなくても手がかりが得られる

核の内部にある氷を地球から直接見ることは困難です。しかし、その氷が昇華してできたガスを分光観測すれば、どの分子が含まれているかを推定できます。分子や原子はそれぞれ特有の波長で光を吸収・放出するため、光をスペクトルに分けることで成分を識別できるからです。

探査機を彗星の近くまで送り、質量分析計でガスを直接測定すれば、さらに詳しい組成を調べられます。ロゼッタのROSINAなどは、67P彗星のコマを構成する多数の分子を測定し、彗星の材料や太陽系形成初期の環境を研究する重要なデータを得ました。

彗星は太陽系形成初期の物質を比較的よく保存していると考えられているため、ガスの種類や同位体比を調べることは、彗星がどこで形成され、どのような物質を取り込んだのかを知る手がかりになります。

ガスは彗星の明るさやダスト活動にも影響する

ガスの役割は、コマやイオンの尾をつくるだけではありません。核から勢いよく流れ出すガスは、表面のダスト粒子を持ち上げる力にもなります。つまり、ガス活動が強くなると、ガスのコマだけでなくダストのコマも発達しやすくなります。

またガス自身も蛍光によって光るため、彗星全体の明るさに寄与します。観測する波長によっては、ダストが反射した太陽光よりも特定のガス成分の発光が目立つことがあります。

このようにガスは、核の氷と、私たちが見るコマや尾をつなぐ中心的な存在です。氷の昇華量が変われば、ダストの放出、明るさ、イオンの尾、周囲のプラズマ環境まで連鎖的に変化します。

まとめ

彗星のガスは、核に含まれる水、二酸化炭素、一酸化炭素などの氷が、太陽の熱によって昇華して生まれます。核から流れ出した中性ガスは周囲へ膨張してコマをつくり、太陽の紫外線を受けることで分解されたり、電子を失ってイオンになったりします。

コマの中では、核から直接放出された親分子だけでなく、それらが太陽光によって分解されて生じたOHやCNなどの生成物も観測されます。そして電離されたガスの一部は太陽風と磁場の影響を受け、太陽とは反対方向へ運ばれてイオンの尾を形成します。

つまり彗星のガスは、「核から噴き出した気体」という一つの状態ではありません。核の氷から中性分子へ、さらに分解生成物やイオンへと変化しながら、コマ、発光、イオンの尾、ダスト放出など多くの彗星活動を支えています。この連続した変化こそが、彗星のガスの仕組みなのです。

関連記事

参考資料

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次