なぜ上流と下流では水温の季節変化が違うのか?

結論からいうと、上流と下流の水温が季節によって違う変わり方をするのは、日射や気温の影響を受ける時間、川幅や水深、地下水・湧水、支流、ダム放流水などの条件が、上流と下流で異なるからです。 一般に夏は、上流の冷たい水が下流へ流れる途中で日射や暖かい空気の影響を受け、下流ほど水温が高くなる区間が多く見られます。一方、冬は地下水や湧水が周囲の空気より相対的に暖かく、上流・下流の差が小さくなったり、場所によっては下流で水温が下がることもあります。

つまり、「上流は一年中冷たく、下流は一年中暖かい」と単純には言えません。 河川水温は、季節ごとの熱の受け取り方と、流域から入ってくる水の温度・量によって変わります。

目次

川の水温は何で決まるのか

川の水温は、主に次のような熱の出入りで決まります。

  • 太陽から受ける日射
  • 空気との熱交換
  • 水面からの蒸発
  • 川底との熱交換
  • 地下水・湧水の流入
  • 支流から入る水
  • ダムや湖から放流される水

日本の河川を対象にした研究でも、水温は気温だけでなく、日射、流量、地下水、ダムなど複数の要因の影響を受けることが示されています。

このため、上流と下流で水温差ができる理由を理解するには、「場所の高さ」だけでなく、「水が下流へ移動する間にどれだけ熱を受け取ったり失ったりするか」を見る必要があります。

夏は上流の水が下流へ流れる途中で温まりやすい

夏の晴天時には強い日射が川面へ当たり、水温を上げる方向に働きます。

上流の小さな渓流では、森林の樹冠が川面を覆っている場所が多く、直射日光が遮られることがあります。また、湧水や地下水が多く流れ込む上流では、比較的低い水温が保たれやすくなります。

一方、下流へ進むと川幅が広がり、日射を受ける水面積が増える区間があります。さらに、水が下流へ流れるまでの時間が長いほど、空気や日射との熱交換を受ける時間も長くなります。

2022年の河川水温研究では、夏季に上流から下流へ水が流れる過程で、日射の影響によって日最高水温が下流ほど高くなる条件が示されています。

そのため、多くの河川では夏に「上流は冷たく、下流ほど暖かい」という傾向が現れやすくなります。

ただし、下流ほど必ず高温になるわけではない

夏でも、下流へ行くほど必ず水温が上がるとは限りません。

途中で冷たい地下水や湧水が大量に流れ込めば、そこで水温が下がることがあります。冷たい支流が合流した場合も同様です。

USGSが米国の河川を航空熱赤外画像などで調べた研究では、地下水や支流の流入地点で河川水温が急に低下する場所が多数確認されています。

また、深い淵では水量が多く、同じ日射を受けても温まりにくいことがあります。川幅、流量、水深の違いによって、同じ距離を流れても温まり方は変わります。

地下水は夏に冷たく、冬に相対的に暖かく働く

地下水は、地表の空気に比べて年間の温度変化が小さいことが一般的です。

そのため夏には、地下水は川の表流水より冷たいことが多く、河川水を冷やす方向に働きます。反対に冬には、冷えた表流水より地下水の方が暖かく、河川水温を上げる方向に働くことがあります。

揖保川流域を対象にした研究では、基底流出水温の季節変化には表流水より数か月の遅れがあり、地下水は夏には河川水温を下げ、冬には上げる方向に作用することが示されています。

つまり、地下水の多い川では、上流・下流の水温差が小さくなったり、季節変化そのものが緩やかになったりします。

冬は日射が弱く、上流と下流の差が小さくなることがある

冬は夏に比べて太陽高度が低く、日射時間も短くなります。

そのため、水が下流へ流れる途中で受け取る熱が少なくなり、夏ほど下流で水温が上昇しないことがあります。

また、冬の空気は冷たいため、河川水が空気へ熱を失う方向に働くこともあります。下流へ進む間に温まるのではなく、むしろ少し冷える区間があっても不思議ではありません。

一方、地下水の流入が強い場所では、冬でも比較的高い水温が保たれることがあります。

このため、冬の上流・下流差は夏より小さくなったり、河川によっては複雑な温度分布になったりします。

春と秋は水温が大きく切り替わる季節

春と秋は、河川水温の季節変化が大きく進む時期です。

春は気温と日射が上昇し、下流域の水温も徐々に上がります。雪の多い地域では融雪水が大量に流れ込むため、春でも上流の水温が低く保たれることがあります。

秋は逆に、気温と日射が低下し、川の水温も下がっていきます。ただし、水は空気より熱容量が大きく、地下水や河床に蓄えられた熱の影響も受けるため、気温変化より水温変化が遅れることがあります。

季節の変わり目では、この「気温に対する水温の遅れ」が上流と下流で異なるため、夏や冬とは違う水温分布が現れます。

川幅と水深で温まりやすさが変わる

同じ量の日射を受けても、川の形によって水温の変化量は違います。

浅くて広い川では、水の体積に対して水面積が大きくなり、日射や空気の影響を受けやすくなります。

反対に、深くて水量の多い川では、同じ熱が入っても水全体の温度は変わりにくくなります。

USGSの資料でも、川の水温は水深、流量、川幅、日射、河岸の樹木による日陰、地下水流入などに左右されるとされています。

そのため、上流が細く浅いから必ず温まりやすいとも、下流が広いから必ず温まりやすいとも言えません。日陰と水量の組み合わせを見る必要があります。

森林の木陰は上流の夏季水温を抑える

山地の上流では、川の両側に森林が発達していることが多くあります。

樹木の枝葉が川面を覆うと、夏の日射が直接水面へ届きにくくなります。これにより、日中の水温上昇が抑えられます。

一方、下流では川幅が広くなり、樹冠で川全体を覆いにくくなるため、日射の影響が大きくなる場合があります。

ただし、都市河川でも橋や建物、河岸植生によって日陰ができる区間があります。また、上流でも森林伐採などで日陰が減れば水温が上がりやすくなります。

「上流だから冷たい」のではなく、上流に多い森林や湧水などの条件が冷水環境を作っていると考える方が正確です。

支流の合流で水温が変わる

本川の水温は、支流の水温によっても変化します。

山地から流れ込む冷たい支流が合流すれば、本川の水温が下がることがあります。反対に、浅くて日射を強く受けた支流や都市域を流れた支流が入れば、水温が上がることもあります。

支流の流量が大きければ、その影響はより強くなります。

広い流域を持つ下流部では、多数の支流から水が集まるため、単純な「上流から下流へ少しずつ温まる」という一本の変化では説明できないことがあります。

ダムがあると下流の季節変化が変わる

ダムは河川水温を大きく変えることがあります。

深い貯水池では、夏に表面の暖かい水と底部の冷たい水が分かれる「成層」が起こることがあります。

もしダムが深い層の冷たい水を放流すれば、夏の下流河川は自然状態より低温になる場合があります。反対に、表層の暖かい水を放流すれば高温になることがあります。

中国地方の一級河川を調べた研究では、ダム下流地点で気温変化に対する水温の応答が鈍い河川が確認されています。

このため、ダムのある川では、上流と下流の季節変化が自然河川とは異なるパターンになることがあります。

流量が多い季節は水温が変わりにくい場合がある

水量が多いと、水温は外気や日射の影響を受けにくくなる場合があります。

同じ熱量を受けても、水の量が多ければ温度上昇は小さくなるためです。

梅雨や融雪期などで流量が多い時期には、日射があっても水温の変化が小さくなることがあります。一方、渇水期で流量が少なくなると、同じ日射でも水温が上がりやすくなります。

そのため、夏の渇水時には下流の水温が特に高くなることがあります。

上流と下流では一日の水温変化も違う

水温は季節だけでなく、一日の中でも変化します。

晴天日には朝から日射が増え、午後に水温が高くなることがあります。上流の水温変化が下流へ伝わるまでには時間がかかるため、水温ピークの時刻は下流ほど遅れることがあります。

2022年の研究では、夏季の対象区間で日最高水温が下流ほど高くなり、そのピーク時刻も下流へ行くほど遅れる傾向が示されています。

この日変化の積み重ねも、季節ごとの上流・下流水温差を理解するうえで重要です。

同じ川でも季節によって「差の大きさ」が変わる

以上の要因をまとめると、同じ川でも季節によって上流・下流の水温差が変わる理由が見えてきます。

  • 夏:日射が強く、流下中に温まりやすいため下流ほど高温になりやすい
  • 冬:日射が弱く、地下水が相対的に暖かく働くため差が小さくなることがある
  • 春:雪解け水や気温上昇の影響が地域ごとに異なる
  • 秋:空気は早く冷えるが、水温は地下水や河床の熱の影響で遅れて下がることがある

ただし、この傾向は河川ごとに異なります。湧水河川、ダム河川、都市河川、雪国の河川では、それぞれ別の季節パターンが現れます。

水温の違いは川の生き物にも影響する

水温は魚や水生昆虫の分布、生育、産卵時期などに関わる重要な環境条件です。

冷水を好む魚は、夏でも水温の低い上流や湧水のある場所に多く見られます。逆に、比較的高い水温に適応した生物は中流・下流で増えることがあります。

また、水温が高くなると水に溶ける酸素量は低下する傾向があるため、水温の季節変化は水質や生物環境にも影響します。

河川水温の連続観測が生物環境評価に重要とされるのは、このためです。

まとめ

上流と下流の水温が季節によって違う変わり方をするのは、水が流れる途中で受ける日射・気温の影響と、地下水・支流・ダムなどから加わる水の温度が、場所と季節によって変わるからです。

  • 夏は日射が強く、下流へ流れる途中で水が温まりやすい
  • 森林の日陰や湧水・地下水は上流の夏季水温を低く保ちやすい
  • 冬は日射が弱く、地下水が表流水より相対的に暖かく働くことがある
  • 川幅・水深・流量によって温まりやすさは変わる
  • 支流の合流で水温は上がることも下がることもある
  • ダム放流水は下流の水温と季節変化を大きく変える場合がある
  • 上流と下流の差は固定ではなく、季節・天候・流量によって変化する

つまり、「上流は冷たい、下流は暖かい」というのは夏の一部の河川でよく見られる傾向にすぎません。 実際の水温は、川が下流へ流れる間の熱交換と、地下水・支流・ダムなどから入る水の影響が季節ごとに変わることで決まるのです。

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参考資料

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