なぜ宇宙空間と無重力は関係しているのか?

宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)の中でふわふわ浮いている映像を見ると、「宇宙は重力がない場所だから浮く」と考えたくなります。

しかし、ISSが飛ぶ高度約400キロメートルでも地球の重力は強く働いています。JAXAは、この高度でも重力そのものは地上より1割程度しか小さくならないと説明しています。

それでも宇宙飛行士が重さを感じないのは、ISSと宇宙飛行士が同じ重力を受けながら、地球へ向かって一緒に自由落下し続けているからです。

つまり、ISSの「無重力」は重力が消えた状態ではありません。重力によって軌道運動を続ける自由落下の中で、床から支えられる力がほとんどなくなり、重さを感じなくなる状態なのです。

目次

ISSの高さでも、地球の重力はほとんど残っている

地表から約400キロメートル上空というと、地球から非常に遠く離れたように感じるかもしれません。

しかし地球の半径は約6400キロメートルあります。ISSの高度は、地球の大きさと比べればまだ地表に近い範囲です。

そのため、ISSには地球の重力がしっかり働いています。

JAXAのFAQでは、ISS高度で働く重力は地上より10%程度しか小さくないと説明されています。

もし重力がほとんどなければ、ISSは地球の周りを回ることもできません。むしろ地球の重力があるからこそ、ISSは軌道上にとどまっています。

ISSは「落ちていない」のではなく、ずっと落ち続けている

ISSは地球の周りを約90分で1周しています。

見た目には横方向へ飛んでいるようですが、実際には地球の重力によって常に地球の中心へ引かれています。

もしISSが横方向の速度を持っていなければ、そのまま地表へ落下します。

しかしISSは非常に速い横向き速度を持っています。そのため、重力で下へ落ちながら進んでも、地球の丸い表面が同じように下へ曲がっていきます。

結果として、ISSは地表へ衝突せず、地球の周りを落ち続ける軌道運動になります。

人工衛星の軌道は「地球を外し続ける自由落下」

ニュートンが考えた有名な思考実験に、非常に高い山の上から大砲を水平に撃つというものがあります。

弾の速度が遅ければ、重力で地上へ落ちます。しかし速度を上げると、弾が落ちる間に地球表面も丸く下へ曲がっていきます。

十分な速度になれば、弾は地表へ届かず、地球を周回し続けます。

ISSや人工衛星も基本的には同じです。重力から逃げているのではなく、重力で落ちながら地球を外し続けています。

宇宙飛行士もISSと同じ加速度で落ちている

ISSの中にいる宇宙飛行士にも、地球の重力が働いています。

しかしISS本体にも、宇宙飛行士にも、机にも、水滴にも、ほぼ同じ重力加速度がかかります。

そのため、船内のすべてが一緒に落ち続けます。

宇宙飛行士だけが床へ落ちるわけではなく、床そのものも同じように地球へ落ちています。

だから宇宙飛行士は床へ押しつけられず、船内で浮いて見えるのです。

私たちが地上で「重さ」を感じるのは、床が押し返しているから

地上に立っているとき、私たちには地球の重力が下向きに働いています。

しかし同時に、床は体を上向きに押し返しています。

この床から受ける力があるため、体は地球へ自由落下できません。

私たちが「体重がある」「重い」と感じる感覚の大部分は、この床や椅子から受ける支持力によって生じます。

自由落下中には床から支えられなくなるため、重力そのものは働いていても、重さを感じにくくなります。

エレベーターが落下すると、一時的に無重量に近づく

自由落下と無重量の関係は、宇宙だけの特殊な現象ではありません。

もしエレベーターの箱と中の人が完全に同じ加速度で落下すれば、人は床に押しつけられなくなり、箱の中で浮いて見えます。

これは短時間ですが、ISSの無重量と同じ基本原理です。

遊園地のフリーフォールで落下開始直後に体がふわっと軽く感じるのも、支持力が小さくなるためです。

航空機の放物線飛行でも、短時間の無重量を作れる

JAXAは、航空機を放物線状に飛行させることで、数秒から数十秒の無重量に近い環境を作れると説明しています。

航空機と内部の人・実験装置が同じように自由落下するためです。

この方法は、宇宙実験の準備や装置検証、宇宙飛行士訓練などに利用されます。

重要なのは、宇宙に行かなくても自由落下を作れば無重量に近い状態を再現できるという点です。

なぜISSは地球へ落ち切らないのか

ISSは自由落下していますが、同時に秒速約7.7キロメートルという非常に速い横向き速度で進んでいます。

この速度があるため、ISSが重力で地球へ落ちる間に、地球表面も同じ程度だけ曲がって遠ざかります。

その結果、ISSは高度を大きく変えずに地球の周りを回り続けます。

つまり、軌道運動は「落下」と「横方向への高速運動」が組み合わさった状態です。

宇宙では重力がない、という説明が間違いやすい理由

宇宙飛行士が浮いている映像だけを見ると、重力が消えているように見えます。

しかし、月が地球を回り、地球が太陽を回り、人工衛星が地球を回っているのは、すべて重力が働いているからです。

宇宙空間は「重力がない場所」ではありません。

天体から遠く離れれば重力は弱くなりますが、完全にゼロになる境界があるわけではありません。

「無重力」と「無重量」は厳密には少し意味が違う

日常会話では、ISS船内の状態を「無重力」と呼ぶことがよくあります。

しかし厳密には、ISSには地球重力が働いているため、「重力がゼロ」という意味の無重力ではありません。

宇宙飛行士が感じているのは、支持力がほぼなくなった無重量に近い状態です。

JAXAも、ISSは地球に対して自由落下しているため、ISSも内部も無重量になると説明しています。

では、なぜ「微小重力」と呼ばれるのか

理想的な自由落下なら、船内の物体は完全に同じ加速度で落ち、相対的には浮いたままになります。

しかし実際のISSには、わずかな残留加速度があります。

低軌道のごく薄い大気による抵抗、ISSの姿勢制御、機器の振動、宇宙飛行士の動き、構造物の質量中心からの位置差などが影響します。

そのため、ISSの実験環境は厳密な0Gではなく微小重力と呼ばれます。

この微小な残留加速度の詳しい原因と、なぜ宇宙実験で重要なのかはW01357で扱います。

W01357との違いは「無重量の原理」か「残留する微小加速度」か

本記事W01352では、宇宙飛行士がなぜ浮くのかという基本原理を扱います。

答えは、ISSと宇宙飛行士が同じ重力を受け、地球へ自由落下し続けるためです。

一方、W01357では、理想的な自由落下から少しずれる大気抵抗、振動、姿勢制御、重力勾配などによって、ISSが完全な0Gではなく微小重力環境になる理由を扱います。

つまりW01352が「なぜ重さを感じなくなるか」、W01357が「なぜそれでも完全なゼロ加速度ではないか」を説明する記事です。

重力と遠心力がつり合う、という説明もできる

地球と一緒に回転する視点では、ISSに働く地球重力と、軌道運動に対応する遠心力がつり合っていると説明することもできます。

JAXAのFAQでも、「重力と遠心力がつり合っている」、または「すべてのものがいっしょに落ち続けている」という二つの説明が示されています。

物理的な理解としては、慣性系から見た「自由落下」の説明が最も直接的です。

月も地球へ自由落下し続けている

ISSだけでなく、月も地球の重力を受けながら軌道を回っています。

月が地球へ落下して衝突しないのは、横向き速度を持っているためです。

人工衛星と同じように、月も地球を外しながら落ち続けています。

ただし月の表面に立つ人は、月自身の重力を受け、地面から支持力を受けるため、無重量にはなりません。

宇宙船のエンジンを噴射すると、無重量状態は崩れる

自由落下している宇宙船がエンジンを強く噴射すると、船体には重力以外の加速度が加わります。

すると船内の人は壁や床へ押しつけられ、重さを感じます。

これはSF作品で描かれる「加速中の宇宙船では床に立てる」という場面の物理的な基礎です。

無重量は宇宙空間そのものの性質ではなく、宇宙船がどのように運動しているかによって変わります。

人工重力は回転によって作ることもできる

宇宙船を回転させると、回転する座標系では外向きの遠心力を感じます。

これを利用すれば、船体の外周を「床」として疑似的な重力を作ることができます。

JAXAの「きぼう」には、小型の遠心機を使って微小重力から1Gまでの人工重力環境を作る実験装置があります。

これにより、生物が重力の大きさによってどう変化するかを比較できます。

自由落下は、アインシュタインの等価原理にもつながる

自由落下する閉じた箱の中では、短い時間・小さな範囲なら重力の影響を感じにくくなります。

アインシュタインは、自由落下する系では局所的に重力の効果を消せるという考えを一般相対性理論の出発点の一つにしました。

ISSでの無重量は、日常的に目で見ることのできる「自由落下と重力の関係」の実例でもあります。

無重量でも、重力勾配は残る

ISSの中のすべての点で地球重力が完全に同じ強さ・方向というわけではありません。

地球に近い側と遠い側では、わずかに重力の強さが違います。

この差は重力勾配と呼ばれ、非常に高精度な微小重力実験では無視できないことがあります。

ただし、人がふわふわ浮く基本理由はこの微小な差ではなく、ISS全体が自由落下していることです。

無重量環境では、地上とは違う現象が起こる

床へ沈む・上へ浮くという重力による方向性がほとんどなくなるため、液体、気泡、炎、結晶、生物などは地上と異なる振る舞いを示します。

たとえば密度差による自然対流が弱くなり、液体は表面張力の影響を強く受けます。

そのためISSは、重力の影響をできるだけ取り除いた科学実験の場として利用されています。

宇宙に行けばどこでも無重量になるわけではない

月面では月の重力があり、火星表面では火星の重力があります。

宇宙船が惑星表面に着陸して床に立てば、地球より弱くても重さを感じます。

反対に、地球上でも自由落下中なら短時間の無重量を作れます。

したがって、「宇宙空間だから無重量」ではなく、「自由落下しているから無重量」という理解が重要です。

無重量が生まれる条件を整理すると分かりやすい

状態 重力 重さの感じ方
地上に立つ 強く働く 床の支持力を受け、重さを感じる
エレベーターで自由落下 強く働く 短時間、無重量に近づく
ISSで軌道運動 地上より少し弱い程度 長時間、無重量に近い
月面に立つ 月重力が働く 地球の約6分の1の重さを感じる
宇宙船が加速 重力以外の加速度も働く 床・壁から力を受け、重さを感じる

まとめ

宇宙空間と無重力が関係して見えるのは、ISSのような宇宙船が地球の重力から逃げているからではなく、重力を受けながら自由落下し続けているからです。

  • ISS高度でも地球重力は地上より1割程度弱いだけで、ほぼ残っています。
  • ISSは高速で横方向へ進みながら地球へ落ち続けるため、軌道を回ります。
  • 宇宙飛行士、船体、物体が同じ加速度で落ちるため、床から支えられず無重量になります。
  • 無重量は「重力がないこと」ではなく、「自由落下によって支持力を感じないこと」です。
  • 実際のISSには大気抵抗や振動などがあるため、厳密には微小重力環境です。
  • 地上でも落下塔や放物線飛行を使えば、短時間の無重量を作れます。

つまり、宇宙飛行士が浮いているのは、重力が消えた証拠ではありません。むしろ地球の重力がISSと宇宙飛行士を一緒に引き続け、その結果として「地球の周りを落ち続ける」軌道運動が生まれているのです。

参考資料

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