夜空を見上げると、太陽や恒星、遠い銀河から届いた光を目で見ることができます。しかし、地球と天体の間には空気がほとんどない宇宙空間が広がっています。音は空気などの物質を振動させて伝わるため、「光も何かを伝わってくるのでは?」と疑問に思うかもしれません。
結論からいうと、光は物質の振動ではなく、電場と磁場の変化として進む電磁波だから、空気のような媒質がなくても真空中を伝わることができます。量子論では、光は光子という粒子としての性質も持ちます。宇宙で見える光は、天体で生み出され、真空に近い空間を進み、途中の物質や重力、宇宙膨張の影響を受けながら私たちの観測装置へ届いているのです。
光は「何かの物質が揺れて進む波」ではない
水面の波は水が、音波は空気や水、固体などの物質が振動することで伝わります。このような波には、振動を受け渡す物質が必要です。ところが光は、この種類の波とは性質が異なります。
光は電磁波の一種です。電磁波は、空間にある電場と磁場の変化が波として伝わる現象として記述できます。電磁気学の基本法則からは、真空中でも電磁波が進む解が得られ、その速さは真空中の光速になります。つまり、光が進むために「宇宙を満たす見えない物質」を仮定する必要はありません。
19世紀には、光の波を伝える物質として「エーテル」があるのではないかと考えられた時期もありました。しかし現在の物理学では、光の伝播にそのような媒質は必要ないと理解されています。JAXA宇宙科学研究所も、光と電波はいずれも電磁波であり、何もない空間でも進めると説明しています。
「光」と「電波」「赤外線」「X線」は同じ仲間
日常会話で「光」というと、人間の目に見える可視光を指すことが多いでしょう。しかし物理学や天文学では、可視光だけでなく、電波、マイクロ波、赤外線、紫外線、X線、ガンマ線まで、すべて電磁波という同じ仲間として扱います。
違いを生む基本的な量は波長や周波数です。波長が長い側には電波やマイクロ波があり、可視光を挟んで、短い側には紫外線、X線、ガンマ線があります。周波数が高いほど、一つの光子が運ぶエネルギーも大きくなります。
国立天文台が多波長観測を重視しているのは、波長によって見える宇宙の姿が変わるからです。可視光では恒星が目立ちますが、冷たい星間物質は赤外線や電波で、非常に高温のガスや激しい高エネルギー現象はX線などで詳しく調べられます。宇宙の「光」は、目で見える色だけではありません。
宇宙の光はどこで生まれるのか
宇宙空間を進む光には、さまざまな発生源があります。代表的なのは恒星です。恒星の内部で生み出されたエネルギーは何度も物質と相互作用しながら外へ運ばれ、最終的に表面付近から幅広い波長の電磁波として宇宙へ放射されます。
また、原子や分子の電子状態が変化すると、決まったエネルギーに対応する光が放出・吸収されます。この仕組みによって、天文学者は天体のスペクトルに現れる線を調べ、そこにどの元素や分子があるかを推定できます。
さらに、磁場の中を高速で動く荷電粒子、非常に高温のプラズマ、超新星爆発、ブラックホール周辺の降着円盤なども強い電磁波を生みます。どの仕組みが支配的かによって、強く放射される波長域が変わります。
真空中では光はどのように進むのか
真空中の光速は約30万km/sです。正確には299,792,458m/sで、現在の国際単位系ではこの値が定義値になっています。太陽から地球までの光は、およそ8分強かけて到達します。遠い恒星や銀河を見ることは、その天体の過去の姿を見ることでもあります。
ただし「真空なら光は何にも邪魔されない」と考えるのは少し単純すぎます。実際の宇宙空間は完全な無ではなく、希薄なガスやプラズマ、宇宙塵が存在します。光はそれらに吸収されたり、散乱されたり、波長によっては進み方に影響を受けたりします。
たとえば可視光は宇宙塵によって弱められたり赤っぽく見えたりします。電波はプラズマ中の電子の影響で、周波数によって到着時刻に差が生じることがあります。一方、波長によっては物質を比較的通り抜けやすいため、同じ天体でも複数の波長で観測すると、異なる場所や物理状態を調べられます。
光は重力や宇宙膨張の影響も受ける
光が真空を進めるからといって、宇宙の中で常に完全な直線を保ち、波長も変わらないわけではありません。一般相対性理論では、質量やエネルギーによって時空が曲がり、光の進路もその影響を受けます。大きな銀河や銀河団の近くを通った遠方天体の光が曲げられる「重力レンズ」は、その代表例です。
また、宇宙そのものが膨張しているため、遠方の銀河から長い時間をかけて届く光は、伝播の途中で波長が引き伸ばされます。これが宇宙論的赤方偏移です。ESAは、遠方天体の赤方偏移について、単純に天体が空間を運動するドップラー効果だけではなく、空間の膨張によって光の波長が伸びる効果として説明しています。
このため、もともと紫外線だった光が、長い宇宙旅行の末に赤外線として観測されることもあります。遠方宇宙の観測で赤外線望遠鏡が重要になる理由の一つです。
宇宙は本当に「真っ暗」なのか
宇宙空間を光が進んでいるのなら、なぜ宇宙は昼間の空のように明るく見えないのでしょうか。大きな理由は、地球の昼空が明るく見える仕組みとの違いにあります。
地球では、大気中の分子や微粒子が太陽光を散乱させます。視線の方向に太陽がなくても、空のあちこちから散乱光が目に入るため、空全体が明るく見えます。ところが宇宙空間は非常に希薄なので、光を広い方向へ散乱させる物質が少なく、光源や光を反射・散乱する物体がない方向は暗く見えます。
つまり「光がそこを通っていること」と「その場所自体が明るく見えること」は同じではありません。横から通過する光は、何かがその光をこちらへ散乱しない限り、私たちの目には直接入りません。
光は宇宙の情報を運ぶメッセンジャー
天文学者にとって、宇宙から届く光は単なる明るさではなく、天体の状態を知る情報そのものです。光の波長分布を調べれば温度の手がかりが得られ、スペクトル線を調べれば物質の組成や運動を推定できます。偏光を測れば、磁場や散乱の情報が得られる場合もあります。
さらに、光の到着時刻の変化を詳しく測ることで、天体の周期運動や爆発現象の時間変化も調べられます。私たちが宇宙について知っていることの多くは、遠くから届いた電磁波を波長、強度、方向、偏光、時間変化などに分解して読み解いた結果です。
まとめ
光がほぼ真空の宇宙空間を進めるのは、光が空気などの物質の振動ではなく、電磁波だからです。光には波としての性質と光子としての性質があり、可視光だけでなく、電波からガンマ線まで広い電磁スペクトルを構成しています。
宇宙を進む途中では、光は希薄なガスや塵に吸収・散乱されたり、重力によって進路を曲げられたり、宇宙膨張によって波長を伸ばされたりします。だからこそ、届いた光を詳しく分析することで、天体の温度や物質、運動、宇宙の歴史まで読み解くことができます。
「宇宙空間には空気がほとんどないのに、なぜ光が届くのか」という疑問の答えは、光が音とは違う種類の波であることにあります。宇宙の光は、真空を越えて情報を運ぶ、天文学の最も重要なメッセンジャーの一つなのです。
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主な参考資料
- JAXA 宇宙科学研究所「宇宙から来る光や電波は何を伝わって来るのですか?」
- 国立天文台「多波長で観る宇宙」
- NASA「Spectrum Overview」
- ESA「What is ‘red shift’?」

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