なぜ人工衛星との通信には地上局・追跡アンテナ・中継衛星が必要なのか?

人工衛星は、宇宙で観測や計測をするだけでは仕事を完了できません。撮影した画像や測定データを地上へ届け、反対に地上から姿勢変更や観測開始などの命令を受け取る必要があります。

人工衛星との通信に地上局・追跡アンテナ・中継衛星が必要なのは、衛星が高速で移動し、地球の丸みによって地上局から見えなくなる時間があり、遠距離ほど電波が弱くなるためです。通信できる時間、距離、アンテナの向き、周波数、送信電力、地上局の配置を組み合わせて、はじめて安定した宇宙―地上リンクを作れます。

目次

人工衛星は観測データを地上へ送らなければ意味がない

地球観測衛星は画像やレーダーデータを、科学衛星は観測装置の測定値を、宇宙機は温度・電圧・姿勢・機器状態などのテレメトリを地上へ送ります。

地上側では、そのデータを解析して衛星が正常かを確認し、必要ならコマンドを送って観測条件や姿勢、機器の動作を変更します。

JAXAは、地球観測衛星と地上局の間では電波を使って、観測データや衛星状態を地上へ送り、必要に応じて地上から衛星へ命令を送ると説明しています。

つまり通信は人工衛星の「付属機能」ではなく、衛星を運用し、データを利用するための基本機能です。

地上局は衛星との通信窓口になる

人工衛星と直接通信する地上設備を地上局と呼びます。

地上局には、衛星からの弱い電波を受信するアンテナ、衛星へコマンドを送る送信機、受信信号を復調する装置、時刻や軌道情報を扱うシステムなどがあります。

JAXAの追跡ネットワークでは、国内外の地上局をネットワークで結び、人工衛星や探査機の状態を受信し、必要に応じて指令を送信しています。

一つの人工衛星を運用するためには、宇宙側の機器だけでなく、地上側の通信網も一体として設計する必要があります。

低軌道衛星は地上局からずっと見えるわけではない

低軌道の人工衛星は地球を約90~100分で一周し、地上から見ると短時間で空を横切ります。

地上局が衛星と直接通信するには、衛星が地平線より上にあり、電波の通り道が地球に遮られていない必要があります。

衛星が地球の反対側へ回れば、その地上局からは直接通信できません。

JAXAは、低軌道の地球観測衛星では地上局から見える「可視時間」が10分程度に限られる場合があると説明しています。

NASAも、低軌道衛星と直接地上通信を行う場合、衛星が一つの地上局の見通し範囲に入るのは軌道の一部だけだとしています。

地球の丸みが通信時間を制限する

人工衛星と地上局の間の電波は、基本的に直線に近い経路で伝わります。

衛星が地平線の向こうへ回ると、地球そのものが電波の経路を遮ります。

このため、低軌道衛星では「衛星が通信装置を持っているか」だけでなく、「いつ地上局から見えるか」を軌道予測で管理しなければなりません。

JAXAの追跡ネットワークでは、地上局のアンテナで人工衛星を確実に捕捉するために、軌道決定と軌道予測が必要だと説明しています。

通信運用は、電波技術と軌道力学の両方に依存しています。

アンテナは衛星を追いかけて向きを変える

パラボラアンテナのような高利得アンテナは、広い方向から電波を受けるのではなく、特定方向の弱い信号を効率よく受信します。

その代わり、衛星の方向を正確に向く必要があります。

低軌道衛星は空を移動するため、地上局のアンテナは軌道予測に基づいて方位角と仰角を連続的に変え、衛星を追跡します。

JAXAは、通信相手の電波を確実に受け取るため、衛星と地上局がお互いの方向を合わせ、通信する時間帯を決めると説明しています。

通信では「強い送信機」だけでなく、「どこへ向けるか」も同じくらい重要です。

距離が遠いほど受信電力は小さくなる

衛星から出た電波は、進むにつれて広い空間へ広がります。

同じ送信電力とアンテナ条件なら、距離が大きいほど地上局で受け取れる電力は小さくなります。

NASAは、通信システムを設計するときに、送信電力、アンテナ利得、距離による伝搬損失、受信機性能などをまとめた「リンクバジェット」を計算する必要があると説明しています。

低軌道衛星と地上局の距離は数百~数千km規模ですが、静止衛星や月探査機ではさらに遠くなります。

距離が増えるほど、より高利得のアンテナ、十分な送信電力、高感度受信機などが必要になります。

衛星が真上にいるときと地平線近くでは距離が違う

同じ衛星でも、地上局から見た距離は一回の通過中に変化します。

地上局のほぼ真上を通るときは比較的近く、地平線近くでは斜めに長い距離を通ります。

そのため受信電力や通信品質も通過中に変わります。

JAXAは、低軌道衛星の通信で仰角などに応じて変調方式や伝送速度を切り替える可変符号化変調を研究し、限られた可視時間で送れるデータ量を増やしています。

衛星通信では、一回の通信中も回線条件が一定ではありません。

周波数を高くすると高速通信しやすいが課題も増える

人工衛星との通信にはS帯、X帯、Ka帯などさまざまな周波数帯が使われます。

より広い帯域を使える周波数帯では大容量データ通信に向きます。

地球観測衛星が高解像度画像やレーダーデータを大量に取得するようになると、短い可視時間で大容量データを送るため高速通信が重要になります。

一方、高い周波数帯は降雨の影響を受けやすい場合があります。

JAXAはKa帯地上局について、雨粒による吸収・散乱で通信が弱くなる降雨減衰へ対応するため、複数地点に受信局を配置し、気象条件の良い局を選べる構成を整備しています。

地上局を複数設置すると通信機会を増やせる

低軌道衛星は一つの地上局から見える時間が短いため、世界各地に地上局を配置すると通信機会を増やせます。

ある地上局の地平線下へ衛星が移動しても、その先の地域に別の地上局があれば、次の通信を早く始められます。

NASAの地上システムでは、複数の地上局をネットワーク化し、衛星の軌道とミッション要求に応じて通信機会を割り当てます。

地球観測データを早く利用したい場合は、観測後に次の地上局へ届くまでの待ち時間を減らすことが重要です。

災害監視や気象観測では、通信遅延そのものがデータ価値へ影響することがあります。

中継衛星を使うと地上局が見えない時間を減らせる

地上局を増やしても、地球上すべての場所にアンテナを置けるわけではありません。

そこで利用されるのがデータ中継衛星です。

低軌道衛星から見える高い軌道の中継衛星へデータを送り、その中継衛星が地上局へ転送します。

NASAのTDRSは、ISSやHubble宇宙望遠鏡など低軌道ミッションに対し、地上局との直接通信だけでは得られないほぼ連続的な通信を提供してきました。

JAXAでも、「きぼう」とデータ中継技術衛星「こだま」を使い、実験データ、映像、音声などを地上へ中継する衛星間通信システムを運用した実績があります。

中継衛星は「宇宙の通信塔」のような役割をする

低軌道衛星から地上局が見えないときでも、高い軌道の中継衛星が見えていれば通信経路を作れます。

ESAのEDRSは、低軌道の地球観測衛星からレーザー通信でデータを受け取り、静止軌道の中継衛星から地上局へ送るシステムです。

ESAは、低軌道衛星が地上局の見通し範囲に入るまで待つ必要を減らし、地球観測データをより早く地上へ届けられると説明しています。

この仕組みは、携帯電話が近くの基地局だけでなくネットワークを経由して相手へつながるのと似ています。

ただし中継すると距離とシステム複雑性が増える

中継衛星を使えば通信可能時間を増やせますが、常に直接通信より優れているわけではありません。

低軌道衛星から地上局へ直接送る場合より、中継衛星を経由する方が通信距離は長くなります。

NASAは、静止軌道の中継衛星を使う場合、低軌道衛星から直接地上局へ送る場合より距離が大きく、同じ通信装置なら伝送できるデータ量や必要電力に影響すると説明しています。

さらに衛星間アンテナの指向制御、通信スケジュール、ネットワーク管理も必要になります。

中継は「可視時間を増やす代わりに、通信系を複雑にする」設計選択です。

光通信なら大容量化できるが高精度な追尾が必要

従来の衛星通信は主に電波を使いますが、近年はレーザーを使う光通信も実用化が進んでいます。

光通信は非常に細いビームを使えるため、高いデータレートや周波数資源の有効利用が期待できます。

ESAのEDRSでは、低軌道衛星と静止中継衛星の間にレーザー通信を使っています。

一方、レーザービームは細いため、送信側と受信側が互いを高精度に指向し続ける必要があります。

また地上との光通信は雲や大気の影響を受けるため、複数の光地上局や気象情報との連携が重要になります。

通信にはデータ送信だけでなく「追跡」も含まれる

地上局は観測データを受け取るだけではありません。

衛星からの電波の到来方向、距離、周波数変化などを使って、衛星の軌道や状態を確認することもあります。

軌道予測がずれると、狭いビームのアンテナを正しい方向へ向けられず、通信を開始できない可能性があります。

そのため「追跡・テレメトリ・コマンド」は衛星運用の基本要素としてまとめて扱われます。

通信と軌道管理は別々の作業ではなく、互いに支え合っています。

衛星の状態監視には低速でも確実な通信が必要

地球観測画像のような大量データでは高速通信が重要ですが、衛星の健康状態を示すテレメトリや緊急コマンドでは、必ずしも最大速度が最優先ではありません。

衛星が姿勢を失った直後などは、高利得アンテナを正確に地上へ向けられないことがあります。

そのため初期運用や異常時には、広い方向から電波を受けられる低利得アンテナや、比較的堅牢な通信方式が重要になります。

NASAも、衛星分離直後など姿勢が安定していない時期には、広いビーム幅を持つ受信アンテナが重要だと説明しています。

衛星通信は「速さ」だけでなく「つながりやすさ」と「復旧しやすさ」も設計目標です。

通信速度は送信電力だけでは決まらない

送信機の出力を大きくすれば通信が簡単になるように思えますが、実際には衛星の電力は限られています。

太陽電池で得た電力は、観測装置、姿勢制御、熱制御、搭載コンピューターなどにも使います。

そのため通信系だけに大量の電力を使うことはできません。

アンテナ利得、周波数、符号化、変調、地上局の受信性能、可視時間などを組み合わせ、限られた電力で必要なデータ量を送るよう設計します。

これがリンクバジェットと通信運用設計の中心です。

高速移動によるドップラー変化も補正する

低軌道衛星は秒速約7~8kmで移動します。

地上局へ近づくときと遠ざかるときでは、受信する電波の周波数がわずかに変化します。これがドップラー効果です。

通信システムでは、この周波数変化を予測・追従して安定した復調を行います。

また高利得アンテナでは衛星の角速度に合わせて追尾する必要があります。

衛星通信は、固定された基地局同士の通信よりも「相手が高速で動く」ことを前提にした設計が必要です。

静止衛星は地上アンテナを固定しやすい

静止軌道の衛星は、地上から見るとほぼ同じ方向に見え続けます。

そのため地上アンテナを常に動かして追尾しなくても、一定方向へ向けて通信できます。

この性質はテレビ放送や広域通信に大きな利点があります。

一方、静止軌道は地表から約3万6000kmと遠いため、低軌道衛星より通信距離が長く、伝搬遅延と伝搬損失が大きくなります。

「追尾しやすさ」と「距離の短さ」は両立しないため、用途によって低軌道と静止軌道を使い分けます。

低軌道コンステレーションでは次々に衛星を切り替える

近年の衛星通信では、多数の低軌道衛星を使うコンステレーションが広がっています。

低軌道なら地上との距離を短くできるため、静止衛星より伝搬遅延を小さくしやすい利点があります。

しかし一機の衛星は短時間で空を移動するため、利用者の端末は次に見える衛星へ通信先を切り替えなければなりません。

衛星側も地上局や他の衛星との接続を切り替えながらネットワークを維持します。

低軌道通信では「一機を長く見る」のではなく、「多数の衛星を連続的につなぐ」仕組みが重要になります。

災害時には地上網に依存しない通信経路になる

衛星通信は、地上の光ファイバーや基地局が使えない場所でも通信経路を作れることが大きな特徴です。

JAXAは、衛星通信が離島、海上、山間部など地上網の整備が難しい場所で使われてきたと説明しています。

災害で地上通信網が損傷した場合も、衛星と通信端末の見通しを確保できれば、地上インフラとは別の経路を使える可能性があります。

人工衛星と通信の関係は、衛星を運用するためだけでなく、衛星そのものを通信インフラとして利用することにも広がっています。

W01401・W01402・W01403とは何が違うのか

W01401は、人工衛星の目的に合わせて高度・傾斜角・周期・軌道形状を選ぶ必要がある理由を扱う軌道設計の総論です。

W01402は、高度によって観測範囲・周期・大気抵抗・寿命が変わる理由を扱います。

W01403は、地球に近いほど重力が強く、低軌道ほど必要な軌道速度が大きくなる力学を扱います。

この記事W01404では、人工衛星が取得したデータや状態情報を地上へ届け、地上からコマンドを送るために、なぜ地上局・追跡アンテナ・通信窓・中継衛星が必要になるのかという通信システムそのものを中心に説明しています。

人工衛星との通信を見るときは5つを確認する

人工衛星との通信を理解するときは、次の五つを確認すると整理しやすくなります。

第一は直接通信か中継通信かです。地上局へ直接送るのか、中継衛星を経由するのかを確認します。

第二は可視時間です。低軌道衛星では地上局から見える時間が限られます。

第三は距離とリンクバジェットです。距離、送信電力、アンテナ利得、受信感度が通信品質を決めます。

第四は周波数と気象条件です。高速化に有利な周波数帯ほど雨などの影響を受けやすい場合があります。

第五は追跡とネットワークです。高速で動く衛星を追尾し、複数地上局や中継衛星をどう切り替えるかが重要です。

この五つを押さえると、衛星通信が単に「宇宙から電波を出すこと」ではなく、軌道・アンテナ・電力・地上設備・ネットワークを統合したシステムだと分かります。

まとめ

人工衛星との通信に地上局・追跡アンテナ・中継衛星が必要なのは、衛星が高速で地球を回り、一つの地上局から見える時間が限られ、遠距離通信では電波が弱くなるからです。

地上局は衛星から観測データやテレメトリを受け取り、反対にコマンドを送ります。低軌道衛星では通信窓が短いため、アンテナで衛星を追尾し、複数地上局を使って通信機会を増やします。

さらにTDRSやEDRSのような中継衛星を使えば、地上局が直接見えない時間にも通信経路を確保しやすくなります。一方で通信距離、電力、指向精度、ネットワーク構成は複雑になります。

通信速度は送信電力だけでなく、距離、アンテナ利得、周波数、気象、変調方式、可視時間をまとめたリンク設計で決まります。

つまり人工衛星は、宇宙で単独に働く機械ではありません。宇宙側の通信機器と地上局、追跡網、中継衛星を一体化して初めて、観測データを社会へ届け、地上から安全に運用できるシステムになるのです。

関連記事

主な参考資料

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次