なぜ海に近い川では満潮時に水位が上がることがあるのか?

結論からいうと、海に近い川で満潮時に水位が上がることがあるのは、満潮で海面が高くなると河口側の水位も持ち上がり、その変化が川の上流側へ伝わるからです。 海へ向かって流れていた川は、河口の水位が高くなると水面の傾きが小さくなり、流れにくくなります。その結果、河口からある程度上流まで川の水位が上がることがあります。

このように潮の満ち引きで水位や流速が変化する川の区間を感潮区間と呼びます。国土交通省の河川砂防技術基準でも、感潮区間は「潮汐の変動によって水位が変動する区間」と整理されています。

目次

川の水位は川だけで決まるわけではない

山間部や上流の川では、水位は主に雨や雪解け、支流からの流入などによって変わります。

しかし河口に近づくと、川は海と直接つながっています。そのため、下流側の海面の高さも川の水位を決める条件の一つになります。

満潮では海面が上がり、干潮では下がります。河口の水位もこの変化を受けるため、海に近い川では、一日の中でも潮に合わせて水位が周期的に上下することがあります。

米国地質調査所(USGS)も、潮汐の影響を受ける河川では海の潮位変動が上流へ伝わり、水位が一日の中で周期的に変動すると説明しています。

満潮になると河口の「出口側の水位」が高くなる

川の水は、基本的には高い所から低い所へ流れます。

河口では、川の水面と海面の高さの差が、川の水を海へ流す力の一部になります。

ところが満潮で海面が上がると、川の出口側の水位も上がります。すると川の上流と河口の水位差が小さくなり、水面の傾きが緩くなります。

その結果、川の水が海へ流れ出る速度が弱まり、河口付近の水位が上昇しやすくなります。

これは、海水が川を単純に「押し上げる」というより、下流端の水位が高くなることで川全体の水面勾配が変化すると考える方が正確です。

水位の変化は上流へ伝わる

河口の水位が上がると、その影響は河口だけにとどまりません。

川の水面は連続しているため、下流側の水位上昇は上流側へ伝わります。勾配の緩い川では、その影響がかなり上流まで及ぶことがあります。

USGSは米国ニュージャージー州の河川について、海の潮汐が河口から100マイル以上上流まで影響する例があると紹介しています。

一方、日本の国土交通省の技術基準でも、河口から潮汐によって水位が変動する範囲を感潮区間として区分しています。

つまり、海から数キロ離れていても、地形や河川勾配によっては満潮の影響を受けることがあります。

川の勾配が緩いほど潮の影響は届きやすい

潮の影響がどこまで上流へ届くかは、川によって違います。

特に影響を受けやすいのは、河口近くの勾配が非常に緩い川です。

勾配が急な川では、上流から下流へ向かう水面の傾きが大きいため、海側の水位変化の影響は比較的短い区間で弱くなります。

一方、低平地を流れる緩やかな川では、もともとの水面勾配が小さいため、海面が少し上がっただけでも川の水位へ影響しやすくなります。

満潮時には流れが遅くなることがある

満潮に向かって海面が上昇する時間帯には、河口側の水位が高くなります。

すると、上流から海へ向かう川の流れが弱くなる場合があります。

潮汐の影響が強い川では、流速が大きく低下したり、一時的にほぼ止まったりすることがあります。さらに条件によっては、表面や川全体の流れが短時間だけ上流向きになることもあります。

USGSは、潮汐河川では潮の変化によって流れの向きが一日に複数回反転する場所があるため、通常の河川とは異なる方法で流量を測定していると説明しています。

満潮時刻と川の水位ピークは同時とは限らない

「満潮になった瞬間に川の水位も最大になる」とは限りません。

潮位の変化が河口から上流へ伝わるには時間がかかります。また、川底との摩擦や川幅、水深、河川流量などの影響も受けます。

そのため、河口から離れた地点では、海の満潮時刻より少し遅れて水位が最大になることがあります。

逆に、大きな川の流れがあると潮の影響が弱まり、水位の上昇幅が小さくなる場合もあります。

潮汐河川の水位を予測する研究でも、河川水位は単純な河川流量だけではなく、潮位を含む複数の条件に左右されることが示されています。

大潮では水位変化が大きくなりやすい

潮の満ち引きの幅は毎日同じではありません。

新月や満月の前後には、太陽と月の引力の作用が重なり、満潮と干潮の差が大きくなる「大潮」になりやすくなります。

大潮の満潮では海面が通常より高くなるため、感潮河川でも水位上昇の幅が大きくなることがあります。

反対に、満潮と干潮の差が小さい小潮では、河川水位に現れる潮汐変動も小さくなる傾向があります。

洪水と満潮が重なると水位が高くなる場合がある

河口に近い川で重要なのは、上流から来る洪水と海側の満潮が同時に起こる場合です。

大雨で川から大量の水が流れているときに海面も高いと、川の水が海へ流れ出にくくなります。

2018年7月西日本豪雨を対象にした土木学会の研究では、高梁川水系で潮汐による河川背水の影響が検討され、洪水時にも海側の潮位が河川水位へ影響する可能性が示されています。

ただし、潮の影響の大きさは場所によって異なり、上流からの洪水流量が非常に大きい場合には河川流の影響が圧倒的に強くなる地点もあります。

「背水」とは下流の水位が上流へ影響する現象

河川では、下流側の水位が高くなったために上流側の水位まで上がる現象を背水と呼びます。

背水は満潮だけでなく、本川と支川の合流部、ダムや堰、河川の狭窄部などでも起こります。

満潮による背水の場合、海面が下流端の水位を高くすることで、河口から上流側へ水位上昇が伝わります。

海に近い低平地の河川では、この背水を考慮しないと正確な水位予測が難しくなります。

塩水の遡上と水位上昇は同じではない

潮が川へ影響すると聞くと、「海水が上流へ入るから水位が上がる」と考えがちです。

確かに満潮時には塩水が上流方向へ移動することがあります。しかし、潮汐による水位変動が届く範囲と、塩水そのものが遡上する範囲は同じとは限りません。

国土交通省の技術基準でも、「感潮区間」と「塩水遡上区間」は分けて扱われています。

つまり、塩水がほとんど来ない上流側でも、水位だけは潮の影響を受けることがあります。

河口堰や潮止堰があると影響範囲が変わる

河口付近には、塩水の遡上を防いだり、水位を管理したりするために河口堰や潮止堰が設けられていることがあります。

こうした構造物があると、潮汐による水位変化が上流へそのまま伝わりにくくなる場合があります。

そのため、同じ海に近い川でも、河川構造物の有無によって感潮区間の長さは変わります。

国土交通省も、感潮域を整理する際に河口堰や潮止堰の位置を考慮しています。

風や気圧も海側の水位を変えることがある

河口の水位は天文潮だけで決まるわけではありません。

強い風が海水を岸へ吹き寄せたり、低気圧で海面が持ち上がったりすると、予測された潮位より海面が高くなることがあります。

台風や発達した低気圧では、満潮と高潮が重なって海側の水位が大きく上昇する場合があります。

その影響が河川へ伝わると、河口近くの水位も上昇しやすくなります。

したがって、防災では単純な満潮時刻だけでなく、高潮情報や気象条件も確認する必要があります。

河川流量が多いと潮の影響が弱まる場合がある

上流から大量の水が流れているときは、川が海へ向かう力が強くなります。

そのため、平常時には潮の影響で流れが逆転する場所でも、洪水時には下流向きの流れが続く場合があります。

USGSが調査した米国の河口域でも、潮による塩水遡上や水位影響の範囲は、潮の大きさだけでなく淡水の流量によって変化するとされています。

つまり、同じ満潮でも、渇水期と洪水期では川の反応が違うことがあります。

川幅や水深、河口形状でも潮の伝わり方が変わる

潮の影響範囲は川の勾配だけでは決まりません。

川幅が広いか狭いか、水深が深いか浅いか、河口砂州があるか、河道が曲がっているかなども、潮汐の伝わり方を変えます。

水深が深く流れやすい河道では潮位変動が遠くまで伝わる場合があり、浅く摩擦の大きい河道では途中で弱まりやすくなります。

また、河口砂州が発達して開口部が狭くなると、海と川の水の出入りも変化します。

海に近い川では水位と流量が単純に対応しないことがある

通常の川では、水位が高ければ流量も多いという関係が比較的分かりやすく成り立ちます。

しかし感潮河川では、同じ水位でも満ち潮か引き潮かによって流れる方向や速さが違うことがあります。

USGSは、潮汐河川では水位だけから単純に流量を求める方法が使えない場合があるため、水の速度を連続観測して流量を算定しています。

これは、河口近くの水位が「上流から来た水の量」だけでなく、「海の潮位」によっても変わることを示しています。

満潮による水位上昇を整理すると

  • 海面上昇:満潮で河口の下流端水位が高くなる
  • 水面勾配の減少:川から海へ流れるための水位差が小さくなる
  • 背水:下流側の高い水位の影響が上流へ伝わる
  • 感潮区間:潮汐によって水位や流速が変わる河川区間が生じる
  • 流速変化:満ち潮時には流れが弱まり、場所によっては逆流することもある
  • 時間差:海の満潮と上流側の水位ピークがずれることがある
  • 複合影響:洪水・高潮・大潮が重なると水位上昇が大きくなる場合がある

まとめ

海に近い川で満潮時に水位が上がることがあるのは、満潮で海面が高くなることで河口側の水位が持ち上がり、川の水面勾配が小さくなって、その影響が上流へ伝わるからです。

  • 河口に近い川は海の潮汐の影響を受ける
  • 満潮では海面が上がり、河口側の水位も上がる
  • 下流側の水位上昇は背水として上流へ伝わる
  • 勾配の緩い川ほど潮の影響が遠くまで届きやすい
  • 満潮時刻と川の水位ピークには時間差が出ることがある
  • 洪水や高潮、大潮が重なると水位がさらに高くなる場合がある
  • 潮汐による水位変動の範囲と塩水遡上の範囲は同じとは限らない

つまり、海に近い川は「川の水」と「海の水位」の両方に支配される場所です。 河口では上流からの流れと海から伝わる潮汐が同時に作用するため、同じ川でも上流とは違う水位変化が起こるのです。

関連する「なぜ?」

参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次