魚の群れは、いつでも同じ大きさ・同じ密度で存在するわけではありません。ある季節には広い海域へ分散していた魚が産卵期になると特定の場所へ集まり、大きな群れをつくることがあります。逆に、水中の酸素が少なくなると群れが広がり、濁りが強くなると仲間同士の位置合わせが難しくなる場合があります。
つまり「季節によって群れが変わる」とき、季節そのものが魚へ直接命令しているわけではありません。水温、日長、餌、繁殖状態、溶存酸素、濁り、水流など、季節とともに変化する条件が、集まる場所・群れの大きさ・個体間距離・進行方向のそろい方を変えているのです。
この記事では、魚種ごとの群れの違いではなく、同じ魚群でも時間や環境条件によって「いつ、どこで、どの程度まとまるか」が変化する仕組みに注目します。
魚の群れは、固定された形ではない
魚が集団でいる状態には、ゆるく集まる群と、進行方向までそろえて泳ぐ群泳があります。個体数が同じでも、魚同士の距離が近いか遠いか、全体の向きがそろっているかによって、群れの構造は大きく変わります。
この構造は、魚同士の反応だけで決まるのではありません。周囲の光、視界、水流、酸素量、捕食者、餌の位置などによって、近づくことの利益と離れることの利益が変わります。
そのため、ある時期には密集した大群ができ、別の時期には小群へ分かれるという変化が起こります。魚の群れは、環境条件に応じて形を変える動的な社会システムなのです。
産卵期には、一時的に大きな集群をつくる魚がいる
魚の群れが季節的に大きく変わる代表例が産卵集群です。
普段は広い範囲に分散している魚でも、繁殖可能な個体が特定の時期・場所へ集まり、大きな集団を作ることがあります。これは、同じ場所にオスとメスが集まることで配偶相手を見つけやすくし、産卵のタイミングを合わせる利点があります。
オーストラリアのマダイ類Pagrus auratusを4年間調べた研究では、産卵は毎年9月から1月に集中し、卵密度は水温19〜20℃付近で特に高くなりました。さらに、新月・満月や満潮後の時間帯とも関係が見られ、産卵集群が季節、水温、月周期、潮汐に強く対応していることが示されています。
このような魚では、「一年中大群で暮らす」のではなく、繁殖時期だけ大きく集まることが重要です。
なぜ産卵集群は特定の場所にできるのか
産卵に適した場所には、卵や仔魚が生き残りやすい条件があります。
海流や湾内循環によって卵が成育に適した場所へ運ばれたり、逆に湾内へ保持されたりする場所では、そこで産卵する利益が大きくなります。底質、水温、塩分、潮流なども重要です。
Pagrus auratusの研究では、産卵が特定の湾内で繰り返され、卵の高密度域が空間的にも安定していました。つまり、群れが季節的に同じ場所へ集まる背景には、単なる仲間への追従ではなく、繁殖成功につながる海洋環境があります。
ただし、すべての魚が大規模な産卵集群を作るわけではありません。巣を守る魚、縄張りで繁殖する魚、ペアで産卵する魚もいます。
水温が変わると、群れの場所とまとまり方が変わる
魚は外温動物なので、水温によって代謝、泳ぐ速度、餌を食べる量などが変化します。それぞれの魚種には活動しやすい水温範囲があり、その範囲を求めて移動すると、群れの分布も季節的に変わります。
沿岸や河口では、春から夏に水温が上がると仔稚魚や餌生物が増え、魚類の個体数や種数が増える場所があります。京都府の由良川河口域を毎月調べた研究では、魚類の多様性は春から夏に高く、秋から冬に低くなり、餌となる動物プランクトンの季節変化とも対応していました。
このような変化は、一つの群れがその場で巨大化したというより、魚が好適な水温・餌場へ季節的に集まり、局所的な密度が変化した結果として現れる場合があります。
したがって、季節的な「群れの増減」を考えるときは、個体同士の結束度だけでなく、その場所に何匹集まっているかという分布変化も区別する必要があります。
餌の季節変化も、魚が集まる場所を変える
魚が群れる理由の一つは、餌を効率よく見つけることです。餌生物が季節的に特定の場所へ増えれば、それを利用する魚も同じ場所へ集中しやすくなります。
由良川河口域の研究では、春から夏に魚類の現存量が高まり、同じ時期に重要な餌となるカイアシ類なども増加していました。
ただし、大きな群れには餌情報を共有できる利点がある一方、仲間との餌競争もあります。餌が広く大量に存在するなら大きな集団を維持しやすいですが、小さな餌場しかなければ群れが分かれた方が有利なこともあります。
このため、餌の「量」だけでなく「どのように分布しているか」も群れの大きさへ影響します。
低酸素になると、群れは広がることがある
水中の酸素量は、魚群の密度を直接左右する重要な環境条件です。
群れが密集すると、多くの魚が狭い範囲で呼吸します。その結果、特に大群では進行方向の後方ほど酸素が低下する場合があります。
低酸素と魚群をまとめた総説では、酸素濃度が下がると群れの体積が増え、個体一匹あたりが使える水の体積が大きくなることが報告されています。ニシンを使った実験では、低酸素条件で個体間距離が広がり、厳しい低酸素では群れそのものが崩れることもありました。
これは、密集による捕食回避などの利益より、酸素を確保する必要性が大きくなるためと考えられます。
低酸素は、季節的に起こることがある
沿岸、河口、湖などでは、低酸素が季節的に発生することがあります。
水温が上がると水に溶ける酸素量は減りやすくなり、同時に魚や微生物の代謝は高まります。富栄養化した水域では、有機物の分解で酸素が大量に消費され、夏季に低酸素水塊が形成されることがあります。
そのため、同じ魚群でも春には密な群れを維持できても、夏の低酸素時には個体間距離を広げたり、酸素の多い水域へ移動したりする可能性があります。
「夏だから群れが広がる」のではなく、夏に起こりやすい高水温と低酸素が、群れの構造を変える具体的な要因です。
濁りが強くなると、仲間の位置を見失いやすくなる
多くの群泳魚は、近くの仲間の位置や進行方向を視覚で確認しています。そのため、雨や増水で水が濁ると、仲間から得られる視覚情報が減少します。
グッピーを使った2023年の研究では、水の濁りが増えると、群れ全体としての凝集度が低下し、平均個体間距離が広がりました。研究者は、濁りによって視覚情報が制限されることが主な要因と考えています。
ただし、すべての距離尺度で同じ変化が出たわけではなく、最も近い個体との距離は維持される場合がありました。これは、近距離では側線など視覚以外の感覚が補う可能性を示します。
したがって、濁りが増えれば必ず群れが完全に崩壊するわけではありません。群れ全体の広がりと、近距離での仲間への追従は別々に変化することがあります。
増水や降雨は、流れと濁りを同時に変える
河川では季節的な豪雨や雪解けで流量が増えると、水流が強くなるだけでなく、濁りも増えることがあります。
強い流れでは、魚は流されないように向きをそろえたり、流れの弱い場所へ移動したりします。一方、濁りが強くなると視覚による位置調整が難しくなります。
自然界ではこのように複数の条件が同時に変わるため、「流れが強くなったから群れが変わった」と一つの原因だけへ結び付けるのは危険です。
季節的な群れ変化を正確に理解するには、水温、流速、濁度、溶存酸素などを同時に測る必要があります。
捕食者が増える時期には、群れが密になる可能性がある
群れを作る大きな利点の一つが捕食回避です。
多くの仲間と一緒にいれば、捕食者を早く見つけられる可能性が高まり、一匹あたりが狙われる確率も低下します。また、多数の魚が同時に方向転換すると、捕食者が一匹だけを追い続けることが難しくなります。
そのため、捕食者が多い時期や場所では、魚がより密な集団を作ることがあります。ただし、自然界で捕食圧だけが季節的群れ変化の原因かどうかを確かめるには、餌や水質などほかの条件も同時に考える必要があります。
群れの密度は、捕食回避の利益と、餌競争・酸素不足などのコストのバランスで決まります。
繁殖期には「群れ」が「集群」へ変わることがある
普段の群泳と、産卵集群は目的が同じではありません。
通常の群れでは、捕食回避、移動、採餌などが主な利益になります。一方、産卵集群では、繁殖相手と同じ時間・場所へ集まることが最も重要です。
そのため、産卵期には普段よりはるかに高密度の集まりができても、産卵が終われば急速に分散する魚がいます。
このような変化を理解するには、「群れが大きくなった」という外見だけでなく、集まっている目的が何かを見る必要があります。
季節による群れ変化には、成長段階も関わる
春に生まれた仔魚が夏までに成長すれば、同じ暦年の中でも魚体サイズ、遊泳能力、感覚機能が大きく変わります。
若い時期には捕食されやすく、大きな群れへ参加することで安全性を高める魚もいます。成長して体が大きくなると、同じ密度の群れを維持する必要がなくなったり、繁殖に伴って群れ方が変わったりする場合があります。
したがって、春と秋の群れを比較したときの違いが、季節環境だけでなく同じ個体群の成長による可能性もあります。
季節変化と成長変化は、野外では重なって起こる点に注意が必要です。
同じ季節でも、年によって群れ方が違うことがある
自然の季節は毎年まったく同じではありません。夏でも低温の年、高温の年、雨が多い年、低酸素が強い年があります。
産卵集群も、暦だけで決まるのではなく、実際の水温や潮汐などの条件と対応します。低酸素や濁りによる群れの変化も、その年の気象や水質によって程度が違います。
そのため、「毎年6月には必ず同じ大きさの群れになる」といった固定的な季節ルールは一般化できません。
魚の群れは、季節という大まかな時間枠の中で、その年の環境条件に合わせて柔軟に変化します。
なぜ魚の群れは、水温や繁殖期、酸素・濁りの変化に合わせて大きさやまとまり方を変えるのか
答えは、群れを作る利益とコストが、季節とともに変化する環境条件によって変わるからです。
繁殖期には配偶相手と出会うため特定の場所へ大量に集まり、産卵集群を作る魚がいます。水温や餌条件が変われば好適な場所も移り、魚の局所的な密度が変化します。
低酸素では密集による呼吸上の負担が大きくなり、群れが広がったり崩れたりします。濁りが増えれば視覚情報が制限され、群れ全体の結束が弱まる場合があります。
つまり、魚の群れは季節ごとに決まった形へ機械的に変わるわけではありません。水温、繁殖、餌、酸素、濁り、流れ、成長段階などが変化するたびに、「どこまで仲間へ近づくのが有利か」を調整し、その結果として群れの大きさ・密度・まとまり方が変わるのです。
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参考文献・出典
- 青木貴志ほか「由良川河口域における魚類群集と餌生物の季節変動」水産海洋研究(2014)
- Wakefield C.B. et al. “Annual, lunar and diel reproductive periodicity of a spawning aggregation of snapper Pagrus auratus”(2010)
- Domenici P. et al. “The effect of hypoxia on fish schooling”(2017)
- Allibhai I. et al. “Increased water temperature and turbidity act independently to alter social behavior in guppies”(2023)

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