地震の長周期地震動は、大きな地震が生み出すさまざまな周期の地震波のうち、数秒程度以上のゆっくりした成分が、遠くまで減衰しにくく伝わり、厚い堆積層で増幅され、高層建物などの固有周期と合うことで大きな揺れになる仕組みで成り立っています。
重要なのは、長周期地震動が「普通の地震動とは別の波」ではないという点です。地震によって発生する地震動には短い周期から長い周期まで多くの成分が含まれ、その中の長い周期の成分が、震源・伝播経路・地盤・建物の条件によって目立って大きくなる現象が長周期地震動です。
そもそも「周期」とは何か
地震の揺れには、カタカタと細かく速い揺れもあれば、ゆっくり大きく左右へ動く揺れもあります。この違いを表す基本的な量が周期です。
周期とは、揺れが1往復するのにかかる時間のことです。1往復に0.2秒しかかからない揺れは短周期、数秒かかる揺れは長周期と考えることができます。
気象庁は、地震が起こるとさまざまな周期を持つ地震動が発生し、規模の大きな地震では周期の長いゆっくりした大きな揺れが生じると説明しています。
つまり、地震動は一つの決まったリズムで揺れているのではなく、多くの異なる周期の波が重なり合ってできています。
なぜ大きな地震ほど長周期成分が強くなりやすいのか
地震は、地下の断層が急にずれることで発生します。小さな地震では破壊する断層の範囲も小さく、破壊が続く時間も短い傾向があります。
一方、巨大地震では断層が数十kmから数百kmにわたって破壊し、断層全体がずれ終わるまでにも長い時間がかかります。こうした大きな空間・時間スケールの断層運動は、ゆっくり変化する長周期の地震波を強く生み出しやすくなります。
気象庁も、一般にマグニチュードが大きい地震ほど長い周期の揺れが大きくなると説明しています。また、長周期地震動の主要な成分となる表面波は、震源が浅い地震ほど卓越しやすいとされています。
そのため、浅くて規模の大きな地震ほど、強い長周期地震動を発生させやすいという特徴があります。
表面波が長周期地震動で重要なのはなぜか
地震波には、地球内部を伝わるP波・S波のような実体波と、地表付近に沿って進む表面波があります。
表面波には比較的長い周期の成分が含まれやすく、地表近くを長い距離にわたって伝わります。特に浅い大地震では表面波が強く励起されるため、震源から遠く離れた地域でも長周期成分が目立つことがあります。
ただし、長周期地震動がすべて一種類の表面波だけでできているわけではありません。実際には、震源で生まれたさまざまな波が地下構造の影響を受け、反射・屈折・変換を繰り返しながら重なっています。
長周期地震動を理解するときは、「大きな地震が長周期成分を多く生み出し、その成分が伝わりやすく、特定の地盤でさらに増幅される」と考えると全体像をつかみやすくなります。
なぜ長周期の波は遠くまで伝わりやすいのか
地震波は震源から離れるにつれて弱くなります。しかし、短い周期の波と長い周期の波では、減衰のしやすさが同じではありません。
気象庁は、長周期の波は短周期の波に比べて減衰しにくいため、遠くまで伝わりやすいと説明しています。
地中を進む波は、岩石内部の摩擦や散乱などによって少しずつエネルギーを失います。一般に高い周波数、つまり短周期の成分ほど小さな地下構造の影響を受けやすく、散乱や吸収によって弱くなりやすい傾向があります。
一方、波長の長い長周期成分は細かな不均質の影響を比較的受けにくいため、震源から数百km離れても残りやすくなります。その結果、震源付近では短周期の強い揺れが目立つ地震でも、遠方の大都市で長周期のゆっくりした揺れが長く続くことがあります。
厚い堆積層でなぜ長周期地震動が大きくなるのか
長周期地震動の大きさは、震源と距離だけでは決まりません。地震波が到達する場所の地下構造が大きく影響します。
関東平野、大阪平野、濃尾平野などの大きな平野では、硬い岩盤の上に比較的柔らかい堆積物が厚く積もっています。このような構造では、地震波が堆積層内で反射したり、速度の違う地層の境界で屈折したりしながら、特定の長周期成分が大きくなりやすくなります。
気象庁は、柔らかい堆積層では長周期の波が増幅され、大規模な平野や盆地では長周期地震動が大きくなりやすいと説明しています。
さらに、平野の地下が深い「盆地状」の構造になっていると、波が内部に閉じ込められるように何度も行き来することがあります。そのため、一度だけ揺れて終わるのではなく、長い時間にわたってゆっくりした揺れが続くことがあります。
なぜ長周期地震動は長時間続くのか
長周期地震動が「長い」のは、一回の揺れの周期が長いからだけではありません。揺れそのものの継続時間も長くなりやすいという特徴があります。
大地震では断層破壊そのものが長時間続きます。さらに、震源から放出された長周期成分が遠くまで伝わり、平野や盆地の堆積層で反射・増幅されると、異なる経路を通った波が時間差をもって次々に到着します。
その結果、地上では本震の強い揺れが収まった後にも、ゆっくりした揺れが何分も続く場合があります。
2011年東北地方太平洋沖地震では、震源から遠く離れた東京や大阪でも高層建物が大きく長く揺れました。これは、巨大地震が生み出した長周期成分が遠方まで伝わり、都市部の厚い堆積層と建物の性質が重なった代表例です。
高層ビルが特に大きく揺れるのはなぜか
建物には、それぞれ固有周期という「揺れやすい周期」があります。
低い建物は一般に固有周期が短く、高層建物は全体がしなるように動くため固有周期が長くなる傾向があります。
USGSも、小規模な建物は短周期の速い揺れの影響を受けやすく、高層建物は長周期のゆっくりした地震動の影響を受けやすいと説明しています。
地面の揺れの周期と建物の固有周期が近いと、外から加わる力のタイミングと建物自身の揺れのタイミングがそろいます。すると、ブランコを一定のタイミングで押したときのように、揺れが繰り返し加算されて大きくなります。これが共振です。
高層ビルは長周期地震動と周期が合いやすいため、地上の震度がそれほど大きくなくても、高層階では大きな振幅で長時間揺れることがあります。
なぜ高層階ほど大きく揺れるのか
高層建物は、地面と同じ量だけ平行移動するわけではありません。建物全体がしなるように振動します。
建物の下部は基礎に近いため動きが比較的小さくても、上へ行くほど振れ幅が大きくなる振動モードがあります。そのため、同じ一棟の建物でも低層階より高層階のほうが大きく動くことがあります。
気象庁も、長周期地震動によって高層ビルが共振すると、高層階ほど揺れが大きくなる傾向があるとしています。
この大きなゆっくりした揺れによって、キャスター付き家具が長い距離を移動したり、家具が転倒したり、エレベーターや設備に影響が出たりすることがあります。
震度が小さくても長周期地震動が大きいことがあるのはなぜか
震度と長周期地震動は、同じ地震動を別の視点から評価しています。
気象庁の震度は、人が感じる揺れや一般的な建物への影響と対応しやすい周期帯を含めて評価する指標です。しかし、高層建物が大きく応答する数秒程度の長周期成分の強さを、震度だけで十分に表すことはできません。
実際、2011年東北地方太平洋沖地震では、大阪市の地上震度が3だった地域でも、一部の高層建物で内装材の損傷やエレベーター停止などが生じました。
このため気象庁は、高層建物での長周期地震動による揺れの程度を示すため、震度とは別に長周期地震動階級を設けています。
長周期地震動階級は何を見ているのか
長周期地震動階級は、高層ビル内で人の行動がどの程度難しくなるか、家具や什器がどの程度移動・転倒する可能性があるかを考慮して、長周期地震動の大きさを4段階で示す指標です。
これは通常の震度を置き換えるものではなく、震度では捉えにくい高層建物の長い周期の揺れを補うための情報です。
気象庁では2023年2月から、長周期地震動階級の予想値も緊急地震速報の発表基準に加えています。長周期地震動が高層建物の防災にとって独立して重要な情報になっているためです。
長周期地震動は高層ビルだけの問題なのか
高層ビルが代表的ですが、長周期地震動の影響を受ける構造物はそれだけではありません。
- 免震構造の建物
- 長大橋
- 大型の石油タンク
- 大規模な塔状構造物
- 長い吊り材やエレベーターロープ
これらは固有周期が長い、または長周期の外力に応答しやすい部分を持つため、地震動との周期が近づくと大きな振動が起こることがあります。
つまり、長周期地震動の影響は「高い建物」という見た目だけでなく、構造物がどの周期で揺れやすいかによって決まります。
同じ大地震でも長周期地震動の強さが地域で違うのはなぜか
長周期地震動の大きさは、地震のマグニチュードだけでは決まりません。
主に次の条件が組み合わさって決まります。
- 地震の規模
- 震源の深さ
- 断層破壊の方向や継続時間
- 震源から観測地点までの伝播経路
- 平野・盆地などの地下構造
- 堆積層の厚さや硬さ
- 建物や構造物の固有周期
そのため、震源から同じくらい離れた2つの都市でも、地下構造が違えば長周期地震動の強さや続く時間が異なることがあります。
まとめ
地震の長周期地震動は、巨大地震などによって生じる長い周期の地震波が、遠方まで減衰しにくく伝わり、厚い堆積層で増幅・長時間化し、さらに高層建物などの固有周期と合って共振することで大きな揺れになる仕組みです。
その過程を整理すると、「大きく浅い地震が長周期成分を強く生む→長周期波が遠くまで伝わる→平野や盆地の堆積層で増幅・長時間化する→建物の固有周期と合うと共振する」という流れになります。
したがって、長周期地震動の強さは地震の規模だけでなく、伝播経路、地下構造、建物の高さや構造によっても大きく変わります。地上の震度が小さくても、高層階では大きく長く揺れることがあるのは、この仕組みがあるためです。
参考資料
- 気象庁「長周期地震動とは?」
- 気象庁「長周期地震動の特徴」
- U.S. Geological Survey「How Seismic Waves Affect Different Size Buildings」
- 鎌谷紀子「大きな長周期地震動から身を守っていただくために」

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