同じ種類の植物でも、強い光の中でつくられた日向葉は厚く、弱い光の中でつくられた陰葉は薄くなることがあります。では、完成した葉があとから厚くなったり薄くなったりするのでしょうか。実際には、葉がまだ成長している段階で、細胞分裂や柵状組織の細胞伸長のしかたが光環境に応じて変わります。
結論からいうと、発生途中の葉が受ける光の強さや波長、さらに成熟葉での光合成によって生じる糖などの情報が、葉原基や若い葉の細胞分裂・細胞伸長・柵状組織の分化を調節するためです。強い光条件では、柵状組織の細胞が葉の厚さ方向へ長く伸びたり、細胞層数が増えたりして厚い日向葉が形成されます。弱い光ではこうした発達が小さく、薄い陰葉になりやすくなります。
日向葉と陰葉の違いは葉が成熟する前から作られる
日向葉と陰葉の違いは、成熟した葉があとから自由に作り直されて生じるのではありません。
葉がまだ若く、細胞分裂や細胞分化が活発な時期に、光環境に応じて発生プログラムが変化します。その結果、最終的な葉厚、柵状組織の層数、細胞の形、比葉面積などに違いが生じます。
シロザを用いた日本の研究では、陽葉と陰葉の発生過程を比較し、陽葉では陰葉より葉全体と柵状組織が厚くなることが示されています。
葉を厚くする方法は一つではない
葉が厚くなるには、大きく二つの方法があります。
一つは、柵状組織の細胞が葉面に対して垂直方向へ長く伸びることです。もう一つは、柵状組織の細胞が葉面と平行な面で分裂し、細胞層数を増やすことです。
植物種や発生段階によって、どちらの寄与が大きいかは異なります。日向葉の形成では、細胞伸長と細胞分裂の両方が葉厚増加に関わることがあります。
柵状組織は強い光を使うための重要な場所
多くの双子葉植物では、葉の上面側に柵状組織があります。
柵状組織の細胞には多くの葉緑体が含まれ、葉へ入ってきた光を利用して光合成を行います。強い光の下では、単位面積あたりに多くの葉肉細胞を配置できる厚い柵状組織が、面積あたりの光合成能力を高めるうえで有利になります。
そのため、強光条件で葉が発生すると、柵状組織の細胞伸長や層数増加が促されることがあります。
青色光は柵状細胞の発達を直接調節する
葉の発生は、光の量だけでなく波長にも影響されます。
シロイヌナズナでは、青色光が柵状細胞を円柱状に発達させることが知られています。この反応に重要なのが、青色光受容体フォトトロピンです。
特にPHOT2は、比較的強い青色光条件で柵状細胞の葉厚方向への伸長を促進します。
PHOT2は葉肉細胞自身で光を受け取る
PHOT2による柵状細胞発達の興味深い点は、葉の別の場所から命令を受けるだけではなく、葉肉細胞自身が光情報を受け取って応答できることです。
シロイヌナズナの研究では、PHOT2を葉肉で発現させると柵状細胞の発達が回復し、表皮だけで発現させても同じ効果は得られませんでした。
このことから、青色光を受けた葉肉細胞が局所的に発達方向を調節する仕組みがあると考えられています。
強光ではPHOT2だけでなく複数の仕組みが働く
強い光の下での日向葉形成を、PHOT2だけで説明することはできません。
研究では、比較的低い青色光ではPHOT2の寄与が大きい一方、さらに強い光ではフォトトロピンに依存しない経路も柵状細胞の発達へ関与することが示されています。
自然光には青色光だけでなく赤色光や緑色光なども含まれるため、実際の葉では複数の光受容・代謝経路が組み合わさって形態が決まります。
葉の厚さは細胞伸長だけでなく細胞分裂でも変わる
日向葉では、柵状組織の細胞が長くなるだけでなく、層数が増える場合があります。
葉の厚さ方向へ新しい細胞層を作るには、細胞が葉面と平行な面で分裂する必要があります。
このような分裂方向の違いは、同じ葉面積でも内部に配置できる葉肉細胞数を変え、最終的な葉厚と面積あたりの光合成装置量へ影響します。
日向葉形成には段階がある
近年のシロイヌナズナ研究では、日向葉の肥厚は一度に起こるのではなく、複数の発生段階を経ることが示されています。
まず、柵状細胞が葉の厚さ方向へ異方的に伸長します。その後、細胞分裂や細胞の等方的な拡大、細胞間隙の形成などが進み、最終的な厚い葉が完成します。
つまり、日向葉形成は単純な「細胞が大きくなる反応」ではなく、発生順序を持った形態形成です。
光合成でできた糖も葉の発生シグナルになる可能性がある
光が強いほど成熟葉の光合成量は増えやすく、糖の生産も増えます。
日本の研究では、弱い光条件でも培地のショ糖濃度を高くすると、シロイヌナズナの葉で柵状組織の細胞層数が増え、葉の肥厚が見られました。
この結果は、光そのものの情報だけでなく、植物体が実際にどれだけ炭素を獲得できているかという代謝情報も、若い葉の発生へ影響する可能性を示しています。
成熟葉から若い葉へ情報が伝わることがある
葉の発生は、若い葉自身が受ける光だけで決まるとは限りません。
シロザなどでは、新しく形成される葉の形態が、すでに展開した成熟葉の光環境によって変わる例が報告されています。
成熟葉が強い光を受けると、これから展開する葉が日向葉型になりやすくなることがあります。このことから、成熟葉から若い葉へ何らかの長距離シグナルが伝わると考えられています。
糖は長距離シグナル候補の一つ
成熟葉から若い葉へ伝わる情報の正体は一つとは限りませんが、糖は有力な候補の一つです。
成熟葉で光合成が活発になると、ショ糖などの光合成産物が師部を通じて植物体のほかの器官へ運ばれます。
糖は単なるエネルギー源や材料ではなく、遺伝子発現や細胞分裂を変えるシグナル分子としても働きます。そのため、成熟葉の光合成状態を若い葉の発生へ伝える役割を持つ可能性があります。
光環境は葉面積の作り方にも影響する
日向葉と陰葉では、厚さだけでなく葉面積も違うことがあります。
弱光環境では、一枚を厚くするより少ない材料で広い受光面を作るほうが有利な場合があります。そのため、細胞層数や厚さへの投資を抑えつつ葉身を広げる発生パターンになることがあります。
一方、強光環境では、単位面積あたりに多くの葉肉細胞を配置する方向へ投資できます。
日向葉は面積あたりの光合成能力を高めやすい
葉が厚くなると、単位葉面積あたりに多くの葉肉細胞や葉緑体を配置できます。
その結果、日向葉では面積あたりの光合成関連タンパク質量や最大光合成速度が高くなることがあります。
ただし、厚い葉をつくるにはより多くの炭素や窒素が必要です。強い光が十分にある環境だからこそ、その投資を回収しやすくなります。
陰葉は「未発達な日向葉」ではない
陰葉が薄いからといって、発生が途中で止まった失敗した葉という意味ではありません。
弱い光の下では、厚い葉をつくっても深部の細胞まで十分な光が届かず、建設コストを回収できない場合があります。
そのため陰葉は、少ない資源で広い面積を展開し、弱光を効率よく利用するように作られた構造です。
葉が成熟すると形態を大きく変えにくくなる
葉の形態可塑性には発生上の時間制限があります。
細胞分裂や組織分化が進んだ成熟葉では、光環境が変わっても柵状組織の層数や葉厚を大幅に作り直すことは困難です。
成熟後にも光合成タンパク質量や光防御系などの生理的調整は可能ですが、大きな解剖学的変化は若い発生段階ほど起こりやすくなります。
新しい光環境には新しく展開する葉が適応しやすい
植物を日陰から日向へ移した場合、すでに完成した陰葉が完全な日向葉へ変わるわけではありません。
その後に発生する新しい葉のほうが、新しい光条件に合わせて柵状組織や葉厚を調節できます。
このため、植物の順化を観察するときは、移動前から存在する葉と、移動後に展開した葉を分けて見ることが重要です。
日向葉と陰葉の違いは光だけで決まらない
自然環境では、日向と日陰で光だけが違うわけではありません。
葉温、湿度、蒸気圧差、風、水分状態なども変わります。そのため、自然条件で見られる陽葉・陰葉の構造差には、複数の環境要因が影響している可能性があります。
実験で光強度だけを変える研究は、こうした複雑な環境から光の効果を切り分けるために重要です。
「性質の違い」と「作り分けの仕組み」は別の問い
日向葉は厚く、陰葉は薄い、日向葉は面積あたりの光合成能力が高い、といった違いを比較することと、それらの差が発生中にどう作られるかを説明することは別の問いです。
本記事で扱うのは後者です。
若い葉での細胞分裂、柵状細胞伸長、PHOT2による青色光応答、糖を含む代謝シグナルなどが組み合わさり、最終的に日向葉・陰葉の解剖学的な違いが形成されます。
身近な植物で発生段階の違いを観察するポイント
- 同じ植物の新しく展開した葉と古い葉を比べる
- 日陰から日向へ移したあと、古い葉ではなく新しい葉の厚さを見る
- 樹冠外側で新しく出た葉と内側で新しく出た葉を比べる
- 葉を光に透かし、日向側と日陰側で透け方が違うかを見る
- 同じ大きさの葉でも厚さや硬さが違うか比べる
葉を傷つけずに正確な細胞層数を見ることは難しいですが、「どの光環境で発生した葉か」を意識すると、陽葉・陰葉が発生中に作り分けられることを理解しやすくなります。
まとめ
日向葉と陰葉で発生中の細胞分裂や柵状組織の成長が変わるのは、若い葉が光の強さや波長、さらに成熟葉の光合成状態を反映する糖などの情報を受け取り、それに応じて細胞分裂方向、細胞伸長、柵状組織の層数を調節するためです。
強い光では、PHOT2を含む光受容系によって柵状細胞の葉厚方向への伸長が促され、条件によっては細胞層数も増えます。また、光合成で生じる糖が葉の肥厚を促すシグナル候補として働くことも示されています。
つまり、陽葉と陰葉の違いは、完成した葉があとから変身した結果ではありません。葉が発生している限られた時期に、光と代謝情報を読み取って組織の作り方を変えることで生まれるのです。
参考資料
- 矢野覚士・寺島一郎「シロザ Chenopodium album L. の陽葉・陰葉の発生過程」
- 矢野覚士・塚谷裕一「糖が葉の厚さに与える影響」
- Tissue-Autonomous Promotion of Palisade Cell Development by Phototropin 2 in Arabidopsis
- Multiple steps of leaf thickening during sun-leaf formation in Arabidopsis

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