葉を光に透かして見ると、中央を通る太い主脈から細い脈が枝分かれし、網目のような構造をつくっていることがわかります。葉脈は水や無機養分を葉へ運び、光合成でつくられた糖をほかの器官へ運ぶだけでなく、薄い葉を支える骨組みとしても働きます。
葉脈が季節や生育条件によって変化するのは、葉が発達する途中で、光・水分・温度などの環境条件に合わせて葉の大きさや葉脈への投資量が調節されるためです。ただし、完成した葉の葉脈模様が季節ごとに大きく組み替わるわけではありません。大きな葉脈は葉の発生初期に位置がほぼ決まり、その後は葉の成長とともに細い葉脈が形成され、太さや通導能力が成熟していきます。
葉脈にはどんな役割があるのか
葉脈の内部には、根から吸い上げた水や無機養分を運ぶ木部と、光合成でつくられた糖などを運ぶ師部があります。葉の表面には気孔があり、そこから水蒸気が失われます。光合成を続けるためには、この蒸散で失われる水を葉脈から絶えず補給する必要があります。
葉脈はまた、葉を物理的に支えます。葉身は薄く広いほど光を受けやすい一方、風や雨、自重によって曲がりやすくなります。主脈や二次脈などの太い葉脈は、輸送路であると同時に葉の骨格として重要です。
葉脈はいつつくられるのか
葉脈は、葉がまだ小さい発生段階からつくられ始めます。多くの双子葉植物では、まず主脈などの低次の太い葉脈が形成され、その後、葉身が広がるにつれて二次脈、三次脈、さらに細かな高次脈が形成されます。
葉脈形成には植物ホルモンのオーキシンが重要な役割を持つことが知られています。発達中の葉の中でオーキシンの流れや分布が変化し、その情報に応じて前形成層と呼ばれる細胞群が分化し、やがて木部と師部を含む維管束になります。
このため、成熟した葉の葉脈ネットワークは、完成後に自由に引き直される配管ではありません。特に主脈や二次脈などは早い段階で配置が決まり、その後の葉の拡大と協調しながら最終的な形になります。
季節によって葉脈はどう変わるのか
季節による変化を考えるときは、同じ一枚の葉の変化と、季節ごとに新しくつくられる葉の違いを分けることが重要です。
春に展開したばかりの若い葉では、葉脈もまだ発達途中です。葉身が広がるにつれて細い葉脈まで形成され、木部や師部が成熟して輸送能力が整います。成熟後は、主要な葉脈パターンが大きく変わることは通常ありません。
一方、同じ植物でも春の葉と夏に形成された葉では、生育中に経験した光、温度、水分などが異なります。そのため、新しくできる葉では葉の大きさ、厚さ、気孔密度などとともに、葉脈密度や葉脈の太さが異なる場合があります。
光が強い場所では葉脈密度が高くなることがある
日向では光合成に利用できる光が多く、気孔を開いて二酸化炭素を取り込める条件では、蒸散も大きくなります。高い光合成能力を維持するためには、失われる水を葉の隅々まで効率よく供給する必要があります。
そのため、同じ植物の中でも日向につくられた葉が、日陰の葉より高い葉脈密度を持つ例があります。葉脈密度とは、一定の葉面積の中にどれだけ長い葉脈が存在するかを表す指標です。葉脈密度が高いと、水の輸送経路から光合成細胞までの距離を短くできるため、高い蒸散・光合成能力を支えやすくなります。
タスマニアの常緑樹を用いた研究では、同じ樹木の中で光条件に応じて気孔密度と葉脈密度がともに変化し、水の供給能力と需要のバランスが保たれることが示されています。
乾燥すると葉脈はどう変わるのか
乾燥環境に適応した植物では、高い葉脈密度や太い主要脈を持つ例があります。葉脈を細かく配置すれば、葉の各部分へ水を届ける経路を短くでき、どこか一部の導管が機能しにくくなっても別の経路から水を供給できる可能性があります。
日本の冷温帯落葉樹を対象とした研究でも、二次脈構造や葉脈密度が葉の耐乾燥性、水利用効率などと関係することが検討されています。海外の比較研究でも、葉脈の構造は葉の水輸送能力や乾燥時の水力学的な弱さと密接に関係することが示されています。
ただし、「乾燥すればどの植物でも葉脈が増える」とは限りません。乾燥への対応には、葉を小さくする、気孔を閉じる、葉を厚くする、根を深くするなど多くの方法があります。植物の種類によって、葉脈へどれだけ資源を使うかという戦略は異なります。
温度も葉脈形成に影響するのか
植物の維管束形成は、光だけでなく温度や水分、塩分、機械的ストレスなどさまざまな環境要因の影響を受けます。温度は細胞分裂や分化、植物ホルモンの働きに影響するため、葉が形成される時期の気温が葉脈発達にも影響する可能性があります。
ただし、自然界では温度だけを単独で変化させることは難しく、季節が進むと同時に日長、光強度、土壌水分なども変わります。そのため、野外で季節ごとの差が見つかっても、原因を気温だけに求めることはできません。
葉が大きくなると葉脈密度はどうなるのか
葉脈密度は、葉脈の形成量だけでなく、その後どれだけ葉身が広がったかにも左右されます。葉脈が形成された後に葉面積が大きく増えれば、同じ葉脈長でも単位面積当たりの密度は低くなります。
つまり、葉脈密度が低いからといって、必ずしも葉脈形成そのものが抑えられたとは限りません。葉の拡大速度とのバランスで見かけの密度が変わることがあります。
葉脈を比較するときには、葉の面積、成熟段階、葉脈をどの太さまで測定するかをそろえる必要があります。研究では、測定倍率やどの次数の葉脈を含めるかによって葉脈密度の値が変わることも指摘されています。
太い葉脈と細い葉脈では役割が違う
葉脈には階層があります。主脈や太い二次脈は長距離輸送と機械的支持に大きく関わり、細い高次脈は葉肉の細胞の近くまで水を届け、光合成でできた物質を回収します。
そのため、生育条件によって葉脈が変化するといっても、すべての次数の葉脈が同じように変わるわけではありません。太い葉脈の配置は発生初期に決まりやすく、細い葉脈は葉身の成長とより密接に連動して形成されます。
また、太い葉脈を増やせば葉は丈夫になりますが、その分だけ炭素や養分などの材料が必要になります。細い葉脈を密にすれば水輸送能力を高められる一方、その形成にもコストがあります。植物は光合成による利益と葉脈をつくるコストのバランスをとっています。
完成した葉の葉脈は環境が変わると作り替えられるのか
成熟した葉を日陰から日向へ移したからといって、主脈や二次脈の配置が新しい環境に合わせて大きく作り替えられるわけではありません。すでに分化した木部の導管は成熟すると細胞としては死んで機能するため、完成後の構造的な可塑性には限界があります。
その代わり、植物は次に形成する葉の構造を変えることで新しい環境へ対応します。また、完成葉でも気孔の開閉、水輸送抵抗、葉の水分状態などの生理的な調整は短時間で起こります。
この違いを理解すると、「葉脈が環境で変化する」という言葉の意味が明確になります。多くの場合、変化の中心は発達中の葉が環境に応じて異なる葉脈構造を形成することです。
葉脈の変化を観察するときのポイント
身近な植物で葉脈を比較するときは、異なる種類の葉を一枚ずつ比べるより、同じ種類・できれば同じ個体の葉を比べる方が環境の影響を見やすくなります。
- 同じくらい成熟した葉を選ぶ
- 日向と日陰など明確に違う環境を比較する
- 葉の大きさも同時に測る
- 主脈の太さだけでなく細い葉脈の間隔も見る
- 一枚だけでなく複数枚を比較する
細い葉脈まで詳しく観察するには、葉を透明化して顕微鏡で観察する方法などが使われます。肉眼で比較する場合は、光に透かした写真を同じ倍率で撮ると違いを確認しやすくなります。
まとめ
葉脈が季節や生育条件によって変化するのは、葉の発達中に光、水分、温度などの環境情報が反映され、葉の大きさや葉脈密度、太さ、輸送能力への投資が調節されるためです。
葉脈は水と養分、光合成産物を運ぶだけでなく、葉を支える役割も持っています。強い光の下では高い光合成と蒸散を支えるため葉脈密度が高くなる例があり、乾燥環境でも水輸送の安全性と関係して葉脈構造が変化することがあります。
ただし、完成した葉の葉脈網が季節ごとに大きく組み替わるわけではありません。環境への適応は主に、これから形成される新しい葉の発達過程で現れます。葉脈の変化を見るときは、植物の種類、葉齢、葉面積、光、水分などを合わせて考えることが大切です。
参考文献・出典
- 日本森林学会「冷温帯落葉樹種における葉の二次脈構造の機能的意義」
- Perico C, Tan S, Langdale JA. Developmental regulation of leaf venation patterns: monocot versus eudicots and the role of auxin.
- Water supply and demand remain balanced during leaf acclimation of Nothofagus cunninghamii trees.
- Plant vascular development: mechanisms and environmental regulation.

コメント