なぜ葉の気孔は季節や生育条件によって変化するのか?

葉の表面には、気体の出入り口となる小さな穴「気孔」があります。気孔は二酸化炭素を取り込んで光合成を行うために欠かせない一方、開けば水蒸気も外へ逃げます。そのため植物は、光や水分、湿度、二酸化炭素濃度などに応じて気孔の働きを調節しています。

葉の気孔が季節や生育条件によって変化するのは、植物が短時間には気孔の開き具合を変え、葉が発達する長い時間尺度では気孔の数や密度そのものも環境に合わせて調節するためです。

ここで重要なのは、「気孔が変化する」という言葉には二つの意味があることです。一つは、すでにできている気孔が開いたり閉じたりする変化です。もう一つは、新しい葉ができるときに、気孔の数や密度が変わる発生上の変化です。季節や生育条件の影響を理解するには、この二つを分けて考える必要があります。

目次

気孔は何をしているのか

気孔は一対の孔辺細胞に囲まれた小さな孔です。開くと、空気中の二酸化炭素が葉の内部へ入り、光合成に利用されます。その一方で、葉の内部の水は水蒸気として外へ出ていきます。この水分損失が蒸散です。

植物にとって気孔は、「二酸化炭素を取り込みたい」という要求と、「水を失いすぎたくない」という要求の両方を調整する弁のような役割を持っています。

そのため気孔は常に同じ状態ではありません。日中でも光、水分、湿度、温度、二酸化炭素濃度などが変われば、数分から数十分の時間尺度で開き方が変わります。

短時間の変化は「気孔の開閉」

完成した葉で最も速く起こる変化は、気孔の開閉です。気孔を囲む孔辺細胞に水が入り膨圧が高まると気孔は開き、イオンや水が外へ出て膨圧が下がると閉じます。

光が当たると気孔は開きやすい

多くの植物では、光が当たると気孔が開きやすくなります。特に青色光は孔辺細胞の受容体によって感知され、イオン輸送を変化させて気孔開口を促します。

日本の植物生理学研究では、青色光を受けると孔辺細胞の膜にあるH+-ATPaseなどが活性化され、カリウムイオンの取り込みと水の流入が進み、気孔が開く仕組みが詳しく調べられています。

ただし、明るければ常に大きく開くわけではありません。土壌が乾いていたり、空気が極端に乾燥していたりすると、植物は光があっても水分損失を抑えるため気孔を閉じる方向へ調節します。

乾燥するとABAによって閉じやすくなる

水不足になると、植物ではアブシジン酸(ABA)という植物ホルモンが重要な働きをします。ABAは孔辺細胞に作用し、イオンを外へ出す反応を促すことで、気孔を閉じる方向へ働きます。

J-STAGEに掲載された日本の研究でも、乾燥ストレス時にABAが気孔閉鎖を促し、蒸散による水分損失を減らす仕組みが報告されています。

この反応は比較的速く、乾燥が始まってから短時間で起こります。つまり、同じ一枚の葉でも、朝・昼・夕方、晴天・曇天、湿潤・乾燥によって気孔の開き具合は変化します。

季節による違いは「開閉」だけではない

春、夏、秋では光の強さ、日長、気温、空気の乾燥度、土壌水分などが変わります。そのため、同じ植物でも季節によって気孔の開き方や蒸散の程度が変わります。

たとえば夏の日中は光が強いため光合成には有利ですが、高温や乾燥によって水分損失が大きくなります。そのため、昼頃に気孔が部分的に閉じ、朝より気孔伝導度が低下する「昼休み」のような現象が見られる植物もあります。

一方、春や秋の穏やかな条件では、十分な水分があれば比較的長い時間気孔を開けられる場合があります。

ただし、季節変化は植物種や地域によって大きく異なります。冬に落葉する植物では葉そのものがなくなりますし、常緑樹では低温でも葉を保つため、別の調節が必要です。

気孔の「数」や「密度」も生育条件で変わる

気孔の変化は開閉だけではありません。葉がまだ成長中の段階では、将来どれだけの気孔をつくるかも環境の影響を受けます。

気孔密度とは、葉の一定面積に存在する気孔の数です。植物は新しい葉を形成するとき、光、二酸化炭素濃度、水分、温度などの条件に応じて、気孔形成の頻度を調節することがあります。

海外のレビューでは、気孔形成は遺伝的な発生プログラムだけでなく、光、二酸化炭素濃度、乾燥、高温などの環境シグナルによって調節されることがまとめられています。これは、植物が将来のガス交換能力と水分損失のバランスを、葉が完成する前から調整していることを意味します。

光が強いと気孔密度が高くなることがある

強い光の下では、光合成に利用できるエネルギーが多くなります。二酸化炭素を十分に取り込めれば、光合成速度を高めやすくなります。

そのため多くの植物では、強い光の条件で形成された葉の方が、弱い光で形成された葉より気孔密度が高くなる傾向が報告されています。

一方、日陰では光合成能力そのものが低くなるため、多数の気孔を維持する利点が小さくなる場合があります。

ただし、すべての植物で同じ反応が起こるわけではありません。光への反応には種差があり、葉の大きさや表皮細胞の拡大率も気孔密度の値に影響します。

乾燥すると気孔密度は増えるのか減るのか

乾燥と気孔密度の関係は、単純に「乾燥すると減る」とは言えません。植物によって反応が異なり、気孔密度が低下する例もあれば、小さな気孔を高密度に配置する例もあります。

重要なのは、気孔の数だけでなく、気孔の大きさ、開閉速度、葉面積、葉の厚さなどを合わせて見ることです。

一般に、小さな気孔は開閉を速く行いやすいとされ、乾燥や変動環境への対応に有利になる場合があります。一方、気孔数を減らせば、最大の水分損失を抑えやすくなる可能性があります。

海外の研究レビューでも、気孔密度と気孔サイズは水利用効率や乾燥耐性と密接に関係しますが、最適な組み合わせは植物種や環境によって異なるとされています。

二酸化炭素濃度も気孔形成に影響する

葉が取り込む二酸化炭素は、気孔形成の重要な環境シグナルの一つです。多くの植物では、大気中の二酸化炭素濃度が高い条件で育つと、気孔密度や気孔指数が低下する傾向があります。

これは、空気中に二酸化炭素が多ければ、少ない気孔でも必要な二酸化炭素を取り込みやすくなるためと考えられています。

ただし、この反応にも種差があります。また、二酸化炭素だけでなく光、温度、水分などが同時に変われば、最終的な気孔密度は複数の要因の組み合わせで決まります。

完成した葉の気孔数は季節ごとに増減するのか

ここは誤解しやすい点です。完成した葉では、気孔の数や配置が季節ごとに自由に増えたり減ったりするわけではありません。

気孔は葉の発達中に表皮細胞から分化してつくられます。葉が成熟した後は、新たな気孔形成は大きく制限されます。

そのため、季節や生育条件による気孔密度の違いは、多くの場合「同じ一枚の葉の気孔数が変わった」のではなく、「異なる条件のもとで新しく形成された葉に違いが生じた」と理解する必要があります。

一方、成熟した葉でも気孔の開き具合は何度でも変化します。つまり、開閉は速く可逆的、気孔密度は発達段階で決まる長期的な調節という違いがあります。

葉齢も気孔の見え方に影響する

若い葉は、まだ葉面積が拡大しています。気孔形成が終わった後も周囲の表皮細胞が大きくなると、単位面積当たりの気孔数、つまり気孔密度は低下して見えることがあります。

このため、気孔密度を比較するときは、同じくらい成熟した葉を比べる必要があります。

日本植物生理学会の研究では、葉の成長過程でABA量が増加すると気孔分化が抑制され、表皮細胞の伸長へ発達段階が移る可能性が示されています。気孔密度は単に気孔が何個つくられたかだけでなく、葉面積がどれだけ拡大したかにも左右されるのです。

同じ一本の植物でも葉ごとに違うことがある

一本の植物でも、上部と下部、外側と内側では環境が違います。日向の葉は強い光と乾燥した空気にさらされやすく、内側の日陰の葉は光が弱く湿度が高い場合があります。

そのため、新しく形成された葉では、同じ個体の中でも気孔密度や大きさが異なることがあります。

このように、同じ遺伝的性質を持つ植物が環境によって形や機能を変える能力を、表現型可塑性といいます。気孔の開閉と発生の両方に可塑性があることで、植物は移動できなくても周囲の環境変化に対応できます。

気孔の変化を観察するときのポイント

気孔について調べる場合は、何を比較しているのかを明確にすることが大切です。

観察対象 変化する時間尺度 主な影響要因
気孔の開き具合 数分〜数時間 光、湿度、水分、CO2、ABAなど
気孔密度 葉の発達期間 光、CO2、温度、乾燥、発達段階など
気孔の大きさ 葉の発達期間 遺伝的性質、生育環境など
葉全体の蒸散 分〜季節 気孔開度、葉面積、温度、湿度、風など

学校や家庭で気孔密度を観察する場合は、同じ植物種で、日向と日陰、若葉と成熟葉など条件をそろえて比べると違いを見つけやすくなります。一方、気孔開度は採取や観察中にも変化しやすいため、光や時間帯、水分状態をそろえる必要があります。

まとめ

葉の気孔が季節や生育条件によって変化するのは、植物が環境に応じて、短時間には気孔の開閉を変え、長期的には新しい葉に形成する気孔の数や大きさを調節するためです。

光は気孔を開かせる重要な信号であり、乾燥時にはABAなどを介して気孔が閉じます。また、葉の発達中には光、二酸化炭素濃度、乾燥、温度などが気孔形成に影響し、気孔密度やサイズが変化することがあります。

ただし、完成した葉の気孔数が季節ごとに自由に増減するわけではありません。成熟葉では主に開閉によって調節し、新しい環境への構造的な適応は、次に形成される葉で現れることが多いのです。

参考文献・出典

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