同じ植物でも、春に出た葉と夏に出た葉、日向についた葉と日陰についた葉では、厚さが違うことがあります。さらに、水分状態によって一枚の葉の厚さがわずかに増減することもあります。
葉の厚さが季節や生育条件によって変化するのは、発達中の葉が光・水分・温度・栄養状態などの影響を受け、葉肉細胞の大きさや細胞層の数を調節するためです。また、すでに完成した葉でも、水分を失ったり取り戻したりすることで、短時間にわずかな厚さ変化が起こることがあります。
ただし、「季節が変わるたびに同じ葉が自由に厚くなったり薄くなったりする」と考えるのは正確ではありません。大きな構造差は、葉がつくられる発達段階で決まることが多く、成熟後の変化には限界があります。
葉の厚さは何で決まるのか
葉の断面には、表皮、柵状組織、海綿状組織、葉脈などがあります。葉の厚さは、これらの組織を構成する細胞がどれくらい大きいか、何層並んでいるか、細胞間隙がどの程度あるかによって決まります。
とくに光条件による違いでは、柵状組織の発達が重要です。強い光の下で形成される陽葉では、柵状細胞が葉の表裏方向に長く伸びたり、細胞層が増えたりして、葉全体が厚くなることがあります。
シロザを用いた日本植物生理学会の研究でも、強光下で形成された陽葉は弱光下の陰葉より葉と柵状組織が厚いことが示されています。さらにシロイヌナズナの研究では、強光条件での葉厚増加には、発生初期の細胞伸長・細胞分裂と、その後の細胞拡大という複数段階が関わることが報告されています。
強い光の下では葉が厚くなりやすい
日向では、葉の表面に多くの光が届きます。強い光を有効に利用するには、単位面積当たりに多くの光合成組織を配置できる厚い葉が有利になる場合があります。
陽葉では、厚い柵状組織の中に多くの葉緑体を配置できるため、十分な光がある条件で面積当たりの光合成能力を高めやすくなります。
一方、日陰では光が少ないため、厚い組織をつくるより、同じ材料でより広い葉面積をつくる方が有利になることがあります。そのため、同じ種類の植物では陰葉が薄くなる例がよく見られます。
ただし、すべての植物で強光ほど必ず厚くなるわけではありません。耐陰性、葉齢、水分、温度、栄養状態などによって反応の大きさは変わります。
季節によって葉の厚さが変わるのはなぜか
季節が変わると、光の強さ、日長、気温、湿度、土壌水分が同時に変化します。また、春の若葉、夏の成熟葉、秋の老化葉では、葉そのものの発達段階も違います。
そのため、春に形成された葉と夏に形成された葉では、発達中に経験する条件が異なります。夏に強い光のもとで形成された葉が、春や日陰で形成された葉より厚くなることがあります。
一方、落葉樹では同じ一枚の葉が春から秋まで存在することもあります。この場合、発達初期に決まった大きな組織構造が季節ごとに完全に作り替えられるわけではありません。成熟後には細胞の水分量、乾物量、老化などによって厚さや質感が多少変わります。
新しい葉ほど環境の影響を受けやすい
葉の厚さに大きな違いが生じやすいのは、葉原基から葉身が広がる発達途中です。この時期には細胞分裂や細胞伸長が活発で、環境情報を形態へ反映しやすいためです。
シロイヌナズナを用いた研究では、強光下での葉厚増加は発達の早い段階と遅い段階で異なる仕組みによって進むことが示されています。初期には細胞の縦方向への伸長や細胞層形成が関与し、その後は細胞自体の拡大が最終的な厚さへ影響します。
また、日本の研究では、成熟葉が受けている光環境が、これからつくられる若い葉の陽葉・陰葉形成に影響することも報告されています。つまり、植物は新しい葉だけでなく、既存の葉から得た光情報も利用して次の葉を調節する場合があります。
乾燥条件では葉が厚くなることがある
乾燥環境に生育する植物には、厚い葉を持つものが多くあります。厚い葉は、葉肉や貯水組織に水を蓄えたり、表面積に対する体積の割合を大きくしたりする点で、水分保持に有利になる場合があります。
作物を対象とした研究レビューでも、乾燥ストレスに対する形態変化として、葉面積の減少とともに葉厚の増加が報告される例があります。
ただし、乾燥すればどの植物でも厚い葉をつくるわけではありません。葉を小さくする、葉を巻く、気孔を閉じる、葉を落とすなど、植物には多様な乾燥対策があります。葉厚を増やすかどうかは種や発達段階によって異なります。
乾燥すると同じ一枚の葉が薄くなることもある
ここで注意したいのは、長期的な発達反応と短期的な水分変化では、葉厚の変化方向が逆になることがある点です。
乾燥条件で新しく形成される葉が厚くなる場合がある一方、すでに完成した葉から水が失われると、細胞の膨圧が低下して葉が縮み、厚さが減少することがあります。
海外の研究では、葉の脱水に伴って葉厚が減少し、その変化が葉の水分状態や水輸送能力と密接に関係することが示されています。葉厚は日中と夜間、湿潤時と乾燥時でも微小に変動することがあります。
つまり、「乾燥で厚くなる」と「乾燥で薄くなる」は必ずしも矛盾ではありません。前者は主に発達中の新葉が長期環境へ適応する話で、後者は成熟葉が一時的に水を失う話です。
温度は葉の厚さに影響するのか
温度は細胞分裂、細胞伸長、代謝速度、植物ホルモンの働きに影響するため、発達中の葉の厚さにも関係します。ただし、自然界では温度だけが単独で変化することは少なく、光や水分も同時に変わります。
また、成熟葉では根からの吸水や蒸散が温度によって変わり、葉内の水分量が変化することで短時間の厚さ変動が起こることがあります。ナツダイダイを用いた日本の研究では、地温の変化に伴って葉厚が変動し、その反応には季節による違いも見られました。
そのため、秋に葉が薄くなった、夏に厚くなったという観察だけから「温度が原因」と断定することはできません。光、土壌水分、葉齢などを合わせて考える必要があります。
栄養状態も葉厚に関係する
葉を厚くするには、細胞壁、タンパク質、葉緑体などをつくる材料が必要です。そのため、窒素などの栄養条件は葉の発達や光合成能力と関係します。
一方で、栄養を多く与えれば必ず葉が厚くなるわけではありません。植物は光、水分、栄養のバランスに応じて、葉の厚さだけでなく葉面積、根、茎への資源配分も変えます。
葉厚を見るときは、葉の面積当たり乾燥重量であるLMAや、乾燥重量当たり葉面積であるSLAも重要です。厚い葉でも水分が多く柔らかい葉と、細胞壁が発達して高密度な葉では性質が異なるためです。
葉の厚さとSLA・LMAは同じではない
SLAは葉の乾燥重量1単位あたりの葉面積、LMAはその逆で、一定面積の葉にどれだけ乾物が含まれるかを表します。
一般に、日陰でできた薄い葉ではSLAが高くなり、日向でできた厚く丈夫な葉ではLMAが高くなる傾向があります。ただしLMAは厚さだけでなく、組織密度にも左右されます。
そのため、「LMAが高い=必ず葉が厚い」とは限りません。葉厚、密度、水分量、乾物量を分けて考えると、季節や生育条件による変化をより正確に理解できます。
完成葉は日陰から日向へ移せばすぐ厚くなるのか
すでに成熟した葉を日陰から日向へ移しても、柵状組織の層数や大きな内部構造が短期間で完全に陽葉型へ作り替えられるわけではありません。
成熟葉でも光合成酵素量、葉緑体の状態、気孔開度などの生理的な調整は起こります。しかし、葉の厚さを決める細胞層や組織配置は発達時に決まる部分が大きいため、構造的な可塑性には限界があります。
植物を新しい光条件へ移した場合は、古い葉より、その後に展開した新しい葉を比較する方が、環境による葉厚変化を観察しやすくなります。
季節や生育条件による変化を整理すると
| 条件 | 葉厚への影響例 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 強い光 | 新葉が厚くなることが多い | 柵状組織の細胞伸長・層形成 |
| 弱い光 | 新葉が薄くなることが多い | 少ない材料で広い葉面積を確保 |
| 長期的な乾燥 | 種によって厚い新葉を形成する場合がある | 水分保持や組織強化 |
| 短期的な脱水 | 成熟葉が薄くなることがある | 細胞の膨圧低下・葉の収縮 |
| 温度変化 | 発達・水分状態を通じて変化 | 細胞成長、吸水、蒸散への影響 |
| 葉齢 | 若葉から成熟葉まで変化 | 細胞分裂・伸長・組織成熟 |
葉の厚さを観察するときのポイント
季節や環境の影響を調べるときは、条件をそろえて比較することが大切です。
- 同じ植物種、できれば同じ個体を使う
- 同程度まで成熟した葉を比べる
- 日向と日陰など光環境を記録する
- 土壌水分や測定時刻をそろえる
- 一枚だけでなく複数枚を測る
- 完成葉の短期変動と新葉の長期的な形成差を分ける
とくに葉厚は水分状態によって短時間にも変わるため、朝と昼、給水前後など測定条件が違うと、構造差ではなく水分差を測ってしまうことがあります。
まとめ
葉の厚さが季節や生育条件によって変化するのは、発達中の葉が光、水分、温度、栄養などの環境情報を受け、細胞の大きさや細胞層の数を調節するためです。
強い光の下では厚い陽葉、弱い光の下では薄い陰葉が形成される例がよく知られています。乾燥条件でも厚い新葉が形成される場合がありますが、成熟葉が短期的に脱水すると逆に葉厚は減少することがあります。
したがって、葉厚の変化を見るときは、「新しくつくられた葉の構造的な違い」と「同じ成熟葉の水分による一時的な変化」を分けることが重要です。また、季節変化には光、温度、水分、葉齢が同時に関係するため、一つの要因だけで説明しないことが大切です。
参考文献・出典
- 日本植物生理学会「シロザ Chenopodium album L. の陽葉・陰葉の発生過程」
- 園芸学会「地温がナツダイダイ実生葉厚さの変動現象に及ぼす影響」
- Hoshino R, Yoshida Y, Tsukaya H. Multiple steps of leaf thickening during sun-leaf formation in Arabidopsis.
- Leaf Shrinkage with Dehydration: Coordination with Hydraulic Vulnerability and Drought Tolerance.

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