なぜ根は微生物と共生するのか?

植物の根のまわりには、細菌や菌類など多くの微生物が暮らしています。その中には、植物に病気を起こすものもありますが、植物と互いに利益を交換しながら生きる微生物もいます。

根が微生物と共生するのは、植物だけでは取りにくいリンや窒素などの資源を微生物が獲得・変換し、その見返りとして植物が光合成でつくった炭素化合物を微生物へ供給できるからです。代表例が、アーバスキュラー菌根菌との共生と、マメ科植物と根粒菌との共生です。

ただし、共生はいつでも植物にとって得になるとは限りません。植物は微生物へ糖や脂質などを渡すため、土壌中の養分が十分にある場合や環境条件が悪い場合には、共生の利益より炭素コストが大きくなることもあります。植物は共生相手の侵入や増殖を調節しながら、利益とコストのバランスをとっています。

目次

根の周囲にはなぜ多くの微生物が集まるのか

根は土壌から水や養分を吸収するだけでなく、糖、有機酸、アミノ酸などさまざまな物質を周囲へ放出します。この根の影響を強く受ける土壌領域を根圏といいます。

根から出る有機物は微生物にとって炭素源や情報物質になります。そのため、根圏では根から離れた土壌より微生物の密度や活動が高くなることがあります。

植物にとっても、微生物が存在することには利点があります。微生物は土壌中の有機物を分解したり、植物が利用しにくい形の養分を変化させたりします。こうした関係の中から、特定の植物と微生物が互いに利益を交換する共生関係が進化してきました。

菌根とはどのような共生なのか

菌根とは、植物の根と菌類がつくる共生体です。とくに多くの陸上植物では、アーバスキュラー菌根菌と呼ばれる菌類との共生が見られます。

アーバスキュラー菌根菌は根の皮層細胞の内部に入り、樹枝状体と呼ばれる細かく枝分かれした構造をつくります。この構造は植物細胞と菌の間で物質を交換する大きな接触面になります。

根の外側では菌糸が土壌中へ広く伸びます。菌糸は根毛よりさらに細く、根そのものが入りにくい小さなすき間まで入り込めるため、植物の実質的な探索範囲を大きく広げます。

菌根菌はなぜリン獲得に役立つのか

リンは植物に不可欠ですが、土壌中ではリン酸が鉄やアルミニウム、カルシウムなどと結びつき、移動しにくいことがあります。

根がリン酸を吸収すると、根のすぐ近くではリン酸濃度が低下します。しかしリン酸は土壌中をゆっくりしか移動しないため、離れた場所のリン酸が根まで十分な速さで補給されないことがあります。

アーバスキュラー菌根菌の菌糸は、根の周囲にできたリン酸欠乏域より外まで伸び、そこでリン酸を吸収できます。吸収したリンは菌糸内を移動し、根の皮層細胞に形成された樹枝状体付近で植物へ渡されます。

海外の植物生理学レビューでも、菌根共生では根表面から直接リンを吸収する経路とは別に、菌糸が土壌からリン酸を取り込み植物へ渡す「菌根経路」が働くと整理されています。

植物は菌根菌へ何を渡しているのか

菌根菌が一方的に植物へ養分を与えるわけではありません。菌根菌は自力で十分な炭素を固定できないため、植物から光合成産物を受け取ります。

植物は葉で固定した炭素を糖や脂質などの形で根へ送り、その一部を共生菌へ渡します。菌根菌はその炭素を使って菌糸を伸ばし、土壌中を探索します。

このため菌根共生は、植物の炭素と菌の無機養分を交換する関係と考えることができます。

ただし交換量は一定ではありません。植物のリン状態や光合成量、菌の働き、土壌条件によって変化します。

共生菌は植物の根へ自由に侵入できるのか

菌根菌は共生相手ですが、植物は無条件に細胞内へ侵入させているわけではありません。

共生の開始前には、植物と菌の間で化学シグナルの交換が起こります。植物根から分泌されるストリゴラクトンなどは菌の代謝や菌糸分枝を促し、菌側からのシグナルは植物に共生準備を起こします。

その後、菌糸が根へ接触すると、植物側では共生に必要な遺伝子群が働き、菌を受け入れるための細胞内構造や膜系が再編されます。

つまり菌根共生は、菌が一方的に根へ侵入する感染とは異なり、植物が認識・制御しながら成立させる相互作用です。

根粒菌との共生では何が起こるのか

マメ科植物では、根粒菌と呼ばれる細菌との共生がよく知られています。根粒菌が植物に認識されると、根に根粒という新しい器官が形成されます。

多くのマメ科植物では、根粒菌が根毛へ付着すると根毛が湾曲し、その内部へ感染糸と呼ばれる管状構造が伸びます。細菌は感染糸を通って根の内部へ入り、同時に皮層では細胞分裂が誘導されて根粒原基がつくられます。

根粒内では根粒菌が植物細胞内に取り込まれ、窒素固定を行う特殊な状態へ分化します。

根粒菌はなぜ植物に役立つのか

大気の約8割は窒素ですが、植物は窒素分子N2をそのまま栄養として利用できません。

根粒菌はニトロゲナーゼという酵素を使い、大気中の窒素分子をアンモニアへ還元できます。この生物学的窒素固定によってできた窒素化合物は植物へ渡され、アミノ酸やタンパク質、核酸、クロロフィルなどの材料になります。

海外レビューでも、マメ科植物と根粒菌の共生では、根粒菌がN2を植物が利用できる形へ変換し、植物はその見返りとして光合成由来の炭素を根粒へ供給すると整理されています。

窒素固定には大量のエネルギーが必要

窒素分子N2は非常に安定しているため、それをアンモニアへ変換するには大きなエネルギーが必要です。

根粒菌はそのエネルギー源として、植物から供給された炭素化合物を利用します。植物は葉で光合成した糖を根へ運び、根粒では有機酸などへ変換して細菌へ供給します。

したがって窒素固定は「無料の窒素」ではありません。植物は窒素を得る代わりに、光合成で獲得した炭素の一部を根粒へ投資します。

そのため土壌中に硝酸など利用しやすい窒素が十分にあると、植物が新しい根粒形成や窒素固定を抑えることがあります。

根粒の中では酸素量も調節される

根粒菌の窒素固定酵素ニトロゲナーゼは酸素に弱い一方、窒素固定に必要な大量のエネルギーをつくる呼吸には酸素が必要です。

この矛盾を解決するため、根粒では酸素濃度が細かく調節されます。マメ科植物の根粒にはレグヘモグロビンという酸素結合タンパク質が多く含まれ、自由な酸素濃度を低く保ちながら呼吸に必要な酸素を供給するのに役立ちます。

切った根粒の内部が赤く見えることがあるのは、レグヘモグロビンが多く含まれるためです。

植物はどの微生物でも共生相手にするのか

植物は土壌中の微生物を無差別に受け入れるわけではありません。

根粒菌共生では、植物が分泌するフラボノイドなどに応答して細菌がNod因子をつくり、植物側の受容体がそれを認識します。この認識には相手の種類に対する特異性があり、適合しない組み合わせでは正常な根粒形成が進みません。

菌根共生でも、植物と菌の間のシグナル交換と共生シグナル伝達経路が必要です。

さらに植物は、病原菌への免疫反応を完全に失うのではなく、共生相手を受け入れながら過剰な侵入を防ぐよう免疫と共生応答を調節します。

菌根菌と根粒菌には共通する仕組みもある

アーバスキュラー菌根共生とマメ科植物の根粒共生は、相手となる微生物も得られる養分も異なります。しかし、共生成立の初期シグナル伝達には共通する部分があります。

植物細胞核周辺のカルシウム濃度変化や、CCaMKなどの共生シグナル伝達因子は、菌根共生と根粒共生の両方で重要です。

この共通性から、進化的には古い菌根共生のシグナル系の一部が、後に根粒共生の成立にも利用されたと考えられています。

共生は根の形も変えることがある

微生物との共生は、養分の受け渡しだけでなく根系の形にも影響します。

アーバスキュラー菌根菌の存在によって側根形成が増える例があり、菌が出す物質、植物のリン状態、糖、植物ホルモンなどが関与すると考えられています。

根粒共生では根粒という新しい器官そのものが根に形成されます。

植物は共生相手を単に根の表面へ付着させるだけではなく、相手との交換効率を高めるために根の発生プログラムまで変化させています。

共生はいつでも植物に有利なのか

共生という言葉からは、常に双方が得をする関係を想像しやすいですが、利益の大きさは環境によって変わります。

たとえばリン酸が非常に少ない土壌では、菌根菌によって植物のリン獲得が大きく改善することがあります。一方、土壌に十分なリンがある場合には、菌へ炭素を渡すコストの方が大きくなることがあります。

実際、菌根共生の植物成長への効果は正から負まで幅があり、共生したから必ず成長量が増えるわけではありません。

根粒共生でも同様に、土壌中の利用可能な窒素が豊富なら、エネルギーコストの高い窒素固定を続ける利益は小さくなります。

植物は共生の量を調節している

植物は共生相手を受け入れた後も、その量を調節します。

マメ科植物では根粒が十分に形成されると、地上部を介した全身シグナルによって新しい根粒形成を抑える根粒形成の自己制御が働きます。

これは根粒を無制限につくると、窒素固定に必要な炭素コストが大きくなりすぎるためです。

菌根共生でも植物のリン状態が高くなると、ストリゴラクトン産生や共生関連遺伝子の働きを変えて菌の侵入量を抑えることがあります。

植物は共生を単純にオン・オフするのではなく、養分需要に応じて投資量を調整しています。

共生微生物は乾燥や病害への強さにも関係することがある

菌根菌との共生によって根系の水分状態や養分状態が改善し、乾燥への耐性が高まる例があります。また、一部の共生微生物は病原菌との競争や植物免疫の変化を通じて病害抵抗性に影響することがあります。

ただし、こうした効果は植物種、微生物系統、土壌、温度、水分などによって変わります。

「菌根菌を入れれば必ず乾燥に強くなる」「共生菌があれば病気にならない」と一般化することはできません。共生の効果は特定の組み合わせと環境条件のもとで評価する必要があります。

農業では共生をどう利用できるのか

根粒菌はダイズなどのマメ科作物で古くから利用されており、適切な根粒菌を種子へ接種することで窒素固定を促す栽培技術があります。

アーバスキュラー菌根菌も、リン肥料の利用効率を高める可能性があることから研究・利用されています。

しかし、土壌にもともといる微生物群、肥料量、耕起、農薬、作物品種などによって効果は変わります。外から微生物を加えれば必ず生育が良くなるわけではありません。

共生を農業で活用するには、植物・微生物・土壌環境の組み合わせを理解することが重要です。

代表的な根の共生を整理すると

共生 主な微生物 植物が得るもの 微生物が得るもの
アーバスキュラー菌根 菌類 主にリンなどの無機養分、水分獲得の補助 植物由来の炭素・脂質
マメ科植物の根粒共生 根粒菌 窒素固定で得られた窒素化合物 植物由来の炭素・生息場所
根圏微生物との相互作用 細菌・菌類など 養分可給化や生育への影響 根から放出される有機物

「共生」と「感染」は何が違うのか

菌根菌や根粒菌は根の内部へ入るため、一見すると病原菌の感染と似ています。しかし共生では、植物が相手を認識し、相手を受け入れるための専用の発生・膜輸送プログラムを動かします。

そして植物と微生物の間で資源交換が成立し、双方が増殖や成長に利用できる利益を得ます。

一方、病原菌では植物の組織を一方的に利用したり、細胞を傷つけたりする方向へ関係が進みます。

ただし自然界の相互作用は完全な二択ではありません。同じ微生物でも環境条件によって植物への利益とコストが変わり、相利的な関係から寄生に近い関係まで連続的に変化することがあります。

まとめ

根が微生物と共生するのは、植物が光合成で得た炭素を微生物へ供給する代わりに、微生物の広い探索能力や特殊な代謝を利用して、植物だけでは得にくいリンや窒素などの資源を獲得できるからです。

アーバスキュラー菌根菌は細い菌糸を土壌中へ広げ、移動しにくいリン酸などを根へ運びます。マメ科植物の根粒菌は大気中の窒素をアンモニアへ変換し、植物へ窒素を供給します。

一方、植物は共生相手へ炭素を渡すため、共生にはコストがあります。そのため植物は相手を認識し、侵入量や根粒数を調節しながら、土壌養分や自身の需要に応じて共生への投資を変えています。根と微生物の共生は、単なる助け合いではなく、資源交換と厳密な制御によって成立する動的な関係なのです。

参考文献・出典

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