なぜ側根は根の内部からつくられ、外へ伸び出すのか?

植物の根は、一本の主根や太い根だけで土壌を探索しているわけではありません。成長の途中で多くの側根をつくり、そこからさらに細い根を枝分かれさせることで、土の中へ立体的な根系を広げていきます。

側根が根の内部からつくられ、外へ伸び出すのは、主根内部の内鞘にある特定の細胞がオーキシンの作用で再び分裂を始め、新しい根の原基を形成し、その原基が周囲の内皮・皮層・表皮を協調的に変化させながら外へ出てくるからです。

つまり、根の枝分かれは表面が裂けて二本になる現象ではありません。まず根の内部で新しい根の設計図と成長点がつくられ、その後に外側の組織を通り抜けて独立した側根として伸長します。

目次

側根はどの細胞から始まるのか

シロイヌナズナなど多くの双子葉植物では、側根は主根の中心柱の外側に位置する内鞘という細胞層から生じます。

内鞘細胞は成熟した根の内部にありますが、一部の細胞は再び細胞分裂を始められる性質を保っています。シロイヌナズナでは、とくに原生木部に接する内鞘細胞の一部が側根の創始細胞になります。

海外の根発生レビューでも、側根は内鞘の特定細胞が創始細胞として選ばれ、そこから新しい器官形成が始まると整理されています。

すべての内鞘細胞が側根になるわけではない

内鞘には側根をつくる能力を持つ細胞が多数ありますが、実際に側根になるのはその一部だけです。

根の先端に近い基部側分裂域では、将来側根をつくりやすい場所が一定の間隔で準備されます。この段階はprimingと呼ばれます。

オーキシン応答や遺伝子発現の周期的な変化によって、特定の位置に「側根をつくれる候補地」が設定されます。その後、環境条件や植物体内の栄養状態なども加わり、実際に側根形成へ進む場所が決まります。

この仕組みにより、側根は主根のどこからでも無秩序に生えるのではなく、ある程度規則的な間隔を保ちながら形成されます。

オーキシンが側根形成の開始を促す

側根形成で最も重要な植物ホルモンの一つがオーキシンです。

側根をつくる予定の内鞘細胞でオーキシン応答が高まると、Aux/IAAとARFと呼ばれる転写制御因子を介して、細胞分裂や器官形成に必要な遺伝子の発現が変化します。

日本植物生理学会の研究では、ARF7やARF19の下流で誘導されるLBD16などのLBD/ASLファミリーが、内鞘細胞の分裂開始に重要であることが示されています。

これらの転写因子が働くことで、成熟した内鞘細胞が再び分裂できる状態へ切り替わり、側根形成の発生プログラムが始まります。

最初の不等分裂が新しい根の始まりになる

側根形成を開始する内鞘細胞では、まず核の位置が変化し、隣り合う創始細胞が協調して不等分裂を行います。

この最初の分裂によって大きさの異なる娘細胞が生じ、その後さらに分裂を繰り返して小さな細胞集団ができます。

この細胞集団が側根原基です。側根原基の中では、やがて新しい根の先端分裂組織や組織軸がつくられ、独立して成長できる根としての構造が整っていきます。

したがって、側根形成は単なる細胞の増殖ではなく、新しい根という器官を一から組み立てる器官形成です。

側根原基は何段階もかけて形を整える

側根原基は、一度の細胞分裂で完成するわけではありません。

創始細胞が分裂した後、内側と外側に細胞層が増え、原基は平たい細胞集団から徐々にドーム状の形へ変化します。その内部では、新しい根の中心部、表皮、根冠、分裂組織などにつながる組織配置が形成されます。

海外レビューでは、側根発生はpriming、initiation、primordium formation、emergenceといった段階に分けて説明されています。

この段階的な発生により、側根は主根の内部である程度完成してから外へ出ることができます。

なぜ側根は根の表面から直接つくられないのか

側根が内部の内鞘から形成されることには、維管束との接続という大きな利点があります。

内鞘は木部や師部に近い位置にあるため、そこから発生した側根は主根の維管束系と連続した輸送組織をつくりやすくなります。

新しくできた側根が土壌から吸収した水や無機養分を主根へ送り、逆に主根から糖や成長に必要な物質を受け取るには、維管束同士が連続している必要があります。

内部から発生することで、新しい側根は独立した根でありながら、親となる根の輸送系へ構造的につながることができます。

側根原基はどうやって内皮を通り抜けるのか

側根原基の外側には、内皮、皮層、表皮が重なっています。そのため、原基が大きくなるだけでは外へ出られません。

発達中の側根原基は、周囲の細胞へオーキシンなどのシグナルを送り、上にある細胞の形や細胞壁の性質を変化させます。

内皮では原基の成長に合わせて細胞形態が変化し、原基が通過できるように組織が再構成されます。海外研究では、原基による機械的な力とオーキシン応答が組み合わさり、内皮細胞の形態変化を促すことが示されています。

つまり、側根は周囲の細胞を単純に押し潰して進むのではなく、親根の組織と情報をやり取りしながら出口をつくります。

皮層と表皮では細胞壁がゆるめられる

内皮を通過した側根原基は、さらに皮層と表皮を越える必要があります。

この過程では、原基の近くにある細胞でLAX3などのオーキシン流入輸送体が働き、局所的なオーキシン応答を高めます。

その結果、ペクチンの分解や細胞壁の再構築に関わる遺伝子が誘導され、細胞同士の接着が局所的に弱まります。

海外の研究では、LAX3を欠く植物では側根原基は多くできても、外へ出てくる側根が減ることが示されています。これは、側根形成には原基をつくる仕組みと、原基を外へ出す仕組みの両方が必要であることを示しています。

側根が外へ出ると独自の成長点を持つ

側根原基が表皮を突破して土壌中へ出ると、側根は独自の根端分裂組織を使って成長を続けます。

側根の先端には根冠が形成され、内部には木部や師部も発達します。さらに成長した側根から新しい側根が形成されるため、根系は階層的に枝分かれしていきます。

この繰り返しによって、一本の主根から複雑な三次元ネットワークがつくられます。

サイトカイニンは側根形成をどう調節するのか

側根形成はオーキシンだけで決まりません。サイトカイニンも重要な調節因子です。

一般に、オーキシンは側根形成を促す中心的なシグナルとして働きますが、サイトカイニンは形成位置や数を抑える方向に働く場合があります。

日本の根研究では、根でつくられたサイトカイニンが上側へ運ばれ、新しい根の形成を抑える仕組みや、正常な根系形成にサイトカイニンシグナルが必要であることが示されています。

側根形成は「オーキシンが多ければ多いほどよい」のではなく、複数ホルモンのバランスによって適切な数と配置に調節されています。

水分や養分によって側根のつくられ方が変わる

側根形成の基本プログラムは遺伝的に決まっていますが、どれだけ側根をつくるかは環境によって変わります。

硝酸が局所的に多い場所では、その周辺で側根伸長が促されることがあります。リン不足では根系全体の構造が変わり、側根や根毛への投資が変化する場合があります。

また、水分が多い側で側根形成が促されるhydropatterningも知られています。

植物は土壌を均一な空間として扱うのではなく、水や養分が得られやすい場所へ側根を重点的に配置することで、限られた炭素を効率よく使っています。

側根を増やせば必ず得なのか

側根が増えると土壌を広く探索できますが、新しい根をつくるには炭素、窒素、リン、水などが必要です。

側根を過剰につくれば、根自身の呼吸や維持に多くの光合成産物を使うことになります。また、養分や水が少ない場所へ根を伸ばしても、投資した資源を回収できない場合があります。

そのため植物にとって重要なのは、側根数を最大化することではなく、資源の分布に応じて適切な場所へ適切な数をつくることです。

側根形成の流れを整理すると

段階 主な場所 起こること
1. priming 根端に近い領域 将来側根をつくる候補位置が設定される
2. 創始細胞の決定 内鞘 オーキシン応答が高まり側根形成能を得る
3. initiation 内鞘 創始細胞が不等分裂を始める
4. 原基形成 主根内部 細胞分裂を重ね側根原基をつくる
5. 組織通過 内皮・皮層・表皮 細胞形態や細胞壁を変え出口をつくる
6. emergence 根表面 側根が外へ出て独立した伸長を始める

「枝分かれ」は根が二つに裂ける現象ではない

地上から根を見ると、一本の根が途中で二つに分かれたように見えます。しかし一般的な側根形成では、主根の先端や表面が二股に裂けているわけではありません。

主根内部の内鞘にある細胞が新しい器官形成を始め、側根原基をつくり、その原基が外側組織を通過して表面へ現れます。

この発生様式により、側根は主根の維管束とつながりながら、自分自身の根端分裂組織を持つ独立した根として成長できます。

まとめ

側根が根の内部からつくられ、外へ伸び出すのは、主根内部の内鞘細胞の一部がオーキシンによって再び分裂を始め、新しい根の原基をつくり、その原基が周囲の組織と協調しながら内皮・皮層・表皮を通過するためです。

側根形成は、priming、創始細胞の決定、内鞘細胞の不等分裂、原基形成、周囲組織の再構築、表面への出現という段階を経て進みます。ARF7・ARF19やLBD群などを含むオーキシン応答系が形成開始を促し、LAX3などは原基が外へ出るための細胞壁再構築に関与します。

さらにサイトカイニン、水分、硝酸、リン酸などが側根の数や位置を調節します。根の枝分かれは、表面が偶然裂ける現象ではなく、発生プログラムと環境応答を組み合わせて新しい根を内部からつくる、高度に制御された器官形成なのです。

参考文献・出典

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