なぜ植物の根に養分を蓄える量やしくみは種類や環境で違うのか?

植物の根には、水や無機養分を吸収するだけでなく、あとで使う物質を蓄える働きもあります。サツマイモのように根が大きく肥大する植物もあれば、見た目には細い根のままでも、季節に応じて糖やデンプンなどの貯蔵量を変える植物もあります。

植物の根に養分を蓄える量やしくみが種類や環境によって違うのは、根を貯蔵器官として発達させる遺伝的な性質が植物ごとに異なり、さらに光合成でつくられた物質を根へどれだけ配分するかが、温度・水分・窒素などの環境条件によって変わるからです。

ここでいう「根に養分を蓄える」という表現には注意が必要です。根が大量に蓄える代表的な物質は、土から吸収した窒素やリンそのものだけではありません。多くの場合、葉で光合成によってつくられた糖が根へ運ばれ、デンプンなどの炭水化物として蓄えられます。根は吸収器官であると同時に、植物体内でつくられた資源の貯蔵庫でもあるのです。

目次

根に蓄えられるものは何か

植物の根に蓄えられる物質には、デンプンや可溶性糖などの炭水化物、タンパク質、脂質、無機元素などがあります。ただし、量の面で目立つのは炭水化物であることが多く、サツマイモの貯蔵根ではデンプンが主要な成分です。

葉でつくられたショ糖などの糖は、師管を通って成長中の根へ運ばれます。根の細胞では、その糖が呼吸に使われたり、新しい組織をつくる材料になったり、デンプンへ変換されて蓄えられたりします。植物生理学では、光合成産物をつくって送り出す葉などを「ソース」、それを受け取る根・果実・種子などを「シンク」と呼びます。

根が強いシンクになる植物では、地上部でつくられた炭素の多くが地下へ送られます。その結果、根の細胞分裂や肥大が進み、大きな貯蔵根になることがあります。

植物の種類によって貯蔵根をつくる能力が違う

すべての根がサツマイモのように太くなるわけではありません。貯蔵根をつくる植物では、根の一部が通常の吸収根とは異なる発達をし、細胞分裂と細胞肥大を続けて大きな貯蔵組織になります。

サツマイモやキャッサバでは、不定根の一部が肥大して貯蔵根になります。ニンジンやビートでは主根が肥大して貯蔵器官になります。2020年のFrontiers in Plant Scienceの総説では、サツマイモやキャッサバの貯蔵根では形成層の活動や柔組織の発達が進み、デンプンを蓄える細胞が増えることが整理されています。

一方、同じ地下の食用部でもジャガイモは根ではありません。地下茎の先端が肥大した塊茎です。つまり、植物は進化の中で、根・茎・葉など異なる器官を貯蔵庫として利用してきました。どの器官にどれだけ蓄えるかは、植物種ごとの発達プログラムによって大きく異なります。

なぜ根に蓄える植物がいるのか

地下に資源を蓄えることには、いくつかの利点があります。地上部が冬、乾季、刈り取り、食害などで失われても、地下に蓄えが残っていれば、新しい芽や葉を再び伸ばすことができます。

多年生の草本や木本植物では、根に蓄えた炭水化物が休眠後の芽吹きや初期成長を支えることがあります。落葉樹では、葉が十分に展開する前の春の成長を、前年までに蓄えた炭水化物が支える場合があります。

二年生植物にも、最初の年に根へ資源を蓄え、次の年に花や種子をつくるために使うものがあります。ニンジンやビートの太い根は、この生活史と関係する代表例です。

このように、根への貯蔵は単なる余った栄養の置き場所ではなく、季節変化や繁殖、損傷からの再生に備える生存戦略でもあります。

同じ植物でも環境によって根への配分が変わる

根への貯蔵量は、植物種だけで決まる固定的な特徴ではありません。同じ品種でも、光、温度、水分、肥料条件などによって、葉・茎・根への資源配分は変化します。

植物には使える炭素や窒素に限りがあります。葉や茎を大きくするために多く使えば、その分だけ貯蔵根へ回せる資源が減ることがあります。反対に、根が強いシンクとして発達する時期には、葉でつくられた光合成産物が地下へ多く送られます。

この地上部と地下部の資源配分のバランスが、根の肥大やデンプン蓄積量の違いにつながります。

温度は根の肥大とデンプン蓄積を変える

温度は光合成、呼吸、酵素活性、根の細胞分裂などに影響します。そのため、貯蔵根の形成や肥大にも強く関係します。

サツマイモの研究では、地温条件によって塊根の数や重量、デンプン含量が変化することが報告されています。J-STAGEに掲載された研究では、生育後期の地温を変えたところ、低地温区で塊根のデンプンと全糖含量が高く、高地温区では低くなりました。

ただし、「低温ほど必ずよい」という意味ではありません。貯蔵根の形成には適した温度範囲があり、低すぎても高すぎても生育は悪くなります。海外のレビューでも、サツマイモの貯蔵根形成は温度の影響を受け、地上部と地下部の成長競争が変わることが整理されています。

水分条件も貯蔵根の形成を左右する

水不足になると、植物は気孔を閉じて蒸散を抑えます。その結果、光合成量が低下し、根へ送れる糖の量も減ることがあります。さらに、貯蔵根が形成される重要な時期に乾燥が起こると、根の発達そのものが変わる場合があります。

一方、水が多ければ多いほどよいわけでもありません。過湿によって根の周囲の酸素が不足すれば、根の呼吸や代謝が妨げられます。したがって、適度な土壌水分が維持されることが、貯蔵根の形成と肥大には重要です。

サツマイモについては、地下部の水分条件や養分供給条件が塊根肥大に影響することが日本の作物学研究でも示されています。

窒素が多すぎると地上部が優先されることがある

窒素は葉やタンパク質をつくるために重要な元素です。しかし窒素が多ければ、根への貯蔵も必ず増えるわけではありません。

サツマイモでは窒素条件によって、つるや葉の成長と塊根形成のバランスが変わります。窒素供給が地上部の成長を強く促す条件では、光合成産物が葉や茎の成長へ多く使われ、塊根の形成が遅れたり減ったりする場合があります。

これは、植物体内での資源配分に競争があるためです。葉を増やすことも、根へデンプンを蓄えることも、どちらも炭素や無機養分を必要とします。環境に応じて、どちらへ優先的に配分するかが変わります。

根が太くなるには「糖が来る」だけでは足りない

葉から根へ糖が運ばれても、それだけで自動的に貯蔵根になるわけではありません。根の細胞が分裂し、柔組織が増え、デンプン合成に関わる酵素が働く必要があります。

サツマイモを使った日本の研究では、植物体へのスクロース供給によって根への炭素分配率が高まり、塊根形成開始直前に供給した場合には塊根肥大が促進され、デンプン合成に関わる酵素活性も上昇しました。

この結果は、貯蔵根の形成には「葉から送られてくる糖の量」と「根がそれを受け取って蓄える能力」の両方が重要であることを示しています。シンクとしての能力が高まった根ほど、多くの光合成産物を引き寄せて貯蔵できます。

季節によって根の貯蔵量が変わる植物もある

多年生植物では、一年を通して根の貯蔵量が一定とは限りません。成長期には葉でつくられた炭水化物の一部が根へ蓄えられ、芽吹き、開花、果実形成など大きなエネルギーが必要な時期には、その蓄えが再び地上部へ送られることがあります。

木本植物の根における炭水化物貯蔵をまとめた研究では、根の貯蔵炭水化物量は季節によって大きく変化し、春の芽吹きや初期成長時に減り、その後の生育期に再び蓄積することが示されています。

したがって「この植物の根には何%の養分が蓄えられる」と一つの数字だけで表すのは難しく、季節や植物の成長段階も考える必要があります。

根に蓄える量を決める主な要因

要因 根の貯蔵への主な影響
植物の種類・品種 貯蔵根を形成する発達能力やデンプン合成能力が異なる
生活史 多年生・二年生では翌季の成長や繁殖のため地下に蓄える意義が大きい
光合成量 葉でつくられる糖が多いほど、条件次第で根へ送れる炭素も増える
温度 根の形成、細胞分裂、呼吸、デンプン合成などに影響する
水分 乾燥や過湿によって光合成や根の発達が制限される
窒素などの肥料条件 葉・茎の成長と貯蔵根への資源配分のバランスを変える
成長段階・季節 蓄積する時期と、蓄えを消費する時期がある

「養分を吸う根」と「蓄える根」は役割が完全に同じではない

太くなった貯蔵根と、細く広がる吸収根では、主な役割が異なる場合があります。細い根や根毛は水や無機養分を吸収するのに適しています。一方、肥大した貯蔵根では、柔組織が発達してデンプンなどを大量に蓄える能力が高くなります。

サツマイモでも、すべての根が同じように肥大するわけではありません。一部の根が貯蔵根へ移行し、別の細い根は水や無機養分の吸収を続けます。植物全体としてみれば、吸収する根と蓄える根が役割分担しながら地下部を構成していると考えられます。

まとめ

植物の根に養分を蓄える量やしくみが種類や環境によって違うのは、植物ごとに根を貯蔵器官として発達させる能力が異なり、さらに葉でつくられた光合成産物を根へどれだけ配分するかが環境によって変化するからです。

根に大量に蓄えられる代表的な物質は、土から吸った無機養分そのものというより、葉でつくられた糖から合成されるデンプンなどの炭水化物です。サツマイモのような植物では、一部の根が強いシンクとなって肥大し、大きな貯蔵器官になります。

温度、水分、窒素、光合成量、季節や成長段階が変われば、地上部と地下部への資源配分も変わります。つまり根の貯蔵は、「その植物がどんな根をつくれるか」と「その時の環境でどこへ資源を回すのが有利か」が組み合わさって決まるのです。

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