同じ植物の種でも、育った年や場所によって、大きさや丸み、厚み、しわの出方が少し違うことがあります。農作物では、高温や乾燥が続いた年に小さな種やしわのある種が増えることもあります。
なぜ種の形や大きさは、季節や生育条件によって変わるのでしょうか。結論から言えば、種の最終的な形は遺伝的な基本設計だけで決まるのではなく、種子が形成・登熟している時期に母植物からどれだけ水や糖、窒素などを受け取れたか、胚・胚乳・種皮がどの速さで成長したかによって調整されるからです。
ただし、成熟して乾燥した種子の形が季節ごとに自由に作り替えられるわけではありません。大きな違いが生まれるのは主に、母植物上で種子がつくられている時期です。保存中の吸湿で一時的に膨らむことはありますが、それは種子形成時に起こる形態形成とは別の現象です。
種の形には、まず植物ごとの「基本設計」がある
種子の形は、胚珠が受精後に成長し、胚、胚乳、種皮などが発達する過程でつくられます。丸い種、細長い種、扁平な種など、植物種ごとに典型的な形があるのは、遺伝子によって細胞分裂や組織の成長方向が制御されているためです。
種子サイズも多数の遺伝子が関わる量的形質です。母植物由来の種皮が内部の胚や胚乳の成長空間を囲むため、母体側の組織成長も最終サイズに影響します。
そのため、環境条件が変わったからといって、丸い種をつくる植物が突然まったく別の翼状種子をつくるわけではありません。環境が変えるのは、基本的な形の枠内にある大きさ、縦横比、厚み、充実度、しわなどの程度です。
種子形成中の「中身の増え方」が外形を決める
種が成長している間、母植物の葉で光合成された糖や、根から吸収された窒素などが種子へ運ばれます。これらは胚や胚乳の細胞を増やし、デンプン、油、タンパク質などを蓄える材料になります。
材料が十分に供給されれば、種子内部がよく充実し、遺伝的に期待される大きさや丸みに近づきます。一方、登熟途中で炭素や水の供給が不足すると、内部の組織が十分に膨らまず、小粒化したり、細長く見えたり、表面にしわが残ったりすることがあります。
つまり、種の外形は「外側だけ」で決まるのではありません。内部組織がどれだけ満たされたかが、種皮を内側から押し広げ、最終的な長さ、幅、厚さを決めます。
乾燥ストレスでは、小さくしぼんだ種が増えることがある
種子形成期に水不足が起こると、母植物は気孔を閉じて水分損失を抑えます。その結果、光合成量が減り、発達中の種子へ送れる糖も少なくなります。
さらに強い乾燥では、葉の老化が早まったり、根からの養分吸収が低下したりします。種子が十分に充実する前に登熟が進むと、最終的な種子重量と体積が小さくなることがあります。
ダイズを用いた海外研究では、生殖成長期の水不足が強くなるほど、種子数と一粒重が低下し、強い乾燥条件では小さく、しぼんだ長楕円形の種子が増えました。一方、十分に灌水した条件では、大きく充実した丸みのある種が多く形成されました。
この違いは、乾燥が種子の形を直接「変形させる」というより、種子充実に必要な水と同化産物の供給を不足させることで生じます。
高温の影響は、植物や発達段階によって異なる
温度も種子の形態形成へ強く影響します。高温では代謝や発達速度が速まり、種子が十分に充実する前に成熟が進むことがあります。また、光合成量の低下や呼吸による炭素消費の増加によって、種子へ配分できる資源が減る場合もあります。
しかし「高温なら必ず種が小さくなる」という単純な法則ではありません。シロイヌナズナの異なる系統を比較した研究では、母植物が経験する温度によって種子サイズが変化しましたが、高温で小さくなる系統と大きくなる系統があり、遺伝型によって反応方向が異なりました。
つまり、温度の影響は、その植物がもつ遺伝的な成長戦略や、種子形成のどの段階で高温を受けたかによって変わります。
高温と乾燥が重なると、変形が大きくなる場合がある
自然界や農地では、高温と乾燥が別々に起こるとは限りません。暑い時期には土壌も乾きやすく、二つのストレスが同時に種子形成へ作用します。
小麦を用いた研究では、乾燥と高温を同時に受けた穂では、種子体積が大きく減少し、球形に近い度合いも低下しました。内部が十分に発達しない種や、くぼみ・空洞をもつ種が増えています。
複合ストレスでは、光合成低下、水輸送の制限、登熟期間の短縮、酵素反応の変化などが同時に起こるため、単独ストレスより形態への影響が大きくなることがあります。
種皮と内部組織の成長速度が合わないと、しわや裂皮が生じる
種子の外側を包む種皮と、内側の子葉・胚乳は同じ組織ではありません。それぞれの成長速度や乾燥速度がずれると、表面形状に特徴が現れることがあります。
ダイズでは、登熟期の高温や水分条件によって裂皮粒の発生が変わることが国内研究で報告されています。特に子実肥大期の高温では、種皮が不定形に裂ける粒が増える場合がありました。
また、種皮表面の微細構造や透水性の違いは、乾燥や吸水時のしわの現れ方にも関係します。最終的な見た目は、内部の膨らみだけでなく、種皮がどのように伸び、硬化し、乾燥したかとのバランスで決まります。
降雨や土壌水分の時期が違うと、同じ水不足でも結果が変わる
水ストレスの影響は、いつ起きたかによって異なります。種子がまだ小さい初期に水不足が起きる場合と、急速に肥大している時期、成熟乾燥に入った時期では、影響を受ける過程が違うからです。
国内のダイズ研究では、開花後の水ストレスが百粒重や裂皮発生に影響することが調べられています。種子肥大期に水供給が不足すると、粒大の低下につながる可能性があります。
逆に、成熟後半で過剰な降雨や高湿度が続けば、種皮の乾燥過程が乱れ、外観品質や発芽品質へ影響することもあります。
したがって「その年は雨が少なかった」という年間平均だけでなく、種子形成のどの段階で乾燥・降雨が起こったかを見る必要があります。
日射量が少ないと、種を充実させる炭素が減る
曇天や強い遮光が続くと、母植物の光合成量が低下します。すると、発達中の種子へ運ばれる糖が不足し、種子の肥大が制限されることがあります。
植物は茎や葉に蓄えていた炭水化物を種へ再移動することもできますが、その量には限界があります。特に種子肥大が最も盛んな時期に長期間の日照不足が続くと、一粒重や厚みが低下する可能性があります。
季節による日長や日射の違いは、開花時期そのものを変えるだけでなく、種子をつくる時期の炭素供給量を通して形態にも影響します。
窒素やリンなどの栄養条件も種子サイズに影響する
種子をつくるには、炭素だけでなく窒素、リン、カリウムなど多くの元素が必要です。特にタンパク質や核酸をつくる窒素・リンの供給が不足すると、発達中の胚や貯蔵組織の成長が制限されます。
トマトを用いた研究では、母植物が育つ窒素やリン条件を変えると、乾燥種子の遺伝子発現や種子品質に違いが生じました。母植物の栄養環境が次世代の種子形質へ影響することが分かっています。
ただし、肥料を多くすれば必ず大粒になるわけではありません。過剰施肥によって植物体の栄養成長が強くなりすぎたり、成熟が遅れたりすることもあります。種子数との資源配分もあるため、最終サイズは全体のバランスで決まります。
一つの植物の中でも、種がつく位置によって違いが出る
同じ母植物についた種でも、完全に同じ条件で育っているわけではありません。枝の先端と基部、花序の外側と内側、先に受精した種と後から受精した種では、光、養分、水、成長時間が違うことがあります。
早く形成された種が多くの資源を先に受け取ると、後からできた種への配分が減る場合があります。反対に、植物が十分な資源を確保できれば差が小さくなることもあります。
そのため、一つの株から採った種子でも、大きさや厚みが完全にはそろわないのが普通です。こうした個体内変異も、種子集団の形のばらつきを生みます。
季節の違いは「母植物が種をつくる環境」の違いとして現れる
季節そのものが種子を直接変形させるわけではありません。春、夏、秋で変わる温度、降水、日射、湿度、土壌水分などが、母植物の生育と種子形成へ影響します。
同じ植物を異なる季節に栽培できる場合、開花・登熟期に経験する条件が変わるため、種子サイズや充実度にも差が出ることがあります。コモンベッチでは、秋まきと春まきで種子充実期間が異なり、母植物の環境によって種子乾物重や種皮重量にも違いが生じた研究があります。
つまり、「季節で形が変わる」という現象の実体は、多くの場合、種子形成中の環境条件が季節によって違うことです。
乾燥地や湿潤地では、長期的には異なる種子サイズが選ばれることもある
ここまで説明したのは、一世代の中で起こる環境による変化です。しかし長い世代を通して見ると、生育地の気候は種子サイズや形に対する自然選択にも影響します。
乾燥地の植物では、発芽後の芽生えが利用できる貯蔵資源を多くもつ大きな種が有利になる場合があります。一方、小さな種を大量につくって広く散布する戦略が有利な環境もあります。
自然集団を比較した研究では、降水量や土壌条件と種子サイズの地理的変異が関連する例が報告されています。ただし、環境によってその年の種が変わる「可塑性」と、世代を重ねて遺伝的に分化する「局所適応」は別の現象です。
成熟した種子が吸湿して膨らむことは、形態形成とは別
乾燥した成熟種子は、水を吸うと膨らみます。種皮にしわがある種では、吸水によって表面が伸び、見た目が変わることもあります。
しかし、これは母植物上で胚や胚乳が成長して起こる「種子形成」とは違います。乾燥種子の吸水は、すでに完成した組織へ水が入る物理的変化です。
また、保存中に高湿度を受けて種子が水分を吸うことはありますが、新しく栄養を取り込んで種子サイズが成長するわけではありません。したがって、成熟後の一時的な膨張と、季節・生育条件によって形成時に生じた形態差を混同しないことが大切です。
形の変化が大きすぎる場合は、良い適応とは限らない
環境による種子サイズの変化には、植物が資源量に応じて子孫への投資を調節する可塑性もあります。しかし、極端に小さい、しぼむ、裂皮する、内部が空洞になるといった変化は、強いストレスによる発育障害の可能性があります。
農作物では、このような形態異常は収量だけでなく、発芽率、保存性、加工品質にも影響します。そのため、種子の見た目は母植物が登熟期に受けたストレスを知る手掛かりにもなります。
一方、野生植物では、同じ株が異なる形や大きさの種をつくる種子異型性が、生育場所や発芽時期を分散する戦略になっている場合もあります。形のばらつきが「異常」か「戦略」かは、植物種ごとに判断する必要があります。
家庭で採種するときは、種が十分成熟するまで母株を健全に保つ
家庭園芸で次年度用の種を採る場合も、種子形成期の環境は重要です。
- 種を採る果実や莢が十分成熟するまで待つ
- 登熟期に極端な水切れを起こさない
- 病害虫で葉が早く失われないよう管理する
- 未熟で小さい種、極端にしぼんだ種は保存用から分ける
- 採種後は植物ごとの方法で十分に乾燥させて保存する
ただし、市販種子のような均一性を家庭採種だけで完全に再現することは難しい場合があります。同じ株の中にも自然なばらつきがあるからです。
まとめ
種の形や大きさが季節や生育条件によって変わるのは、種子形成・登熟中に、母植物から供給される水、糖、窒素などの量と、胚・胚乳・種皮の成長速度が環境の影響を受けるからです。
乾燥、高温、日照不足、栄養条件などは、種子の充実度や一粒重を変え、小粒化、細長化、しわ、裂皮などにつながることがあります。ただし反応は植物種や遺伝型、ストレスを受ける発達段階によって異なります。
季節によって種そのものが後から作り替えられるのではなく、「種がつくられている時期の環境」が最終的な形や大きさへ記録されると考えると、変化の理由を理解しやすいでしょう。
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参考資料
- 細野達夫・中山則和「開花期以降の水ストレスがポット栽培ダイズの粒大および裂皮粒率に及ぼす影響」生物と気象
- 「開花期の追肥と登熟期の環境条件が異なる形状のダイズ裂皮粒発生に及ぼす影響」日本作物学会紀事
- The effect of temperature on reproduction in the summer and winter annual Arabidopsis thaliana ecotypes Bur and Cvi
- Drought stress has transgenerational effects on soybean seed germination and seedling vigor

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