リンゴを切ると中心に種があり、トマトやピーマンでは果肉の内側に多くの種があります。サクランボやモモでは、硬い核の内側に一つの種があります。こうした形を見ると、果実があとから種を包み込んだように見えるかもしれません。
なぜ多くの果実は種を包むのでしょうか。結論から言えば、被子植物では花の段階ですでに胚珠が子房の内側にあり、受精後に胚珠が種へ、子房を中心とする花の組織が果実へ並行して発達するからです。
つまり、果実が完成した種の外側へ後から巻き付くのではありません。もともと子房の中にあった胚珠が種になり、その周囲の子房壁などが果皮へ変化するため、結果として種が果実の内側に位置します。さらに果実は、発達中の種を保護し、成熟後には種子散布を助ける役割も担います。
花の時点で、将来の種は子房の中にある
被子植物の花では、雌しべの下部に子房があり、その内部に胚珠があります。胚珠には雌性配偶体が形成され、受粉後に花粉管から運ばれた精細胞と受精が起こります。
日本植物生理学会の解説でも、被子植物では胚珠は子房に包まれており、成熟すると胚珠が種子に、子房が果実になると説明されています。
この位置関係は受精後に突然つくられるものではありません。花の段階ですでに「子房の内側に胚珠」という配置ができているため、その後に両者が発達すると「果実の内側に種」という形になります。
受精すると、胚珠は種へ、子房は果実へ発達する
受精が成功すると、胚珠の内部では受精卵から胚が形成され、周囲の組織も変化して種子がつくられます。同時に、子房の細胞分裂と細胞肥大が再び活発になり、果実の形成が始まります。
国内のトマト研究でも、被子植物では受粉・受精を介して胚珠が種子へ発達し、それに伴って子房が果実へ成長することが示されています。
この二つの発達は別々に進むのではなく、植物ホルモンなどの信号を介して強く連動します。種子と果実は、同じ受精イベントをきっかけに並行して成長するのです。
果実の外側は、主に子房壁が変化した「果皮」
子房の壁は、果実になると果皮と呼ばれる組織へ発達します。果皮は植物によって、薄い膜のようになることもあれば、厚い果肉や硬い殻の一部になることもあります。
果皮は外側から外果皮、中果皮、内果皮に区別されることがあります。モモでは、外側の皮が外果皮、食べる果肉が中果皮、種を囲む硬い核が内果皮に相当します。
つまり、私たちが「果実が種を包んでいる」と感じる構造の多くは、子房壁が発達・分化してできたものです。
果実が種を包むことには、発達中の種を守る意味がある
受精直後の胚や胚乳は小さく、まだ成熟していません。種子が完成するまでには、親植物から水や糖、窒素などの資源を受け取りながら長期間発達する必要があります。
その間、果皮や周囲の果実組織は、乾燥、物理的な衝撃、病原体、植食者などから種を守る障壁として働きます。
とくにモモやサクランボのような核果では、硬く木質化した内果皮が種の周囲を囲みます。海外の果実進化研究でも、硬い内果皮は種を物理的に保護する構造として重要だとされています。
果実は種への栄養供給を支える場でもある
種子は子房内で発達する間、親植物の維管束系とつながっています。葉でつくられた光合成産物や根から吸収された無機養分は、果実や種へ運ばれます。
胚珠は胎座と呼ばれる子房内の組織に付着しており、そこから珠柄を介して資源を受け取ります。種子が成熟すると、この接続は最終的に切り離されます。
果実が種を囲む配置は、単なる容器ではなく、種が親植物から資源を受けながら発達する空間的な仕組みとも結びついています。
受精した種は、果実の成長を促す信号にもなる
多くの植物では、受精した胚珠や発達中の種から生じるホルモン信号が、子房の成長開始を促します。
とくにオーキシン、ジベレリン、サイトカイニンなどは、果実形成の初期に重要です。受精後、これらのホルモン系が変化することで子房の細胞分裂・細胞肥大が進みます。
海外の果実形成研究でも、通常の果実形成は受精後に始まり、発達中の胚や種からの信号と植物ホルモンが果実形成を調節するとされています。
このため、「種が中にある」と「果実が成長する」は位置関係だけでなく、生理的にもつながっています。
種の数が果実の形や大きさに影響することもある
植物によっては、正常に発達する種の数が果実の大きさや形に影響することがあります。
一部の果樹では、十分な受粉・受精が起こらず種子数が少ないと、果実の肥大が不十分になったり、左右非対称な形になったりする場合があります。これは、発達中の種から供給されるホルモン信号が果実組織の成長に関わるためです。
ただし、この関係は植物種によって異なり、種子数だけで果実サイズが決まるわけではありません。葉からの糖供給、水分、品種、ホルモン感受性なども大きく影響します。
成熟後の果実は、今度は種を散布する装置になる
果実は、種が成熟するまで保護するだけではありません。成熟後には、種を親植物から離れた場所へ運ぶ役割も担います。
肉質果では、成熟に伴って果肉が柔らかくなり、甘さや香り、色が変化して、鳥や哺乳類に食べられやすくなることがあります。動物が果実を食べ、種を別の場所へ運べば、植物は自力では移動できない距離へ次世代を散布できます。
乾果では、果皮が乾燥して裂け、種を弾き出すものがあります。風に飛ばされやすい果実や、動物の体に付着する果実もあります。
果実は、種を守る構造から、成熟後には種を運ぶ構造へ役割を切り替えるのです。
果実が「種の容器」だけでは説明できない理由
果実を単なる入れ物と考えると、果実の多様性を十分には説明できません。
果皮は、硬くなる、裂ける、翼をつくる、毛やかぎを形成する、甘い果肉を発達させるなど、種子散布の方法に応じて大きく変化します。
海外の研究では、果実の形や果皮、とくに内果皮の進化は、種子保護と種子散布の戦略に強く結びついているとされています。
つまり、種を囲む構造は「保管箱」ではなく、発達・防御・散布を一続きに担う生殖器官です。
すべての果実で、食べる部分が子房壁とは限らない
一般的な説明では「子房が果実になる」と習いますが、私たちが果物として食べる部分すべてが子房だけからできるとは限りません。
リンゴでは、中心の芯に近い部分が子房由来で、食べる肉質部の大部分には花托に関連する組織が関わります。イチゴでは、赤い肉質部の大部分は花托が発達したもので、表面の小さな粒一つ一つが植物学的な果実です。
このような果実は副果・偽果などと呼ばれます。したがって、「果実は必ず子房だけからできる」と考えるのは正確ではありません。
イチゴでは「種に見える粒」が果実
イチゴの表面にある小さな粒は、一般には「種」と呼ばれがちですが、植物学的には一粒一粒が痩果という果実です。その果実の内部に種があります。
赤く食べる部分は花托が肥大したものです。
この例からも、「果物として見えている部分」と「植物学上の果実」は同じとは限らないことが分かります。
それでも、植物学上の果実は胚珠からできた種と発達的に密接につながっています。
種なし果実は「果実が種を包む」という説明の例外
バナナ、種なしブドウ、種なしカキなど、種がない、または正常な種がほとんど発達しない果実もあります。
その一つが単為結果で、受精が起こらなくても子房が発達して果実になる現象です。オーキシンやジベレリンなどのホルモン作用が、受精後に通常生じる果実形成の信号を代わりに与えることがあります。
また、受精後に胚や種子が途中で退化することで、実用上「種なし」になる場合もあります。
したがって、「果実には必ず種がある」とするのは誤りです。より正確には、果実は進化的・発達的には種子形成と強く結びついた器官だが、受精や種子発達なしでも果実形成が起こる例外があると説明できます。
裸子植物には、被子植物と同じ意味の果実はない
果実という構造は、被子植物の子房に由来します。裸子植物では胚珠が子房に包まれていないため、受精後も被子植物と同じ意味の果実は形成されません。
マツの球果やイチョウの種子の外側の肉質部は、見た目が果実に似ていても、植物学的には被子植物の果実とは異なる構造です。
「種を包む果実」という特徴は、胚珠を子房の内部に包み込む被子植物の生殖構造と深く結びついています。
種を包む構造は、被子植物の繁殖戦略を大きく広げた
種を果実の中で発達させることには、保護と散布の両面で大きな利点があります。
硬い果皮で種を守る、風に飛びやすい形にする、水に浮きやすくする、動物に食べてもらうなど、果実の構造を変えることで、植物は多様な環境へ種を運べます。
果実の多様化は、被子植物がさまざまな生態系へ広がるうえで重要な進化的特徴の一つと考えられています。
身近な果実を切ると、花の構造の名残を観察できる
果実を観察すると、花の子房と胚珠の位置関係が残っていることがあります。
- ピーマンでは、白い胎座に多くの種が付いている
- トマトでは、子室の中に多数の種がある
- リンゴでは、中心部の子房由来部分に種がある
- エンドウでは、さやが果皮で、中の豆が種である
- モモでは、硬い内果皮の内側に種がある
「食べている部分は花のどこが変化したものか」「種はどこについているか」を見ると、花から果実への連続した発達を理解しやすくなります。
まとめ
多くの果実が種を包むのは、花の段階で胚珠が子房の内側にあり、受精後に胚珠が種へ、子房や周辺の花組織が果実へ並行して発達するからです。
果実が完成した種の外側へ後からできるのではなく、もともとの「子房の中に胚珠」という配置が、そのまま「果実の中に種」という構造へ受け継がれます。
果皮は発達中の種を保護し、資源供給を支える環境の一部となり、成熟後には動物、風、水、裂開などを利用して種子散布にも関わります。一方、単為結果のように種なしでも果実が発達する例や、イチゴやリンゴのように子房以外の組織が大きく関わる果実もあります。
果実が種を包むのは、被子植物の花の構造と受精後の発達がそのままつながった結果であり、同時に種を守り、成熟後に散布するための繁殖上の仕組みでもあるのです。
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参考資料
- 日本植物生理学会「一つの花から一つの種子が出来る植物について」
- 寺尾梓ほか「トマトの子房から果実への移行期における細胞壁多糖分布」日本植物生理学会年会要旨集
- Seedless Fruit Production by Hormonal Regulation of Fruit Set
- Evolution of the fruit endocarp: molecular mechanisms underlying adaptations in seed protection and dispersal strategies

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