なぜ季節や環境による長周期地震動の変化は限定的なのか?

結論から言うと、地震の長周期地震動が「夏だから強い」「冬だから弱い」というように季節だけで大きく変わる一般則はありません。長周期地震動の強さや周期を主に決めるのは、地震の規模・震源の深さ・断層破壊のしかた、地震波が通る地下構造、そして平野や盆地の深い堆積層です。

一方で、季節や環境によって地下水・地盤温度・土壌水分などが変化すると、地表近くの地震波速度や地盤の応答特性がわずかに変わることがあります。また、高層建物や免震建物の固有周期そのものが気温などに応じて季節変動する例も観測されています。

したがって、季節や環境による変化を考えるときは、「地面で観測される長周期地震動」と「その揺れを受けた建物の応答」を分けることが重要です。

目次

長周期地震動の基本は季節ではなく震源・経路・地盤で決まる

気象庁は、長周期地震動の特徴を大きく「地震の特性」「伝播経路」「地盤の特性」に分けて説明しています。

まず、マグニチュードが大きい地震ほど長い周期の揺れを強く生じやすく、長周期地震動の主成分となる表面波は震源が浅いほど卓越しやすい傾向があります。

次に、長周期の波は短周期の波より減衰しにくく、遠くまで伝わります。さらに、柔らかい堆積層を通ると効率よく伝わったり増幅されたりすることがあります。

そのため、実際の長周期地震動を大きく左右するのは、季節よりも地震そのものの規模・震源位置と、地震波がどの地下構造を通ってきたかです。

関東平野や大阪平野で長周期成分が大きくなりやすい理由

関東平野、大阪平野、濃尾平野などの大規模な平野・盆地では、硬い地震基盤の上に柔らかい堆積層が厚く積もっています。

こうした深い堆積盆地では、長周期の地震波が増幅され、盆地内で反射・屈折を繰り返すことで長時間残ることがあります。

日本建築学会の研究でも、堆積盆地では地震波の入射角や方向、盆地形状によって卓越周期や増幅のしかたが変化することが示されています。

この深部地盤構造は季節ごとに大きく変わるものではありません。したがって、数秒以上の長周期地震動の主要な地域差は、まず盆地の厚さや形、震源方向などの比較的固定的な条件で決まります。

同じ場所でも地震が違えば長周期地震動は変わる

同じ都市で観測しても、毎回同じ長周期地震動になるわけではありません。

地震ごとにマグニチュード、震源の深さ、断層の向き、破壊方向、地震波の周期構成が違うからです。

たとえば、ある地震では周期2~3秒付近の揺れが強く、別の地震では5秒以上の成分が目立つことがあります。さらに、盆地へ地震波がどの方向から入るかによって、表面波が集中する場所も変わります。

したがって、冬の地震と夏の地震で長周期地震動が違っていても、まず季節差ではなく、震源条件と伝播経路の違いを考える必要があります。

地下水や土壌水分で地震波速度が季節変化することはある

地表近くの地盤は、深い地震基盤と違って環境変化の影響を受けます。

降雨や融雪で地下水や土壌水分が増えたり、乾燥期に減ったりすると、地盤中の有効応力や密度、亀裂の状態が変化し、地震波速度がわずかに変化する場合があります。

USGSの研究では、GPS位置だけでなく地殻の地震波速度にも年周期の変化が観測されることがあり、その原因候補として水文荷重や間隙弾性、熱弾性の影響が検討されています。

ただし、こうした季節変動が長周期地震動全体を大きく変えるとは限りません。長周期成分は波長が長く、深い堆積構造の影響を強く受けるため、表層数m~数十mの小さな変化より、盆地全体の構造や震源条件のほうが支配的な場合が一般的です。

雨が多い季節ほど長周期地震動が強いとは言えない

「地下水が増えるなら、梅雨や雨季には長周期地震動が強くなるのでは」と考えるかもしれません。

しかし、雨量と長周期地震動階級の間に、全国で使える単純な対応関係はありません。

地下水が地盤の物性を変えるとしても、その変化量は地域によって異なり、地震波のどの周期帯へどれだけ影響するかも一様ではありません。

さらに、一回ごとの地震では震源条件の違いが大きいため、雨季と乾季の観測値を単純比較して季節効果だけを取り出すことは困難です。

したがって、「雨の多い時期は長周期地震動が一段階強くなる」といった一般則はありません。

寒冷地の凍結・融解は主に表層地盤を変える

寒冷地では冬に地表付近が凍結し、春に融解します。

水が凍ると土や岩盤の表層部分が硬くなり、地震波速度や地盤の共振特性が変化する場合があります。このような季節的なサイト特性の変化は、地震観測や常時微動観測でも研究されています。

ただし、長周期地震動で重要になる周期1~数秒以上の波は、浅い表層だけでなく、より深い地盤構造の影響を受けます。

そのため、凍結・融解の影響は存在しても、関東平野のような深い堆積盆地が作る長周期地震動そのものを季節ごとに大きく変える現象とは区別する必要があります。

気温で変わりやすいのは「建物側の固有周期」

季節変化が長周期地震動の影響を考えるうえで重要になるもう一つの対象が、高層建物や免震建物です。

建物には、それぞれ揺れやすい固有周期があります。地面の長周期地震動の周期と建物の固有周期が近いと共振し、建物は大きく揺れます。

日本地震工学会論文集に掲載された約9年間の免震建物の長期観測では、建物の固有周期に季節変動が見られ、固有周期と気温に負の相関があることが報告されています。

つまり、地面に入力される長周期地震動が同じでも、季節によって建物側の振動特性が少し変化すれば、建物内部の応答が異なる可能性があります。

なぜ建物の固有周期が気温で変わるのか

建物の固有周期は、建物の質量と剛性によって決まります。

気温が変わると、構造部材だけでなく、仕上げ材、間仕切り、接合部、免震装置などの剛性や接触状態がわずかに変化することがあります。

また、コンクリートや鋼材そのものの材料特性だけではなく、非構造部材との相互作用も建物全体の振動特性に影響します。

その結果、常時微動のような小さな振幅で測った固有周期には季節変動が表れる場合があります。

ただし、大地震時には振幅が大きくなることで建物の剛性自体が変化するため、実際の地震応答では温度だけでなく振幅依存性も重要です。

「長周期地震動階級」と「ビルの揺れ」は同じではない

気象庁の長周期地震動階級は、地上に設置された地震計の観測データから、周期1.6~7.8秒の絶対速度応答スペクトルの最大値を使って求められます。

これは高層建物への影響を知るための重要な指標ですが、実際の各ビルの揺れをそのまま測っているわけではありません。

同じ長周期地震動階級の地域でも、建物の高さ、構造形式、固有周期、減衰、免震・制振装置などが違えば、建物内部の揺れ方は異なります。

さらに、建物の固有周期に季節変動がある場合には、同じ地上波形に対する応答にも小さな差が生じる可能性があります。

季節変化より地震による建物特性の変化のほうが大きいこともある

建物の振動特性は季節だけでなく、大きな地震を経験したことによっても変わります。

長期観測研究では、2011年東北地方太平洋沖地震の後に建物の固有周期が数%程度伸びた事例が報告されています。

これは大きな揺れによって構造体や非構造部材の剛性・接触状態が変化したためと考えられます。

したがって、ある建物の長期的な長周期応答を比較するときには、気温だけでなく、過去に受けた地震動、補修、改修、設備変更なども確認する必要があります。

環境変化で長周期地震動を予測できるわけではない

地下水位、気温、土壌水分などを測れば、次の大地震の長周期地震動階級を季節ごとに予測できるということではありません。

実際の長周期地震動の強さは、まだ発生していない地震の規模、震源位置、断層破壊、伝播経路によって大きく左右されます。

環境変化による地盤・建物特性の季節変動は、防災設計や高精度な観測解析では考慮する価値がありますが、大地震の長周期地震動を季節だけで予報するための指標ではありません。

防災では季節より建物ごとの特性を確認する

長周期地震動への備えでは、「今は冬だから危険」「夏だから安全」と考えるのではなく、建物そのものの条件を確認することが重要です。

高層階では家具や什器が大きく移動する可能性があるため、家具固定やキャスターのロック、エレベーター停止時の対応確認などが重要になります。

また、建物管理者は、その建物の固有周期や免震・制振設備の特徴、長周期地震動への設計上の対応を把握しておくことが有効です。

気象庁が発表する長周期地震動階級と震度情報を合わせて確認し、季節に関係なく大きな長周期地震動に備える必要があります。

まとめ

地震の長周期地震動が季節や環境によって大きく変わるという一般則はありません。

地面で観測される長周期地震動を主に決めるのは、地震の規模・震源の深さ・断層破壊、地震波の伝播経路、平野や盆地の深い堆積構造です。これらの影響は、通常、季節的な表層環境変化より大きくなります。

一方、地下水・土壌水分・温度などによって地表近くの地震波速度やサイト特性が季節変動する場合があります。また、高層・免震建物では、気温などに伴って固有周期が季節変動することが実際の長期観測で確認されています。

つまり、季節や環境は長周期地震動の主原因ではなく、地盤や建物の応答特性をわずかに変える二次的な要因です。特に「地面の長周期地震動」と「建物が実際にどれだけ揺れるか」を分けて考えることが重要です。

参考資料

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