なぜ果実の落果は季節や生育条件によって変化するのか?

結論からいうと、果実の落果が季節や生育条件によって変化するのは、果実を枝から切り離す「離層」の働きが、果実の発育段階、エチレンやオーキシンなどの植物ホルモン、果実へ届く糖や水分の量、受粉・種子形成、温度、日照、水分ストレスなどによって変わるからです。

同じ品種でも、曇天が続いた年、高温になった年、乾燥が強い年、果実を多く付けすぎた樹などでは、落果する時期や割合が変わることがあります。また、開花直後の幼果が落ちる場合と、成熟直前の果実が落ちる場合では、主な原因も同じではありません。

つまり落果は、単に「果実を支えきれなくなって落ちる」現象ではありません。果実を育て続けられるかどうかを、植物がその時点の発育状態や環境条件に応じて調節した結果として起こる生理現象でもあります。

目次

果実が落ちるときには「離層」が働く

多くの果実では、果柄と枝の境目などに離層と呼ばれる特殊な細胞層があります。落果が進むと、この部分で細胞同士をつなぐ細胞壁成分が分解され、果実を支える力が弱くなります。

離層は最初から外れやすい状態ではありません。果実が順調に発育している間は結合を保ち、落果を促すシグナルが強くなると細胞分離が進みます。

この離層の活動には、エチレン、オーキシン、アブシシン酸など複数の植物ホルモンが関わります。特にエチレンは離層の活性化を進める方向に働き、発育中の果実から供給されるオーキシンは離層がエチレンに敏感になりすぎるのを抑える方向に働くと考えられています。

季節によって落果の時期が違うのはなぜか

果実の落果は、一年を通じて同じ仕組み・同じ強さで起こるわけではありません。

開花直後から幼果期には、受粉・受精が不十分だった果実や、成長競争で不利になった果実が落ちることがあります。少し成長した後にも、樹が育てられる果実数を調整するように落果が集中する時期があります。

一方、成熟期には、果実の成熟に伴うホルモン変化と離層の活性化によって収穫前落果が増える種類があります。

つまり、春から初夏の幼果落果と、夏から秋の成熟期落果では、果実の発育段階が違います。季節変化は、果実の成長段階そのものが進むことに加え、気温や日照、水分条件も変わるため、落果の原因と強さを同時に変えます。

受粉・受精がうまくいかないと幼果が落ちやすい

多くの果樹では、受粉・受精が成功して種子が発達すると、果実の成長を支える植物ホルモンの信号が維持されます。

低温、雨、強風などで訪花昆虫の活動が低下したり、受粉相手との開花時期が合わなかったりすると、受精率が下がることがあります。受精できなかった果実や種子の発達が止まった果実では、果実成長が弱まり、落果しやすくなる場合があります。

このため、開花期の天候が違うだけでも、その後の幼果落果の量が変わることがあります。ただし、単為結果性の強い果実では、種子が少なくても果実を保持しやすい場合があり、受粉条件への依存度は品種によって異なります。

日照不足で落果が増えることがある

果実を育て続けるためには、葉の光合成で作られた糖などの同化産物が必要です。

曇天が続いたり、枝葉が混み合って樹冠内部が暗くなったりすると、光合成量が低下し、果実へ送れる炭水化物が不足することがあります。

福岡県のカキ「秋王」の研究では、満開から満開70日後までの期間に日照不足が繰り返されると着果率が低下し、50%遮光した条件でも落果が増えました。研究では、日照不足による同化産物の供給不足と、果実と枝幹の間の養分競合が生理的落果に関係すると考えられています。

別のカキ研究でも、光合成を抑える処理や摘葉によって果実への同化産物の転流を減らすと落果が促進され、果実離脱前にエチレン生成が増えることが示されています。

つまり、果実を枝につなぎ止めるには、果柄の強さだけでなく、果実を育て続けるだけの炭水化物供給が重要なのです。

高温で落果が増える場合がある

温度も落果を左右する重要な条件です。高温になると呼吸量が増え、植物が消費する炭水化物が多くなります。また、果実の成長速度、ホルモン生成、離層の反応性なども温度によって変わります。

ウンシュウミカンや「不知火」などを用いた研究では、満開後の約2か月間、平均気温を対照より2℃高くした条件で、生理落果率が高くなる傾向が確認されました。一部の品種では最終落果率も高温区で増えました。

興味深いのは、高温区で果実肥大が進んでいても落果が増えたことです。この結果は、「果実が大きく育っているから落ちない」とは限らず、高温が代謝や資源配分、ホルモン状態など複数の過程を変えることを示しています。

ただし、高温の影響は果樹の種類、品種、発育段階によって異なります。気温が高いほど必ず落果するという単純な法則ではありません。

乾燥すると落果が増えることがある

土壌が乾燥し、樹が強い水分ストレスを受けると、葉の気孔が閉じて光合成が低下します。すると、果実へ送られる糖も減る可能性があります。

また、水分ストレスはアブシシン酸やエチレンなどの植物ホルモンにも影響します。環境ストレスと落果を扱ったレビューでは、乾燥条件がホルモンバランスと炭水化物代謝の両方を変え、花や幼果の落下につながることが整理されています。

カキの研究でも、土壌乾燥を受けた果実では落果前にエチレン生成が急増しました。ただし、その研究ではエチレンの増加だけを落果の最初の原因とは考えにくく、落果する数日前から果実肥大が低下していました。

このことからも、乾燥時の落果は「エチレンが増えたから」という一段階の反応ではなく、まず果実成長や資源供給が悪化し、その後に離層活性化が進む複合的な過程と考えるのが適切です。

水が多すぎても落果につながることがある

水分不足だけでなく、過湿も果実保持に不利になる場合があります。

長雨や排水不良で土壌中の酸素が不足すると、根の呼吸や養分吸収が低下します。根が十分に働けなくなると、葉や果実への水・無機養分供給にも影響します。

また、曇天と長雨が重なると、土壌が過湿になるだけでなく、光合成に必要な日射も減ります。そのため実際の圃場では、「雨が多かったから落果した」という場合でも、根の酸素不足、日照不足、病害、温度変化など複数の要因が重なっている可能性があります。

果実が多すぎると一部が落ちることがある

一本の樹が作れる糖や吸収できる水・無機養分には限りがあります。

花が多く咲き、多数の幼果が同時に形成されると、それらの果実は同化産物を奪い合います。競争で不利になった果実では成長が鈍り、落果へ進むことがあります。

このため、幼果期の生理落果は、樹が成熟まで育てられる果実数へ近づける「自然な調整」の一面を持ちます。

農業で摘果を行うのも、果実を大きくするだけでなく、残した果実へ十分な資源を配分し、樹全体の着果負担を調整するためです。

急な天候変化のあとに落果が目立つことがある

果実は、数時間の天候だけでなく、数日から数週間の生育条件の積み重ねに反応します。

たとえば、曇天が続いて炭水化物供給が少なくなった後に急に高温となれば、呼吸量が増えて樹の炭水化物収支がさらに悪化する可能性があります。強い乾燥の後に再び吸水した場合にも、植物ホルモンや水分移動が大きく変わります。

そのため、落果が起きた当日の天候だけを見ても、本当の原因が分からないことがあります。カキの研究では、落ちる果実は実際に離脱する5〜6日前から肥大が著しく低下していました。

落果は、目に見える「落ちた日」より前から始まっている生理変化の結果である場合があるのです。

強風による落果は生理的落果とは違う

台風や突風で果実が落ちる場合には、果柄や枝へ直接大きな力が加わります。これは主として機械的な落果です。

ただし、成熟が進んで離層がすでに弱くなっている果実は、同じ風でも落ちやすくなります。そのため風害の程度にも、果実の発育段階や品種差が関係します。

つまり、強風による落果と生理的落果は仕組みが異なりますが、完全に無関係ではありません。果実が枝から外れやすい生理状態になっていると、外からの力に対する抵抗も小さくなります。

成熟期の落果は幼果期とは意味が違う

幼果期の落果は、受精不良、種子発達の停止、日照不足、資源競争などによって起こることが多くあります。

一方、成熟期には、種子散布や果実成熟に伴う離層活性化が関係します。リンゴなど一部の果実では、成熟に伴ってエチレン生成が増え、それと関連して収穫前落果が増えることがあります。

このため、同じ樹で起きる落果でも、春の幼果落果と秋の収穫前落果を同じ原因として扱うことはできません。季節によって果実の発育段階が変わるため、落果を引き起こす主要なシグナルも変わります。

同じ品種でも年によって落果量が違う理由

同じ産地・同じ品種でも、毎年同じ数の果実が落ちるとは限りません。

開花期の受粉条件、満開後の気温、梅雨期の日照、夏の高温、乾燥や長雨、着果数などが年ごとに異なるからです。

ある年は受粉が良好でも、その後の日照不足で幼果が落ちることがあります。別の年は日照が十分でも、高温や乾燥によって落果が増えるかもしれません。

落果率は一つの気象要因だけでは決まらず、その年の生育履歴全体を反映して変化します。

気候変動で落果のパターンも変わる可能性がある

将来、気温上昇や干ばつ、極端な豪雨が増えれば、果実の落果にも影響する可能性があります。

環境ストレスと生殖器官の脱落を扱った海外レビューでは、高温、乾燥、炭水化物不足などがホルモンバランスや資源供給を変え、花や幼果の脱落を増やす可能性が整理されています。

ただし、影響は果樹の種類や品種、地域によって異なります。高温に強い品種、単為結果性の強い品種、乾燥耐性の高い台木などを利用することで、落果リスクを抑えられる場合もあります。

「種類による違い」と「季節・生育条件による変化」を分けて考える

果実の落果には、もともと種類や品種ごとに異なる基本特性があります。離層の形成時期、受粉への依存度、成熟時のエチレン生成、果柄の形などは遺伝的な違いを持ちます。

一方、今回のテーマで重要なのは、同じ種類・同じ品種でも、その年の季節や生育条件によって落果が変化することです。

遺伝的な性質が「落果しやすさの基本範囲」を作り、日照、温度、水分、着果量などが、その範囲の中で実際の落果時期や落果率を動かすと考えると理解しやすくなります。

まとめ

果実の落果が季節や生育条件によって変化するのは、果実を枝につなぎ止める離層の働きと、果実の成長を支える資源供給・植物ホルモンの状態が、環境によって変わるからです。

日照不足では光合成産物の供給が減り、高温では呼吸やホルモン状態が変わります。乾燥や過湿は水分・養分供給や光合成へ影響し、果実が多すぎれば果実同士の資源競争も強まります。

さらに、幼果期と成熟期では落果の主な意味が違います。受精不良や資源不足で落ちる幼果もあれば、成熟に伴って離層が活性化し落ちる果実もあります。

つまり、果実の落果は季節ごとの天候に単純に反応する現象ではなく、その果実がどの発育段階にあり、どれだけ糖や水分を得られ、どのようなストレスを受けているかを総合的に反映して起こる現象なのです。

参考資料

関連記事

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次