植物が光合成で取り込む二酸化炭素(CO₂)の量は、一年中一定ではありません。春に葉が展開した直後、夏の高温・乾燥期、秋の老化期では、同じ植物でもCO₂の取り込み方が変わります。また、同じ季節でも、日向か日陰か、水が十分か、空気が乾いているか、葉が若いか成熟しているかによって光合成速度は違います。
その理由は、植物がCO₂を取り込むまでに、気孔を開くこと、葉の内部へCO₂を拡散させること、Rubiscoなどの酵素で炭素を固定することが必要だからです。季節や生育条件が変わると、気孔の開きやすさ、葉の光合成能力、水分状態、温度への順化、葉齢などが同時に変化します。したがって、CO₂取り込み量の季節変化は、空気中のCO₂濃度だけではなく、植物側の状態と周囲の環境の組み合わせによって生まれます。
CO₂は気孔を通って葉の中へ入る
陸上植物では、空気中のCO₂は主に葉の表面にある気孔から葉内へ入ります。気孔が大きく開けばCO₂は入りやすくなりますが、同時に水蒸気も外へ逃げます。そのため植物は、炭素を得ることと水を失いすぎないことの両方を考えるように気孔を調節しています。
気孔の開き方を表す指標の一つが気孔コンダクタンスです。一般に、気孔コンダクタンスが高ければCO₂は葉内へ拡散しやすくなります。しかし、光、気温、空気の乾燥度、土壌水分、葉齢などによって気孔コンダクタンスは変化します。
日本の暖温帯性広葉樹を調べた研究でも、葉内と大気のCO₂濃度の関係や気孔を通したガス交換は季節を通じて一定ではなく、展葉期や落葉期には葉の成長・老化に伴う変化が見られています。つまり季節変化は、単に外気温が違うだけでなく、葉そのものの発達段階にも関係しています。
春の若い葉は、開いた直後から最大能力でCO₂を取り込むわけではない
春に新しい葉が展開すると、見た目には十分な大きさになっていても、光合成装置が完全に成熟していないことがあります。葉緑体、Rubisco、電子伝達系、気孔調節などが発達途中であるため、成熟葉より光合成能力が低い時期があります。
葉が成熟するにつれて、光合成関連タンパク質や葉内窒素の配分が整い、CO₂固定能力が高まります。同時に気孔の特性も変化します。そのため、春から初夏にかけて光や温度が良くなるだけでなく、葉自身が成熟することもCO₂取り込み量の増加に寄与します。
この点を考えずに季節変化を見ると、「春は気温が低いから光合成が弱い」とだけ説明してしまいますが、実際には葉齢の効果も重なっています。
夏は光が多くても、高温や乾燥でCO₂取り込みが低下することがある
夏は日射が強く、光合成に使える光エネルギーは豊富です。しかし、光が十分だからといってCO₂取り込みが必ず最大になるわけではありません。
気温が高く空気が乾燥すると、葉から水が失われやすくなります。土壌から十分な水を供給できない場合、植物は気孔を閉じる方向へ調節します。すると蒸散は抑えられますが、CO₂も入りにくくなり、光合成速度が低下します。
軽いから中程度の乾燥では、気孔閉鎖によるCO₂供給不足が光合成低下の主要因になりやすいことが知られています。さらに乾燥が強く長く続くと、Rubiscoの活性、ATP合成、電子伝達など葉内部の代謝も制限され、気孔を再び開くだけではすぐ元に戻らないことがあります。
空気の乾燥度が高いと、土壌に水があっても気孔は閉じやすい
植物の水分ストレスは、土壌水分だけで決まりません。葉の内部と外気の水蒸気圧の差が大きいほど、葉から水が失われやすくなります。この差を表す指標として飽差(VPD)がよく使われます。
夏の晴れた午後などにVPDが高くなると、土壌にある程度水が残っていても、植物は過剰な水損失を避けるために気孔を閉じることがあります。その結果、午前中には高かったCO₂取り込みが昼から午後に低下することがあります。
つまり、季節のCO₂取り込みを考えるときは、降水量だけでなく、気温と湿度がつくる空気の乾燥度も重要です。
温度はCO₂固定酵素と光呼吸の両方に影響する
葉にCO₂が入った後は、Rubiscoなどの酵素によって炭素が固定されます。酵素反応なので、低温では反応が遅くなりやすく、適温域では速くなります。しかし高温になりすぎると、C3植物では光呼吸の影響が大きくなり、正味のCO₂固定が不利になりやすくなります。
また高温は呼吸速度を高めることもあるため、葉が固定した炭素の一部がより多く消費されます。したがって、気孔が十分に開いていても、温度条件によって正味の炭素獲得量は変わります。
植物は生育温度に合わせて光合成装置をある程度順化できますが、その順化には時間がかかります。急な高温や低温では、現在の光合成装置が新しい温度条件にまだ合っていないため、CO₂取り込みが一時的に低下することがあります。
同じ植物でも、育った環境に合わせて光合成能力が変わる
植物は、数日から数週間続く環境変化に対して、光合成装置の構成を調整します。これを光合成の順化と呼びます。
たとえば強い光の下で育った葉では、高い光を利用するため電子伝達や炭素固定能力への投資を増やすことがあります。弱い光で育った葉では、少ない光を効率よく集める方向へ調整されます。温度についても、生育温度に応じて酵素や電子伝達系の働き方が変わります。
このため、同じ品種・同じ樹種でも、春に形成された葉と夏に形成された葉、日向の葉と日陰の葉では、同じ測定条件に置いたときのCO₂固定能力が異なる場合があります。
秋になると葉の老化がCO₂取り込みを下げる
落葉樹では秋になると、葉から窒素やその他の養分を枝や幹へ回収し、落葉に備えます。Rubiscoやクロロフィルなど光合成に関わるタンパク質も分解されていくため、葉がまだ緑色に見える段階でも光合成能力が低下し始めることがあります。
また、葉齢の進行に伴って気孔特性や葉内部のCO₂利用能力も変わります。暖温帯性広葉樹の野外測定では、落葉期に葉の老化とともに葉内外のCO₂濃度関係が変化することが示されています。
したがって秋のCO₂取り込み低下は、単に日が短くなり気温が下がるためだけではなく、葉自身が老化し、光合成装置を分解していることも大きな要因です。
常緑樹でも一年中同じ速度でCO₂を取り込むわけではない
常緑樹は冬でも葉を残すため、一年中同じように光合成しているように見えます。しかし実際には、冬季の低温、夏季の高温や乾燥、季節ごとの光環境に応じて光合成速度や気孔コンダクタンスは変わります。
二次林で複数の広葉樹を調べた研究では、気孔コンダクタンスの日変化・季節変化の大きさは樹種によって異なり、光、気温、飽差などが重要な環境要因となっていました。また新葉の時期には、成熟葉とは異なる気孔特性も確認されています。
常緑樹の場合は、同じ葉が複数の季節を経験するため、葉齢と季節環境の効果が重なります。冬を越した古い葉と春に展開した新しい葉では、CO₂取り込み能力が同じとは限りません。
栄養状態もCO₂固定能力を変える
光合成には窒素、リン、マグネシウム、鉄などの栄養元素が必要です。特に葉の窒素の大きな割合はRubiscoや光合成関連タンパク質に使われます。
生育初期や追肥後など栄養が十分な条件では、葉面積や光合成関連タンパク質を増やしやすくなります。一方、窒素不足などが続くと、光やCO₂が十分でも炭素固定能力が低下することがあります。
季節の進行とともに養分が新しい葉、花、果実、種子へ移動すると、古い葉への資源配分も変わります。そのため、CO₂取り込みは「その葉が置かれた環境」だけでなく、植物全体の成長段階にも影響されます。
果実や新芽が成長する時期には、葉で固定した炭素の需要も変わる
葉はCO₂を固定して糖をつくる「ソース器官」であり、果実、種子、根、新芽などはその糖を使う「シンク器官」です。シンクの需要が大きいと、葉でつくられた糖が速く運び出され、光合成産物を使う流れが維持されます。
一方、成長が止まったり、低温などでシンク側の代謝が低下したりすると、葉に糖やデンプンがたまりやすくなります。長期的には、この蓄積が光合成能力を下げる方向の調節につながる場合もあります。
つまり、季節によるCO₂取り込み量の違いは、葉だけで完結する問題ではなく、植物全体がその時期にどれだけ炭素を必要としているかにも関係します。
大気中のCO₂濃度が高くても、他の条件が悪ければ取り込みは増えない
一般にC3植物では、大気中のCO₂濃度が高くなると、条件が整っていれば光合成速度が上がりやすくなります。しかし、水不足で気孔が閉じていたり、低温で代謝が遅かったり、葉が老化してRubisco量が減っていたりすれば、CO₂だけ増やしても取り込み量は大きく増えません。
逆にCO₂濃度の上昇によって気孔がやや閉じ、水損失が減る場合もあります。このため、CO₂濃度の効果も季節や水分条件と切り離して考えることはできません。
季節変化は一つの要因ではなく、複数の制限が入れ替わる現象
植物のCO₂取り込み量を一年を通して見ると、季節ごとに主な制限要因が入れ替わります。春は葉の成熟や低温が制限になり、夏は高温・乾燥・高VPDによる気孔閉鎖が重要になり、秋は葉の老化と日照・温度の低下が重なります。
さらに同じ季節でも、降雨後には水分制限が弱まり、曇天では光制限が強まり、晴天の乾燥した午後には気孔制限が強まります。植物はこれらの変化に短時間の気孔調節と、数日以上かけた光合成順化の両方で対応します。
| 季節・条件 | CO₂取り込みが変わる主な理由 |
|---|---|
| 春・展葉期 | 葉緑体や酵素、気孔が発達途中で、葉の成熟とともに能力が高まる |
| 夏・十分な水 | 光と温度が適すれば高い光合成速度を示しやすい |
| 夏・乾燥や高VPD | 気孔が閉じ、葉内へのCO₂供給が減る |
| 秋・老化期 | Rubiscoやクロロフィルなどが分解され、炭素固定能力が低下する |
| 長期の強光・弱光 | 葉や葉緑体が環境に順化し、最大光合成能力が変わる |
| 栄養不足 | 光合成関連タンパク質を十分につくれず、CO₂固定能力が下がる |
まとめ
植物が光合成で取り込むCO₂の量が季節や生育条件によって変わるのは、CO₂が気孔から葉へ入る過程と、葉内で炭素を固定する能力の両方が変化するからです。
春には葉の成熟、夏には高温・乾燥・空気の乾燥度、秋には葉の老化が大きな要因になります。さらに、光、温度、水分、栄養、葉齢、植物全体の成長段階に合わせて、気孔や光合成装置は短期的・長期的に調節されます。
つまり、CO₂取り込み量は「空気中にCO₂がどれだけあるか」だけでは決まりません。その時の葉がどれだけ気孔を開けるか、どれだけCO₂を固定できるか、そして植物がどの季節・生育段階にあるかの組み合わせによって決まるのです。
参考資料
- 日本緑化工学会誌:暖温帯性広葉樹における個葉のガス交換制御の季節変化について
- 水文・水資源学会誌:落葉・常緑広葉樹から構成される二次林の気孔コンダクタンスの日変化と季節変化
- Photosynthetic acclimation to changing environments
- Drought-inhibition of Photosynthesis in C3 Plants: Stomatal and Non-stomatal Limitations Revisited

コメント