なぜ藻類やシアノバクテリアなどの光合成は季節や生育条件によって変わるのか?

光合成を行うのは陸上植物だけではありません。湖や海にいる微細藻類、シアノバクテリアなども光エネルギーを利用して炭素を取り込み、生態系の基礎生産を支えています。しかし、水中で暮らす光合成生物の働きは一年中同じではありません。春と夏、表層と深層、澄んだ水と濁った水では、同じ生物でも光合成の速さや、利用しやすい光・温度の範囲が変わります。

その理由は、水中の光合成生物も周囲の環境に合わせて光合成装置を調整するからです。季節によって日射、水温、日長、栄養塩、湖や海の混ざり方が変わり、細胞が実際に受ける光の強さや波長も変わります。藻類やシアノバクテリアは、光を集める色素、光化学系、電子伝達、炭素固定などを変化させ、その時の環境で生き残りやすい状態へ順化します。

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水中では季節によって「実際に届く光」が大きく変わる

陸上では日射の季節変化がそのまま葉へ届きやすいのに対し、水中では光が水そのものや溶存物質、植物プランクトンなどに吸収・散乱されます。そのため、同じ場所でも水深が深くなるほど光は弱くなり、利用できる波長も変化します。

さらに春や秋に水がよく混ざる時期と、夏に表層と深層が分かれる成層期では、植物プランクトンが経験する光環境が異なります。成層期には表層の細胞は強い光を受けやすい一方、深い層では弱い光の中で暮らすことになります。

つまり「夏は日差しが強い」というだけでは不十分です。水中の光合成生物にとって重要なのは、その細胞が実際にどの深さにいて、どれだけの光を受けているかです。

植物プランクトンには季節ごとに陽生型・陰生型の光応答が現れる

自然の植物プランクトンを調べた研究では、夏から秋には強い光に適した「陽生型」の光合成、冬には弱い光に適した「陰生型」の光合成が現れることが報告されています。

また、夏の成層期には表層の植物プランクトンが陽生型、深層の植物プランクトンが陰生型になるなど、同じ湖の中でも水深によって光応答が分かれることがあります。重要なのは、こうした違いが必ずしも種ごとに固定されているわけではないことです。

環境の光量、水温、栄養条件などが変わると、植物プランクトンは比較的短い時間で光合成特性を変化させます。つまり、水中の光合成生物は「強光向きの種類」「弱光向きの種類」に永久に分かれているのではなく、同じ生物でも生育環境に合わせて光の使い方を変えられます。

弱い光では光を集める能力を高め、強い光では余分な光を逃がす

弱光環境では、限られた光子をできるだけ効率よく光合成へ利用することが重要です。藻類やシアノバクテリアは、光を集める色素やアンテナ系への資源配分を調節し、少ない光でも電子伝達を進められるようにします。

一方、表層のような強光環境では、光を集めすぎると光化学系が処理しきれず、活性酸素や光阻害の危険が高まります。そのため、余ったエネルギーを熱として逃がす仕組みや、光化学系の損傷を修復する仕組みが重要になります。

シアノバクテリアでは、光環境に応じて蛍光特性や光捕集系の状態が変わり、どの程度の光へ順化していたかを光合成測定から推定できることが知られています。光の強さが変われば、光を「多く集める」方向と「受けすぎない」方向のバランスも変わるのです。

水温が上がると光合成の最適温度も動くことがある

光合成には温度応答があり、低温では酵素反応や電子伝達が遅くなり、高温すぎると光合成装置が不安定になります。そのため、多くの光合成生物には光合成速度が高くなりやすい温度範囲があります。

自然の淡水植物プランクトンを一年間調べた研究では、春から夏に池の水温が上昇すると、光合成の最適温度も高温側へ移動し、夏には約30℃付近まで上がる例が観察されています。その後、水温が下がると最適温度も低下しました。

この変化は、季節によって種類が入れ替わるだけでは十分に説明できず、同じ種類でも育った温度に合わせて光合成の温度応答を変えられることを示しています。陸上植物と同じように、水中の光合成生物にも温度順化があるのです。

光と温度は別々ではなく組み合わせて効く

低温のときは、光を受けても炭素固定や代謝が十分な速さで進まないことがあります。その状態で強い光を受けると、使い切れないエネルギーが増え、光阻害が起こりやすくなります。

反対に高温期には代謝が速くなる一方、光化学系の安定性や呼吸による炭素消費も変わります。そのため、同じ光強度でも冬と夏では光合成への効果が同じではありません。

自然界では光、温度、栄養塩などが同時に変わるため、「光が強いほど光合成が増える」「温度が高いほど増える」と一つの要因だけで考えることはできません。

栄養塩の量によって、光を使う能力も変わる

藻類やシアノバクテリアが光合成装置をつくるには、窒素、リン、鉄などの栄養元素が必要です。水中に栄養塩が十分あれば、光捕集色素や酵素を維持しやすくなりますが、栄養不足では強い光があってもそのエネルギーを十分に成長へ使えません。

特に光を集めるタンパク質や電子伝達系をつくるには多くの資源が必要です。そのため、光が弱い環境だからといって無制限に光捕集系を増やせるわけではありません。

湖や海では季節的な水の混合や成層によって、表層へ供給される栄養塩量が変わります。この変化が、光環境と組み合わさって植物プランクトンの光合成能力や増殖を左右します。

季節変化では「同じ細胞の順化」と「種の入れ替わり」が同時に起こる

自然の植物プランクトン群集では、季節が変わると優占する種類も変化します。春に珪藻が多く、暖かい時期にシアノバクテリアが増えるなど、環境に適した種類の割合が変わることがあります。

しかし、季節ごとの光合成変化をすべて種の入れ替わりで説明することはできません。自然群集の研究では、種類組成の変化が大きくなくても光合成の最適温度や光応答が変化していました。

つまり、季節変化には二つの仕組みがあります。一つは、その季節に適した種類が増える「群集組成の変化」です。もう一つは、同じ生物が自分の光合成装置を変える「生理的順化」です。実際の湖や海では、この二つが重なっています。

シアノバクテリアは光の色にも順化できる

水中では、水深や周囲の生物によって届く光の波長が変わります。シアノバクテリアの中には、光の色に応じてフィコビリソームと呼ばれる光捕集アンテナの色素組成を変えるものがあります。

このような色順化によって、現在の環境に多い波長をより効率よく利用できます。水中では「光の量」だけでなく「どの色の光が残っているか」も重要な生育条件なのです。

そのため、季節的な水の透明度変化や、水深の違いによっても、光合成色素の構成や光利用効率が変わる可能性があります。

シアノバクテリアは日長から季節の到来を先読みすることもある

近年の研究では、シアノバクテリアが単に現在の温度へ反応するだけでなく、昼の長さを季節の手掛かりとして利用することも示されています。

短い「冬型」の日長を経験したシアノバクテリアでは、長い「夏型」の日長を経験したものより低温への耐性が高まりました。この反応には概日時計が関わり、細胞膜脂質や遺伝子発現も変化しました。

これは、単細胞の光合成生物でも、日長の変化から今後の低温を予測するような季節応答を持ち得ることを示しています。日長は光合成に使える時間を変えるだけでなく、季節に備える情報としても働くのです。

藻類やシアノバクテリアの光合成は「植物の葉の代わり」ではない

藻類やシアノバクテリアの多くは酸素を発生する光合成を行いますが、陸上植物とは体のつくりも生活環境も大きく異なります。水中では、細胞全体が水温、栄養塩、光環境の変化を直接受けます。

また、シアノバクテリアは葉緑体を持たず、細胞内の膜系で光合成を行います。光捕集色素や電子伝達系の調節にも植物とは異なる特徴があります。

さらに、植物以外の光合成生物には、酸素を発生しない光合成細菌もいます。こうした生物では利用する電子供与体や必要な酸素条件が異なるため、光だけでなく周囲の化学環境によっても光利用の仕方が変わります。したがって、「植物以外の光合成」を一つの反応としてまとめるのではなく、生物群ごとの仕組みと環境条件を分けて考える必要があります。

季節や生育条件で変わるのは、光合成の基本原理ではなく性能の調整

藻類やシアノバクテリアでも、光エネルギーを電子伝達へ変え、ATPや還元力をつくり、炭素固定へ利用するという基本原理そのものが季節ごとに別物になるわけではありません。

変わるのは、その装置をどれだけ持つか、どの色の光を集めるか、どの温度で効率よく働かせるか、余分な光をどれだけ逃がすかという「性能の設定」です。

季節・生育条件 光合成に起こりやすい変化
夏・表層の強光 強光向きの光応答や光防御が発達しやすい
冬・弱光 弱い光を効率よく使う陰生型の性質が現れやすい
水温上昇 光合成の最適温度が高温側へ順化することがある
深層・濁水 弱光や限られた波長を利用する方向へ調節される
栄養塩不足 光合成装置を十分に維持できず、強い光を成長へ使いにくくなる
短日 一部のシアノバクテリアでは季節到来の手掛かりとなり低温耐性が変化する

まとめ

藻類やシアノバクテリアなどの光合成が季節や生育条件によって変わるのは、水中の光、温度、日長、栄養塩、水深や水の混ざり方が絶えず変化するからです。植物プランクトンは弱光に適した陰生型と強光に適した陽生型の間を順化し、光合成の最適温度も季節に合わせて変化することがあります。

さらに、シアノバクテリアでは光を集める色素や光化学系の状態を調整し、日長を季節の手掛かりとして低温への備えを変える仕組みまで知られています。自然界では、同じ生物の生理的順化と、その季節に適した種類への群集交代が同時に進みます。

つまり、植物以外の光合成生物も、ただ受け身で光を利用しているわけではありません。その時々の光・温度・栄養条件に合わせて光合成装置を組み替え、水中の変化する環境でエネルギーと炭素を効率よく得ているのです。

参考資料

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