温帯の樹木や多年生植物は、春から夏には新しい葉や茎をつくり、秋になると成長を止め、冬は芽の中で休眠し、翌春に再び成長を始めます。この周期は、単に寒くなれば止まり、暖かくなれば動き出すという受け身の反応ではありません。
植物は日長、光の質、気温、低温を経験した期間などを環境情報として読み取り、その情報を概日時計、光受容体、FT系の遺伝子、ABAなどの植物ホルモン、DAMやSVLなどの転写制御へつなげます。すると茎頂分裂組織の細胞分裂や器官形成が止まり、芽が冬を越す状態へ移ります。冬に十分な低温を経験すると休眠が解除され、春の昇温によって再び細胞分裂と伸長が始まります。
つまり季節成長の仕組みは、「季節を測る」「成長停止へ切り替える」「休眠を維持する」「冬を経験したことを記録する」「春に再起動する」という段階的な制御系として理解できます。
日長は毎年ほぼ同じ周期で変わる季節の時計になる
気温は日ごとに大きく変化しますが、日の長さは緯度と季節に応じて毎年ほぼ規則的に変わります。そのため植物にとって日長は、これから秋や冬が来ることを早めに知るための安定した手掛かりになります。
とくに温帯・亜寒帯の樹木では、夏の終わりに日が短くなると、まだ大きな低温が来ていなくても新梢の伸長を止め、冬芽形成へ進むものがあります。
寒さが実際に来てから成長を止めるのでは遅いため、日長は「未来の季節を予測する情報」として使われています。
光受容体と概日時計が昼の長さを測る
植物は単に明るい時間を積算しているわけではありません。フィトクロムなどの光受容体と約24時間周期の概日時計を組み合わせて、光が当たる時刻と暗くなる時刻を判断します。
概日時計は、特定の遺伝子やタンパク質が一日のどの時刻に増えるかを調節します。そこへ光受容体からの情報が重なることで、「この時刻にまだ明るいか」「すでに暗くなっているか」を読み取れます。
この外界の明暗周期と体内時計の一致関係を利用すると、植物は数十分から数時間程度の日長差でも季節情報として利用できます。
ポプラなどの研究でも、概日時計関連因子と日長応答が季節的な成長停止や休眠誘導と結びつくことが示されています。
短日になると成長を維持するFT系のシグナルが弱まる
ポプラなどでは、春から夏の長日条件でFT2というFT様遺伝子が葉で働き、茎頂の成長を維持する方向へ作用します。
秋に日が短くなるとFT2の発現が低下し、茎頂分裂組織で新しい葉や節間をつくり続ける成長プログラムが弱まります。すると新梢伸長が止まり、茎頂は冬芽形成へ移ります。
FTは一年草では開花時期を決める因子として有名ですが、多年生樹木では同じ系統の分子が季節的な栄養成長の制御にも利用されています。
つまり植物は、開花と季節成長でまったく別の時計を持つのではなく、光周性に関わる共通の分子回路を用途に応じて組み替えて使っています。
成長停止は休眠そのものではない
秋に茎の伸長が止まった直後は、条件を長日・高温へ戻せば再び成長できる場合があります。この段階では「成長停止」は起きていますが、深い休眠にはまだ入っていません。
その後、短日や低温の影響が続くと、芽は内生休眠と呼ばれる状態へ進みます。内生休眠では、外部を暖かくしてもすぐには成長を再開できません。
成長停止と休眠を分けることは重要です。前者は新しい器官形成を止める切り替え、後者は一時的な暖かさで早まって芽吹かないように成長能力そのものを抑える安全装置と考えられます。
冬芽は茎頂分裂組織を守る構造である
落葉樹などでは、秋に成長が停止すると茎頂が芽鱗などに包まれた冬芽になります。芽の内部には翌年に伸びる茎頂や葉原基が保存されています。
柔らかく伸長中の組織は凍結や乾燥に弱いため、冬前に器官形成を止め、コンパクトな芽の中へ分裂組織を保護することは越冬に有利です。
同時に細胞では糖や貯蔵物質の蓄積、膜組成の変化、耐凍性の上昇なども進みます。
季節成長の停止は単なる活動低下ではなく、分裂組織を冬用の構造と生理状態へ変える発生プログラムなのです。
ABAは休眠誘導と維持を支える重要なホルモンである
アブシシン酸(ABA)は、乾燥応答だけでなく多年生植物の芽休眠にも重要です。
秋の短日や低温条件では、樹種によってABA量やABA応答が高まり、成長停止や芽形成、休眠維持へ働きます。ABAは細胞分裂や伸長を抑える方向へ作用し、低温や乾燥への耐性を高める遺伝子発現も促します。
さらに、芽の内部で細胞間の情報交換を制限する変化にもABAが関与すると考えられています。
そのためABAは、単純な「成長抑制ホルモン」というより、冬へ向けて成長状態から防御・休眠状態へ切り替えるシグナルの一つです。
DAMやSVLなどの転写因子が休眠プログラムを維持する
ウメ、モモ、ポプラなどの多年生植物では、DAM(DORMANCY-ASSOCIATED MADS-box)やSVLと呼ばれるMADS-box系転写因子が休眠制御に関わることが知られています。
ウメではDAM6の発現が自発休眠期に高まり、長期間の低温を経験して休眠が解除される時期に低下することが報告されています。また、DAM6をポプラで過剰に働かせると、通常なら成長を続ける長日条件でも成長が抑制されました。
こうした転写因子は、芽の内部で多数の遺伝子をまとめて制御し、休眠状態を維持する「遺伝子発現のブレーキ」として働くと考えられます。
休眠中は茎頂の細胞間通信も制限される
茎頂分裂組織の細胞は、通常は原形質連絡を通して糖、ホルモン、タンパク質などの情報をやり取りしています。
休眠誘導時には、原形質連絡の周囲へカロースが蓄積し、細胞間の通路が狭くなることがあります。すると成長を促すシグナルが茎頂内部へ伝わりにくくなります。
この「情報の遮断」は、休眠中の分裂組織を外部の成長促進シグナルから隔離する仕組みの一つと考えられています。
休眠は遺伝子発現だけでなく、細胞同士の物質移動まで変える立体的な制御状態なのです。
冬の低温は休眠を深めるだけでなく解除にも使われる
寒さは植物の成長を抑える要因ですが、温帯多年生植物では一定期間の低温を経験することが、内生休眠から抜ける条件にもなります。
これは低温要求、またはチリング要求と呼ばれます。樹種や品種ごとに必要な低温量が異なります。
たとえばアカマツの研究では、一定期間の低温処理によって冬芽の休眠が打破され、その後の温度条件で成長を再開できることが示されています。
つまり冬の低温は、「今は成長してはいけない」という信号であると同時に、「十分に冬を経験した」という履歴情報にもなります。
低温履歴があるから一時的な暖冬で芽吹きにくい
もし植物がその日の気温だけで芽吹きを決めていれば、冬の途中に数日だけ暖かくなったときに新芽を出してしまう可能性があります。
しかし内生休眠中は、暖かくしてもすぐには成長できません。一定量の低温を経験して休眠解除条件を満たした後で初めて、暖かさを成長再開の信号として利用できます。
この二段階制御によって、植物は一時的な冬の高温と、本格的な春の到来を区別しやすくなります。
季節成長は「現在の環境」だけでなく、「過去にどんな温度を経験したか」という履歴依存の仕組みを持っています。
低温を経験すると休眠維持遺伝子の働きが変化する
長期間の低温を受けると、DAMやSVLなど休眠維持に関わる遺伝子の発現が低下する例があります。
また、DNAメチル化やヒストン修飾などクロマチン状態の変化も、冬の低温履歴を細胞内に残す仕組みとして研究されています。
こうしたエピジェネティックな変化によって、休眠維持遺伝子が働きにくい状態へ移れば、芽は春の成長促進シグナルへ再び応答できるようになります。
ただし、この分子機構は植物種による違いが大きく、すべての多年生植物で同じ遺伝子が使われるわけではありません。
春の昇温が成長再開を引き起こす
内生休眠が解除された後の芽は、まだ低温であれば成長しません。この段階は、環境条件が悪いために成長が止まっている環境休眠に近い状態です。
春に気温が上がると、呼吸、糖代謝、タンパク質合成、細胞周期が再び活発になり、茎頂分裂組織の細胞分裂が再開します。
芽の内部では細胞間通信も回復し、貯蔵炭水化物や根から送られる水・養分を使って葉や茎が伸び始めます。
このように芽吹きは「暖かくなったから突然始まる」のではなく、冬の低温で休眠解除の準備が済んだ後に、春の温度が最終的な成長開始シグナルになることで起こります。
長日になったことも春の成長を支える
春には気温上昇とともに日長も長くなります。樹種によっては、長日条件が芽吹き後の継続的な新梢成長を支えます。
光周性経路を通じてFT系の働きが高まれば、茎頂分裂組織は葉や節間を連続して形成する成長状態を維持しやすくなります。
つまり春の成長再開には、休眠解除、温度上昇、長日化という複数の条件が段階的に重なります。
同じ日長と温度でも春と秋で反応が違う
春と秋には、似た日長・気温になる時期があります。それでも春には成長し、秋には休眠へ向かうのはなぜでしょうか。
大きな理由の一つは、植物の内部状態が違うからです。秋の芽はまだ低温要求を満たしておらず、休眠誘導プログラムが進んでいます。一方、春の芽は冬の低温履歴によって内生休眠が解除されています。
つまり植物は外部環境だけでなく、過去の季節経験を反映した内部状態を組み合わせて現在の反応を決めています。
これにより、同じ10時間日長・同じ気温であっても、春と秋で異なる発生応答を示せます。
樹種によって日長と温度の重要度は異なる
季節成長の基本原理には共通点がありますが、すべての植物が短日を同じように使うわけではありません。
ポプラや一部の針葉樹では日長短縮が成長停止の強い信号になります。一方、リンゴ、ナシなどでは秋の低温が休眠誘導により大きな影響を持つ場合があります。
同じ樹種でも、北方集団と南方集団では成長停止を始める限界日長や必要低温量が違うことがあります。
植物はそれぞれの生育地で冬が来る時期や寒さの強さに合わせて、季節情報への感度を進化させてきました。
季節成長はホルモン同士のバランスでも調節される
休眠期にはABAの作用が強まりますが、成長再開時にはジベレリン、オーキシン、サイトカイニンなど成長を支えるホルモン系も重要になります。
これらのホルモンは一つずつ独立して働くのではなく、転写因子や輸送体、糖シグナルと相互作用しながら、分裂組織が「停止状態」と「活動状態」のどちらへ進むかを決めます。
季節変化に伴う成長切り替えは、一つのホルモンの増減ではなく、複数のシグナルネットワークの状態変化です。
季節成長の仕組みは気候変動でずれる可能性がある
日長は地球温暖化が進んでも同じ周期で変わりますが、気温の季節パターンは変化します。
そのため、植物が進化の中で組み合わせてきた「短日」「秋の低温」「冬の低温量」「春の昇温」という信号の対応関係がずれる可能性があります。
冬の低温が不足すると休眠解除が不十分になり、芽吹きや開花が不ぞろいになることがあります。一方、早春の高温で芽吹きが早まると、その後の遅霜被害を受けやすくなります。
季節成長の分子機構を理解することは、樹木や果樹が将来の気候へどう応答するかを予測するうえでも重要です。
| 季節の段階 | 主な環境情報 | 代表的な内部変化 |
|---|---|---|
| 春〜夏の成長期 | 長日・適温 | FT系などが成長を支え、茎頂分裂組織が活動する |
| 秋の成長停止 | 短日・気温低下 | FT系低下、ABA応答、芽形成、伸長停止 |
| 内生休眠 | 短日・低温の継続 | DAM/SVL系、ABA、細胞間通信制限などで成長能力を抑える |
| 休眠解除 | 一定期間の低温 | 休眠維持遺伝子・クロマチン状態が変化し、成長応答性を回復する |
| 春の芽吹き | 昇温・長日化 | 細胞周期、代謝、細胞間通信が再活性化する |
まとめ
植物が季節に合わせて成長と休眠を切り替えられるのは、日長と温度を環境情報として読み取り、その情報を遺伝子・ホルモン・分裂組織の状態へ変換する仕組みを持つからです。
秋には光受容体と概日時計が日長短縮を検出し、ポプラなどではFT系の低下を通じて新梢成長を止めます。さらにABAやDAM/SVL系などが休眠を形成・維持し、茎頂分裂組織は冬芽の中で保護されます。冬に十分な低温を経験すると休眠解除が進み、その後の春の昇温と長日化によって細胞分裂と器官形成が再開します。
つまり季節成長は、現在の気温だけに反応する単純な仕組みではありません。日長という予測情報、冬の低温履歴、内部の休眠状態、春の温度を順番に照合しながら、一年のどの時期に成長するかを決める時間制御システムなのです。
参考資料
- 日本植物生理学会:セイヨウハコヤナギにおける概日時計関連因子の発現解析、及び分子系統学的解析
- 日本植物生理学会:温帯果樹ウメにおけるDORMANCY ASSOCIATED MADS-box遺伝子の解析
- Photoperiod- and temperature-mediated control of growth cessation and dormancy in trees: a molecular perspective
- Growing in time: exploring the molecular mechanisms of tree growth

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