耳掃除をしたときに出てくる耳垢(みみあか)は、単なる「汚れ」のように見えます。しかし、耳垢は外から入ったごみだけでできているわけではありません。外耳道の皮膚からはがれた角質、皮脂腺や耳垢腺から出る分泌物、ほこりなどが混ざってできたもので、外耳道の皮膚を守る役割もあります。
さらに、人の耳には耳垢を少しずつ外側へ運ぶ自浄作用があります。鼓膜付近から外耳道の入り口へ向かって皮膚が移動し、あごを動かすことなども助けとなって、古い角質や耳垢が自然に排出されます。
つまり、耳垢は「たまった不要物」だけではなく、外耳道を守りながら、古くなれば外へ運ばれる仕組みの一部なのです。
耳垢は耳のどこでできるの?
耳の穴から鼓膜までの通り道を外耳道といいます。外耳道は、入り口側のおよそ3分の1が軟骨部、鼓膜側のおよそ3分の2が骨部です。
耳垢の材料になる分泌物を出す皮脂腺や耳垢腺は、主に外耳道の入り口に近い軟骨部にあります。耳垢腺は汗腺の一種で、皮脂腺からの脂質を含む分泌物とともに外耳道の表面へ成分を供給します。
そこへ、外耳道の皮膚から自然にはがれた角質、細かなほこりなどが混ざります。こうしてできる混合物が耳垢です。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、耳垢を「外耳道にある皮脂腺や耳垢腺から出る分泌物に、外部のほこりや古くなった皮膚などが混ざったもの」と説明しています。
耳垢の主な材料は何?
耳垢には、主に次のようなものが含まれます。
- 外耳道の皮膚からはがれた角質
- 皮脂腺から出る脂質を含む分泌物
- 耳垢腺から出る分泌物
- 外から入った細かなほこりや異物
NCBI Bookshelfの医学解説では、耳垢は主として剥がれた角化細胞と、皮脂腺・耳垢腺からの分泌物が混ざって形成されると説明されています。
そのため、耳垢は「外から入った汚れを体が固めたもの」というより、外耳道の皮膚が更新される過程で生じる物質に、分泌物や外来物が加わったものと考える方が正確です。
なぜ耳垢は自然に外へ出てくるの?
外耳道の皮膚には、鼓膜側から耳の入り口側へ向かって少しずつ移動する性質があります。この動きを上皮移動と呼びます。
普通の皮膚では、古くなった角質はその場ではがれ落ちます。しかし、外耳道の奥で同じことが起こるだけでは、細い耳の穴の中に角質がたまり続けてしまいます。そこで外耳道では、皮膚そのものが外側へ移動しながら更新されることで、はがれた角質を入り口方向へ運びます。
この働きは、ベルトコンベヤーが荷物を運ぶ様子にたとえると理解しやすいでしょう。古い角質やそこに混ざった耳垢は、皮膚の移動に乗って少しずつ外側へ近づきます。
さらに、話す、食べる、あくびをするといったときには、あごの関節が外耳道の近くで動きます。この日常的な動きも、入り口付近まで移動してきた耳垢が外へ出るのを助けると考えられています。
そのため、多くの人では耳の奥まで器具を入れて耳垢をかき出さなくても、少量の耳垢は自然に外へ排出されます。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、人には耳垢を自然に排泄する自浄作用が備わっていると説明しています。
耳垢はなぜ外耳道を守れるの?
耳垢には、外耳道の皮膚を保護する働きがあります。
第一に、耳垢に含まれる脂質などは外耳道表面を覆い、皮膚が乾燥しすぎるのを防ぐのに役立ちます。外耳道の皮膚は薄く、特に鼓膜に近い骨部では皮下組織が乏しいため、刺激に対して敏感です。適度な分泌物があることで、皮膚表面の状態を保ちやすくなります。
第二に、耳垢は水や細かな異物が外耳道の奥へ入り込むのを防ぐ物理的な障壁になります。粘り気のある成分に、ほこりなどが付着して捕らえられることもあります。
第三に、耳垢や耳垢腺の分泌物には、細菌や真菌が増えにくい環境づくりに関わる性質があります。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、耳垢には細菌やカビの繁殖を防ぎ、外耳道皮膚を保護する役割があるとしています。
このように、耳垢は「取り除くほど清潔になる物質」ではありません。適量の耳垢は、外耳道の環境を保つ仕組みの一部です。
乾いた耳垢と湿った耳垢があるのはなぜ?
耳垢には、粉っぽく乾いた乾性耳垢と、粘り気のある湿性耳垢があります。
この違いには遺伝的な要因が強く関係しています。特にABCC11という遺伝子の一塩基多型が、耳垢の乾性・湿性を決める主要因として知られています。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、日本人では乾性耳垢が70〜80%を占めますが、乾性でも湿性でも、それ自体は病気ではありません。
したがって、「耳垢がベタベタしているから不潔」「乾いているから正常」といった区別はできません。耳垢の性状には生まれつきの個人差があります。
耳垢がたまりすぎることがあるのはなぜ?
耳には自浄作用がありますが、いつでも完全に排出できるわけではありません。耳垢が外へ運ばれる流れよりも、作られる量や奥へ押し込まれる量が多くなると、外耳道内にたまることがあります。
たとえば、綿棒や耳かきを深く入れると、取るつもりの耳垢をかえって奥へ押し込む場合があります。さらに、補聴器、耳栓、イヤホンなどを長時間使用すると、耳垢の自然な排出が妨げられることがあります。
外耳道が狭い人、耳毛が多い人、加齢などで上皮移動が弱くなっている人でも、耳垢がたまりやすくなる場合があります。
耳垢が外耳道をふさぎ、難聴、耳の詰まり感、痛み、かゆみなどの症状を起こしたり、必要な診察を妨げたりする状態は耳垢栓塞と呼ばれます。
耳掃除をしすぎると、なぜ逆効果になるの?
耳垢を全部なくそうとして外耳道の奥まで繰り返し掃除すると、本来の保護膜を取り除き、薄い皮膚を傷つける可能性があります。
また、綿棒を奥へ押し込むと、先端で耳垢を鼓膜側へ押してしまうことがあります。これを繰り返すと、自浄作用が運ぼうとしている向きとは反対へ耳垢を移動させることになり、耳垢栓塞につながる場合があります。
強くこすると小さな傷ができ、そこから外耳炎を起こすこともあります。さらに、耳かき中に手がぶつかるなどすると、鼓膜を傷つける危険もあります。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、多少の耳垢であれば家庭で無理に取る必要はなく、耳垢が気になる場合は耳鼻咽喉科の受診を勧めています。
耳垢は「ごみ」なのか、それとも「体の分泌物」なのか?
答えは、その両方の要素を含む物質です。
耳垢には古くなった角質や外から入ったほこりが含まれるため、「排出されるもの」という意味では老廃物や異物を含みます。一方で、皮脂腺・耳垢腺の分泌物は、外耳道を保護し、自浄作用を助けるために働いています。
つまり耳垢は、単に不要物が偶然たまったものではなく、外耳道の皮膚の更新と分泌機能、異物の捕捉、自浄作用が組み合わさって生じるものです。
体は耳垢を「作って終わり」にはせず、外耳道の上皮移動によって徐々に外へ運びます。この「できる仕組み」と「出ていく仕組み」がセットになっている点が、耳垢を理解するうえで重要です。
耳垢の仕組みを流れで整理すると?
- 外耳道の皮膚が日々更新され、古い角質が生じる
- 皮脂腺と耳垢腺から分泌物が出る
- 角質、分泌物、ほこりなどが混ざって耳垢になる
- 耳垢が外耳道の皮膚を保護し、異物を捕らえる
- 外耳道の上皮が鼓膜側から入り口側へ移動する
- あごの動きなども加わり、耳垢が徐々に外へ排出される
この循環が保たれていれば、外耳道は自分で古い角質や耳垢を外へ運ぶことができます。
まとめ
耳垢は、外耳道の皮膚からはがれた角質、皮脂腺や耳垢腺の分泌物、ほこりなどが混ざってできるものです。耳垢には外耳道の皮膚を保護し、水や異物の侵入を防ぎ、細菌や真菌が増えにくい環境を保つ働きがあります。
そして外耳道には、皮膚が鼓膜側から入り口側へ移動する自浄作用があります。日常のあごの動きも助けとなり、耳垢は徐々に外側へ運ばれます。
そのため、耳垢は単なる汚れではなく、耳を守りながら不要になった物質を外へ運ぶ仕組みの一部と考えることができます。耳垢を必要以上に取り除こうとすると、この保護と排出の仕組みを乱すことがあるため、奥まで無理に掃除しないことが大切です。
参考資料
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「耳垢」
- NCBI Bookshelf, StatPearls “Ear Irrigation”
- Follow the Wax: The Natural Protection of the Ear Canal and Its Biome
- A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type

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