耳垢には、粉っぽく乾いたタイプと、しっとり粘り気のあるタイプがあります。また、ほとんど耳掃除をしなくても自然に外へ出てくる人がいる一方で、耳垢がたまりやすく、耳の詰まり感や聞こえにくさにつながる人もいます。
こうした違いには、遺伝で決まりやすい耳垢の「タイプ」と、年齢・外耳道の形・皮膚の状態・耳掃除などで変わる「たまりやすさ」という、別の要因が関係しています。
結論からいうと、耳垢の乾き方や粘り気の違いにはABCC11という遺伝子の違いが大きく関与し、耳垢が詰まりやすいかどうかは、さらに外耳道の自浄作用や加齢、耳の形、日常の耳の扱い方などが加わって決まります。乾性か湿性かだけで、「耳垢が多い人・少ない人」「詰まりやすい人・詰まりにくい人」を完全に説明することはできません。
耳垢の「乾性」と「湿性」は何が違うの?
耳垢は大きく、カサカサした乾性耳垢と、ベタベタした湿性耳垢に分けられます。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、日本人では乾性耳垢が70〜80%を占めると説明しています。ただし、乾性でも湿性でも、それ自体は病気ではありません。
この違いは、単に「汗をかきやすいか」「耳掃除をしているか」で決まるわけではなく、遺伝的な要因が大きく関わっています。
代表的なのがABCC11という遺伝子です。2006年に発表された研究では、ABCC11遺伝子の一塩基多型によって耳垢タイプが強く決まることが示されました。
ABCC11遺伝子は耳垢の何を変えているの?
耳垢の材料には、外耳道の皮膚からはがれた角質のほか、皮脂腺や耳垢腺からの分泌物が含まれます。耳垢腺はアポクリン汗腺に近い性質を持つ腺です。
ABCC11は、こうした分泌に関わる細胞で働く膜タンパク質の一つです。耳垢タイプを決める代表的な遺伝子多型では、AA型が乾性耳垢、GA型とGG型が湿性耳垢に対応します。
乾性型ではABCC11タンパク質が十分に機能しにくくなり、耳垢腺から分泌される成分の性質が変わります。その結果、耳垢が乾燥しやすく、粉状・薄片状になりやすくなります。
一方、湿性型では分泌成分が比較的多く、粘り気のある耳垢になりやすくなります。
このため、乾性と湿性の違いは「清潔さ」や「耳掃除の頻度」の違いではなく、主に体質として持っている分泌特性の違いです。
なぜ人種や地域によって乾性・湿性の割合が違うの?
ABCC11の遺伝子型の分布には地域差があります。乾性耳垢に対応する型は東アジアで多く、湿性耳垢に対応する型はヨーロッパ系・アフリカ系集団などで多いことが知られています。
日本国内でも、乾性型に関係する遺伝子の頻度には地域差があることが報告されています。
ただし、これは集団全体の傾向です。日本人なら必ず乾性、欧米人なら必ず湿性という意味ではありません。どの集団にも個人差があります。
また、耳垢タイプから健康状態や性格などを判断することはできません。耳垢の乾性・湿性は、あくまで外耳道の分泌物にみられる遺伝的な形質の一つです。
乾性耳垢の人は耳垢が少ないの?
必ずしもそうではありません。
乾性耳垢は水分や脂質が少なく、粉状になりやすいため、「少なく見える」ことがあります。しかし、耳垢の量は耳垢タイプだけで決まりません。
外耳道の皮膚がどの程度はがれるか、耳垢腺や皮脂腺の分泌、外耳道の形、毛の量、自浄作用なども関係します。
反対に、湿性耳垢の人でも自然に外へ排出されていれば、耳垢が大量にたまるとは限りません。
つまり、耳垢の「性状」と「蓄積量」は別の特徴です。乾性・湿性という分類だけで、耳垢栓塞の起こりやすさを単純に予測することはできません。
耳垢がたまりやすい人と、自然に出やすい人がいるのはなぜ?
耳垢は、外耳道の皮膚が鼓膜側から入口側へ少しずつ移動する「上皮移動」によって外へ運ばれます。あごを動かすことも、この排出を助けると考えられています。
この自浄作用がうまく働けば、耳垢は少しずつ外へ出ていきます。
一方で、外耳道が狭い、曲がりが強い、耳毛が多い、皮膚の状態が変わっているなどの条件があると、耳垢が出口へ移動しにくくなることがあります。
さらに、綿棒や耳かきを奥まで入れると、本来外へ向かって移動している耳垢を逆に奥へ押し込んでしまうことがあります。これが繰り返されると、耳垢栓塞につながる場合があります。
年齢を重ねると耳垢がたまりやすくなることがあるの?
あります。高齢者では、若い人より耳垢栓塞が多いことが複数の研究で報告されています。
年齢とともに耳垢腺が萎縮し、耳垢がより乾燥しやすくなることがあります。乾燥した耳垢は粉状になる一方で、外耳道の中で硬くまとまり、自浄作用で運ばれにくくなることがあります。
また、外耳道の毛が太くなり、耳垢の移動を妨げる場合があります。皮膚の移動そのものも若い頃と同じようには働かないことがあります。
米国の大規模調査でも、耳垢栓塞は高齢者ほど多く、70歳以上では比較的高い頻度で確認されています。
ただし、高齢だから必ず耳垢が詰まるわけではありません。外耳道の形、耳の手入れ、補聴器の使用、皮膚疾患など、複数の要素が重なります。
耳の穴の形でも、耳垢のたまりやすさは変わるの?
変わります。
外耳道は単純な直線ではなく、ゆるく曲がった管です。その太さや曲がり方には個人差があります。
外耳道が狭い人、骨性の突出がある人、入口付近に毛が多い人では、耳垢が自然に外へ移動しにくくなることがあります。
このような構造差があると、耳垢が作られる量が特別に多くなくても、排出が追いつかず、結果として「耳垢が多い人」のように見えることがあります。
つまり、耳垢のたまりやすさを考えるときは「作る量」だけでなく、「外へ出せるか」も重要です。
耳掃除の習慣で耳垢の状態は変わるの?
変わることがあります。
耳垢が見えると、すべて取り除きたくなるかもしれません。しかし、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、耳垢には外耳道を保護する役割があり、取り過ぎには注意が必要だと説明しています。
綿棒や耳かきを深く入れると、耳垢を奥へ押し込んだり、外耳道の皮膚を傷つけたりする可能性があります。皮膚を傷つけると外耳炎の原因になることもあります。
そのため、「よく耳掃除をする人ほど耳垢がたまらない」とは限りません。むしろ、奥まで繰り返し掃除することが耳垢の自然な排出を妨げる場合があります。
補聴器やイヤホンを使うと耳垢は必ず増えるの?
必ず増えるとは言えません。
外耳道をふさぐ機器は、理論的には耳垢が外へ出る流れを妨げる可能性があります。そのため、補聴器や耳栓を使う人では耳垢の状態を確認することが重要とされています。
一方で、補聴器使用と耳垢栓塞の関係を調べた研究では、明確な関連がみられなかった例もあります。大規模調査でも、補聴器使用だけで耳垢栓塞が決まるとは言えません。
つまり、補聴器やイヤホンは「使えば必ず耳垢が詰まる原因」ではありません。外耳道の形、装用時間、皮膚の状態、耳垢タイプ、耳掃除の仕方などと組み合わさって影響する可能性があります。
皮膚の状態でも耳垢は変わるの?
耳垢は外耳道の皮膚からはがれた角質を含むため、皮膚の状態も影響します。
湿疹や皮膚炎などで外耳道の皮膚が荒れると、角質のはがれ方や分泌物の量が変わり、耳垢の見た目や量が変化することがあります。
かゆみがあるため頻繁に耳を触るようになると、皮膚の刺激や耳垢の押し込みが加わることもあります。
したがって、急に耳垢が増えたように感じる場合や、耳だれ、強いかゆみ、痛みを伴う場合には、単なる「耳垢の体質」ではなく外耳炎などの可能性も考える必要があります。
左右の耳で耳垢の量が違うこともあるの?
あります。
乾性・湿性という基本的な耳垢タイプは遺伝的に決まるため、左右で全く別タイプになるというより、両耳とも同じ傾向を示すのが一般的です。
しかし、外耳道の形、皮膚の炎症、耳掃除の癖、イヤホンや補聴器の使い方などは左右で異なることがあります。そのため、片耳だけ耳垢がたまりやすい、片側だけ硬い耳垢ができるということはあります。
左右差が急に大きくなった場合や、片側だけ痛み・耳だれ・聞こえにくさがある場合には、単なる耳垢の個人差と決めつけず、耳の状態を確認することが大切です。
耳垢が多いこと自体は病気なの?
耳垢が見えるだけでは病気ではありません。
耳垢栓塞とは、耳垢がたまって症状を起こしたり、鼓膜や外耳道を診察する妨げになったりしている状態を指します。
耳の詰まり感、聞こえにくさ、痛み、かゆみなどがある場合や、耳垢で鼓膜が見えない場合には、医療機関での除去が必要になることがあります。
一方、症状がなく、耳の診察にも支障がない耳垢を、すべて取り除く必要はありません。耳垢には外耳道を保護する働きがあるためです。
耳垢の違いを整理すると?
- 乾性・湿性:主にABCC11遺伝子の違いで決まりやすい
- 地域・集団差:ABCC11の遺伝子型の頻度が集団によって異なる
- 耳垢の量:耳垢タイプだけでなく、角質、分泌、外耳道形状、自浄作用などで変わる
- 加齢:耳垢の乾燥、耳毛、皮膚移動の変化などにより、詰まりやすくなる人がいる
- 外耳道の形:狭さや曲がり、骨性突出などで耳垢が外へ出にくくなることがある
- 耳掃除:奥まで器具を入れると耳垢を押し込み、栓塞や外耳炎につながることがある
- 補聴器・耳栓など:影響する可能性はあるが、それだけで耳垢栓塞が決まるわけではない
- 皮膚の状態:炎症や湿疹などで角質や分泌物の状態が変わることがある
急に耳垢の状態が変わったら体質の変化?
乾性・湿性という基本的なタイプは遺伝的要因が大きいため、成人になって突然「乾性から湿性へ遺伝的タイプが変わる」と考えるのは適切ではありません。
一方で、耳の中が湿って見える、分泌物が増えた、においがする、痛みやかゆみがあるといった変化は、外耳炎や耳だれなど別の原因による可能性があります。
また、急に聞こえにくくなった場合も、単なる耳垢栓塞だけとは限りません。耳垢が見えていても、別の耳の病気が同時に起きている可能性があります。
症状が強い、長引く、片耳だけ大きく変化した場合には、自己判断で奥まで耳掃除をせず、耳鼻咽喉科で確認することが大切です。
まとめ
耳垢の乾き方やたまりやすさが人や状態によって違うのは、遺伝で決まりやすい性状の違いと、外耳道の排出条件の違いが組み合わさっているからです。
乾性・湿性の違いにはABCC11遺伝子が大きく関わります。一方、耳垢がどれくらいたまるかは、年齢、外耳道の形、耳毛、皮膚の状態、耳掃除などの影響も受けます。
つまり、「耳垢のタイプ」と「耳垢のたまりやすさ」は同じものではありません。湿性だから必ず詰まりやすい、乾性だから問題がない、という単純な関係ではなく、その人の外耳道と自浄作用、生活条件まで含めて耳垢の状態が決まります。
参考資料
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「耳垢」
- Yoshiura K, et al. “A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type.” Nature Genetics
- Cerumen Management: An Updated Clinical Review and Evidence-Based Approach for Primary Care Physicians
- Cerumen impaction: Prevalence and associated factors in the United States population

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