暑い日に外へ出ると皮膚は熱くなり、寒い日に外へ出ると手足や顔はすぐ冷たくなります。それでも健康な人の深部体温は、外気温と同じように大きく上下するわけではありません。
これは、人の体が外気温をそのまま受け入れているのではなく、皮膚を外界との「熱交換面」として使いながら、発汗、皮膚血流、ふるえ、代謝、服装や移動などの行動によって、体の中心部の温度を守っているからです。
外気温の影響はまず皮膚温へ現れます。皮膚温が変わると、皮膚と周囲との温度差が変化し、放射・対流・伝導による熱の出入りが変わります。さらに湿度、風、日射、衣服によって、同じ外気温でも実際の熱負荷は大きく異なります。
つまり外気温の影響が皮膚温には強く、深部体温にはそのまま反映されないのは、皮膚が外界との熱交換を受け持ち、体温調節系が熱を逃がす量・守る量・作る量を調整して、深部体温を狭い範囲に保とうとするからです。
そもそも「体温」はどこの温度を指すの?
体温には、皮膚表面の温度と、脳・胸腹部など体の中心部に近い深部体温があります。
外気温の影響を受けやすいのは皮膚温です。皮膚は外気、風、日射、衣服などと直接熱をやり取りするため、環境が変わると比較的すぐ温度が変化します。
一方、深部体温は重要な臓器や神経系の働きを保つため、皮膚温より狭い範囲に調節されます。
J-STAGEに掲載された健康者の研究でも、皮膚温の部位差は深部温より大きく、深部温は血流などによる体温調節で比較的安定していることが示されています。
そのため「外が10℃下がったから体温も10℃下がる」という関係にはなりません。
外気温が上がると、体の熱の出入りはどう変わるの?
外気温が上がると、皮膚と空気との温度差が小さくなり、体から空気へ熱を逃がしにくくなります。
通常、体は皮膚から周囲へ放射や対流によって熱を失っています。しかし外気温が皮膚温に近づくほど、この熱放散は小さくなります。
さらに周囲の壁、地面、直射日光などから受ける放射熱が大きいと、空気の温度以上に体へ熱が入ることがあります。
そのため暑さを考えるときは、気温の数字だけでなく、湿度、風、日射や周囲からの放射熱まで含めて考える必要があります。
暑いとき、なぜ皮膚血流が増えるの?
深部の熱を皮膚まで運び、外へ逃がすためです。
体内で作られた熱は血液によって運ばれます。暑さや運動で深部体温が上がる方向へ傾くと、皮膚血管が拡張して皮膚への血流が増えます。
すると温かい血液が皮膚へ移り、皮膚表面から放射・対流や汗の蒸発によって熱を逃がしやすくなります。
暑熱ストレスに関する国際的レビューでも、皮膚血流増加と発汗は、人が高温環境で深部体温を維持する中心的な熱放散反応とされています。
皮膚が赤く、温かく感じることがあるのは、この熱輸送が増えているためです。
外気温が高いとき、なぜ汗が重要になるの?
外気温が皮膚温へ近づくほど、放射や対流だけでは熱を逃がしにくくなるからです。
そのような環境では、汗の蒸発が重要になります。汗が液体から水蒸気へ変わるときには熱エネルギーが必要で、その熱を皮膚から奪うことで体を冷やします。
外気温が非常に高く、周囲から体へ熱が入るような条件でも、汗が十分に蒸発できれば熱を外へ逃がせます。
ただし、汗を「出すこと」だけでは十分ではありません。蒸発できるかどうかが冷却には重要です。
同じ外気温でも、湿度が高いと体温への負担が大きいのはなぜ?
汗が蒸発しにくくなるからです。
空気中に多くの水蒸気が含まれていると、皮膚上の汗が蒸発しにくくなります。その結果、汗をたくさんかいていても、蒸発による冷却が十分に進まないことがあります。
環境温湿度を変えた日本の実験でも、温度と湿度が上がるにつれて皮膚温、発汗量、心拍数などの暑熱ストレス反応が増えることが報告されています。
環境省も、熱中症のリスクは気温だけでなく、湿度、風、日射、活動量、体調などが重なって高まるとしています。
そのため「30℃ならいつでも同じ体温負荷」とは言えません。
風があると体温への影響はどう変わるの?
風は、皮膚の周囲にある温かく湿った空気を入れ替えます。
外気温が皮膚温より低い場合には、風が強いほど対流による熱放散が増えやすくなります。汗をかいている場合には、皮膚表面の湿った空気を除くことで汗の蒸発も進みやすくなります。
このため暑い環境では、適度な風が冷却に役立つことがあります。
一方、寒い環境では風が熱を奪う速度を高めるため、同じ気温でも風が強いほど体は冷えやすくなります。
風は「暑さを弱める要因」にも「寒さを強める要因」にもなります。
日なたと日陰では、同じ気温でも体温への影響が違うの?
違います。
直射日光を受けると、体は空気からだけでなく太陽からの放射エネルギーも受け取ります。さらに、熱くなった地面や建物から赤外線による放射熱を受けることもあります。
そのため、気象観測で同じ気温でも、日なたでは皮膚温や熱負荷が高くなりやすくなります。
暑熱環境の評価にWBGTなどが使われるのは、気温だけでは人体への熱負荷を十分に表せないためです。
「外気温」という一つの数字だけで体温への影響を判断しないことが重要です。
衣服は外気温の影響を弱めるの?
衣服は、皮膚と外界との間に空気層を作り、熱交換を変えます。
寒いときには、衣服が皮膚周囲に動きにくい空気を保持し、対流や伝導による熱損失を減らします。重ね着によって空気層が増えると、保温性が高まります。
一方、暑いときには、厚い衣服や通気性の悪い衣服が熱や湿気を逃がしにくくし、汗の蒸発を妨げることがあります。
防護服のように必要な衣服では、環境がそれほど高温でなくても体内へ熱がたまりやすくなる場合があります。
衣服は外気温の影響を単純に弱めるだけではなく、状況によって熱を守る・熱をこもらせる両方の働きをします。
寒い外気に触れると、なぜ皮膚温はすぐ下がるの?
皮膚から周囲へ熱が逃げることに加え、体が皮膚血流を減らすからです。
寒い空気にさらされると、皮膚表面から外へ熱が移動します。同時に、皮膚の冷たさを感知した体温調節系が交感神経を通じて皮膚血管を収縮させます。
すると深部から皮膚へ運ばれる温かい血液が減り、皮膚温はさらに下がります。
寒冷下の体温調節に関する日本の総説でも、皮膚血管収縮によって皮膚温を下げ、環境との温度差を小さくして熱損失を抑えることが重要とされています。
皮膚が冷えること自体が、深部の熱を守るための一部でもあるのです。
寒いとき、なぜ体は震えるの?
熱を作るためです。
寒冷刺激が強くなり、皮膚血管収縮だけでは深部体温を守りにくくなると、骨格筋が細かく反復収縮する「ふるえ」が起こります。
筋収縮ではATPが使われ、そのエネルギーの多くが熱になります。
寒冷適応に関するレビューでは、寒冷時の主な反応として、まず皮膚血管収縮によって熱損失を減らし、必要に応じてふるえや非ふるえ熱産生によって熱産生を増やすことが説明されています。
つまり、外気温が低いときは「熱を逃がさない」と「熱を作る」の両方で深部体温を守ります。
寒いほど代謝は高くなるの?
一定範囲を超える寒冷では、熱産生を増やすため代謝が上がることがあります。
比較的穏やかな環境では、まず皮膚血流を調節するだけで深部体温を保てることがあります。
それより寒くなると、ふるえや非ふるえ熱産生が増え、エネルギー消費も増加します。
このように、人には熱産生を大きく増やさなくても体温を維持しやすい「温熱的に中立な範囲」があります。
ただし、その範囲は衣服、体格、活動量、年齢、順化などによって変わります。
「快適な室温」なら深部体温はまったく変わらないの?
まったく変わらないわけではありません。
深部体温には概日リズムがあり、朝から夕方へ上がり、夜間から明け方へ下がる正常な日内変動があります。
食事、運動、睡眠などでも変化します。
快適な温度環境とは、深部体温を一つの値へ固定する環境ではなく、過度な発汗やふるえなどを使わなくても、比較的小さな負担で体温を維持できる環境です。
外気温の影響が小さいときでも、体温そのものには正常な変動があります。
外気温が変わっても深部体温が一定なら、外気温は重要ではないの?
重要です。
深部体温が大きく変わっていないときでも、体はそれを維持するために皮膚血流、発汗、ふるえ、代謝、循環などを変えています。
つまり「体温が保たれている」ことは、「外気温の影響を受けていない」という意味ではありません。
暑い環境では心拍数や発汗量が増え、寒い環境では血管収縮や熱産生が増えるなど、深部体温を守るための生理的コストが高くなります。
環境が極端になれば、この調節能力を超えて深部体温も危険な方向へ変化します。
暑さに慣れると、外気温の影響は小さくなるの?
暑熱順化によって、同じ暑熱環境に対する生理的負担が小さくなることがあります。
繰り返し暑い環境で活動すると、発汗がより早く始まる、循環血液量が増える、汗の塩分を節約しやすくなるなどの適応が起こります。
その結果、同じ運動や外気温でも深部体温上昇や心拍数の増加を抑えやすくなる場合があります。
ただし、順化すれば高温多湿でも安全という意味ではありません。極端な暑さ、脱水、強い運動、体調不良などが重なれば熱中症になる可能性があります。
寒さにも慣れることはあるの?
ありますが、暑熱順化ほど一つの決まった反応ではありません。
繰り返す寒冷曝露によって、寒さの感じ方、皮膚血流、ふるえ、非ふるえ熱産生などの反応が変化することがあります。
2022年の寒冷順化レビューでは、寒冷への反復曝露で生理反応が変わる一方、その形は曝露条件や個人によって異なるとされています。
また、寒さに慣れたから凍傷や低体温症にならないわけではありません。
「慣れ」は調節反応を変えることはあっても、極端な環境を無害にするものではありません。
水の中では、同じ温度でも空気中より体温が下がりやすいの?
一般に下がりやすくなります。
水は空気より熱を伝えやすく、皮膚から熱を奪う速度が大きいためです。
冷たい水へ入ると、皮膚温が急速に低下し、皮膚血管収縮や呼吸・循環の反応が強く起こります。
寒冷環境のレビューでも、水中での寒冷曝露は空気中より大きな熱損失を生じやすいことが示されています。
そのため「気温10℃」と「水温10℃」は、人体への影響が同じではありません。
体格によって外気温の影響は違うの?
違います。
体表面積と体重の比、皮下脂肪の量、筋肉量などは、熱の出入りへ影響します。
一般に体格が小さいほど体重に対する体表面積が大きく、周囲との熱交換の影響を受けやすくなる傾向があります。
皮下脂肪は断熱材のように働き、深部から皮膚へ熱が移動する速度へ影響します。
ただし実際の暑さ・寒さへの反応は、体格だけでなく、年齢、性別、体力、順化、服装、活動量、持病など多くの条件で決まります。
高齢者や乳幼児は外気温の影響を受けやすいの?
受けやすい場合があります。
高齢者では、発汗、皮膚血流、温度感覚、口渇感などの反応が若い成人より弱くなることがあります。
乳幼児は体温調節機能が未成熟で、体重に対する体表面積も大きいため、環境温の影響を受けやすい特徴があります。
そのため同じ外気温でも、年齢によって熱負荷や寒冷負荷は同じではありません。
「自分が暑くない・寒くないから周囲の人も安全」とは限らないことが重要です。
外気温で体温が上がるのと、発熱は同じなの?
同じではありません。
感染症などの発熱では、炎症反応によって体温調節上の目標が高い方へ変化します。そのため体温が上がる途中では、寒気やふるえが起こることがあります。
一方、暑熱環境による高体温では、主な問題は外部からの熱負荷や体内の熱産生に対して、放熱能力が追いつかないことです。
体はむしろ発汗や皮膚血流を増やして熱を逃がそうとしています。
外気温による高体温を、感染症の発熱と同じものとして扱わないことが重要です。
どんな暑さの症状なら熱中症を疑うべき?
暑い環境で、めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り、頭痛、吐き気、強いだるさなどが出た場合には、熱中症の可能性があります。
環境省は、熱中症が疑われる場合には涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめて体を冷やし、自力で飲める状態なら水分・塩分を補給することを勧めています。
受け答えがおかしい、意識を失う、けいれんする、歩けない、自力で水を飲めない、体が非常に熱いなどの症状がある場合には、速やかな救急対応が必要です。
寒さでは、どんな症状に注意すべき?
寒冷環境では、強いふるえ、手足の感覚低下、動きのぎこちなさなどが初期にみられることがあります。
低体温が進むと、判断力低下、ろれつが回らない、歩きにくい、意識がぼんやりするなどの症状が現れることがあります。
さらに重くなると、ふるえが弱くなる・止まることもあります。
冷たい環境に長くいた人で、意識状態の変化や動作の異常がある場合には、単なる「寒がり」と考えず、低体温症の可能性を考える必要があります。
なぜ外気温の影響は皮膚温に強く、深部体温にはそのまま反映されないのか、一言でいうと?
外気温の影響が皮膚温に強く、深部体温にはそのまま反映されないのは、皮膚が外界との熱交換面としてまず環境の影響を受け、その変化をもとに体が皮膚血流・発汗・ふるえ・代謝・行動を調整して、深部の熱を逃がしたり守ったりするからです。
暑い環境では皮膚血流と発汗を増やして熱を逃がし、寒い環境では皮膚血管を収縮させ、必要に応じてふるえなどで熱を作ります。
ただし、実際の熱負荷は外気温だけでは決まりません。湿度、風、日射・放射熱、衣服、活動量、体格、年齢、順化などが重なって決まります。
つまり外気温は体温へ重要な影響を与えますが、その影響は「外気温=深部体温」という形で直接現れるのではなく、まず皮膚と熱交換へ作用し、それに対する体温調節反応を通じて深部体温へ伝わるのです。
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参考資料
- 日本生気象学会雑誌「温熱感覚と体温調節の統合:分子から行動への多階層的理解」
- 「寒冷下におけるヒトの体温調節と運動時低体温症の発症メカニズム」
- 環境省「熱中症警戒アラートやエアコンを利用し、この夏も万全の熱中症対策を!」
- PMC「Human temperature regulation under heat stress in health, disease, and injury」
- PMC「Human cold habituation: Physiology, timeline, and modifiers」

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