なぜ瞳孔対光反射にはメラノプシンを持つ網膜神経節細胞も関わるの?

明るい場所に出ると、瞳孔は自動的に小さくなります。この瞳孔対光反射は、長い間「杆体や錐体が光を受け取り、その情報が脳へ送られて起こる反射」と理解されてきました。

ところが現在では、網膜には杆体・錐体とは別に、メラノプシンという光受容タンパク質を持ち、自分自身でも光を感じられる網膜神経節細胞があることがわかっています。これは内因性光感受性網膜神経節細胞、英語ではintrinsically photosensitive retinal ganglion cell(ipRGC)と呼ばれます。

では、なぜ瞳孔対光反射にこの細胞まで関わるのでしょうか。重要なのは、ipRGCが単なる「光の出口」ではなく、光の強さを比較的長い時間にわたって捉え、杆体・錐体からの情報も受け取りながら、対光反射に関わる脳領域へ信号を送る役割を持つことです。

目次

結論:ipRGCは自ら光を感じながら、杆体・錐体の信号もまとめて対光反射の中枢へ送るから

瞳孔対光反射には、杆体、錐体、そしてメラノプシンを持つipRGCが協力して関わります。

杆体と錐体は、暗い環境から明るい環境まで幅広い光条件を捉え、色や形を見る視覚にも重要です。一方、ipRGCはメラノプシンによって自ら光を受け取る能力を持ち、周囲がどの程度明るいかという情報を脳へ伝えることに特に関係します。

さらにipRGCは、杆体や錐体から網膜内回路を通じて届く信号も受け取ります。そのため、対光反射では「杆体・錐体か、ipRGCか」のどちらか一方だけが働くのではなく、複数の光受容系からの情報が組み合わされています。

網膜神経節細胞なのに、なぜ自分で光を感じられるの?

一般的な網膜神経節細胞は、杆体や錐体が受け取った光情報を網膜内の神経回路から受け取り、その軸索を視神経として脳へ送る「出力細胞」として働きます。

しかしipRGCは、細胞自身にメラノプシンという光受容タンパク質を持っています。そのため、杆体や錐体から入力がなくても、一定の条件では光に対して自ら反応できます。

この性質が「内因性光感受性」と呼ばれる理由です。J-STAGEの総説や研究報告でも、メラノプシンを含む網膜神経節細胞が対光反射の分光感度や光反応に寄与することが示されています。

つまりipRGCは、光を受け取る受容器としての性質と、脳へ情報を運ぶ神経節細胞としての性質をあわせ持つ、少し特殊な細胞です。

杆体や錐体があるのに、なぜ別の光受容系が必要なの?

杆体や錐体は非常に優れた光受容器です。杆体は弱い光に敏感で、錐体は明るい環境での細かな視覚や色覚に重要です。

一方、瞳孔の大きさを調節するときには、「何が見えているか」だけでなく、「環境全体がどれくらい明るい状態なのか」という情報も重要です。

ipRGCは、短い光変化だけでなく、持続する光に対して比較的ゆっくり、長く反応する性質があります。このため、周囲の明るさを持続的に監視する仕組みに適しています。

こうした信号は瞳孔の調節だけでなく、体内時計を外界の明暗周期に合わせる概日リズムの調節にも利用されます。日本自律神経学会誌の総説でも、メラノプシン含有網膜神経節細胞からの信号が視交叉上核や視蓋前オリーブ核へ送られ、概日リズムや瞳孔反応に関わることが説明されています。

ipRGCは杆体・錐体と別々に働くの?

完全に別々ではありません。

ipRGCはメラノプシンによって自ら光を感じる一方、杆体や錐体から始まる網膜内の信号も受け取ります。海外の総説では、ipRGCは自ら光受容器として働くだけでなく、杆体・錐体からの信号を非画像形成性の視覚機能へ伝える主要な経路としても機能すると整理されています。

そのため、瞳孔対光反射は単純に「メラノプシンだけの反射」ではありません。光の強さや時間、波長などによって、杆体、錐体、メラノプシン系の寄与の割合が変わります。

特に光を当て始めた直後の反応と、しばらく光を当て続けたときの反応、光を消したあとに残る反応では、それぞれの光受容系の寄与が同じではありません。

なぜ青色に近い光への反応が注目されるの?

メラノプシンは、可視光の中でも比較的短い波長域に感度が高く、人を対象とした研究ではおよそ480nm前後の青緑色領域との関係がよく調べられています。

そのため、瞳孔反応を研究するときには、波長の異なる光を使って、杆体・錐体とメラノプシン系の寄与を分けて調べる方法があります。

千葉大学の研究者によるJ-STAGE論文では、瞳孔対光反射の分光感度を調べ、メラノプシンを含む網膜神経節細胞の寄与を検討しています。また、北里大学の研究報告でも、青色光などを利用してメラノプシン由来の瞳孔反応を評価する研究が紹介されています。

ただし、「青い光だけがipRGCを刺激する」という意味ではありません。メラノプシンの感度には幅があり、実際の瞳孔反応では杆体や錐体からの入力も重なります。

光を消したあとも瞳孔がすぐ元に戻らないことがあるのはなぜ?

強い光を一定時間当てたあと、光を消しても瞳孔がすぐには元の大きさへ戻らず、しばらく縮瞳が残ることがあります。この反応はpost-illumination pupil response(PIPR)と呼ばれます。

PIPRにはメラノプシンを持つipRGCの持続的な反応が強く関係すると考えられており、研究ではメラノプシン系の機能を評価する指標の一つとして使われています。

杆体や錐体の反応は光の変化に素早く応答する一方、メラノプシン系は比較的ゆっくり立ち上がり、持続しやすいという特徴があります。この時間特性の違いが、瞳孔反応の時間経過にも反映されます。

ipRGCからの信号は脳のどこへ行くの?

対光反射に関わるipRGCの軸索は視神経を通り、脳の視蓋前域にある視蓋前オリーブ核などへ投射します。

そこから左右のEdinger–Westphal核へ信号が伝わり、副交感神経性の経路が働きます。信号は動眼神経、毛様体神経節、短毛様体神経を経て、虹彩の瞳孔括約筋へ届きます。瞳孔括約筋が収縮すると瞳孔が小さくなります。

一方、ipRGCの一部は視交叉上核にも投射します。視交叉上核は概日リズムの中心的な時計として働くため、同じ網膜の光情報が「瞳孔の調節」と「体内時計の同調」という異なる生理機能へ利用されます。

「見るための光」と「体を調節するための光」は同じなの?

同じ光ですが、脳で使われる目的は一つではありません。

物の形や色を意識的に見るための視覚情報は、主に網膜から外側膝状体を経て大脳の視覚野へ送られます。これを画像形成性の視覚と呼ぶことがあります。

一方、瞳孔対光反射や概日リズムの調節では、光の強さや明暗周期そのものが重要です。こうした働きは非画像形成性の視覚機能と呼ばれます。

ipRGCはこの非画像形成性の経路で特に重要ですが、現在では一部のipRGCが画像形成性の視覚にも関係することがわかっており、「見る系」と「体を調節する系」が完全に独立しているわけではありません。

ipRGCが見つかる前は、対光反射をどう考えていたの?

以前は、哺乳類の光受容器は杆体と錐体だけだと考えられていました。そのため、対光反射も杆体・錐体が光を受け取り、その信号が網膜神経節細胞を通って脳へ運ばれる仕組みとして説明されていました。

ところが、杆体・錐体の機能が大きく失われても、一部の動物や患者で光による生理反応が残ることが知られていました。こうした現象は従来の説明だけでは理解しにくいものでした。

その後、メラノプシンを持つipRGCが発見され、網膜には杆体・錐体以外にも光を直接感じる細胞があることが明らかになりました。これによって、対光反射や概日リズムの光応答をより詳しく説明できるようになりました。

メラノプシンだけで瞳孔対光反射は成立するの?

通常の人の瞳孔対光反射を、メラノプシンだけで説明することはできません。

杆体と錐体は、光を当てた直後の瞳孔反応やさまざまな明るさ条件で重要な役割を持ちます。ipRGCはそれらの信号を受け取りながら、自身のメラノプシンによる光反応も加えて脳へ伝えます。

つまり、瞳孔対光反射は複数の光受容系が協力して作る反応です。どの系がどの程度寄与するかは、光の強さ、波長、刺激時間、暗順応の状態などによって変わります。

この点を理解すると、「対光反射の受容器は一種類だけ」という単純な図ではなく、網膜内で複数の光情報が統合されていることがわかります。

この仕組みを調べることにはどんな意味がある?

ipRGCを含む瞳孔反応の研究は、基礎的な神経科学だけでなく、網膜や視神経の機能を非侵襲的に調べる研究にも使われています。

異なる波長や強さの光を用いて瞳孔反応を測定すると、杆体・錐体・メラノプシン系の反応をある程度分けて評価できる可能性があります。網膜疾患、視神経疾患、概日リズムに関わる研究などで応用が検討されています。

ただし、瞳孔反応は年齢、薬剤、照明条件、自律神経活動など多くの要因に影響されます。特定の瞳孔反応だけを見て病気を自己判断することはできず、臨床では他の検査と組み合わせて評価されます。

まとめ

瞳孔対光反射にメラノプシンを持つ網膜神経節細胞が関わるのは、ipRGCが自分自身で光を感じる能力を持ち、さらに杆体や錐体からの光情報も受け取りながら、対光反射の中枢へ信号を送るからです。

杆体と錐体は光の変化や視覚に重要で、ipRGCは周囲の明るさを持続的に捉える働きに強く関係します。これらが協力することで、瞳孔は幅広い明るさや時間条件に応じて適切に調節されます。

対光反射は「杆体・錐体が光を感じて瞳孔が縮む」という一つの経路だけではなく、メラノプシン系を含む複数の光受容機構が統合された反応なのです。

参考資料

関連記事

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次