熱さや電気刺激などの侵害刺激を繰り返すと、逃避反射はいつも同じ大きさで続くわけではありません。
一定の強さの刺激を何度も加えると、反射がだんだん大きくなることがあります。一方、別の条件では反射が次第に小さくなることもあります。
なぜ、同じような侵害刺激を繰り返しているのに、反射が強くなったり弱くなったりするのでしょうか。
理由は、脊髄の侵害受容回路に「反復入力で一時的に興奮しやすくなる仕組み」と「同じ入力への反応を抑えていく仕組み」の両方があるからです。刺激の間隔、強さ、回数、直前までの刺激履歴によって、どちらの作用が優位に現れるかが変わります。
結論:反復刺激は脊髄回路に促通と抑制の両方を起こし得るから
侵害刺激が皮膚などへ加わると、その情報はAδ線維やC線維などを通って脊髄後角へ入り、複数の介在ニューロンを介して屈筋を活動させます。これが侵害受容性屈曲反射、いわゆる逃避反射です。
脊髄後角では、入力が繰り返されると神経細胞の興奮性が一時的に高まることがあります。すると刺激強度が同じでも、後の刺激ほど大きな反射が出ることがあります。これがwind-upと呼ばれる現象です。
一方、同じ刺激を繰り返すことで反射が次第に小さくなる馴化も起こります。
つまり、反復刺激には「増幅する方向」と「抑える方向」の両方の可塑性があり、そのバランスで反射の大きさが決まります。
wind-upとは何?
wind-upは、同じ強さの侵害刺激を一定の頻度で繰り返したとき、脊髄後角ニューロンや逃避反射の応答が刺激ごとに大きくなる現象です。
大学病院医療情報ネットワークの「痛みと鎮痛の基礎知識」でも、C線維を繰り返し刺激すると脊髄後角ニューロンの反応性が増加する現象としてwind-upが説明されています。
ヒトでも、腓腹神経などへ一定強度の刺激を連続して加えると、屈曲反射の筋電図振幅と痛みの評価が刺激回数とともに増えることがあります。
これは、刺激そのものが途中から強くなったのではなく、脊髄回路側の応答性が一時的に高まった結果です。
なぜ同じ刺激なのに反射がだんだん大きくなるの?
侵害受容入力が短い間隔で繰り返されると、脊髄後角ニューロンの膜電位が前の刺激から十分に元へ戻る前に次の入力が入ります。
このとき、遅い興奮性シナプス電位が時間的に重なり、神経細胞は次第に発火しやすい状態になります。
wind-upにはNMDA型グルタミン酸受容体などが関与し、反復入力によって神経細胞内の興奮性が高まることが知られています。
その結果、末梢から入る刺激強度が同じでも、脊髄から運動ニューロンへ送られる出力が大きくなり、逃避反射も増強します。
時間的加重とは何?
人を対象とした痛み研究では、反復刺激によって痛みが次第に強く感じられる現象を「時間的加重」と呼びます。
時間的加重はwind-upと完全に同じものではありません。wind-upは主に脊髄後角ニューロンや反射回路の活動増強を指し、時間的加重は人が感じる痛みの増加を含む心理物理学的な指標です。
ただし、両者は反復する侵害入力に対する中枢神経系の増幅という点で密接に関連します。
国内の疼痛研究でも、一定間隔で痛み刺激を繰り返して痛みの増え方を測る時間的加重は、中枢性疼痛修飾を評価する指標の一つとして使われています。
では、馴化とは何?
馴化は、同じ刺激を繰り返したときに反応が次第に小さくなる現象です。
侵害受容性屈曲反射でも、同じ条件の刺激を何度も繰り返すと、後半の反射振幅が前半より小さくなることがあります。
健康成人を対象とした研究では、50回の刺激を繰り返すとNFRの大きさが低下し、その程度は刺激間隔と刺激強度に依存しました。
この研究では、弱めの刺激や短い刺激間隔で馴化が強く現れました。
つまり、反復刺激は必ず感作を起こすわけではなく、条件によっては神経系が同じ入力への反応を抑える方向へ適応します。
wind-upと馴化は矛盾しないの?
矛盾しません。
二つの現象は、測定している時間スケールや刺激条件、回路の状態が異なるためです。
比較的短い間隔で数回の侵害刺激を加えると、脊髄後角の興奮が積み重なってwind-upが目立つ場合があります。
一方、より多数の刺激を繰り返したり、特定の刺激強度・間隔を使ったりすると、反射回路の抑制や適応が優位となり、馴化が目立つことがあります。
さらに、人によっても同じ刺激列への反応は異なります。平均すると馴化していても、一部の人では反射が増強する研究もあります。
したがって「反復刺激=増強」「反復刺激=馴化」と一つに決めることはできません。
刺激の間隔はなぜ重要なの?
前の刺激による神経回路の変化が、次の刺激までどの程度残っているかを決めるからです。
刺激間隔が適切に短いと、前の刺激で生じた興奮性変化が消える前に次の刺激が入り、時間的加重やwind-upが起こりやすくなります。
一方、NFRの馴化研究では、刺激間隔によって反射低下の程度が変わることも示されています。
つまり刺激間隔は単なる「テンポ」ではなく、脊髄回路が回復・増幅・抑制のどの状態で次の入力を受けるかを決める重要な条件です。
刺激の強さでも結果は変わるの?
変わります。
侵害刺激が弱すぎると反射そのものが安定して出ません。逆に強い刺激では、多数の侵害受容線維が動員され、脊髄後角への入力も大きくなります。
NFR馴化を調べた研究では、刺激強度が高いほど馴化が弱くなる傾向がみられました。
一方、wind-upの研究では、反射が十分に起こる強度で一定刺激を繰り返すと、刺激強度や頻度に依存して反射増強が大きくなることがあります。
このため、刺激強度が違う研究の結果をそのまま比較することはできません。
反射が強くなるのは末梢神経が敏感になるから?
それだけではありません。
wind-upは、同じ末梢刺激を繰り返しても脊髄側の反応が大きくなる現象です。そのため、末梢の侵害受容器が途中からより強く反応したことだけでは説明できません。
ヒトの研究でも、一定強度の刺激を繰り返したときに屈曲反射が増強することが示されています。
この意味でwind-upは、脊髄後角の短期的な活動依存性可塑性を観察する方法の一つです。
ただし、炎症などで末梢感作が同時に起きている場合には、末梢入力自体も変化するため、両者を区別する必要があります。
反射が弱くなるのは筋が疲れたから?
筋疲労だけでは説明できません。
NFRの馴化では、同じ反射を多数回起こすと筋電図振幅が低下しますが、その原因は単純な筋疲労とは限りません。
馴化は中枢神経系の反応低下を含む学習・適応現象で、刺激間隔や刺激強度によって変化します。
また、痛み刺激への馴化を調べた研究では、反復刺激による痛みの低下に、内因性疼痛抑制系の活動増加が関係する可能性が示されています。
したがって「反射が小さくなった=筋が疲れて動けなくなった」と考えるのは適切ではありません。
脳からの抑制も関係するの?
関係します。
逃避反射は脊髄で成立できますが、脊髄後角は脳幹や大脳から下る神経系の影響を受けます。
下行性疼痛調節系は、脊髄後角で侵害情報を抑えたり、条件によっては促通したりします。
反復刺激による馴化や感作の個人差には、この下行性調節の違いも関わると考えられています。
実際、同じ固定強度の侵害刺激を繰り返した研究では、平均ではNFRが馴化した一方、一部の参加者ではNFRが増強しました。
このような結果は、末梢刺激だけでなく中枢の調節状態が反射変化を左右することを示します。
痛みの感じ方と逃避反射の変化は同じ方向になるの?
必ずしも同じではありません。
ある研究では、反復刺激によってNFRは平均的に小さくなった一方、主観的な痛み評価は増強しました。
つまり脊髄反射が馴化していても、本人が感じる痛みは強くなることがあります。
痛みの知覚には脊髄だけでなく、視床、大脳皮質、島皮質、前部帯状皮質など広い中枢神経ネットワークが関わるためです。
このため「痛く感じるほど逃避反射も必ず大きい」と単純には言えません。
wind-upは中枢性感作と同じなの?
同じではありません。
wind-upは、侵害入力を繰り返している最中に起こる短期的な活動依存性の興奮増強です。
一方、中枢性感作は、侵害入力のあとも中枢神経系の興奮性が高まった状態が持続し、痛覚過敏やアロディニアなどにつながるより広い概念です。
wind-upは中枢性感作を理解する手がかりになりますが、wind-upが起きたことだけで慢性的な中枢性感作が成立したとは言えません。
この違いは、短期的な反射増強を慢性痛の病態と直接同一視しないために重要です。
なぜ反復刺激への反応を変える必要があるの?
神経系が刺激の意味に応じて防御反応を調節するためです。
同じ弱い刺激が何度も続き、危険性が低い場合には、毎回大きな逃避反射を起こすより反応を抑えるほうが効率的な場合があります。
一方、侵害刺激が短時間に繰り返される場合には、組織損傷の危険が続いている可能性があります。そのとき反射回路を一時的に増幅し、より強い防御反応を起こすことには意味があります。
促通と馴化の両方を持つことで、神経系は刺激の頻度や強さ、履歴に応じて防御反応の利得を変えられます。
同じ人でも日によって違うことはあるの?
あります。
睡眠、疲労、ストレス、直前の痛み刺激、薬剤、炎症などによって、脊髄後角や下行性疼痛調節系の状態は変わります。
そのため、同じ刺激プロトコルでもwind-upや馴化の程度が完全に一定とは限りません。
研究では、刺激部位、刺激強度、刺激間隔、姿勢、筋電図の記録条件などをそろえ、個人内・個人間の変動をできるだけ区別します。
反復刺激で反射が変わる要因を整理すると?
- 刺激間隔
- 刺激強度
- 刺激回数
- 刺激前の反射閾値
- 脊髄後角ニューロンの興奮性
- NMDA受容体などを介した短期的促通
- 脊髄内の抑制性回路
- 脳からの下行性疼痛調節
- 直前までの刺激履歴
- 個人差やその日の生理状態
これらの組み合わせによって、同じ強さの侵害刺激を繰り返しても、反射が増強する場合と低下する場合があります。
まとめ
同じ侵害刺激を繰り返すと逃避反射が強くなったり弱くなったりするのは、脊髄の侵害受容回路に促通と抑制の両方の短期的な可塑性があるからです。
一定強度の刺激を適切な頻度で繰り返すと、脊髄後角の興奮が時間的に加重され、wind-upとして反射が次第に大きくなることがあります。
一方、多数の刺激を繰り返す条件などでは、反射が徐々に小さくなる馴化も起こります。その程度は刺激間隔や刺激強度に左右されます。
また、痛みの感じ方と反射振幅は必ずしも同じ方向に変化しません。
したがって、反復刺激に対する逃避反射の変化は「慣れるか敏感になるか」の二択ではなく、刺激条件と脊髄・脳の状態によって、増幅と抑制のどちらが優位になるかが決まる動的な神経現象なのです。
参考資料
- 大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)「痛みと鎮痛の用語集」
- 日本レーザー医学会誌「無偏光近赤外線照射が手指母指球部の圧痛閾値と触覚閾値および時間的加重に与える影響」
- PMC: A Minimally Invasive Method for Observing Wind-Up of Flexion Reflex in Humans
- PubMed: Habituation of the nociceptive flexion reflex is dependent on inter-stimulus interval and stimulus intensity
- PubMed: Behavioral Inhibition and Behavioral Activation are Related to Habituation of Nociceptive Flexion Reflex, but Not Pain Ratings

コメント