子どもの成長には個人差がありますが、その「差の大きさ」までずっと一定というわけではありません。ある年齢では同じくらいに見えていた子ども同士の差が思春期に大きく広がることもあれば、病気や栄養状態が改善したあとに差が小さくなることもあります。
これは、成長を支える仕組みが年齢によって変わり、思春期の開始時期、成長ホルモンや性ホルモン、栄養、病気、生活環境などの影響の強さも時間とともに変化するためです。
つまり、成長の個人差は最初から固定された「幅」ではありません。子どもたちがどの発達段階にいるか、どのような環境に置かれているかによって、集団の中のばらつきは広がったり縮まったりします。
「個人差がある」と「個人差の大きさが変わる」は別の話
成長には、もともと人と人の違いがあります。身長、体重、筋肉量、思春期の時期などは、全員が同じ値になるわけではありません。
しかし、ここで重要なのは、ばらつきの大きさ自体も年齢によって変わることです。
たとえば、学童期には身長が比較的似た範囲に集まっていても、思春期に入ると早く成長スパートを迎えた人と、まだその前にいる人が混在するため、一時的に身長差が大きく見えることがあります。
反対に、成熟の時期がそろってくると、一時的に広がっていた差が小さくなることもあります。
成長速度そのものが年齢によって変わる
子どもの身長は、毎年同じ速さで伸びるわけではありません。
出生後は非常に速く伸び、その後は徐々に成長速度が下がり、学童期には比較的安定します。思春期になると再び大きく加速し、成長スパートを過ぎると減速します。
日本人小児の縦断データでも、身長の成長速度は年齢とともに大きく変化し、思春期には最大成長速度に達する時期があることが示されています。
個人差の大きさも、この成長速度の変化に影響されます。全員が似た速度で伸びている時期よりも、加速している人とまだ加速していない人が混在する時期のほうが、差は大きくなりやすいのです。
思春期では個人差が一時的に大きく見えやすい
成長の個人差が特に目立ちやすいのが思春期です。
日本人小児の縦断研究では、最大成長速度に達する平均年齢は男子で約13歳、女子で約11歳ですが、その時期には個人差があります。
そのため、同じ12歳でも、一人はすでに成長スパートの最中で、別の人はまだ思春期前ということがあります。
このとき、二人の身長差は急に大きく見えるかもしれません。しかし、その差の一部は「最終身長が大きく違うから」ではなく、「成長スパートの時期がずれているから」生じています。
思春期のタイミングをそろえて比べると見え方が変わる
思春期の個人差を理解するには、暦年齢だけでなく成熟段階を見ることが重要です。
2018年に日本人小児を対象に作られた縦断成長曲線では、思春期の成長スパートの時期が人によって違うため、一つの横断的な成長曲線だけでは個人の経過を評価しにくいことが指摘されました。
同じ年齢で比べると大きく見える差でも、「思春期のどの段階にいるか」をそろえて比べると差が小さく見える場合があります。
これは、個人差の大きさが、比較する基準によっても変わることを示しています。
乳幼児期では出生時の条件による差が大きく表れることがある
出生直後の体格は、遺伝だけでなく、胎児期の栄養、胎盤機能、母体の健康状態などの影響を受けます。
そのため、出生時にはかなり大きさの違いがある子ども同士でも、その後の数年間で差が変化することがあります。
出生後に十分な栄養と健康な生活環境が得られれば、出生時に小さかった子どもが比較的速く成長し、周囲との差を縮めることがあります。
反対に、出生後も栄養不足や慢性疾患が続けば、差がさらに広がる場合があります。
キャッチアップ成長では一度広がった差が縮まることがある
病気や低栄養などで一時的に成長が抑えられた後、原因が改善すると、通常より速い速度で成長することがあります。これをキャッチアップ成長と呼びます。
このとき、以前は同年齢の子どもとの差が広がっていたとしても、回復後の成長によって差が小さくなることがあります。
ただし、必ず完全に追いつくわけではありません。成長抑制が起きた時期、期間、強さ、思春期の進み具合、成長板に残された成長能力などによって回復の程度は変わります。
つまり、個人差は一方向に広がるだけではなく、条件が変わることで縮まることもあります。
栄養環境の差が大きいと成長のばらつきも大きくなりやすい
栄養は、成長に必要なエネルギーと材料を供給し、成長ホルモン・IGF-1系などの働きにも影響します。
十分な栄養が得られている子どもと、慢性的な栄養不足がある子どもが同じ集団にいる場合、成長速度の差は大きくなりやすくなります。
身長成長のばらつきを扱った研究では、豊かな社会と、栄養や健康環境に差が大きい社会を比べたとき、成長速度のばらつきが異なることが報告されています。
これは、環境条件が均一に近い集団ほど、環境による大きな成長差が減りやすいことを示す例です。
環境が整うと個人差が必ず小さくなるわけではない
ただし、「環境が良くなれば個人差は必ず小さくなる」と単純には言えません。
大きな栄養不足や感染症が減ると、そのような環境要因による差は小さくなる一方、遺伝的な体格差や思春期タイミングの違いが相対的に目立ちやすくなることがあります。
つまり、環境差が減ったあとも、個人差そのものがなくなるわけではありません。
「何が差を作っているか」が、環境要因中心から遺伝・成熟時期など別の要因へ変わることがあります。
遺伝の影響も年齢によって同じ強さには見えない
身長には多数の遺伝的要因が関係していますが、その影響の見え方は発達段階によって変わります。
胎児期や乳幼児期では、母体環境、出生時の状態、栄養などの影響が大きく、学童期になると成長ホルモン・IGF-1系や成長板の個人差がより表れやすくなります。
思春期では、性ホルモンや成熟時期の遺伝的な違いも加わります。
そのため、同じ遺伝的背景でも、どの年齢で比較するかによって個人差への寄与の見え方が変わります。
病気がある集団では成長差が広がることがある
慢性疾患、炎症、消化吸収障害などは、成長速度を低下させることがあります。
同じ年齢の集団の中に、健康な子どもと慢性的な病気のある子どもが混在すれば、成長速度や体格のばらつきは大きくなります。
病気では、食欲低下、栄養吸収の低下、炎症性サイトカイン、成長ホルモン・IGF-1系の変化など複数の経路が関わります。
治療や栄養状態が改善すると差が縮まる場合もあるため、病気による個人差も固定されたものではありません。
活動量の差は体重や筋肉の個人差を変えやすい
成長の個人差は身長だけではありません。体重、筋肉量、骨量なども年齢と環境でばらつきが変化します。
学童期から思春期にかけては、運動習慣の違いが大きくなります。競技スポーツを続ける人と、運動量の少ない人では、筋肉量や体脂肪、骨への負荷が異なります。
その結果、同じ年齢でも体組成の差が広がることがあります。
一方、運動を始めたりやめたりすれば、その後の差の大きさも変わります。環境による個人差は、生活習慣が変わるたびに固定され直されるわけではなく、時間の中で動きます。
思春期では男女差と個人差が重なって見える
思春期では、平均的な男女差と、同じ性別の中の個人差が同時に大きくなります。
女子は平均的に男子より早く思春期に入り、成長スパートも早く起こります。男子では思春期後半に筋肉量の増加が大きくなりやすく、女子では脂肪分布などの変化も進みます。
しかし、同じ性別の中でも成熟の時期には幅があります。
そのため、思春期の集団を単純に年齢だけで並べると、性別差、成熟時期の差、成長速度の差が重なり、個人差が非常に大きく見えることがあります。
平均値が変わることと個人差が変わることは別
集団の平均身長が高くなったとしても、個人差まで同じように変化するとは限りません。
全員がほぼ同じ程度に高くなれば、平均値は上がってもばらつきはあまり変わりません。
一方、一部の子どもだけが大きく成長条件を改善できれば、平均値の変化と同時に個人差が広がることがあります。
成長を集団で考えるときには、「平均がどう変わったか」と「ばらつきがどう変わったか」を分けて考える必要があります。
同じ身長差でも年齢によって意味が違う
たとえば、二人の身長差が10cmあるとしても、その意味は年齢によって異なります。
学童期に長く安定して10cm差がある場合と、思春期に一人だけ先に成長スパートへ入り、数か月で差が10cmまで広がった場合では、背景が違います。
後者では、もう一人が後から成長スパートに入ることで差が縮まる可能性があります。
したがって、個人差を見るときには「何cm違うか」だけでなく、「なぜ今その差が生じているか」を時間軸で考えることが重要です。
成長速度のばらつきと最終身長のばらつきは同じではない
成長速度に大きな差がある時期でも、最終身長の差が同じ割合で大きくなるとは限りません。
思春期の開始が早い人は早く成長速度が上がりますが、その後は早く減速します。遅い人は一時的に小柄に見えても、後から成長スパートを迎えることがあります。
このため、途中の成長速度差は一時的に非常に大きくても、成人時の身長差はそれより小さいことがあります。
成長途中の「差の大きさ」と、最終的な「結果の差」は別々に見る必要があります。
一回の測定では個人差が広がったのか分からない
ある学校で一度だけ身長を測り、ばらつきが大きかったとしても、それだけで「最近個人差が広がった」とは判断できません。
個人差の変化を見るには、同じ集団や同じ子どもたちを時間的に追う縦断データが重要です。
日本人小児の縦断成長研究では、一人ひとりの身長と成長速度を長期間追うことで、思春期の最大成長速度の時期や大きさの個人差が明らかにされています。
個人差が時間とともに変わる現象を理解するには、横断的な「今の差」と縦断的な「差の変化」を分けることが必要です。
成長曲線では個人の位置と集団の幅を両方見る
成長曲線は、一人の子どもの経過を見るための道具であると同時に、同年齢集団の中にどのくらいの幅があるかを見るための道具でもあります。
日本小児内分泌学会の成長曲線では、平均だけでなく標準偏差やパーセンタイルによって集団内のばらつきを表します。
一人の子どもが同じSD帯に沿って成長している場合と、短期間に複数の基準線を横切る場合では意味が違います。
個人差があること自体は正常でも、その子自身の位置が時間とともに急に変わった場合には、最近の環境や健康状態の変化を確認する必要があります。
成長の個人差が広がる時期があるからこそ比較しすぎない
特に思春期には、同級生同士の身長や体つきの差が急に大きくなることがあります。
しかし、その差のかなりの部分は成熟時期のずれによる一時的なものかもしれません。
この時期に周囲と比較しすぎると、「自分だけ成長が遅い」「急に大きくなったからこのままずっと差が広がる」と誤解しやすくなります。
成長は順位を固定する過程ではなく、一人ひとり違う時期に加速・減速する過程です。平均との比較だけでなく、自分自身の成長曲線を見ることが重要です。
どんな変化なら確認が必要?
個人差の大きさが年齢で変わることは正常ですが、すべての変化を「個人差」で片づけてよいわけではありません。
以前まで一定の成長曲線に沿っていたのに急に下向きへ外れる、身長の伸びが長く低下する、体重減少や慢性的な腹痛・下痢を伴う、非常に早い時期に急激な思春期変化が進むなどの場合には、病気や栄養状態、内分泌系を確認することがあります。
重要なのは、一時点で周囲とどれだけ違うかだけではなく、その差がいつから、どのように変化してきたかを見ることです。
成長の個人差が年齢や環境で広がったり縮まったりする理由を整理すると
子どもの成長の個人差が年齢や環境によって変化するのは、成長速度、成熟時期、ホルモン、栄養、病気、活動量などの影響が、発達段階ごとに異なる強さで働くためです。
乳幼児期では出生時の条件や栄養環境の影響が大きく、学童期には比較的安定した成長へ移ります。思春期になると、成長スパートの開始時期が人によってずれるため、一時的に身長差が大きくなりやすくなります。
さらに、低栄養や病気で差が広がることもあれば、原因の改善とキャッチアップ成長によって差が縮まることもあります。環境が均一になれば一部の差は小さくなりますが、遺伝や成熟時期の違いが相対的に目立つこともあります。
つまり、成長の個人差は固定された幅ではありません。発達段階と環境条件が変わるたびに、何が差を作るかも、差がどのくらい大きく見えるかも変化します。成長を理解するときには、今の差だけでなく、その差が時間の中でどう変わってきたかを見ることが大切です。
関連する「なぜ?」
参考資料
- 日本小児内分泌学会「日本人小児の体格の評価」
- Suwa S, et al. Longitudinal Standards for Height and Height Velocity for Japanese Children from Birth to Maturity. Clinical Pediatric Endocrinology. 1992.
- Yoshii K, Tanaka T. Establishment of a longitudinal growth chart corresponding to pubertal timing. Clinical Pediatric Endocrinology. 2018.
- Lui JC, Palmer AC, Christian P. Nutrition, Other Environmental Influences, and Genetics in the Determination of Human Stature. Annual Review of Nutrition. 2024.
- Variability in stature growth. 1989.

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