偏光サングラスをかけると、水面や道路のぎらつきが弱く見えることがあります。また、液晶ディスプレイやカメラのフィルターにも「偏光」が利用されています。
では、そもそも光にはなぜ「向き」があり、偏光という現象が生じるのでしょうか。
結論からいうと、光は電場と磁場が進行方向に対して横向きに振動する電磁波であり、その振動には向きという自由度があるからです。さらに、偏光板、反射、散乱、結晶などは、その向きによって光との相互作用の強さを変えるため、特定の向きの成分だけを残したり、成分どうしの位相を変えたりできます。その結果、光は特定の偏光状態を持つようになります。
この記事では、偏光とは何か、なぜ光に偏光という性質があるのか、無偏光の光から偏光がどのように生じるのかを順に説明します。
偏光とは「光の電場がどの向きに振動しているか」という性質
光は電磁波の一種です。電磁波では、電場と磁場が時間とともに変化しながら空間を伝わります。東京大学の解説でも、光は電場と磁場が進行方向に対して垂直に振動する横波として説明されています。
光の進む向きを前後方向だとすると、電場はその方向ではなく、上下や左右のような横向きに振動します。この「電場がどの方向に振動しているか」を表す性質が偏光です。
光学では、通常は電場の振動方向を偏光方向として表します。たとえば、電場が上下方向だけに振動して進む光は、上下方向の直線偏光と呼べます。左右方向だけに振動する光も、別の直線偏光です。
重要なのは、偏光が「光の進む向き」とは別の情報だということです。同じ方向に進む光でも、電場が上下に振動する場合と左右に振動する場合では、偏光状態が異なります。
なぜ光には偏光という自由度があるのか
偏光が存在する根本的な理由は、光が横波だからです。
波には大きく分けて、振動方向が進行方向と同じ縦波と、振動方向が進行方向に垂直な横波があります。たとえば、ぴんと張った縄を上下に振って波を送ると、波は前へ進みながら縄自体は上下に振動します。これは横波です。
横波では、進行方向に垂直な面の中に複数の振動方向があります。上下にも振れますし、左右にも振れます。その中間の斜め方向にも振れます。
光も同じように、進行方向に垂直な面の中で電場の向きを持てます。このため、光には偏光という自由度が生まれます。
OpenStaxでも、電磁波では電場と磁場が進行方向に垂直であり、電場の方向を偏光方向として定義すると説明されています。偏光は、光が横波であることを直接反映した性質なのです。
太陽光や電球の光は最初から偏光しているのか
日常で使う「偏光していない光」という表現は、電場が振動していないという意味ではありません。むしろ、さまざまな偏光方向を持つ光が混ざっている状態です。
太陽、白熱電球、蛍光灯など、多くの一般的な光源では、非常に多くの原子や分子が独立に光を出しています。それぞれが出す光の偏光方向や位相はそろっていないため、長い時間や広い範囲で平均すると特定の偏光方向が優勢になりません。
このような状態を無偏光と呼びます。
一方、レーザー光では装置の構造や共振器の条件によって特定の偏光状態が選ばれることがあります。ただし、レーザーだから必ず完全な偏光になるわけではなく、実際の偏光状態は装置によって異なります。
偏光板を通すとなぜ偏光が生じるのか
無偏光の光を偏光板に通すと、特定方向の直線偏光を取り出すことができます。
偏光板の内部では、分子などが一定方向に並び、電場の向きによって光との相互作用の強さが異なります。OpenStaxでは、長い分子に沿った方向では電子が動きやすく、その方向の電場成分は強く吸収される一方、それと垂直な方向の成分は比較的通過しやすいというモデルで説明しています。
つまり、偏光板が光に新しい「向き」を付け加えるというより、もともと光の中に含まれていたさまざまな偏光成分のうち、一部を強く減らし、残った成分を目立たせています。
このように、方向によって吸収のされ方が異なる性質は二色性と呼ばれます。偏光板は、この方向選択的な吸収を利用して偏光を作ります。
反射でも偏光が生じるのはなぜか
水面やガラス面で反射した光は、条件によって特定方向の偏光成分が強くなります。偏光サングラスが水面や道路のぎらつきを抑えられるのは、この性質を利用しているためです。
物質の境界に斜めから光が当たると、入射面に平行な電場成分であるp偏光と、入射面に垂直なs偏光では、反射率が異なります。東京大学の光学資料でも、s偏光とp偏光では入射角によって反射率が違い、特定の角度ではp偏光の反射率が極めて小さくなることが示されています。
この角度はブリュースター角と呼ばれます。ブリュースター角付近で反射した光では、p偏光が弱くなり、s偏光の割合が高くなります。
つまり反射面は、二つの偏光成分を同じようには扱いません。その違いによって、もともと無偏光だった光でも反射後には部分的に偏光した状態になります。
反射そのものの仕組みについては、関連記事「なぜ光は物質の境界で反射するのか?」で詳しく解説しています。
空から来る光が偏光するのはなぜか
偏光は散乱によっても生じます。
太陽光が大気中の分子に当たると、光の電場によって分子中の電荷が振動し、その振動する電荷から別の方向へ電磁波が放射されます。東京大学の解説でも、光の電場が電子を振動させ、その振動が散乱光を生み出すことが説明されています。
振動する電荷が放射する電磁波の強さは方向によって同じではありません。そのため、観測する方向によって特定の電場成分が強くなり、散乱光は部分的に偏光します。
特に太陽から見て約90度離れた方向の空では、散乱光の偏光が比較的強くなります。この性質は、自然界で見られる偏光の代表例です。
結晶を通ると偏光状態が変わるのはなぜか
方解石などの結晶では、原子や分子の並び方に方向性があります。このように方向によって物理的性質が異なることを異方性といいます。
異方性を持つ結晶では、電場の向きによって光に対する応答が異なります。その結果、偏光方向によって屈折率が変わることがあります。
東京大学の光学資料では、異方性媒質中では二つの偏光成分が異なる屈折率で伝わり、成分どうしに位相差が生じることが示されています。
この位相差を利用すると、直線偏光を円偏光や楕円偏光へ変換できます。1/4波長板や1/2波長板は、この原理を利用した代表的な光学素子です。
直線偏光・円偏光・楕円偏光は何が違うのか
偏光は、単に「上下」や「左右」という方向だけで分類されるわけではありません。光の電場を互いに直角な二つの成分に分け、それぞれの振幅と位相差を見ると、さまざまな偏光状態を表せます。
直線偏光
電場の先端が時間とともに一本の直線上を往復する状態です。二つの成分が同位相、または反対位相で振動すると直線偏光になります。
円偏光
互いに垂直な二つの電場成分の振幅が等しく、位相が4分の1周期ずれていると、電場ベクトルの先端が円を描くように回転します。これが円偏光です。
楕円偏光
一般には二つの成分の振幅や位相差が任意なので、電場ベクトルの先端は楕円を描きます。直線偏光と円偏光は、楕円偏光の特別な場合と考えることもできます。
MIT OpenCourseWareでも、偏光を直線偏光、円偏光、楕円偏光、無偏光に分けて扱い、二つの直交成分の組み合わせとして説明しています。
二枚の偏光板を重ねると暗くなるのはなぜか
偏光板を二枚用意し、一枚目を通した光を二枚目へ入れると、二枚目の向きによって明るさが変わります。
一枚目を通過した光は、すでに特定方向の直線偏光になっています。二枚目の偏光板は、その光のうち自分の透過軸に平行な電場成分だけを通します。
二枚の軸が平行なら多くの光が通ります。軸を徐々に回すと通る成分が減り、90度直交すると理想的にはほとんど光が通らなくなります。
このとき透過光の強度は、二つの軸の角度をθとすると、おおよそcos²θに比例して変化します。これはマリュスの法則として知られています。
偏光が単なる言葉ではなく、本当に「向きを持つ波」であることを実感しやすい実験です。
偏光は光の波としての性質を示している
偏光が重要なのは、光が横波であることを示す現象だからです。
進行方向と同じ方向にしか振動できない純粋な縦波では、進行方向に垂直な面内で振動方向を選ぶという意味の偏光は生じません。光で偏光が観測できることは、光の電磁場が横方向の自由度を持つことと深く結びついています。
歴史的にも、偏光現象の研究は光の波動性を理解するうえで重要な役割を果たしました。現在では、光を電磁波として考えることで偏光を自然に説明できます。
偏光と光の色は同じものではない
光の色と偏光は、どちらも光の性質ですが、表しているものは異なります。
色は主に光の波長や周波数の違いと関係します。一方、偏光は電場の振動方向や、直交する成分どうしの位相関係と関係します。
したがって、同じ赤い光でも異なる偏光状態を持てますし、同じ偏光方向でも赤、緑、青などさまざまな波長の光が存在できます。
色の見え方については、関連記事「なぜ光の波長成分の違いを私たちは色として感じるのか?」で詳しく解説しています。
偏光は身近なところでどう使われているのか
偏光の「向きによって透過や反射が変わる」という性質は、多くの技術に利用されています。
偏光サングラスは、水面や道路などから反射して強く偏った光を選択的に弱めます。カメラの偏光フィルターは、ガラスや水面からの反射を抑えたり、空の見え方を調整したりするのに使われます。
液晶ディスプレイでは、偏光板と液晶が光の偏光状態を制御し、画素ごとの明るさを変えています。また、材料に力を加えたときに生じる複屈折を観察すると、内部応力の分布を可視化できる場合もあります。
研究分野では、偏光を詳しく測定することで、薄膜や結晶、表面の性質を調べるエリプソメトリーなどの計測法にも利用されています。
偏光と影はどのように違うのか
影は、物体によって光の一部が遮られ、周囲より光が少ない領域ができる現象です。一方、偏光は、光の電場がどの方向に振動しているかという状態を表します。
つまり、影は主に「光が届く量」の違い、偏光は「届いている光の電場の向き」の違いです。
影の仕組みについては、関連記事「なぜ物体に光が当たると影ができるのか?」で確認できます。
まとめ
光に偏光という性質があるのは、光が電場と磁場の振動からなる横波であり、進行方向に垂直な面の中で電場の振動方向を持てるからです。
- 偏光とは、主に光の電場がどの方向に振動しているかを表す性質である
- 光は横波なので、進行方向に垂直な面内に複数の振動方向を持てる
- 一般的な光源では多くの偏光方向が混ざり、無偏光として見える
- 偏光板は方向による吸収の違いを利用して特定の偏光成分を残す
- 反射や散乱でも、偏光方向ごとの相互作用の違いによって偏光が生じる
- 異方性結晶では偏光成分ごとの屈折率や位相の違いを利用して偏光状態を変えられる
つまり偏光は、光に後から特別な性質を付け加えたものではありません。光そのものが横波として持っている「電場の向き」という自由度を、物質や境界との相互作用が選び出したり変化させたりした結果として現れるものです。
参考資料
- 東京大学 教養学部報「ポケットに偏光板を」
- 東京大学 生産技術研究所「光学 第9章 偏光と結晶光学」
- OpenStax University Physics Volume 3: Polarization
- MIT OpenCourseWare: Lecture 17: Polarization, Polarizer

コメント