同じ手を壁に映しても、懐中電灯を手に近づけると影は大きくなり、壁に近づけると小さくなります。また、小さな光源では輪郭がくっきりしやすい一方、大きな照明では影の縁が柔らかくぼやけます。
なぜ、同じ物体なのに影の大きさやぼやけ方が変わるのでしょうか。
結論からいうと、影の形は、光源から直線的に進む光線と、光源・物体・投影面の位置関係によって幾何学的に決まるからです。点に近い光源では相似な三角形で影の大きさを説明でき、広がりのある光源では本影と半影の範囲が影の硬さを決めます。
この記事では「影がなぜできるか」そのものではなく、影の大きさ・輪郭・本影と半影がどのような法則で決まるのかに焦点を当てます。
影の境界は「物体の端を通る光線」で決まる
日常的な尺度では、光はほぼ直線的に進む光線として扱えます。影を作図するときは、光源から物体の端をかすめるように限界となる光線を引きます。
その光線より内側では直接光が遮られ、外側では光が届きます。したがって、影の輪郭は物体の端を通る光線の延長によって決まります。
J-STAGEに掲載された光学教育の研究でも、影や像を理解するうえで、光の直進と光線モデルを現実の現象と結びつけて考えることの重要性が論じられています。
点光源では相似な三角形で影の大きさが決まる
非常に小さな光源を一点とみなし、物体とスクリーンが光軸にほぼ垂直な単純な配置を考えます。
光源から物体までの距離をa、光源からスクリーンまでの距離をb、物体の高さをH、影の高さをSとすると、相似な三角形から
S = H × b / a
と表せます。
この式から、物体を光源へ近づけてaを小さくすると影は大きくなり、物体をスクリーンへ近づけると影は物体の実際の大きさへ近づくことがわかります。
手影絵で手をライトへ近づけると影が大きくなるのは、光源から広がる光線の幾何学によるものです。
なぜ物体を光源へ近づけると影が大きくなるのか
点光源から出る光は放射状に広がります。物体を光源の近くへ置くと、物体は光源から見て大きな角度を占めます。
物体の端を通った二本の限界光線は、その後も互いに離れながら進みます。そのため、遠くの壁では二本の間隔が大きくなり、影も大きくなります。
逆に物体を壁へ近づけると、光線が広がる距離が短くなるため、影は小さくなります。
太陽の影はなぜ極端に拡大しにくいのか
太陽は非常に大きな天体ですが、地球から非常に遠いため、地上の数メートル程度の範囲では太陽から届く光線はほぼ平行とみなせます。
近くの点光源のように光線が急速に広がらないので、人や建物の影は距離によって極端に拡大しません。
ただし太陽は完全な一点光源ではありません。空に有限の大きさを持って見えるため、その広がりによって影の縁には半影ができます。
大きな光源では本影と半影ができる
蛍光灯、面発光LED、窓、太陽など、現実の光源には広がりがあります。
広がりのある光源では、ある場所に対して「光源の左側からの光は物体に遮られるが、右側からの光は届く」ということが起こります。
光源のすべてが物体に隠される領域が本影です。一方、光源の一部だけが隠される領域が半影です。
OpenStaxの天文学教材や国立天文台の月食解説でも、天体が作る影を本影と半影に分けて説明しています。この考え方は、日常の照明でできる影にもそのまま使えます。
影の「ぼやけ」は半影の幅として説明できる
影の縁がぼやけて見えるのは、暗い本影から明るい領域へ一気に切り替わるのではなく、その間に半影があるからです。
半影では、場所によって見えている光源の割合が異なります。本影に近い場所では光源のごく一部しか見えず暗く、外側へ行くほど見える光源の面積が増えて明るくなります。
その結果、輪郭はなだらかに明るさが変化する「柔らかい影」になります。
影の硬さを決めるのは光源の「見かけの大きさ」
一般に、物体から見た光源の見かけの大きさが大きいほど半影は広がりやすくなります。
したがって、影の硬さは光源の物理的な大きさだけでは決まりません。同じ大きさの照明でも、物体から遠ざければ見かけの角度は小さくなり、点光源に近い影になります。逆に近づければ見かけの角度が大きくなり、半影が広がります。
写真や映像で大きなソフトボックスを被写体の近くに置くと柔らかな影になるのは、このためです。
物体と壁を離すとなぜ影がぼやけるのか
広がりのある光源では、物体からスクリーンまでの距離が長いほど、光源の異なる位置から来る限界光線同士が大きく離れます。
その結果、半影の幅が広がり、影の縁はぼやけます。
反対に物体を壁へ近づけると、光線が広がる余地が小さいため、輪郭は比較的はっきりします。
本影はどこまでも続くとは限らない
点光源では、物体の後ろの完全な影は広がりながら続きます。しかし広がりのある光源で、光源のほうが物体より見かけ上大きい場合、本影は後方へ進むにつれて細くなり、途中で終わることがあります。
日食はその典型例です。太陽は月より実際にははるかに大きいため、月が作る本影は円すい状に細くなります。その先端が地球へ届く場所では皆既日食になります。
一方、月の見かけの大きさが太陽より小さいと、本影の先端が地球まで届かず、太陽の外縁がリング状に残る金環日食になります。
月食も同じ影の幾何学で説明できる
月食は、月が地球の影へ入ることで起こります。国立天文台は、地球の影を本影と半影に分け、月がどの部分を通るかによって半影月食、部分月食、皆既月食などが起こると説明しています。
太陽を広がりのある光源、地球を遮蔽物と考え、太陽の端から地球の端を通る限界光線を描けば、本影と半影の境界を幾何学的に求められます。
天体規模の現象も、基本原理は日常の影と同じです。
影の輪郭は物体と同じ形とは限らない
影は物体のコピーではなく、光源・物体・投影面の位置関係による投影です。
物体がスクリーンに平行なら元の輪郭に近い形になりますが、物体を傾ければ投影像は伸びたり縮んだりします。
夕方に人の影が長く伸びるのも同じです。太陽光が低い角度から地面へ入るため、地面上の投影が長くなります。
太陽高度と影の長さは三角関数で表せる
平らな地面に垂直に立つ高さHの棒を考え、太陽高度をα、影の長さをLとすると、単純な条件では
L = H / tanα
と表せます。
太陽が高くなりαが大きくなるほど影は短くなり、朝夕のように太陽が低いと影は長くなります。
日時計が太陽の位置を影の方向と長さへ変換できるのも、この幾何学が成り立つためです。
複数の光源があると影が複数できる
二つ以上の照明があると、それぞれの光源が独立に影を作ります。
ある場所が一つの光源からは遮られていても、別の光源からは照らされることがあります。すべての主要光源から遮られた場所は濃く、どれか一つでも光が届く場所は明るくなります。
そのため、複数光源では濃さの異なる影が複数見えることがあります。スタジオ撮影のフィルライトは、この性質を利用して影を弱めます。
影の縁がぼやける原因は半影だけではない
日常的な影の幅広いぼやけでは、光源の大きさによる半影が主な原因です。ただし厳密には、光の波としての性質も影響します。
物体の端では回折が起こるため、非常に小さな物体や精密な測定では、幾何光学だけでは説明できない細かな明暗が境界付近に現れます。
また、壁や床からの反射光、大気や粒子による散乱光が影へ入り込むことで、暗部のコントラストも弱くなります。
影を作図するときの基本手順
- 光源の位置と大きさを描く
- 物体の位置と輪郭を描く
- 光源の端から物体の端を通る限界光線を引く
- 光源全体が隠れる領域を本影として確認する
- 光源の一部だけが隠れる領域を半影として確認する
- スクリーンや地面との交点から影の大きさと輪郭を読む
点光源では一点から物体の端へ光線を引けばよく、広がりのある光源では光源の両端から物体の両端へ複数の限界光線を引きます。
この作図を使うと、影の拡大、ぼやけ、本影と半影、日食・月食まで一つの考え方で整理できます。
反射や屈折があると影の形も変わる
鏡やレンズ、透明な物体が周囲にあると、光線の経路が反射・屈折によって変わるため、単純な直線投影とは異なる明暗分布になることがあります。
反射方向の法則については「なぜ光の反射では入射角と反射角が等しくなるのか?」、屈折については「なぜ光は媒質の境界で曲がり、スネルの法則に従うのか?」で詳しく解説しています。
影の見え方と色はどう関係するのか
影そのものに固有の色があるわけではありません。影の部分へどの波長の光がどれだけ届くかによって見える色が変わります。
屋外では直射日光が遮られても、青空からの散乱光が影へ入るため、影が青みを帯びて見えることがあります。
人が光の色をどう三つの値として扱えるかについては「なぜ人が感じる光の色は三つの値で表せるのか?」で説明しています。
まとめ
影の大きさやぼやけ方が光源と物体の位置で変わるのは、光源から物体の端を通る光線の幾何学によって、直接光が届く範囲と届かない範囲が決まるからです。
- 点光源では、影の大きさは相似な三角形で決まる
- 物体を光源へ近づけると、影は大きくなる
- 広がりのある光源では、本影と半影ができる
- 物体から見た光源の見かけの大きさが大きいほど、半影は広がりやすい
- 物体とスクリーンを離すほど、影の縁はぼやけやすい
- 日食・月食も同じ本影・半影の幾何学で説明できる
- 影の長さは光の入射角で変わり、単純な条件では三角関数で表せる
- 細かな境界では回折など波としての性質も関係する
影は単なる「暗い場所」ではありません。光源の大きさ、物体との距離、投影面までの距離、光が来る角度を反映した幾何学的な投影です。限界光線を描けば、手影絵から日食・月食まで同じ法則で理解できます。
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参考資料
- 黒川麻惟・渡邉重義「光の性質を実感するための小学校理科教材の研究」日本科学教育学会研究会研究報告
- 仲野純章「幾何光学的アプローチによる光学指導」科学教育研究
- 国立天文台「月食とは」
- OpenStax Astronomy 2e: Eclipses of the Sun and Moon

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