光はふつう、まっすぐ進むものとして扱えます。ところが、非常に狭いすき間や小さな穴を通すと、その先で光が横方向にも広がります。
なぜ、狭いすき間を通ると光は直進せず広がるのでしょうか。
結論からいうと、光は波であり、開口の大きさが波長に近づくと、開口を通過した波どうしの干渉によって回折が目立つようになるからです。
開口が波長に比べて十分大きいと、光はほぼ直線的に進むように見えます。しかし開口幅が小さくなるほど、光は広い角度へ回り込み、スクリーン上には中央の明るい帯と、その両側の暗線・明線が現れます。
回折とは何か
回折とは、波が障害物の端や狭い開口を通るとき、幾何学的な直進経路だけでは説明できない方向へ広がる現象です。
音が角の向こうへ回り込んで聞こえるのも回折の一例です。
光でも同じ波動現象が起こりますが、可視光の波長は非常に短いため、日常サイズの障害物や開口では回折が目立ちにくいだけです。
なぜ普段は光がまっすぐ進むように見えるのか
可視光の波長はおよそ数百nmです。
一方、日常で扱う窓、ドア、レンズ、物体などはmm〜mの大きさがあります。
つまり、開口や障害物の大きさが光の波長より圧倒的に大きいため、回折による広がり角は非常に小さくなります。
そのため、通常の範囲では光線を直線として扱う幾何光学がよく成り立ちます。
すき間が狭くなるとなぜ広がりが大きくなるのか
単スリットの幅をa、光の波長をλとすると、暗線が現れる角度θは
a sinθ = mλ
で表されます。
ここでmは1、2、3…です。
最初の暗線ではm=1なので、
sinθ ≈ λ / a
となります。
したがって、aが小さくなるほどθは大きくなり、光はより広い角度へ広がります。
OpenStaxも、単スリット回折ではスリット幅が狭いほど回折パターンが広がることを説明しています。
なぜすき間全体から広がるように見えるのか
波面上の各点を新しい小さな波の出発点とみなす考え方を、ホイヘンスの原理と呼びます。
狭いすき間を通過した光は、開口内の各点から出た小さな波が重なったものとして考えられます。
それらは進行方向だけでなく斜め方向にも広がります。
ただし、すべての方向で同じ明るさになるわけではありません。
方向によって波の位相差が異なるため、互いに強め合う方向と打ち消し合う方向が生じます。
その結果、明線と暗線を持つ回折パターンができます。
なぜ中央が最も明るく広いのか
単スリット回折では、真正面方向では開口内の各部分から来る波の位相差がほとんどありません。
そのため、すべての波が強め合い、中央に最も明るい主極大ができます。
一方、角度が大きくなると開口内の各点からの光路差が生じ、ある角度では互いに打ち消し合って暗線になります。
中央の明るい帯は、両側の副極大よりも広く、強く見えます。
なぜ回折は「光が曲がる」のとは少し違うのか
屈折では、媒質の屈折率が変わることで波面の進行方向そのものが変化します。
一方、回折では、開口や障害物によって波面の一部だけが通過し、その後の波どうしの干渉によってエネルギーが複数方向へ分布します。
したがって、回折は一本の光線がなめらかに曲がる現象ではなく、波としての光が広がり、干渉パターンを作る現象です。
すき間の幅が波長と同じくらいになると何が起こるのか
開口幅aが波長λと同程度になると、λ/aが大きくなり、回折角も大きくなります。
この領域では、光線近似はかなり悪くなります。
開口を通った光は広い角度へ分布し、「細い光線がそのまま抜ける」というイメージでは説明できません。
逆に、aがλよりはるかに大きい場合は、回折角が非常に小さいため直進近似が有効です。
波長が長い光ほど回折しやすいのはなぜか
回折角はおおよそλ/aで決まるため、同じ開口幅なら波長が長いほど広がりやすくなります。
赤い光は青い光より波長が長いため、同じスリットを通した場合、赤のほうがやや広い回折パターンになります。
これは回折格子で色が分かれる理由にもつながります。
なぜ音は壁の向こうへ回り込みやすいのに光は回り込みにくいのか
音の波長は、数cmから数m程度になることがあります。
これはドアや建物の角の大きさと同程度です。
そのため、音では回折が日常的に目立ちます。
一方、可視光の波長は約400〜700nmと非常に短いため、日常サイズの障害物に対しては回折角が極めて小さくなります。
光の回折を見るには、非常に狭いスリットや微細構造が必要です。
小さな穴でも同じことが起こるのか
起こります。
円形の小さな開口では、スクリーン上に中心が明るい円盤と、その周囲の同心円状の明暗ができます。
この中心の明るい円盤をエアリーディスクと呼びます。
レンズをどれだけ完璧に作っても、開口が有限である限り、点光源は完全な一点には結像しません。
これは望遠鏡や顕微鏡の分解能を決める根本的な制限です。
カメラの絞りを小さくしすぎるとぼやけるのはなぜか
カメラでは、絞りを小さくすると幾何光学的な収差やピント外れは抑えやすくなります。
しかし絞りを極端に小さくすると、開口による回折が強くなります。
その結果、一点から来た光がセンサー上で広がり、画像の細部がぼやけます。
つまり、絞りを小さくするほど常に解像度が上がるわけではなく、回折とのバランスがあります。
顕微鏡にも回折限界があるのはなぜか
顕微鏡で小さな構造を観察するとき、試料から来る光は有限な開口の対物レンズを通ります。
そのため、点から出た光でも回折によって広がって像を作ります。
隣接する二点の回折像が大きく重なると、二点を分離して見分けにくくなります。
これが回折限界です。
波長を短くしたり、開口数を大きくしたりすると、より細かい構造を分解しやすくなります。
レーザーを細い穴へ通すと光が広がるのも回折か
はい。
レーザーは方向のそろった光ですが、有限の直径しかありません。
特に小さな開口や細いビームでは、回折によって伝搬しながら徐々に広がります。
RP Photonicsも、有限幅のビームや開口では回折が避けられず、ビーム発散の基本原因になると説明しています。
単スリットと二重スリットは何が違うのか
単スリットでは、一つの開口の内部から出る波どうしが干渉して回折パターンを作ります。
二重スリットでは、各スリット自体の回折に加えて、二つのスリットから出る波どうしの干渉が重なります。
そのため、二重スリットでは細かい干渉縞が、より広い回折包絡線の中に現れます。
回折と干渉は別々の現象ではなく、どちらも波の重ね合わせから生じます。
スリットの形が違うと回折模様も変わるのか
変わります。
回折パターンは開口の形に強く依存します。
細長い単スリットでは一方向に広がる縞ができ、円形開口では同心円状のパターンになります。
複雑な形の開口では、その形に対応した回折パターンが現れます。
フーリエ光学では、遠方回折パターンを開口形状のフーリエ変換として扱うことができます。
なぜ「直進」は間違いではないのか
光が波なら常に回折するため、「光は直進する」という表現は一見矛盾しているように見えます。
しかし直進は、波長に比べて装置や障害物が十分大きい場合の非常に良い近似です。
日常の多くの光学現象では、回折角が小さすぎて無視できます。
そのため、幾何光学では光線を直線として扱うことで、影・反射・屈折・レンズなどを高い精度で説明できます。
回折は、その近似が破れる条件を示す現象です。
既存の「なぜ光は均一な媒質中ではまっすぐ進むのか?」との違い
既存記事では、均一な媒質中で光が直線経路をとる理由と、幾何光学が成り立つ条件を中心に扱っています。
本記事ではその一般原理を前提に、すき間の幅が波長に近づいたとき、なぜ直進近似が崩れて回折による広がりが現れるのかに焦点を当てています。
つまり、一方は「なぜ直進近似が成り立つか」、もう一方は「どの条件でその近似が破れるか」です。
まとめ
狭いすき間を通ると光がまっすぐ進まず広がるのは、光が波であり、開口の大きさが波長に近づくと回折が強くなるためです。
- 開口が波長より十分大きいと、光はほぼ直進して見える
- 開口幅が小さくなるほど回折角は大きくなる
- 単スリットではa sinθ = mλの条件で暗線が生じる
- 波長が長いほど同じ開口で強く広がる
- 回折は一本の光線が曲がる現象ではなく、波の干渉でエネルギーが複数方向へ分布する現象である
- 小さな開口の回折は、カメラ・顕微鏡・望遠鏡の分解能を制限する
- 「光は直進する」は、波長に比べて構造が十分大きいときの近似である
つまり、光の直進は絶対的な法則ではなく、波長に対して十分大きなスケールで成り立つ近似であり、狭いすき間では波としての回折が表面化するのです。
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参考資料
- OpenStax University Physics Volume 3: Huygens’s Principle
- OpenStax University Physics Volume 3: Single-Slit Diffraction
- J-STAGE 光回折関連資料
- RP Photonics Encyclopedia: Diffraction

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