なぜ透明なプラスチックを曲げると偏光板越しに虹色模様が見えるのか?

透明なプラスチックの定規やケースを、2枚の偏光板の間に置いて曲げると、ふだんは無色透明だった部分に虹色の縞やまだら模様が見えることがあります。

なぜ、透明なプラスチックに力を加えるだけで、偏光板越しに色が現れるのでしょうか。

結論からいうと、力を受けたプラスチックの内部では、方向によって屈折率がわずかに異なる「応力複屈折」が生じ、直交する偏光成分の進む速さに差ができるからです。

その差によって二つの偏光成分に位相差が生まれます。白色光では波長ごとに位相差の大きさが異なるため、後ろの偏光板を通ったときに、ある色は強め合い、別の色は弱め合います。その結果、応力の大きさに応じて虹色の模様が見えるのです。

目次

透明なプラスチックは、ふつうは光学的に等方的

力がかかっていない透明なプラスチックは、光の進む方向や偏光方向による屈折率差が小さく、見かけ上は光学的に等方的に近い場合があります。

そのため、偏光した光を通しても、偏光方向ごとの位相差は大きくありません。

ところが曲げたり引っ張ったりすると、分子鎖や内部構造に方向性が生じます。

すると、ある方向に振動する光と、それに直交する方向に振動する光とで屈折率がわずかに異なるようになります。

これが応力複屈折です。

複屈折とは何か

複屈折とは、光の偏光方向によって屈折率が異なる性質です。

RP Photonicsは、複屈折を「屈折率が偏光方向に依存する性質」と説明しています。

結晶のように材料そのものが複屈折を持つ場合もあれば、ガラスやプラスチックのように、もともとは等方的な材料へ機械的な応力を加えることで複屈折が誘起される場合もあります。

J-STAGEの光弾性法の解説でも、透明なガラスやプラスチックに力を加えると複屈折を示すことが述べられています。

なぜ力を加えると屈折率が方向によって変わるのか

プラスチックに力を加えると、内部の分子鎖や結合の平均的な配置が変化します。

引張り方向、圧縮方向、せん断方向によって、材料内部の分極応答に方向差が生まれます。

光の電場がある方向へ振動したときと、それに直交する方向へ振動したときで、物質側の応答がわずかに異なるため、見かけの屈折率も異なります。

つまり、機械的な応力が材料内部の光学的な異方性を作るのです。

偏光板を2枚使うのはなぜか

虹色模様を観察する典型的な方法では、プラスチックを2枚の偏光板の間に置きます。

最初の偏光板は、入射光を一定方向の直線偏光にします。

その偏光が応力複屈折を持つプラスチックに入ると、材料の主軸に沿った二つの成分に分かれます。

二つの成分は異なる屈折率を感じるため、材料を出るときには位相差がついています。

最後の偏光板は、その二つの成分を再び同じ観測方向へ投影し、干渉できる状態にします。

このため、位相差の違いが明暗や色の違いとして見えるようになります。

なぜ2枚の偏光板を直交させるのか

2枚の偏光板の透過軸を90度ずらして置くと、間に何もなければ理想的にはほとんど光を通しません。

これを交差偏光と呼びます。

しかしその間に応力複屈折を持つプラスチックを入れると、偏光状態が変化します。

すると、後ろの偏光板の透過軸方向にも電場成分が現れ、一部の光が通過できるようになります。

HarvardのPhotoelasticity実験でも、応力を受けた透明材料を交差偏光板の間に置くことで、応力に応じた模様を観察しています。

虹色が生まれる直接の原因は「位相差」

厚さdの材料の中で、二つの直交偏光方向の屈折率がn₁、n₂だとします。

屈折率差を

Δn = n₁ − n₂

とすると、二つの偏光成分の位相差δは概略

δ = (2π/λ)Δnd

と表せます。

つまり、応力でΔnが大きくなるほど、また材料が厚いほど、二つの偏光成分の位相差は大きくなります。

さらにλが式に入っているため、同じ場所でも赤・緑・青で位相差が異なります。

これが虹色になる決定的な理由です。

白色光だから虹色になる

白色光には多くの波長が含まれています。

応力複屈折による位相差は波長に依存するため、ある応力状態では赤がよく通り、別の波長は弱くなる、といった選択が起きます。

場所ごとに応力が違えば、通りやすい色の組み合わせも変わります。

その結果、スクリーンや目には赤、黄、緑、青、紫などが連続的に変化する虹色模様として見えます。

単色レーザーを使った場合は、虹色にはならず、主に明暗の縞として見えます。

なぜ応力が大きい場所ほど縞が増えるのか

応力が大きくなると、一般に誘起される複屈折Δnも大きくなります。

すると位相差δも増えます。

位相差が2π、4π、6π…と増えるにつれて、強め合いと弱め合いの条件を何度も通過するため、色や明暗の縞が繰り返し現れます。

そのため、応力集中の強い場所では縞が密になりやすくなります。

この性質を利用して、応力分布を可視化する方法が光弾性法です。

光弾性法とは何か

光弾性法は、透明材料に生じる応力複屈折を利用して、内部の応力分布を可視化・測定する方法です。

J-STAGEの解説では、主応力差に対応する等色線縞や、主応力方向に関係する等傾線縞を利用して応力状態を調べる方法が整理されています。

Feynman Lecturesでも、透明なプラスチックを応力下で複屈折させ、偏光を使って内部応力を測る方法が説明されています。

つまり、虹色模様は単なる見た目の効果ではなく、材料内部の力の分布を反映した情報なのです。

どこを曲げても同じ色になるわけではない

曲げたプラスチックでは、場所によって引張り、圧縮、せん断の大きさが異なります。

そのため、応力複屈折の大きさと方向も場所ごとに違います。

結果として、位相差と偏光状態が場所ごとに変わり、縞模様や色の分布が生まれます。

穴の周囲、切り欠き、角、固定部などでは応力集中が起きやすいため、模様も複雑になりやすくなります。

なぜ透明なフォークや定規でも模様が見えるのか

市販の透明プラスチック製品には、成形時の冷却や流動による残留応力が残っていることがあります。

そのため、外から新たに大きな力を加えていなくても、交差偏光板の間に置くだけで色模様が見える場合があります。

射出成形では、溶融樹脂の流れや冷却の不均一によって分子配向や残留応力が生じやすく、それが複屈折として観察されることがあります。

したがって、偏光板越しの色模様は、製造時に材料内部へ残った応力の手がかりにもなります。

力を抜くと色が消えることがあるのはなぜか

弾性範囲内で加えた力なら、荷重を取り除くと材料内部のひずみがほぼ元に戻ります。

すると誘起された光学的異方性も小さくなり、応力複屈折が減少します。

そのため、虹色模様が弱くなったり消えたりします。

一方、塑性変形や残留応力が残った場合には、力を抜いたあとも模様が残ることがあります。

偏光板を回すと模様が変わるのはなぜか

観察される明るさは、試料内の複屈折軸と偏光板の透過軸の角度にも依存します。

偏光板を回すと、試料内の二つの主軸方向へ分解される電場成分の割合が変わります。

そのため、同じ応力分布でも縞の明暗や見え方が変化します。

ただし、応力そのものが変わったわけではありません。

観察系がどの偏光成分を選んでいるかが変化した結果です。

なぜ単色光では色ではなく明暗の縞になるのか

単色光では波長λがほぼ一つだけです。

そのため、応力による位相差に応じて光が強く通る場所と弱く通る場所が現れますが、複数の波長成分の比率が変わるわけではありません。

結果として、見えるのは主に明線と暗線です。

白色光では多数の波長ごとに透過強度が異なるため、それらが合成されて色になります。

温度でも似た複屈折が生じることはあるのか

あります。

温度差によって材料内部に熱応力が生じると、その応力が複屈折を作ることがあります。

また、材料によっては温度そのものが屈折率や複屈折へ影響します。

したがって、精密な偏光光学部品では、機械応力だけでなく、固定方法や温度分布も偏光状態を変える要因になります。

ガラスでも同じ現象が起こるのか

起こります。

ガラスも応力によって複屈折を示すことがあります。

強化ガラスでは表面に圧縮応力が導入されており、偏光観察によって応力状態を評価する方法があります。

ただし、材料ごとに応力光学係数や破壊特性が異なるため、同じ力を加えてもプラスチックと同じ模様になるわけではありません。

なぜスマートフォンや液晶画面を光源にすると見えやすいことがあるのか

液晶ディスプレイの光は、構造上、強く偏光している場合があります。

そのため、透明プラスチックを画面の前に置き、別の偏光板を通して見ると、試料の応力複屈折による偏光変化を観察しやすくなります。

ただしディスプレイの偏光方向や画面方式によって見え方は異なります。

画面を回転させると急に暗くなったり明るくなったりするのも、偏光方向の関係によるものです。

虹色模様から応力の大きさを定量的に測れるのか

条件を整えれば測定できます。

光弾性法では、材料の厚さ、応力光学係数、使用波長などを既知として、縞次数から主応力差を求めます。

概念的には、位相差が応力差に比例する性質を利用します。

ただし、実際の定量測定では材料定数、偏光器の配置、試料厚さ、縞次数の判定などが必要です。

虹色が見えるからといって、材料が壊れかけているとは限らない

色模様は、材料内部に応力や残留応力があることを示す手がかりにはなります。

しかし、虹色が見えたというだけで直ちに破壊寸前とは判断できません。

応力複屈折は比較的小さな弾性応力でも現れることがあります。

破損の危険性を評価するには、材料強度、応力値、亀裂の有無、使用環境などを別に評価する必要があります。

既存の「偏光板・反射面・複屈折結晶」の記事とは何が違うのか

既存の偏光比較記事では、偏光板が振幅を選び、反射面がs偏光・p偏光の反射率を変え、複屈折結晶が位相差を作るという、光学素子ごとの作用の違いを扱っています。

本記事では、本来ほぼ等方的な透明プラスチックへ機械的な力を加えると一時的な複屈折が生じ、その応力分布が白色光の虹色模様として可視化される理由に焦点を限定しています。

つまり、一方は偏光を変える素子の比較、もう一方は力によって偏光特性そのものが変わる光弾性現象です。

まとめ

透明なプラスチックを曲げると偏光板越しに虹色模様が見えるのは、機械的な応力によって複屈折が生じ、二つの直交偏光成分に波長依存の位相差がつくためです。

  • 透明なプラスチックは力を受けると光学的異方性を持つことがある
  • 応力複屈折により、偏光方向ごとに屈折率が異なる
  • 二つの偏光成分にはδ=(2π/λ)Δndで表される位相差が生じる
  • 白色光では波長ごとに位相差が違うため、交差偏光板を通したときに色が選択的に強くなったり弱くなったりする
  • 応力分布が場所ごとに違うため、虹色の縞やまだら模様になる
  • この現象を利用して応力分布を調べる方法が光弾性法である
  • 成形時の残留応力でも同様の模様が見えることがある

つまり、虹色模様はプラスチックそのものが発色しているのではなく、力によって生じた複屈折が白色光の偏光成分へ波長ごとの位相差を与え、その結果が偏光板によって色として見えるようになったものなのです。

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