海によって塩分濃度が違うのは、「塩の量」そのものよりも、海水に対して淡水がどれだけ出入りするかが海域ごとに違うからです。蒸発が盛んな海では水だけが大気へ逃げ、塩が海に残るため塩分は高くなります。反対に、雨が多い海、川の水が大量に流れ込む海、氷が溶けた淡水が加わる海では、海水が薄められて塩分は低くなります。
さらに、海氷ができるときには塩の多くが氷の外へ押し出されるため、周囲の海水は塩辛くなります。また、海流や海峡を通じた水の交換によって、高塩分・低塩分の海水が別の場所へ運ばれます。つまり、海の塩分は蒸発、降水、河川流入、海氷、海流、外海との水交換のバランスで決まります。
外洋の海水は平均すると塩分がおよそ35、つまり海水1kgに約35g程度の塩類を含む水準ですが、実際には場所によって違います。亜熱帯のように蒸発が盛んな海域では高く、雨の多い熱帯や大河川の河口、氷が溶ける高緯度では低くなる傾向があります。
まず、海の「塩分」とは何を表しているのか
海水には食塩の主成分であるナトリウムイオンと塩化物イオンだけでなく、マグネシウム、硫酸イオンなど多くの物質が溶けています。海洋学でいう塩分は、こうした海水の「塩辛さ」を表す指標です。
一般向けには「海水1kgにどのくらいの塩類が含まれるか」と考えるとわかりやすいでしょう。外洋ではおおむね3〜4%程度で、塩分35前後の海水が広く見られます。ただし、海はひとつながりでも完全に均一ではありません。JAMSTECの解説でも、熱帯の多雨域や大河川の河口では低塩分、蒸発の盛んな亜熱帯では高塩分になる分布が示されています。
重要なのは、塩が海の中で急に増えたり消えたりするより、水の量が増減することで濃さが変わる場合が多いという点です。同じ量の塩が溶けていても、水が減れば濃くなり、水が増えれば薄くなります。
最も大きな要因は「蒸発と降水の差」
海面から水が蒸発するとき、塩は水蒸気と一緒にはほとんど空へ出ていきません。水だけが失われ、塩類は海に残ります。そのため、蒸発が続くほど海水は濃くなります。
反対に、雨や雪として淡水が海に加われば、同じ海水に水が足されるため塩分は下がります。気象庁は、海洋表面の塩分は降水によって低くなり、海面からの蒸発によって高くなると説明しています。
この差は緯度によっても現れます。亜熱帯では晴天が多く蒸発量が大きい海域が多いため、海面塩分は比較的高くなります。一方、赤道周辺では高温でも雨が非常に多く、降水による淡水の供給が蒸発を上回る地域があるため、塩分は亜熱帯より低くなることがあります。
「暑い海ほど塩分が高い」と単純には言えないのはこのためです。温度そのものより、蒸発量と降水量のどちらが上回るかを見る必要があります。
川が流れ込む海は塩分が低くなりやすい
河川は海へ大量の淡水を運び込みます。川の水にも岩石から溶け出したイオンは含まれていますが、海水と比べればはるかに塩分が低いため、河口周辺では海水が薄められます。
大河川の影響は河口のすぐ近くだけとは限りません。流れ込んだ淡水は海面付近に広がり、海流や風に運ばれて沖へ拡大することがあります。JAMSTECの東シナ海の解説では、中国沿岸で塩分が低い領域が見られ、その大きな理由として長江からの河川水流入が挙げられています。
そのため、同じ緯度で気候が似ている海でも、大きな川が流れ込むかどうかで塩分は変わります。また、雨の多い季節や雪解けの時期には河川流量が増え、季節的に低塩分域が広がることもあります。
外海とのつながり方も塩分を左右する
海が外洋とどの程度つながっているかも重要です。外洋との水交換が活発なら、ある場所で淡水が増えたり蒸発が進んだりしても、別の海水が流れ込むことで塩分差が緩和されやすくなります。
一方、細い海峡でしか外海とつながっていない半閉鎖的な海では、その地域の降水、蒸発、河川流入の影響が強く残りやすくなります。特に、淡水の供給が多いのに外海との交換が遅い海では、低塩分の状態が維持されやすくなります。
代表例がバルト海です。バルト海は北海とのつながりが限られ、多数の河川から淡水が流れ込みます。HELCOMによれば、海水交換には長い時間がかかり、入り口付近から北部・東部へ向かって塩分が大きく低下します。そのため、バルト海の多くは海水と淡水の中間である「汽水」の性質を持ちます。
紅海の塩分が高いのはなぜか
低塩分の代表がバルト海なら、高塩分の代表例の一つが紅海です。紅海周辺は非常に乾燥しており、海面からの蒸発が大きい一方、降水や大きな河川からの淡水流入が少ない環境です。
さらに、紅海は細い海峡を通じて外海とつながる細長い海です。そのため、蒸発で水が失われやすく、淡水で薄める働きが弱いことから、高い塩分になりやすくなります。NOAAは、紅海やペルシャ湾周辺を、強い蒸発と少ない淡水流入によって特に塩分の高い海域として紹介しています。
この例からも、塩分を決めるのは単純な「海の大きさ」ではなく、水がどう入って、どう出ていくかだとわかります。
海氷ができると周囲の海水は塩辛くなる
寒い海では、海氷も塩分を変える重要な要因です。海水が凍るとき、水分子は氷の結晶をつくりますが、多くの塩類はその結晶の中に入りにくく、周囲の海水へ押し出されます。
その結果、海氷ができる海域では、氷の下や周辺の海水の塩分が高くなります。塩分が高く、さらに水温も低い海水は密度が大きくなり、沈み込みやすくなります。このような現象は、深層の海洋循環にも関係します。
反対に、春や夏に海氷が溶けると、比較的塩分の低い水が海面へ加わります。そのため表面の塩分は下がります。高緯度の海で塩分が低くなりやすいのは、降水だけでなく、氷の融解も関係しています。
海流は塩分の違いを運ぶ
海水は同じ場所にとどまっているわけではありません。海流によって、塩分の高い水も低い水も遠くへ運ばれます。
たとえば、ある海域で蒸発によって高塩分になった海水が海流に乗れば、その特徴をある程度保ったまま別の海域へ移動できます。反対に、雨や河川水の影響を受けた低塩分水も流れによって広がります。
気象庁は、北西太平洋の塩分分布について、蒸発が盛んな海域で形成された高塩分水が流入することで、表面より少し深い場所に高塩分域ができる例を示しています。また、親潮と黒潮の水が混ざってできた低塩分の水が海洋内部へ沈み込み、別の場所へ運ばれることも説明しています。
このため、ある地点の塩分は、その場所で起きている蒸発や雨だけでなく、どこから来た海水なのかにも左右されます。
表面と深いところでも塩分は違う
「海によって塩分が違う」というと水平方向の違いを考えがちですが、一つの海でも深さによって塩分は異なります。
降水、河川、海氷の融解は主に海面付近へ淡水を加えるため、その影響はまず表層に現れます。一方、深いところには、過去に別の場所で形成されて沈み込んだ海水が存在することがあります。
塩分が違えば海水の密度も変わります。一般に、同じ温度なら塩分が高い海水ほど密度が大きくなります。低塩分の水が上、高塩分の水が下にあると、上下が混ざりにくい層構造ができる場合があります。
バルト海でも、表層に低塩分の水、深い層に外海から入った比較的高塩分の水が分布することがあります。このような塩分の層は、水の混ざり方だけでなく、酸素や栄養塩の分布、生態系にも影響を与えます。
海の塩分は一年中同じではない
同じ場所でも塩分は季節や年によって変化します。雨季には降水や河川流入が増えて塩分が下がり、乾季には蒸発の影響で高くなることがあります。大雨、洪水、干ばつ、海氷の増減などが起きれば、変化はさらに大きくなります。
JAMSTECは、世界の表層塩分の変化を観測することで、地球規模の水循環の変化を知る手がかりになるとしています。蒸発の多い地域で高塩分化し、降水の多い地域で低塩分化する傾向は、海が大気中の水循環を記録していることを示します。
塩分は水温と並んで海水の密度を決める重要な要素なので、その変化は海流や海洋循環にも関係します。したがって、海の塩分を測ることは、単に「どの海がしょっぱいか」を調べるだけではなく、気候や水循環を理解するうえでも重要です。
「海によって塩分が違う」を整理すると
海ごとの塩分差をつくる主な要因は次のとおりです。
- 蒸発:水だけが失われるため、蒸発が盛んなほど塩分は高くなりやすい。
- 降水:雨や雪が淡水を加え、海水を薄める。
- 河川流入:大河川の近くや河川流入の多い閉鎖的な海では塩分が低くなりやすい。
- 海氷:海氷形成では周囲の海水が高塩分化し、融解では低塩分化する。
- 海流:高塩分水・低塩分水を別の海域へ運ぶ。
- 外海との交換:海峡が狭いなど水交換が限られると、その地域特有の塩分が残りやすい。
海の塩分は、その海に「どれだけ塩があるか」だけでなく、「どれだけ水が出入りし、その水がどこから来てどこへ行くか」で決まります。蒸発が強く淡水の供給が少なければ濃くなり、雨や川、氷の融解で淡水が増えれば薄くなります。さらに海流と海峡を通じた水交換が、その違いを広げたり弱めたりします。

コメント