同じ空気を使っていても、弱い風を当てたときと強い風を当てたときでは冷え方が違います。また、同じ温度差でも、加熱面を上向き・下向き・垂直にすると自然対流の強さが変わります。
結論からいうと、対流熱伝達率が風速・温度差・表面の向きで変わるのは、表面近くの速度境界層と温度境界層の厚さ、流れの安定性、層流から乱流への移り方が条件によって変化するからです。
強制対流では主にレイノルズ数Reとプラントル数Pr、自然対流では主にレイリー数Raとプラントル数Prが重要です。最終的な熱伝達率hは、これらから求めるヌセルト数Nuを通じて決まります。
対流熱伝達率hとは何か
表面と流体の間の対流熱移動は、
Qdot = hA(Ts – T∞)
で表されます。
hは対流熱伝達率、Aは伝熱面積、Tsは表面温度、T∞は主流または周囲流体の代表温度です。
同じ面積・同じ温度差ならhが大きいほど熱移動量は大きくなります。
ただしhは材料固有の定数ではありません。流速、流体物性、形状、長さ、表面の向き、自然対流か強制対流か、層流か乱流かなどで変わります。
なぜ風速を上げると対流熱伝達率が大きくなりやすいのか
強制対流では、ファンやポンプで流体を動かします。
流速Uが大きくなると、表面近くに温められた流体が長くとどまりにくくなり、新しい低温の流体が次々に入れ替わります。
その結果、温度境界層が薄くなり、表面近くの温度勾配が大きくなります。
表面から流体への熱流は、この大きな温度勾配によって増えます。
風速の影響はレイノルズ数で整理できる
強制対流の流れの強さは、レイノルズ数Reで整理できます。
Re = UL/ν
Uは代表流速、Lは代表長さ、νは動粘性係数です。
同じ流体・同じ形状なら、流速Uを上げるほどReは大きくなります。
Reが大きくなると境界層が薄くなり、条件によっては層流から乱流へ移行します。乱流では渦による混合が増えるため、表面近くの熱が主流へ運ばれやすくなり、hが大きくなることが多くあります。
ヌセルト数は対流の強さをどう表すのか
ヌセルト数Nuは、
Nu = hL/k
で定義されます。
kは流体の熱伝導率です。
Nuは、対流による熱移動が同じ長さスケールでの純粋な熱伝導に比べてどれくらい強いかを表します。
強制対流では一般に、
Nu = f(Re, Pr)
という相関で整理されます。
日本機械学会でも、強制対流の熱伝達をReとPrの組み合わせで整理することが基本とされています。
風速を2倍にするとhも2倍になるのか
必ずしも2倍にはなりません。
多くの相関式では、NuはReの1乗ではなく、Reの0.5乗や0.8乗などで表されます。
つまりhは流速に対して非線形に変化します。
さらに層流から乱流へ移行する付近では、流速を少し変えただけで熱伝達の増え方が変わることがあります。
したがって、風速とhの関係は形状・流れ領域ごとの相関式で評価する必要があります。
温度差が大きいと自然対流が強くなるのはなぜか
自然対流では、ファンやポンプを使いません。
表面近くの流体が温められると密度が変化し、重力場の中で浮力が生じます。
温度差ΔTが大きいほど密度差も大きくなりやすく、浮力が強まります。
その結果、流速が増え、表面近くの温められた流体がより速く入れ替わるため、熱伝達率が大きくなる傾向があります。
自然対流はレイリー数で整理できる
自然対流では、レイリー数Raが重要です。
Ra = GrPr
グラスホフ数Grは、
Gr = gβΔTL3/ν2
と表されます。
gは重力加速度、βは体膨張係数、ΔTは温度差、Lは代表長さです。
温度差ΔTが大きくなるとGr、そしてRaも大きくなります。
日本機械学会では、自然対流の熱伝達を多くの場合Nu=f(Ra)の形で整理します。
温度差を2倍にするとhも2倍になるのか
自然対流でも単純な比例にはなりません。
たとえば垂直平板の自然対流では、層流域でNuがRaの1/4乗程度、乱流域で1/3乗程度に比例する相関が使われることがあります。
そのため温度差を2倍にしても、hの増加率は2倍より小さいことが一般的です。
ただしRaが大きくなって流れの状態が変わる境界付近では、熱伝達の増え方も変化します。
なぜ表面の向きで自然対流が変わるのか
自然対流は重力と密度差で生まれます。
そのため加熱面が上向き、下向き、垂直のどれかによって、浮力が流れを促進するか抑制するかが変わります。
熱い水平面が上向きなら、温められて軽くなった流体は上方へ移動しやすく、流れが不安定になって対流が発達しやすくなります。
反対に熱い水平面が下向きなら、軽い流体が面の下側へとどまりやすく、安定した成層になり、対流が弱くなることがあります。
上向き加熱平板では何が起きるのか
上向き加熱平板では、表面で温められた流体が上昇します。
J-STAGEの実験研究では、水平上向き加熱平板上の自然対流で、平板端部から流入した流体が加熱され、中央付近へ進むにつれて三次元的な流れや遷移が生じ、局所熱伝達率も位置によって変化することが確認されています。
Raが大きくなると流れがより不安定になり、乱れた流れが現れやすくなります。
垂直平板ではどのように流れるのか
垂直な加熱平板では、表面近くの流体が温められて上昇し、板に沿う自然対流境界層が形成されます。
板の下端付近では境界層は薄く、上へ進むにつれて厚くなります。
J-STAGEの垂直平板研究では、広いRa範囲にわたり層流・遷移・乱流の自然対流熱伝達が調べられ、乱流域でNuがRaの約1/3乗に比例する関係が報告されています。
傾斜角を変えるだけでも熱伝達率が変わる
表面を垂直から傾けると、重力のうち表面に沿う成分と表面に垂直な成分の割合が変わります。
そのため境界層の安定性や剥離、縦渦の発生条件が変化します。
J-STAGEの傾斜上向き加熱平板の研究では、傾斜角によって局所Nuが変化し、特定の角度範囲では縦渦が乱流遷移のきっかけになることが示されています。
つまり自然対流では、温度差と同じくらい「重力に対して面がどちらを向いているか」が重要です。
同じ風速でも表面の向きや形状でhが変わる
強制対流でも、表面の向きや形状は重要です。
流れに平行な平板と、流れを正面から受ける円柱では、境界層や剥離の仕方が違います。
流れが角を曲がる、はく離する、再付着する、といった現象が起きると、局所的な混合が増え、熱伝達率も大きく変わります。
そのためReとPrが同じでも、形状が違えば同じNu相関式は使えません。
温度差が大きいと物性値変化も無視できなくなる
温度差が小さいときは、密度、粘度、熱伝導率、比熱などを一定と近似できる場合があります。
しかし温度差が大きいと、流体物性そのものが表面近くと主流で大きく異なることがあります。
粘度が変わればReが変わり、熱伝導率や比熱が変わればPrも変わります。
そのため高温面の対流計算では、膜温度など代表温度で物性値を評価したり、物性変化を補正したりします。
層流と乱流で熱伝達率が違うのはなぜか
層流では、流体は比較的整った層を保ちながら流れます。
乱流では、大小の渦が流体を激しく混合します。
この混合によって、表面近くの高温流体が主流へ運ばれ、低温流体が表面近くへ供給されます。
そのため一般に乱流の方が温度境界層が薄く、熱伝達率が大きくなります。
ただし乱流化には圧力損失や送風動力の増加も伴うため、熱伝達だけでなくエネルギー消費も考える必要があります。
風速を上げればどこまでも冷却性能が上がるのか
熱伝達率hは上がっても、冷却性能が同じ割合で増え続けるとは限りません。
ファンの消費電力や騒音、圧力損失が増えます。
また物体内部の熱伝導が遅い場合、表面だけを強く冷やしても内部から熱が出てこなければ、全体の冷却速度はそれ以上大きくなりにくくなります。
つまり対流熱伝達率だけでなく、内部熱抵抗も含めて考える必要があります。
自然対流と強制対流が同時に起きることもある
弱い風がある高温面では、ファンによる強制対流と温度差による自然対流が同時に生じます。
両者が同じ方向へ流れを作る場合もあれば、逆方向へ作用する場合もあります。
このような状態を混合対流と呼びます。
自然対流と強制対流のどちらが支配的かは、Gr/Re2などの比で評価する方法があります。
したがって「風があるから自然対流は無視できる」とは限りません。
利用例1:電子機器のファン冷却
ヒートシンクへ風を当てると、流速が上がってReが大きくなり、熱伝達率hも増えます。
さらにフィン間の流路形状を調整し、境界層を薄く保つことで冷却性能を高められます。
ただしフィン間隔が狭すぎると圧力損失が増えて流量が低下するため、風速・形状・ファン性能を合わせて設計します。
利用例2:ラジエーターや熱交換器
熱交換器では、流速を上げると一般にhが大きくなります。
そのため必要な伝熱面積を小さくできる場合があります。
一方、流速を上げるほどポンプやファンの動力も増えます。
設計では熱伝達性能と圧力損失のバランスを取ります。
利用例3:自然空冷筐体
ファンを使わない電子機器では、部品の配置や筐体の向きが自然対流を左右します。
温められた空気が上昇しやすいように通風経路を作り、排気口を上部へ配置すると自然対流を利用しやすくなります。
逆に流路がふさがれていると、同じ発熱量でも内部温度が高くなることがあります。
まとめ
風速・温度差・表面の向きで対流熱伝達率が変わるのは、これらの条件が速度境界層と温度境界層、流れの安定性、層流・乱流の状態を変えるからです。
強制対流では、
Re = UL/ν
が流れの強さを表し、一般にNu=f(Re,Pr)として熱伝達を整理します。風速が上がるとReが増え、境界層が薄くなってhが大きくなる傾向があります。
自然対流では、
Ra = GrPr
が重要で、温度差が大きいほど浮力が強まり、RaとNuが増えてhも大きくなる傾向があります。
さらに自然対流は重力に依存するため、上向き・下向き・垂直・傾斜といった表面の向きでも流れ方が変わります。
つまり対流熱伝達率hは「空気ならこの値」という固定定数ではありません。流速、温度差、向き、形状、流れの状態を含む条件によって決まる量なのです。
参考資料
- 日本機械学会 機械工学事典「プラントル数」
- 日本機械学会 機械工学事典「自然対流熱伝達」
- 日本機械学会論文集B編「有限な水平上向き加熱平板上に発生する自然対流の流動および熱伝達」
- 熱工学コンファレンス講演論文集「傾斜上向き加熱平板まわりの自然対流の流動と伝熱」

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