壁を手で押すと、手も壁から押し返されます。地面を後ろへ蹴ると体は前へ進み、ロケットがガスを後方へ噴き出すと機体は前方へ加速します。こうした現象をまとめるのが、ニュートンの運動の第3法則、いわゆる「作用反作用の法則」です。
この法則は、物体Aが物体Bに力を及ぼすと、同時に物体Bも物体Aへ、同じ大きさで反対向きの力を及ぼすというものです。
大切なのは、反作用が「作用のあとから発生する別の力」ではないことです。力は物体同士の相互作用として生じるため、一方だけが相手へ力を及ぼして、相手からは何も返ってこない、という形では扱いません。ニュートン力学では、相互作用する2物体に働く力を対として考えます。
作用反作用の法則とは何か
物体Aが物体Bへ及ぼす力をFAB、物体Bが物体Aへ及ぼす力をFBAとすると、ニュートンの第3法則は次のように表せます。
FAB = −FBA
マイナス符号は、2つの力の向きが反対であることを表します。
北海道大学の物理教材では、相互作用する2物体は互いに同じ大きさで反対方向の力を受けると説明されています。OpenStaxやNASAも同様に、ある物体が別の物体へ力を及ぼすと、相手も同じ大きさ・反対向きの力を返すと説明しています。
このとき2つの力には、次の特徴があります。
- 大きさが等しい
- 向きが反対
- 同時に生じる
- 別々の物体に働く
特に最後の「別々の物体に働く」という点が、力のつり合いとの違いを理解する鍵になります。
なぜ「作用が先、反作用が後」ではないのか
「作用」「反作用」という言葉から、最初に一方が力を出し、その後で相手が反応して力を返すように感じるかもしれません。
しかし、ニュートンの第3法則では、2つの力は相互作用の両側として同時に現れます。どちらを「作用」と呼び、どちらを「反作用」と呼ぶかは説明上の便宜にすぎません。
たとえば、手で壁を押す場合、「手が壁を押す力」を作用、「壁が手を押す力」を反作用と呼べます。しかし逆に、壁が手を押す力を作用と呼び、手が壁を押す力を反作用と呼んでも物理的な内容は変わりません。
OpenStaxも、どちらを作用・反作用と呼ぶかは観測者の見方によると説明しています。重要なのは、2つの力が一組の相互作用として存在することです。
なぜ力は相互作用として現れるのか
力は、物体が単独で持っている「押す能力」のようなものではありません。少なくともニュートン力学では、力は物体同士の相互作用を表す量として扱います。
手と壁が接触すれば、接触面では原子・分子同士の電磁気的な相互作用が生じます。地球と物体の間では重力相互作用があります。磁石同士なら磁気的な相互作用があります。
つまり、「AがBへ力を及ぼす」という出来事は、Aだけで完結しているのではなく、AとBの関係として生じています。その相互作用をA側とB側から見た力が、作用反作用の一対になります。
ニュートン力学では、この相互作用が2物体へ等しい大きさ・反対向きの力を与える、と第3法則として表します。
壁を押すと手が痛くなるのはなぜか
壁を強く押すと、手には壁からの押し返す力が働きます。
手が壁に力を加えると、壁の表面や内部は非常にわずかに変形します。壁を構成する原子や分子は、その変形に抵抗して元の状態へ戻ろうとし、手へ反対向きの力を及ぼします。
そのため、壁がほとんど動かなくても、手には確かに力が返ってきます。
「壁が動かないのだから、壁には力が働いていない」と考えるのは誤りです。壁には手からの力が働いていますが、建物全体や地面から受ける力もあり、結果として加速度がほとんど生じないだけです。
作用反作用と「力のつり合い」は何が違うのか
作用反作用と力のつり合いは、どちらも「同じ大きさで反対向きの力」が登場するため混同されやすい概念です。
しかし、決定的な違いがあります。
- 作用反作用:2つの力は別々の物体に働く
- 力のつり合い:複数の力は同じ物体に働く
机の上の本を考えます。本には下向きの重力と、机からの上向きの垂直抗力が働いています。この2つは本という同じ物体に働き、大きさが等しければ合力は0になります。これは力のつり合いです。
一方、作用反作用の組は「机が本を上向きに押す力」と「本が机を下向きに押す力」です。この2力は別の物体に働くため、一つの物体の合力を求めるときに打ち消し合うものではありません。
北海道大学の教材でも、作用反作用は別々の物体に働く力の組であり、力のつり合いとは区別する必要があると説明されています。
大きい物体と小さい物体が衝突しても力は同じなのか
大型トラックと小型車が衝突すると、「重いトラックの方が大きな力を及ぼす」と思いやすいかもしれません。
しかし、ニュートンの第3法則では、衝突中にトラックが小型車へ及ぼす力と、小型車がトラックへ及ぼす力は、各瞬間で同じ大きさ・反対向きです。
それでも小型車の方が運動を大きく変えやすいのは、ニュートンの第2法則
a = F / m
によって、同じ大きさの力を受けても質量が小さい方が加速度が大きくなるからです。
つまり「受ける力が大きいから軽い物体が大きく動く」のではなく、同じ力でも質量が違うため運動の変化量が異なるのです。
地球と人も同じ大きさで引き合っているのか
人には地球から重力が働きます。同時に、人も地球を同じ大きさの力で引いています。
「人が地球を引く力なんて無視できるほど小さいのでは」と感じるかもしれませんが、力の大きさ自体は作用反作用の関係で等しくなります。
違うのは加速度です。地球の質量は人より圧倒的に大きいため、同じ力を受けても地球の加速度は極めて小さく、日常ではほとんど観測できません。
この例も、「作用反作用の力が等しいこと」と「2物体の運動変化が等しいこと」は別だと示しています。
歩くときに前へ進めるのはなぜか
歩くとき、人は足で地面を後ろ向きに押します。
そのとき地面は、足を前向きに押し返します。この前向きの力によって体は前へ加速できます。
ここで働くのは主に静止摩擦力です。足が地面を後ろへ押し、地面が足を前へ押すという作用反作用の一対によって前進します。
氷の上で歩きにくいのは、地面との摩擦が小さく、十分な後ろ向きの力を地面へ伝えにくいためです。その結果、地面から受ける前向きの反作用も小さくなります。
泳ぐときに水を後ろへ押す理由
泳ぐ人は、手や足で水を後ろ向きへ押します。すると水は人の手足を前向きへ押します。
OpenStaxは、プールの壁を蹴る例を使い、人が壁を押すと壁から同じ大きさで反対向きの力を受け、その力によって前方へ加速すると説明しています。
水泳でも同じ考え方で、水へ運動量を与えることで、自分は反対向きの運動量を得ます。
ロケットは宇宙空間で何を蹴って進むのか
「作用反作用」と聞いてよく出てくるのがロケットです。
ロケットは燃焼ガスを高速で後方へ噴き出します。ロケットがガスを後ろへ押し出すと、ガスはロケットを前へ押します。
NASAは、ロケットやジェットエンジンの推力をニュートンの第3法則の例として説明しています。ロケットがガスへ後向きの力を及ぼし、ガスがロケットへ前向きの力を及ぼします。
このためロケットは、地面や空気を蹴らなくても進めます。宇宙空間でも、自分が持っている推進剤を後方へ噴射すれば前進できます。
「ガスを後ろへ出すから前へ進む」は運動量保存でも説明できる
作用反作用の法則は、運動量保存と深く関係しています。
北海道大学の教材では、相互作用する2物体に等しい大きさ・反対向きの力が働くことから、2物体全体の運動量が保存されることが示されています。
ロケットと排気ガスを一つの系として考えると、ガスが後方へ運動量を持つほど、ロケットは前方へ運動量を持ちます。外部から大きな力が働かなければ、全体の運動量は保存されます。
ただし、「作用反作用だから運動量保存」「運動量保存だから作用反作用」と単純に同一視するのではなく、ニュートン力学の中で両者が密接に結びついていると理解するのが適切です。
磁石が鉄を引くときも鉄は磁石を引いているのか
磁石を鉄片へ近づけると、鉄片が磁石へ引き寄せられます。このとき鉄片だけが力を受けているように見えるかもしれません。
しかし、磁石も鉄片から反対向きの力を受けています。
磁石を机に固定していれば動かないため、その力は分かりにくくなります。固定せず摩擦の小さい台の上に置けば、磁石側も鉄片へ近づく動きを示します。
接触していない物体同士でも、相互作用があれば力の対を考えられます。
作用反作用は「接触している物体」にしか成り立たないのか
いいえ。ニュートン力学では、接触力だけでなく、重力などの遠隔作用にも第3法則を適用できます。
たとえば地球が月を引くとき、月も地球を同じ大きさで反対向きに引きます。地球と月は共通重心のまわりを運動します。
ただし、現代物理学では電磁場や相対論を含む一般的な状況では、物体同士の機械的な力だけを取り出すと、単純な「同時刻に完全に等しい反対向きの二力」という形で表せない場合があります。その場合は場が持つ運動量まで含めて全体系の運動量保存を考えます。
したがって、学校物理や通常のニュートン力学で扱う力学現象では第3法則は非常に有効ですが、自然界のあらゆる相互作用を最も一般的な形で記述する原理としては、運動量保存など、より広い枠組みも重要です。
同じ大きさの力なら、なぜ一方だけが動くことがあるのか
人が壁を押したとき、人だけが後ろへ動いて壁はほとんど動かないことがあります。
このときも、人が壁へ及ぼす力と壁が人へ及ぼす力は同じ大きさです。
違いは、それぞれの物体に働く他の力と質量です。
壁は建物や地面とつながっており、多くの支持力を受けています。人には壁からの力のほかに、地面からの摩擦力などが働きます。各物体の運動は、それぞれに働くすべての力の合力と質量によって決まります。
作用反作用の2力だけを見て「同じ大きさなら2物体は同じ動きをするはず」と考えるのは誤りです。
作用反作用を見分ける方法
作用反作用の組を見分けるときは、「誰が誰に力を及ぼしているか」を文章にすると分かりやすくなります。
たとえば、机の上の本なら次のように考えます。
- 机が本を上向きに押す
- 本が机を下向きに押す
この2つが作用反作用の組です。
一方、
- 地球が本を下向きに引く
- 机が本を上向きに押す
は同じ本に働く力なので、作用反作用の組ではなく、つり合いを考えるための力です。
「物体Aが物体Bに○○する力」と「物体Bが物体Aに○○する力」という形になっているかを確認すると、見分けやすくなります。
作用反作用の法則はなぜ重要なのか
第3法則を理解すると、力を単独の矢印として見るのではなく、物体同士の相互作用として整理できます。
これにより、歩行、泳ぎ、ロケットの推進、衝突、接触力、張力、重力など、多くの現象を共通の考え方で説明できます。
また、どの力がどの物体に働くのかを明確にできるため、自由物体図を描いたり、ニュートンの第2法則で運動方程式を立てたりするときにも欠かせません。
まとめ
物体が相手へ力を及ぼすと、相手から同じ大きさで反対向きの力を受けるのは、ニュートン力学では力が2物体の相互作用として現れ、その相互作用が両方の物体へ対になった力を及ぼすと考えるからです。
作用反作用の2力は同時に生じ、大きさが等しく、向きが反対ですが、必ず別々の物体に働きます。そのため、同じ物体上で打ち消し合う「力のつり合い」とは別の関係です。
人が地面を蹴って歩く、泳ぐ人が水を押す、ロケットがガスを噴射する、衝突する物体同士が押し合うといった現象は、すべてこの考え方で理解できます。
さらに、作用反作用の法則は運動量保存とも深く関係しています。現代物理では、より一般的な状況では場が持つ運動量も含めて考える必要がありますが、日常の力学現象を理解するうえでニュートンの第3法則は今でも基本となる法則です。
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参考資料
- 北海道大学「ゼロからはじめる科学力養成講座1」
- J-STAGE『物理教育』「橋渡しを取り入れたILDsの有効性:ニュートンの第3法則の学習を事例として」
- OpenStax「Newton’s Third Law」
- NASA Glenn Research Center「Newton’s Third Law – Action & Reaction」

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