回転するメリーゴーラウンドの上では、外向きに引かれるように感じます。回転台の上でボールを転がすと、まっすぐ進んでいるはずのボールが横へ曲がるように見えます。さらに、回転速度そのものが変化すると、静止していた物体にも別の向きの見かけの力が現れます。
こうした現象を回転する観測者からニュートン力学で記述するとき、運動方程式には遠心力・コリオリ力・オイラー力という慣性力が現れます。
なぜ3種類もの力が必要になるのでしょうか。理由は、回転する座標系では、位置を表す基底ベクトルそのものが時間とともに向きを変えるため、速度や加速度を微分すると回転由来の追加項が現れるからです。その追加項を運動方程式の力の側へ移すと、遠心力・コリオリ力・オイラー力として表されます。
まず、慣性系と回転座標系の違い
ニュートンの運動方程式
m a = F
が最も単純な形で成り立つ座標系を慣性系と呼びます。
一方、回転している座標系は非慣性系です。JAXAは、加速する座標系では慣性の法則がそのまま成り立たず、そこでニュートンの運動方程式を使うために慣性力を導入すると説明しています。
遠心力もその一つです。
回転座標系では「座標軸そのもの」が動いている
地面に固定された座標系では、x軸・y軸の向きは時間がたっても変わりません。
しかし、回転台に固定された座標系では、座標軸そのものが回転しています。
物体の位置ベクトルを同じ数値で表していても、そのベクトルを構成する基底ベクトルの向きが時間とともに変化します。
そのため、回転座標系で速度や加速度を求めるときは、座標成分の変化だけでなく、座標軸の向きの変化も微分に含める必要があります。
回転するベクトルの時間微分
角速度ベクトルをωとすると、回転座標系で表した任意のベクトルAについて、慣性系から見た時間微分と回転系から見た時間微分には
(dA/dt)inertial = (dA/dt)rot + ω × A
という関係があります。
右辺のω × Aが、座標軸そのものが回転しているために追加される項です。
この関係を位置ベクトルrに適用すると、まず速度に回転由来の項が加わり、さらにもう一度時間微分すると、加速度に複数の追加項が現れます。
回転座標系の加速度には何が加わるのか
回転座標系の原点が慣性系に対して並進加速度を持たない単純な場合、慣性系での加速度aと、回転系で測った加速度a′の関係は
a = a′ + 2ω × v′ + ω × (ω × r) + (dω/dt) × r
と表せます。
ここで、
- a′:回転座標系から見た物体の加速度
- v′:回転座標系から見た物体の速度
- 2ω × v′:コリオリ加速度
- ω × (ω × r):向心加速度に対応する回転由来の項
- (dω/dt) × r:回転速度が変わることで生じる項
です。
MIT OpenCourseWareの非慣性回転座標系の教材でも、回転座標系の加速度にコリオリ項と遠心項が現れることが示されています。
なぜこれらを「力」として書くのか
慣性系では、実在する力Fだけで
m a = F
と書けます。
先ほどの加速度変換式を代入すると、
m[a′ + 2ω × v′ + ω × (ω × r) + (dω/dt) × r] = F
です。
回転系の観測者が、自分の測る加速度a′についてニュートンの形
m a′ = 力の合計
を使いたいなら、回転由来の項を右辺へ移します。
すると、
m a′ = F − 2mω × v′ − mω × (ω × r) − m(dω/dt) × r
となります。
右辺へ移した3つの項が、それぞれコリオリ力・遠心力・オイラー力です。
遠心力はどの項なのか
遠心力は
Fcf = −mω × (ω × r)
です。
一定角速度で回転する座標系では、この力は回転軸から外向きに働くように見えます。
物体が回転系に対して静止していても遠心力は現れます。
半径rで角速度ωの一様回転なら、その大きさは
Fcf = mω2r
です。
JAXAは、回転座標系では外向きにmv2/rの慣性力が働くように見え、これを遠心力と呼ぶと説明しています。
遠心力はなぜ速度v′に依存しないのか
遠心力の式には、回転座標系から見た物体の速度v′が入っていません。
そのため、回転台の上で物体が回転系に対して静止していても遠心力は現れます。
これは、遠心力が物体自身の回転系内での移動ではなく、座標系そのものが回転していることに由来するからです。
コリオリ力はどの項なのか
コリオリ力は
Fcor = −2mω × v′
です。
この式にはv′が入っているため、回転座標系の中で物体が動いているときだけ現れます。
OpenStaxは、回転するメリーゴーラウンド上でボールを直線的に動かすと、地面からはほぼ直線運動に見える一方、回転台の観測者からは軌道が横へ曲がって見え、その見かけの曲がりを説明するためにコリオリ力を導入すると説明しています。
なぜコリオリ力には2が付くのか
コリオリ力の係数が2になるのは、加速度を求めるために速度をもう一度微分したとき、回転由来の項が二つの経路から現れるからです。
一つは、物体の回転系内速度v′そのものを回転座標系から慣性系へ変換するときに現れます。
もう一つは、回転している基底ベクトルに沿って物体が移動するために現れます。
両者が同じ形のω × v′として加わるため、合計で2ω × v′になります。
コリオリ力は進行方向に対してどちらへ働くのか
コリオリ力は
−2mω × v′
なので、ωとv′の両方に垂直な方向へ働きます。
そのため、単純な条件では物体の速さそのものを増減させるというより、進行方向を横へ曲げる効果を持ちます。
地球上では、大気や海流のような大規模運動でコリオリ効果が重要になります。
JAXAも、回転座標系の中を運動する物体に横向きに働く見かけの力としてコリオリ力を説明しています。
オイラー力はどの項なのか
オイラー力は
FE = −m(dω/dt) × r
です。
これは、回転座標系の角速度ωそのものが時間変化するときに現れます。
たとえば回転台が一定速度で回り続けているならdω/dt = 0なので、オイラー力は現れません。
しかし、回転台が回り始める、加速する、減速するといった場合にはdω/dtが0でなくなり、回転速度の変化に対応した見かけの力が必要になります。
回転台が急に回り始めると体が後ろへ残るのはなぜか
回転していなかった円盤が急に回転を始めると、円盤の上にいる人や物体は、その場に取り残されるように感じます。
慣性系から見れば、物体はそれまでの運動状態を保とうとし、床から摩擦力を受けて徐々に回転運動へ移ります。
回転台と一緒の座標系から見ると、角速度が増加しているため、回転方向と反対向きにオイラー力を導入すると運動を説明できます。
三つの慣性力は何が違うのか
整理すると、
- 遠心力:回転座標系そのものの回転により現れ、物体が回転系内で静止していても働く
- コリオリ力:回転座標系の中を物体が動くと現れる
- オイラー力:座標系の角速度が時間変化すると現れる
という違いがあります。
つまり、三つの力は別々の不思議な力ではなく、回転座標系で加速度を変換したときに現れる異なる数学的項に対応しています。
回転系に対して静止している物体には何が働くのか
物体が回転系に対して静止していればv′ = 0なので、コリオリ力は0です。
さらに角速度が一定ならdω/dt = 0なので、オイラー力も0です。
この場合に残るのは遠心力です。
そのため、一様回転するメリーゴーラウンドに固定された物体を考えるときは、遠心力だけを考えればよい場合があります。
回転系の中で物体が動くと何が増えるのか
物体が回転系内で動けばv′が0でなくなるため、コリオリ力が加わります。
たとえば回転台の中心から外向きへボールを転がすと、回転台上の観測者には横へ曲がって見えます。
これはコリオリ力の効果として表せます。
さらに回転速度そのものまで変化していれば、遠心力・コリオリ力・オイラー力の三つすべてが同時に現れることがあります。
地球上ではどの慣性力を考えるのか
地球も自転しているため、地表に固定した座標系は厳密には回転座標系です。
そのため、地球上の精密な運動では遠心力とコリオリ力を考える必要があります。
遠心力は、赤道付近で見かけの重力をわずかに小さくする方向に働きます。
コリオリ力は、大気や海流、長距離を移動する物体などの見かけの進行方向を曲げます。
一方、地球の自転速度は日常的にはほぼ一定なので、オイラー力は通常の地球上の問題では無視されることが多くあります。
台風の回転とコリオリ力の関係
大気は地球表面に対して大規模に移動します。
地球と一緒に回転する座標系から見ると、この大気の移動にはコリオリ力が現れます。
OpenStaxは、地球の回転によるコリオリ効果が大規模な気象システムの回転に関係すると説明しています。
ただし、台風を回転させる原因がコリオリ力だけというわけではありません。気圧差による力、摩擦、潜熱なども重要です。コリオリ力は進行方向を曲げる役割を持ちます。
遠心力と向心力は同じ式でも意味が違う
一様円運動では、遠心力の大きさも向心力に必要な大きさも
mω2r = mv2/r
になります。
しかし意味は異なります。
慣性系では、物体を円運動させるために中心向きの実在する合力が必要です。これを向心力と呼びます。
回転系では、同じ物体が静止して見えるため、外向きの遠心力を導入すると、中心向きの実在力とつり合う形で記述できます。
大きさが同じだからといって、向心力と遠心力が作用反作用の一対になるわけではありません。
慣性力は「存在しない力」なのか
遠心力・コリオリ力・オイラー力は、重力や摩擦力のように物体間の相互作用を起源とする力ではありません。
その意味で「見かけの力」「仮想力」と呼ばれます。
しかし、回転座標系で運動を計算するうえでは非常に実用的です。
たとえば気象学、海洋学、回転機械、タービン、遠心分離機などでは、回転系の方が現象を簡潔に表せるため、これらの慣性力を普通に使います。
「実在しないから無意味」なのではなく、座標系の加速度を運動方程式へ組み込むための有効な表現です。
なぜニュートンの法則そのものが変わったわけではないのか
慣性系から見れば、物体に働く実在力だけで運動を説明できます。
回転系で追加の慣性力が必要になるのは、ニュートンの法則が壊れたからではありません。
観測に使う座標系そのものが加速・回転しているため、その影響を補正しているだけです。
同じ物理現象を異なる座標系から記述すると、運動方程式の見た目が変わるということです。
一般の非慣性系ではさらに並進慣性力も現れる
ここまでは回転座標系の原点が慣性系に対して並進加速していない場合を中心に扱いました。
もし回転座標系の原点そのものが加速していれば、その加速度に対応する並進慣性力も追加されます。
したがって一般の非慣性系では、
- 原点の並進加速による慣性力
- 遠心力
- コリオリ力
- オイラー力
を必要に応じて考えます。
既存の「なぜ遠心力が現れるか」という説明とは何が違うのか
遠心力そのものを理解する記事では、「回転系ではなぜ外向きの見かけの力を感じるか」「向心力との違い」が中心です。
一方、この記事では、回転座標系の加速度変換式から、
−mω × (ω × r)
−2mω × v′
−m(dω/dt) × r
という三つの項がどのように運動方程式へ現れるかを重点的に扱っています。
つまり、前者は遠心力の「意味と直感」、本記事は回転座標系の「運動方程式の構造」が主題です。
まとめ
回転座標系の運動方程式に遠心力・コリオリ力・オイラー力が現れるのは、回転座標系では座標軸そのものが時間とともに向きを変えるため、位置ベクトルを2回時間微分して加速度を求めると、回転に由来する追加項が生じるからです。
その追加項をニュートンの運動方程式の力側へ移すと、
- 遠心力:−mω × (ω × r)
- コリオリ力:−2mω × v′
- オイラー力:−m(dω/dt) × r
として表されます。
遠心力は回転系内で静止した物体にも現れ、コリオリ力は回転系内を物体が動くと現れ、オイラー力は角速度が変化すると現れます。
三つは別々の基本相互作用ではなく、回転する座標系からニュートン力学を使うために必要になる慣性力なのです。
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参考資料
- JAXA 有人宇宙技術部門「『慣性力』と『遠心力』について教えてください」
- JAXA「有人月面探査の火災安全性確保に向けた材料燃焼実験の最新成果」
- MIT OpenCourseWare「Non-Inertial Rotating Reference Frames」
- OpenStax「Fictitious Forces and Non-inertial Frames: The Coriolis Force」

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