てこは、小さな力で大きな力を生み出せる道具として知られています。しかし、てこは「力だけを得する」仕組みではありません。
力を大きくできるてこでは、その代わりに力点をより長い距離動かす必要があります。反対に、作用点を大きく速く動かせるてこでは、その代わりに作用点へ伝えられる力は小さくなります。
この関係は、支点まわりのモーメントのつり合いと、理想的な機械では入力仕事と出力仕事が等しいことから説明できます。
第1・第2・第3種てこは、支点・力点・作用点の並び方が違うだけで、同じ法則に従っています。
てこの3つの点を確認する
てこでは、次の3つの位置を区別します。
- 支点:てこが回転する中心
- 力点:人などが力を加える位置
- 作用点:てこが荷物や物体へ力を伝える位置
支点から力点までの距離をLe、支点から作用点までの距離をLrとします。
JICAの理科教材でも、支点から遠い位置を押すほど小さな力でてこを動かせることが示されています。
てこがつり合う条件
力を棒に対して直角に加える単純な場合、支点まわりのモーメントは
τ = FL
で表せます。
てこが静止またはゆっくり一定の状態で動いていて、回転加速度を無視できるなら、力点側と作用点側のモーメントがつり合います。
FeLe = FrLr
ここでFeは入力する力、Frは作用点側で得られる力です。
整理すると、
Fr / Fe = Le / Lr
となります。
つまり、力点側の腕が作用点側より長いほど、大きな力を得られます。
機械的利得とは何か
入力した力に対して、出力側で何倍の力を得られるかを機械的利得と呼びます。
理想的なてこでは、
IMA = Fr / Fe = Le / Lr
です。
OpenStaxも、理想的なてこの機械的利得は、力点側の腕の長さを作用点側の腕の長さで割った比になると説明しています。
たとえばLeがLrの5倍なら、理想的には入力力の5倍の力を作用点で得られます。
なぜ力を5倍にしてもエネルギーは増えないのか
てこはエネルギーを作り出しているわけではありません。
理想的なてこでは、入力仕事と出力仕事は等しくなります。
Win = Wout
仕事は、力とその方向に動いた距離の積なので、
Fede = Frdr
です。
したがって、
Fr / Fe = de / dr
となります。
OpenStaxでも、理想的な単純機械について、機械的利得は入力距離と出力距離の比にも等しいと説明されています。
なぜ力を得ると、より長い距離を動かす必要があるのか
支点のまわりを棒が角度Δθだけ回転するとします。
支点から距離Lにある点が動く円弧の長さは、角度が小さい場合も含めて
d = LΔθ
です。
したがって、同じ角度だけ回転したとき、支点から遠い点ほど長い距離を動きます。
力点側と作用点側では、
de / dr = Le / Lr
です。
つまり、力点側の腕を5倍長くすると、理想的には力を5倍にできる代わりに、力点は作用点の5倍の距離を動かなければなりません。
速度の利得も距離と同じ比になる
同じ時間Δtの間に動くなら、速度は移動距離を時間で割ったものです。
v = d / Δt
したがって、てこが同じ角速度で回っているとき、支点から遠い点ほど速く動きます。
ve / vr = Le / Lr
です。
力点側の腕が長い「力を得るてこ」では、力点の方が大きな距離を速く動き、作用点は短い距離をゆっくり動きます。
反対に、作用点側の腕が長い「速度や移動距離を得るてこ」では、作用点が大きく速く動く代わりに、出力する力は小さくなります。
力の利得と速度の利得が逆になる理由
てこでは、
Fr / Fe = Le / Lr
である一方、
vr / ve = Lr / Le
です。
したがって、
(Fr / Fe)(vr / ve) = 1
となります。
力を2倍にすれば速度側では1/2、力を5倍にすれば速度側では1/5になります。
これは、理想的には仕事率
P = Fv
が入力側と出力側で等しくなることとも一致します。
第1種てことは何か
第1種てこでは、支点が力点と作用点の間にあります。
代表例は、シーソー、はさみ、くぎ抜きなどです。
第1種てこの特徴は、支点の位置を変えることで、力を得ることも、移動距離や速度を得ることもできる点です。
力点側の腕を長くすれば力を得られます。
逆に作用点側の腕を長くすれば、作用点を大きく速く動かせます。
はさみはなぜ刃の根元ほど強く切れるのか
はさみは第1種てこです。
支点は2枚の刃が交差する軸、力点は持ち手、作用点は刃が物を挟む位置です。
同じ握る力でも、支点に近い刃の根元で切る方が、作用点側の腕Lrが短くなります。
そのため、
Fr / Fe = Le / Lr
が大きくなり、強い切断力を得られます。
日本科学未来館の解説でも、はさみでは作用点が支点に近いほど大きな力を生みやすいことが紹介されています。
第2種てことは何か
第2種てこでは、作用点が支点と力点の間にあります。
代表例は、手押し車や栓抜きです。
この配置では、通常Le > Lrとなるため、
Fr > Fe
となりやすく、必ず力の利得を得られる構造です。
その代わり、力点は作用点より大きな距離を動きます。
手押し車が重い荷物を運びやすい理由
手押し車では、車輪の軸が支点、荷物が作用点、持ち手が力点です。
荷物は支点に比較的近く、手は支点から遠い位置にあります。
そのため長い力点側の腕を使って、小さな上向きの力で重い荷物のモーメントにつり合わせられます。
OpenStaxでも、手押し車を機械的利得の具体例として、入力側の腕が長いことで必要な入力力が小さくなると示しています。
第3種てことは何か
第3種てこでは、力点が支点と作用点の間にあります。
代表例は、人の前腕や一部のピンセットです。
この配置では、通常Le < Lrです。
したがって、
Fr / Fe < 1
となり、作用点で得られる力は入力力より小さくなります。
しかし、作用点は力点より長い距離を、より速く動けます。
人の腕はなぜ「力では不利」な第3種てこを使うのか
ひじを曲げる動きを考えると、ひじ関節が支点、上腕二頭筋が骨を引く位置が力点、手が作用点です。
筋肉の力点はひじに近く、手はひじから遠くにあります。
そのため筋肉は大きな力を出す必要があります。
一方、筋肉がわずかに縮むだけで、手先は大きな距離を素早く移動できます。
生物の運動では、単に大きな力を得るだけでなく、手足の速度や可動範囲が重要です。そのため第3種てこには大きな利点があります。
第1・第2・第3種の違いを一覧で考える
3種類のてこは、支点・力点・作用点の位置関係で分類されます。
- 第1種:支点が中央。配置次第で力にも速度にも利得を持たせられる。
- 第2種:作用点が中央。力点側の腕が長くなり、力の利得を得やすい。
- 第3種:力点が中央。作用点側の腕が長くなり、距離・速度の利得を得やすい。
分類が違っても、モーメントと仕事の法則は同じです。
機械的利得が1より大きければ必ず得なのか
機械的利得が1より大きいと、確かに小さな入力力で大きな出力力を得られます。
しかし、その分だけ入力側を長く動かす必要があります。
たとえば力を10倍にする理想的なてこなら、入力側は出力側の約10倍の距離を動きます。
したがって「得」なのは力の大きさについてであり、仕事量やエネルギーについて無条件に得をしているわけではありません。
逆に機械的利得が1より小さいてこに意味はあるのか
あります。
機械的利得が1より小さい第3種てこのような構造では、入力力より大きな出力力は得られません。
しかし、出力側を大きな距離・速い速度で動かせます。
人の腕、動物の脚、スポーツ用具などでは、速度や可動範囲が重要なので、力の利得を犠牲にする価値があります。
「速度の利得」はエネルギーを増やしているのか
速度を大きくできても、エネルギーが増えるわけではありません。
理想的には入力側と出力側の仕事率が等しいので、
Feve = Frvr
です。
出力速度vrを大きくすれば、その分だけ出力力Frは小さくなります。
てこは「力」と「速度」の配分を変える装置と考えることもできます。
実際のてこでは理想値より利得が小さくなる
現実のてこには、支点の摩擦、部材の変形、接触部での損失などがあります。
そのため、出力仕事は入力仕事より小さくなります。
効率ηを使えば、
η = Wout / Win
と表せます。
OpenStaxでは、実際の機械の効率は出力仕事を入力仕事で割った値として定義され、摩擦があるため100%未満になると説明されています。
なぜ長い柄の工具が有利なのか
レンチ、くぎ抜き、バールなどでは、力点を支点から遠くするほどLeが大きくなります。
同じトルクを得るために必要な入力力を小さくできるため、固いボルトや重い物体を動かしやすくなります。
ただし、その代わり力点は長い円弧を動くため、手をより大きく移動させる必要があります。
なぜ支点の位置を変えるだけで性質が変わるのか
てこの棒が同じでも、支点の位置を変えるとLeとLrの比が変わります。
すると、
Fr / Fe = Le / Lr
と
dr / de = Lr / Le
の両方が同時に変わります。
支点位置を変えることは、力と距離・速度の交換比率を変えることなのです。
モーメントのつり合いと仕事の保存は別の法則なのか
静止したてこでは、モーメントのつり合い
FeLe = FrLr
を使うと力の関係が分かります。
一方、実際にてこが動くときは、各点の移動距離が腕の長さに比例します。
その結果、
Fede = Frdr
となり、仕事の保存と同じ関係が得られます。
日本薬科大学の物理教育研究でも、力のモーメントと仕事は、作用点の移動方向と力の成分という観点から密接につながることが論じられています。
既存の「なぜてこは小さな力で大きな力を出せるか」という説明とは何が違うのか
てこの基本原理を扱う記事では、支点からの距離によってトルクが変わり、小さな力から大きな力を得られることが中心です。
一方、この記事では、第1・第2・第3種てこを比較し、力の利得が大きくなるほど移動距離・速度の利得が小さくなる理由を重点的に扱っています。
つまり、前者は「てこがなぜ力を増幅できるか」、本記事は「てこが力と距離・速度をどう交換しているか」が主題です。
まとめ
第1・第2・第3種てこで、力の利得と移動距離・速度の利得が逆になるのは、支点からの距離によって力のモーメントと各点の移動距離が同時に決まるからです。
理想的なてこでは、
Fr / Fe = Le / Lr
かつ
dr / de = vr / ve = Lr / Le
です。
したがって、力を大きくするほど出力側の移動距離・速度は小さくなり、出力側を大きく速く動かすほど得られる力は小さくなります。
第2種てこは力を得やすく、第3種てこは距離や速度を得やすく、第1種てこは支点位置によってそのどちらにも設計できます。
てこの本質は「力を無限に増やすこと」ではなく、同じ仕事・エネルギーの範囲で、力と移動距離・速度の配分を変えることなのです。
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参考資料
- JICA「てこのはたらき 教師用解説書」
- J-STAGE『物理教育通信』「力のモーメントと仕事」
- OpenStax「Simple Machines」
- OpenStax College Physics for AP Courses 2e「Simple Machines」

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