遠心力について調べると、二つの式が出てきます。
F = mω2r
と、
F = mv2/r
です。
最初の式を見ると、半径rが大きいほど遠心力は大きくなります。ところが二つ目の式を見ると、半径rが大きいほど遠心力は小さくなります。
これは矛盾ではありません。
二つの式は何を一定にして比べているかが違うからです。
同じ回転数、つまり同じ角速度ωで比べると、半径が大きいほど接線速度vも大きくなるため遠心力は大きくなります。一方、同じ接線速度vで比べると、半径が大きいほど進行方向を曲げる割合が小さくなるため、必要な向心力と回転系で見た遠心力は小さくなります。
まず遠心力とは何か
遠心力は、回転している観測者から物体の運動を記述するときに導入する慣性力です。
JAXAは、円運動する物体を回転座標系から見ると、中心と反対向きに見かけの力が働くように見え、その力を遠心力と呼ぶと説明しています。
慣性系から見ると、円運動を続ける物体には中心向きの向心加速度があり、その加速度を生み出す実在の合力が必要です。
したがって、遠心力の大きさを考えるときは、向心加速度の大きさ
ac = v2/r = ω2r
と同じ関係を使えます。
二つの式は本当に同じなのか
円運動では、接線速度v、角速度ω、半径rの間に
v = ωr
という関係があります。
向心力の大きさ
F = mv2/r
へv=ωrを代入すると、
F = m(ωr)2/r
となり、
F = mω2r
が得られます。
金沢工業大学の等速円運動教材とOpenStaxも、向心加速度を
a = v2/r = rω2
と同じ現象を表す二つの形で示しています。
つまり式が二種類あるのではなく、同じ式を異なる変数で書き直しているだけです。
同じ回転数なら、なぜ半径が大きいほど遠心力が大きいのか
同じ回転数とは、1秒あたり、あるいは1分あたりに同じ回数だけ回転するということです。
これは角速度ωが同じという意味です。
このとき、
F = mω2r
なので、質量mと角速度ωが同じなら、遠心力の大きさは半径rに比例します。
半径が2倍なら2倍、3倍なら3倍です。
外側の点ほど速く動くことが重要
同じ角速度で回転する円盤を考えます。
中心近くの点も外周近くの点も、同じ時間で1周します。
しかし外周近くの点は、1周する間により長い距離を進まなければなりません。
接線速度は、
v = ωr
なので、同じωならrが大きいほどvも大きくなります。
外側ほど速く動くため、その速度の向きを円周に沿って曲げ続けるための加速度も大きくなります。
同じ回転数で半径を2倍にすると何が起こるのか
角速度ωを固定して半径をrから2rへ変えると、接線速度は
v = ωr → 2ωr
となり2倍です。
一方、向心加速度は
a = ω2r
なので2倍になります。
速度は2倍なのに加速度が4倍ではないのは、同時に半径も2倍になっているからです。
v2/rで見ると、分子が4倍、分母が2倍なので、結果は2倍になります。
JAXAの説明でも同じ回転速度なら外側ほど遠心力が大きい
JAXAは、ひもでつながれた衛星の説明で、同じ回転速度なら回転半径が大きいほど遠心力が大きくなると説明しています。
これはF=mω2rの関係そのものです。
回転体と一緒に回る物体を比べるときは、角速度を共通にすることが多いため、「外側ほど遠心力が強い」という説明がよく使われます。
では、同じ速さならなぜ半径が大きいほど弱くなるのか
今度は接線速度vを同じにして比べます。
向心加速度は、
a = v2/r
です。
質量mも同じなら、
F = mv2/r
なので、半径rが大きいほど必要な向心力は小さくなり、回転系で見た遠心力の大きさも小さくなります。
半径が2倍なら半分、3倍なら3分の1です。
同じ速さで大きな円を回る方が曲がり方が緩やか
同じ25 m/sで車がカーブを走る場合を考えます。
半径50 mの急カーブと、半径500 mの緩いカーブでは、後者の方が進行方向を少しずつ変えれば円軌道を保てます。
つまり速度ベクトルの向きを変える割合が小さくて済みます。
そのため、
a = v2/r
で半径が大きいほど向心加速度は小さくなります。
OpenStaxも、同じ速度なら半径の小さい鋭いカーブほど大きな向心力が必要になると説明しています。
「同じ回転数」と「同じ速さ」は同時には保てない
ここが最も重要です。
円運動では、
v = ωr
です。
半径rを変えるとき、ωとvを両方同じにはできません。
同じωを保てばvが変わり、同じvを保てばωが変わります。
したがって、
- ω一定:F=mω2rなので、rが大きいほどFは大きい
- v一定:F=mv2/rなので、rが大きいほどFは小さい
となります。
これは条件の違いであり、物理法則の矛盾ではありません。
同じ速さで半径を2倍にすると角速度はどうなるのか
vを一定にしてrを2倍にすると、
ω = v/r
なので角速度は半分になります。
つまり、大きな円を同じ速さで走る物体は、1秒あたりに向きを変える角度が小さくなります。
1周するのにかかる時間も長くなります。
そのため、同じ速さでも必要な向心加速度が小さくなります。
回転数nで書くとどうなるのか
1秒あたりの回転数をnとすると、角速度は
ω = 2πn
です。
したがって、
F = m(2πn)2r
となります。
同じ回転数nなら、Fはrに比例します。
一方、同じ接線速度vなら回転数は
n = v/(2πr)
なので、半径が大きいほど回転数は小さくなります。
同じ回転数で半径を大きくすると1周の距離も増える
円周は
2πr
です。
同じ回転数なら、1秒あたりに同じ回数だけこの円周を進みます。
半径が大きいほど円周も長くなるため、1秒あたりの移動距離、つまり接線速度も大きくなります。
「外側ほど遠心力が強い」という現象の背景には、この速度増加があります。
メリーゴーラウンドで外側ほど強く感じるのはどちらの条件か
メリーゴーラウンドは一つの回転体として回るので、中心近くも外側もほぼ同じ角速度ωを共有します。
したがって比較条件は「同じ回転数」です。
外側ほどrが大きいため、
a = ω2r
が大きくなり、外側ほど強く外へ引かれるように感じます。
同じ速度で道路のカーブを走る場合はどちらの条件か
自動車が同じ50 km/hで、半径の違う二つのカーブを走る場合は「同じ接線速度v」の比較です。
このとき、
a = v2/r
なので、半径の小さい急カーブほど大きな向心加速度が必要です。
車内からは、急カーブほど強く外へ振られるように感じます。
この経験は「半径が大きいほど遠心力が強い」というメリーゴーラウンドの経験と一見逆ですが、固定条件が違います。
遠心分離機では半径を大きくするとどうなるのか
遠心分離機では、通常はローター全体が同じ角速度で回ります。
したがって、同じ回転数なら試料を回転軸から遠い位置へ置くほど、
a = ω2r
によって遠心加速度は大きくなります。
このため遠心分離機では、rpmだけでなく回転半径も遠心効果を決める重要な条件です。
RCFで回転半径が使われるのはなぜか
遠心分離機では、回転効果を重力加速度gの何倍かで表す相対遠心力RCFが使われます。
基本的には、
RCF = ω2r/g
です。
同じrpmでもローター半径が違えばRCFが変わるため、rpmだけを比べても試料が受ける遠心効果は同じとは限りません。
人工重力ではなぜ大きな半径が使われるのか
回転式の人工重力では、
a = ω2r
を使います。
同じ角速度なら半径を大きくするほど人工重力は強くなります。
また、同じ人工重力aを作るなら、
ω = √(a/r)
なので、半径を大きくすればよりゆっくり回せます。
大きな回転施設が検討される理由の一つです。
同じ周期ならどうなるのか
周期Tは1周にかかる時間です。
角速度は、
ω = 2π/T
です。
したがって同じ周期Tなら角速度も同じなので、
F = m(2π/T)2r
となり、半径が大きいほど遠心力は大きくなります。
「同じ回転数」と「同じ周期」は、半径依存を考える上では同じ側の条件です。
同じ接線速度なら周期はどう変わるのか
接線速度vを一定にすると、
T = 2πr/v
です。
半径が2倍なら1周の距離も2倍なので、周期も2倍になります。
つまり同じ速さで大きな円を回る物体は、ゆっくり向きを変えながら長い時間をかけて1周します。
この「向きの変化がゆっくり」という点が、必要な向心加速度が小さくなる理由です。
数値で比べると逆転が分かりやすい
質量1 kgの物体を考えます。
まず角速度ω=2 rad/sを一定にします。
r=1 mなら、
F = 1×22×1 = 4 N
r=2 mなら、
F = 1×22×2 = 8 N
で、半径2倍で力も2倍です。
次に接線速度v=2 m/sを一定にします。
r=1 mなら、
F = 1×22/1 = 4 N
r=2 mなら、
F = 1×22/2 = 2 N
となり、今度は半径2倍で力は半分です。
同じ半径変更でも、何を一定にしたかで結果が逆になります。
「半径が大きいほど遠心力が大きい」は条件付きの説明
この言い方は、角速度や回転数が同じという前提なら正しいです。
しかし速度vを一定にした比較では逆になります。
そのため物理の式で「rに比例」「rに反比例」と読むときは、必ず他の量のうち何を一定と考えているかを確認する必要があります。
これは円運動に限らず、多変数の物理式を読むときの基本です。
遠心力と向心力は同じものなのか
同じものではありません。
慣性系では、円運動を維持するため中心向きに働く実在の合力を向心力と呼びます。
回転座標系では、ニュートンの運動方程式をその座標系で使うため、外向きの慣性力として遠心力を導入します。
一様円運動で物体が回転系に対して静止している場合、向心力と遠心力は大きさが等しく反対向きに表されます。
JAXAも、遠心力は回転する物体に新たな外向きの実在力が発生したものではなく、回転している観測者から見た慣性力だと説明しています。
既存の「遠心力を決める量」の記事とは何が違うのか
既存の記事では、遠心力の大きさが質量m、回転半径r、角速度ωで変わることをF=mω2rを中心に広く扱っています。
一方、この記事では、半径rの効果だけを見ても、回転数を一定にするか接線速度を一定にするかで比例・反比例が逆に見える理由を重点的に扱っています。
つまり、前者は「遠心力を何が決めるか」、本記事は「条件の固定方法によって半径依存がなぜ逆転するのか」が主題です。
まとめ
遠心力が、同じ回転数なら半径が大きいほど強く、同じ速さなら半径が大きいほど弱くなるように見えるのは、二つの式が矛盾しているからではありません。
円運動では、
v = ωr
なので、半径を変えるときにvとωを同時に一定にはできません。
同じ回転数、つまりω一定なら、
F = mω2r
によりFはrに比例します。
同じ接線速度vなら、
F = mv2/r
によりFはrに反比例します。
同じ回転数では外側ほど接線速度が大きくなり、同じ速さでは大きな円ほど進行方向をゆっくり変えればよい、という違いがこの逆転の原因です。
つまり、物理式の比例関係を読むときは、「何を一定にして比較しているのか」を必ず確認する必要があるのです。
関連記事
参考資料
- JAXA 有人宇宙技術部門「『慣性力』と『遠心力』について教えてください」
- JAXA 有人宇宙技術部門「ひもつき人工衛星の軌道はどうなるのでしょうか」
- 金沢工業大学「等速円運動:位置・速度・加速度」
- OpenStax「Centripetal Force」

コメント