なぜ電磁石はコイルと鉄心で強い磁場を作れるのか?

電磁石がコイルと鉄心で強い磁場を作れるのは、電流が流れる導線の周囲に生じる磁場を、コイルによって同じ向きへ重ね合わせ、さらに鉄心を磁化して磁束を集中させられるからです。一本の導線でも磁場はできますが、導線を何回も巻いたコイルでは、それぞれの巻き線が作る磁場が加わり、内部に強くまとまった磁場ができます。

そこへ鉄などの強磁性体を入れると、コイルの磁場によって鉄心内部の磁区が変化し、鉄心そのものも磁化されます。その結果、空芯コイルだけの場合より強い磁場を作りやすくなります。電流を止めれば磁場を大きく弱められ、電流の向きを逆にすればN極とS極も入れ替えられます。

電磁石の仕組みを理解するには、「電流が磁場を作る」「コイルで磁場を重ねる」「鉄心が磁化される」という三つの段階を分けて考えることが重要です。

目次

電磁石の出発点は「電流が磁場を作る」こと

導線に電流を流すと、その周囲には磁場が生じます。金沢工業大学の教材でも、導線の近くに置いた磁針が電流によって振れることから、電流が周囲に磁場を作ることが説明されています。

十分に長い直線導線では、磁場は導線を中心とする同心円状に広がります。磁場の向きは右ねじの法則で決まり、電流の向きを逆にすれば磁場の向きも逆になります。

つまり電磁石は、永久磁石へ電気を加えた装置ではありません。まず電流そのものが磁場を作り、その磁場をコイルと鉄心で使いやすい形へ整えたものです。

なぜ導線をコイル状に巻くと磁場が強くなるのか

一本の直線導線が作る磁場は導線の周囲へ広がります。導線を円形に曲げると、輪の各部分が作る磁場のうち、中心付近では同じ方向を向く成分が重なります。

さらに同じ向きで何回も巻けば、それぞれの巻き線が作る磁場が足し合わされます。長いコイルであるソレノイドでは、内部に比較的そろった強い磁場を作ることができます。

OpenStaxでは、理想的な長いソレノイド内部の磁場が、単位長さあたりの巻き数nと電流Iに比例し、B=μ0nIで表されると説明されています。つまり同じ長さなら巻き数を増やすほど、また電流を大きくするほど、内部の磁場を強くできます。

ソレノイドの磁場が棒磁石に似るのはなぜか

ソレノイドへ電流を流すと、内部では磁力線がほぼ同じ向きに並び、外部では一方の端から出て反対側へ戻る形になります。この磁力線分布は棒磁石の周囲とよく似ています。

金沢工業大学は、ソレノイドに電流を流すと多数の円形電流が作る磁場が重なり、外部に棒磁石と同じような磁場が生じると説明しています。

そのためソレノイドにはN極とS極に相当する向きができます。電流の向きを逆にすれば磁場も反転するため、N極とS極の位置も入れ替わります。

右手の法則で電磁石のN極とS極を決められる

コイルが作る磁場の向きは右手の法則で判断できます。右手の指をコイルを流れる電流の向きに沿って曲げると、親指がコイル内部の磁場の向きを示します。

この親指が指す側が、棒磁石のN極側に相当します。電源の向きを逆にして電流の向きを反転させれば、親指の向きも逆になり、N極とS極が入れ替わります。

お茶の水女子大学の教材でも、乾電池の向きを変えると電磁石の近くに置いた方位磁針の向きが逆になり、電磁石のN極とS極が入れ替わることが確かめられています。

鉄心を入れると磁場が強くなるのはなぜか

空芯コイルでも磁場は生じますが、内部へ鉄などの強磁性体を入れると、より強い電磁石を作れます。これは鉄心が単に磁場を「通す管」になるだけではありません。

鉄心内部には、多数の磁気モーメントが同じ方向へそろった磁区があります。外部磁場がない状態では、磁区ごとの向きが異なり、全体としての磁化が小さいことがあります。

東邦大学は、強磁性体へ磁場を加えると、磁場方向に対して安定な磁区が広がり、磁壁が移動して物体全体の磁化が大きくなると説明しています。

電磁石では、コイルが作った磁場が鉄心を磁化します。すると鉄心自身が作る磁場も加わるため、空芯コイルより大きな磁束密度を得やすくなります。

鉄心の効果は「透磁率」で考えられる

磁性材料が磁場へどれだけ強く応答するかを考えるとき、透磁率という量が使われます。空気や真空に比べて透磁率の高い材料では、同じコイル電流でも磁束を内部へ集中させやすくなります。

OpenStaxでは、ソレノイドへ磁性材料を入れた場合、材料の磁化による磁場がコイルの磁場へ加わり、内部の総磁場が増えることが説明されています。

ただし実際の鉄の透磁率は一定ではありません。加える磁場の強さや過去の磁化履歴によって変化します。そのため「鉄心を入れれば必ず一定倍率で強くなる」と単純には言えません。

電流を強くすると電磁石が強くなるのはなぜか

ソレノイド内部の磁場は、理想的には電流に比例します。そのため同じコイルなら、電流を増やすと磁場も強くなります。

お茶の水女子大学の教材では、乾電池を増やして電流を大きくすると、電磁石がより多くの鉄を引きつける実験が示されています。

ただし電流を大きくすると、導線ではジュール熱が増えます。コイルの抵抗をR、電流をIとすると、発熱はおおよそIの二乗に比例して増えるため、電流を無制限に大きくすることはできません。

実用の電磁石では、必要な磁力、電源容量、導線の太さ、冷却、使用時間などを考えて電流を決めます。

巻き数を増やせばいつでも強くなるのか

同じ長さのソレノイドで単位長さあたりの巻き数を増やせば、理想的には同じ電流でも磁場を強くできます。複数の巻き線が作る磁場が重なるからです。

お茶の水女子大学の教材でも、50回巻きより100回巻きのコイルの方が鉄を強く引きつける実験結果が示されています。

しかし実際には、巻き数を増やすと導線が長くなり、抵抗も増えます。同じ電圧の電源へつないだ場合、抵抗が増えれば電流は小さくなることがあります。そのため巻き数だけ増やせば必ず磁力が強くなるわけではありません。

実用設計では、巻き数と電流の積であるアンペアターン、コイル抵抗、発熱、電源電圧、巻線スペースを合わせて考えます。

鉄心にも磁化の上限がある

鉄心を入れると磁場を強くできますが、その効果も無限ではありません。外部磁場を強くしていくと、鉄心内部の磁気モーメントは次第に同じ方向へそろい、それ以上そろえられる余地が少なくなります。

この状態を磁気飽和と呼びます。OpenStaxは、鉄などの強磁性体では加える磁場を大きくしていくと磁化が飽和へ近づくことを示しています。

飽和に近づくと、電流をさらに増やしても鉄心の磁化による上乗せ効果は小さくなります。その一方でコイルの発熱は増えるため、効率が悪くなります。

強力な電磁石を設計するときには、鉄心の材質や断面積を選び、磁束が一部に集中しすぎて飽和しないようにすることが重要です。

電磁石の強さは空気のすき間でも大きく変わる

鉄心と吸着する鉄板の間に空気のすき間があると、電磁石の吸引力は大きく低下することがあります。空気は鉄に比べて磁束を通しにくいためです。

磁気回路という考え方では、磁束の通りにくさを磁気抵抗として扱います。鉄心部分の磁気抵抗が小さくても、わずかな空隙があると、その部分が全体の磁気抵抗の大部分を占めることがあります。

そのため電磁リレーや吸着用電磁石では、磁極面を平らに加工し、必要以上のすき間を作らないよう設計します。電磁石の性能は、コイルの電流だけでなく、磁束が通る経路全体で決まります。

電流を止めれば磁力は完全にゼロになるのか

コイルが作る磁場は電流が原因なので、電流を止めればコイル自身の磁場はなくなります。しかし鉄心を使った電磁石では、磁力が完全にゼロにならない場合があります。

強磁性体では、外部磁場を取り除いても磁区の配列が完全には元へ戻らず、磁化が一部残ることがあります。これが残留磁化です。

東邦大学は、磁場を取り除いた後も磁壁が不純物や格子欠陥に引っかかることで、磁化が残る場合があると説明しています。

そのため、電流を切った後すぐに鉄を放したいリレーや電磁弁などでは、残留磁化の小さい軟磁性材料が鉄心に使われます。

永久磁石と電磁石の違いはどこにあるのか

永久磁石は外部電源なしで磁場を保てることが利点です。一方、電磁石は電流を流している間に磁場を作るため、電力を必要とします。

しかし電磁石には、電流のオン・オフで磁場を大きく変えられる、電流値で強さを調整できる、電流方向でN極とS極を入れ替えられるという大きな利点があります。

永久磁石は「磁場を保つ」用途に向き、電磁石は「磁場を制御する」用途に向いています。モーターやリレーなどでは、両者を組み合わせて使う場合もあります。

電磁リレーではコイルの磁場を機械動作へ変える

電磁リレーでは、コイルへ電流を流すと鉄心が磁化され、可動する鉄片を引きつけます。その動きで電気接点を開閉します。

つまり、電気信号がコイルの磁場へ変わり、その磁場が鉄を引く力へ変わり、最後に機械的な接点動作へ変換されます。

電流を止めれば磁力が弱まり、ばねなどによって可動部が元へ戻ります。必要なときだけ磁力を出せる電磁石の性質が、そのままスイッチ機構に使われています。

電磁弁では磁力で流体の通り道を切り替える

電磁弁では、コイルへ電流を流して内部の鉄製プランジャーを引き寄せ、弁を開閉します。水、空気、冷媒、燃料などの流れを電気信号で制御できます。

この仕組みでも、コイル単独の磁場だけでなく、鉄心や可動鉄片を含む磁気回路を作ることで大きな吸引力を得ています。

電磁石の構造を理解すると、なぜ小さな電気信号で比較的大きな機械動作を起こせるのかがわかります。

モーターでも電磁石の仕組みが使われる

多くのモーターでは、コイルへ電流を流して磁場を作り、その磁場と永久磁石や別の電磁石の磁場を相互作用させて回転力を生みます。

直流モーターでは回転子のコイルの電流方向を適切なタイミングで切り替え、磁極の向きを変化させながら回転を続けます。交流モーターでは複数のコイルへ位相の異なる交流を流し、回転する磁場を作る方式があります。

電磁石は単に鉄を吸い付ける装置ではなく、時間的に磁場の強さや向きを変化させられることが、モーターなどの連続運動を可能にしています。

電磁石の仕組みを理解すると電気と磁気がつながる

電磁石の仕組みは、電気と磁気の関係を最もわかりやすく示す例の一つです。まず電流が磁場を作り、コイルにすることで複数の磁場を同じ方向へ重ねます。さらに鉄心を入れると、コイルの磁場によって鉄心が磁化され、より強い磁場を作れます。

電流を増やせば磁場は強くなり、巻き数を増やしても磁場を強められます。ただし導線抵抗や発熱、鉄心の磁気飽和があるため、無制限に強くできるわけではありません。磁路のすき間や鉄心の材質も性能を左右します。

電流の向きを逆にすればN極とS極を入れ替えられ、電流を止めれば磁場を大きく弱められます。この制御性こそが、リレー、電磁弁、モーターなどに電磁石が使われる理由です。

電磁石がコイルと鉄心で強い磁場を作れるのは、電流の磁場、コイルによる重ね合わせ、強磁性体の磁化という三つの仕組みが組み合わさっているからです。

関連記事

参考資料

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次