なぜ純物質は温度・圧力で状態や性質が変わっても純物質のままなのか?

純水を冷やすと氷になり、加熱すると水蒸気になります。圧力を変えれば沸点も変わります。鉄のような元素では、温度によって結晶構造が切り替わることもあります。

それでは、状態や密度、結晶構造などが変わったとき、その物質は「別の物質」になったのでしょうか。純物質は条件によって何が変わり、何が変わらないのでしょうか。

結論から言うと、温度や圧力によって物理状態や物性が変化しても、構成する化学種と組成が保たれている限り、その物質は同じ純物質として扱えます。固体・液体・気体への相変化、密度や体積の変化、結晶相の変化は、化学組成を変えない物理変化です。一方、加熱などによって分解や化学反応が起こり、別の化学種が生じれば、それは単なる物理変化ではありません。

目次

純物質を決める基本は一定の組成

IUPAC Gold Bookはchemical substanceを、構成する分子・式単位・原子などによって特徴づけられる、一定組成の物質として定義しています。

OpenStaxも、純物質は一定の組成を持つものと説明しています。純水なら基本的にH2Oという化学種からなり、純粋な鉄ならFeという元素からなります。

ここで重要なのは、「一定組成」と「物性が条件によらず完全に一定」は同じ意味ではないことです。

密度、体積、熱容量、粘度、蒸気圧などは温度や圧力で変化します。それでも化学組成が変わらなければ、同じ純物質の別の状態として扱えます。

氷・水・水蒸気はすべて同じH2O

純水を冷却すると氷になり、加熱すると水蒸気になります。このとき変わるのは、H2O分子そのものではなく、分子の並び方や分子間距離、運動状態です。

氷では水分子が規則的な結晶構造を作ります。液体の水では分子が近接したまま位置を変え続けます。水蒸気では分子同士が大きく離れて移動します。

つまり、固体・液体・気体という相が変わっても、化学組成がH2Oのままなら、純物質としての化学的な同一性は保たれています。

OpenStaxは、このように化学組成を変えずに状態や物性が変わる現象を物理変化として説明しています。

温度は安定な相を変える

一定圧力のもとで温度を変えると、固体・液体・気体のどの相が安定かが変わります。

低温では結晶として秩序だった状態が安定でも、温度を上げると液体や気体が安定になります。融点や沸点は、その条件で二つの相が平衡になる温度です。

日本化学会の教育記事では、純物質と混合物の融点・沸点を比較する実験を通して、純物質では一定圧力のもとで相転移温度が比較的明瞭に現れることが扱われています。

ただし、この相転移温度も圧力を変えれば変化します。「純物質だから融点・沸点がどんな条件でも一つの固定値」というわけではありません。

圧力を変えると沸点や相の安定性が変わる

OpenStaxの状態図の解説では、純物質の固体・液体・気体の安定領域は温度と圧力の組み合わせで決まると説明されています。

液体の沸騰は、その液体の蒸気圧が周囲の圧力と等しくなったときに起こります。そのため、外部圧力が低い高地では水の沸点が下がり、圧力鍋のように圧力を高くすると沸点は上がります。

ここでも、水が低い温度で沸騰したから別の物質になったわけではありません。H2Oという組成を保ったまま、液体と気体の平衡条件が変わっています。

状態図を見ると「同じ物質の変化」が整理できる

純物質の条件変化を理解するうえで便利なのが状態図です。

状態図では、温度と圧力を軸にして、固体・液体・気体のどの相が安定かを示します。境界線上では二つの相が平衡で共存し、三重点では三つの相が同時に平衡になります。

液体と気体の境界は臨界点で終わり、それを超えると液体と気体を明確に区別できない超臨界流体になります。

状態図に現れるこれらの領域は、別々の化学物質を示しているのではありません。同じ純物質が、温度と圧力に応じて異なる物理状態をとることを示しています。

密度が変わっても同じ純物質でいられる

密度は質量を体積で割った量です。純物質でも温度や圧力によって体積が変わるため、密度も変化します。

液体を加熱すれば熱膨張によって体積が増え、密度が低下することがあります。気体では温度と圧力による体積変化がさらに大きいため、密度も大幅に変わります。

NIST Chemistry WebBookは純粋な流体について、密度、エンタルピー、熱容量、粘度などを温度・圧力の条件を指定して取得できるようにしています。

同じ純物質に多数の密度値が存在するのは矛盾ではありません。条件ごとに体積が異なるためです。

「特徴的な物性」と「条件依存性」は両立する

IUPACは化学物質を特徴づける物性として、密度、屈折率、電気伝導率、融点などを挙げています。

一方、これらの物性の多くは測定条件に依存します。

そこで実際の科学データでは、「水の密度」だけではなく温度を指定し、「沸点」なら圧力を指定するなど、条件をそろえて値を比較します。

特徴的な物性とは、条件を適切に定めればその物質を特徴づける再現可能な値が得られる、という意味で理解することが重要です。

固体のまま結晶構造だけが変わることもある

純物質の変化は、固体・液体・気体の三態だけではありません。

固体のまま原子配列が変わり、別の結晶相へ転移する物質があります。この場合、化学組成は同じでも結晶構造が異なるため、密度、硬さ、磁気的性質、電気的性質などが変化する場合があります。

NISTは、常圧で複数の結晶形をとる元素について固体相転移温度を整理しており、多くの元素で固体―固体の相転移が確認されています。

つまり、純粋な元素でさえ「固体なら一つの固定構造」とは限りません。

同素体は同じ元素からなる純物質でも構造が違う

炭素にはダイヤモンドや黒鉛など、原子の結びつき方が異なる同素体があります。

どちらも炭素という一種類の元素からなる純物質ですが、結晶構造が異なるため硬さや電気伝導性などが大きく異なります。

同素体間の転移条件は温度・圧力に依存する場合があります。

この例からも、純物質という分類は「原子の並び方が一種類だけ」という意味ではないことがわかります。

化合物にも結晶多形がある

化合物でも、同じ化学組成のまま複数の結晶構造をとる多形が存在する場合があります。

多形が違えば、融点、密度、溶解度などの物性が変わることがあります。温度・圧力・溶媒・結晶化条件によって、どの多形が得られるかが変わる場合もあります。

このときも、化学式が同じで同一の化学種として扱える範囲なら、「純物質なのに物性が違う」ということはあり得ます。

純物質を識別するときには、必要に応じて結晶相や多形まで明示することが重要です。

相転移では潜熱が出入りする

純物質が融解・気化するとき、温度がほぼ一定のまま熱を吸収することがあります。逆に凝固・凝縮では熱を放出します。

この熱が潜熱です。

相転移中に加えられたエネルギーは、温度上昇だけでなく、粒子間相互作用や配置を変えるために使われます。

このように、純物質の状態変化ではエンタルピーやエントロピーも変化しますが、それだけで化学組成が変わったことにはなりません。

急な条件変化では平衡状態にすぐ移らないこともある

状態図は平衡状態を示しますが、実際には条件を変えた直後に必ず平衡へ到達するとは限りません。

純水を静かに冷却すると0℃より低くても液体のまま残る過冷却が起こることがあります。沸点を超えても気泡核が形成されず、過熱状態になる場合もあります。

また、急冷によって結晶化する時間を与えないと、物質によっては非晶質状態が形成されることがあります。

したがって、同じ温度・圧力でも、そこへ至るまでの冷却速度や履歴によって一時的な状態が異なる場合があります。

物理変化では化学組成が保たれる

OpenStaxは、物理変化を「物質の化学組成を変えずに状態や物性が変わること」と説明しています。

融解、凝固、気化、凝縮、昇華などは代表的な物理変化です。

たとえば純粋な氷を融かして液体の水にしても、別の成分が混ざらない限り、純水のままです。再び凍らせれば氷へ戻せます。

このような変化では、分子の配置や距離は変わっても、分子そのものの化学的同一性は保たれています。

化学分解が起きると「同じ純物質の変化」ではなくなる

一方、条件を厳しくすると、単なる相変化ではなく化学反応が起こることがあります。

化合物を強く加熱した結果、別の化学物質へ分解した場合、もとの化合物の化学組成は保たれていません。

たとえば一つの純化合物が二種類以上の生成物へ分解すれば、反応後の全体はそのままでは元の純物質とは呼べません。

したがって「条件を変えると純物質が変化する」という表現では、相・密度・結晶構造が変わる物理変化と、別の化学種が生じる化学変化を区別する必要があります。

元素でも通常の加熱・加圧だけでは別元素にならない

鉄や炭素などの元素からなる純物質では、温度や圧力を変えても通常は原子核の陽子数は変わりません。

結晶構造が変わったり、融解・気化したりしても、鉄原子は鉄原子、炭素原子は炭素原子のままです。

元素そのものを別元素へ変えるには、電子の組み替えを扱う通常の化学反応ではなく、原子核が変化する核反応が必要です。

これは、物理的条件による状態変化と元素変換がまったく別の現象であることを示しています。

純度が変わる場合は外部からの混入も確認する

実験や製造では、条件変更そのものではなく、外部から物質が混入して純度が下がることもあります。

純水を開放容器で長く扱えば、空気中の気体や容器由来の成分が溶け込む可能性があります。加熱容器から成分が溶出すれば、もとの純物質に別成分が加わります。

この場合は、温度や圧力が密度や相を変えたのとは別に、「試料の組成」が変化しています。

純物質の条件依存性を調べる実験では、温度・圧力だけでなく、試料の密閉、容器、純度管理も重要です。

純物質の変化を考える四つの確認ポイント

純物質が条件によって変わったように見えるときは、四つの点を順に確認すると整理しやすくなります。

第一は化学組成です。構成する化学種が同じなら、同じ純物質の物理的状態変化である可能性が高くなります。

第二は温度と圧力です。相、密度、沸点などを変える基本条件です。

第三は結晶相や構造です。同じ組成でも固体構造や多形が変わることがあります。

第四は化学反応や混入の有無です。分解・酸化・反応・不純物混入があれば、単なる物理変化とは区別する必要があります。

まとめ

純物質は温度・圧力によって状態や性質が変わっても、化学組成が保たれている限り同じ純物質として扱えます。

温度や圧力を変えると、固体・液体・気体の安定性、密度、体積、蒸気圧などが変化します。固体では結晶相や同素体・多形が切り替わり、物性が変わることもあります。

これらは化学組成を保った物理変化です。一方、加熱などによって分解や化学反応が起こり別の化学種が生じた場合や、外部から不純物が混入した場合は、「同じ純物質の状態変化」ではありません。

純物質の変化を理解するときは、「見た目や物性が変わったか」だけでなく、「構成する化学種と組成は変わったか」を確認することが最も重要です。

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