なぜ状態変化の温度や起こり方は圧力・不純物・冷却速度で変わるのか?

水は1気圧付近では0℃で凍り、100℃で沸騰すると習います。しかし、高い山では100℃より低い温度で沸騰し、塩を溶かした水は0℃より低くても凍りにくくなります。さらに、純水を静かに冷やすと0℃を下回っても液体のまま残る過冷却が起こることがあります。

同じ物質なのに、なぜ状態変化が起こる温度や起こり方は条件によって変わるのでしょうか。

結論から言うと、状態変化には「どの相が熱力学的に安定かを決める平衡条件」と、「実際に新しい相が生まれ始めるための速度論的条件」の二つが関係するからです。圧力や組成は平衡の相境界そのものを動かし、不純物や容器表面、冷却速度などは核生成の起こりやすさを変えます。そのため、教科書に載る融点・沸点と、実際に観察される変化開始温度が一致しない場合があります。

目次

状態変化の条件には「平衡」と「実際の開始」の二つがある

物質の融解、凝固、気化、凝縮、昇華などは相転移です。OpenStaxは、相転移温度を、二つの相が平衡で共存できる温度として説明しています。

たとえば純物質の融点は、一定圧力のもとで固体と液体が平衡になる温度です。沸点は、液体の平衡蒸気圧が外部圧力と等しくなる温度です。

一方、実際の試料では、その平衡温度へ到達した瞬間に必ず相転移が始まるとは限りません。新しい相が最初に生まれる「核生成」が必要だからです。

このため、状態変化を考えるときは、平衡上の転移条件と、実験で観察される転移開始条件を分けて考えることが重要です。

圧力を変えると相境界そのものが動く

日本化学会の「三態変化と状態図」では、固体・液体・気体の平衡関係を温度・圧力などの状態変数で表したものが状態図、または相図であると説明されています。

OpenStaxの状態図の解説でも、相境界は圧力に応じて融点、沸点、昇華点がどう変化するかを示します。

つまり、融点や沸点は物質固有の一つの数字ではなく、「どの圧力で測るか」を含んだ値です。

圧力が変われば、二つの相の自由エネルギーが等しくなる条件も変わるため、相転移温度が移動します。

沸点は外部圧力が下がると低くなる

液体が沸騰するのは、その液体の平衡蒸気圧が周囲の圧力と等しくなったときです。

外部圧力が低い高地では、液体の蒸気圧が低い温度でも周囲の圧力へ到達するため、沸点は低下します。

逆に圧力鍋では容器内の圧力を高くするため、水は100℃を超えても液体として存在でき、より高温で沸騰します。

この変化は、水分子そのものが別物になるためではありません。液相と気相が平衡になる条件が圧力によって変わるためです。

融点も圧力によって変わる

固体と液体の体積差があるため、融点も圧力の影響を受けます。

多くの物質では固体の方が液体より密度が大きく、体積が小さいため、圧力を高くすると固体側が相対的に安定になり、融点が上昇する傾向があります。

一方、水では通常の氷の方が液体の水より体積が大きいため、一定範囲では圧力を高くすると液体側が有利になり、融点がわずかに低下します。

同じ圧力変化でも物質によって融点の動き方が違うのは、相転移に伴う体積変化が異なるためです。

三重点より低い圧力では液体を経由しないことがある

状態図には、固体・液体・気体の三相が同時に平衡で共存する三重点があります。

三重点より低い圧力では、物質によって液体相が安定に存在できないため、固体を加熱すると液体を経ずに直接気体へ昇華します。

二酸化炭素の固体であるドライアイスが通常の大気圧で液体にならず、直接気体へ変わるのはこのためです。

つまり、状態変化の「順序」まで圧力条件によって変わる場合があります。

臨界点を超えると液体と気体の境界がなくなる

液体と気体の相境界は、臨界点で終わります。

臨界温度より高い条件では、圧力を上げても通常の意味で気体を液体へ凝縮できません。液体と気体の区別が連続的になり、超臨界流体になります。

このことからも、状態変化の条件は単に「温度が何℃になったか」だけでは決められず、温度と圧力を組み合わせて考える必要があることがわかります。

不純物や溶質があると凝固点が下がることがある

純粋な溶媒へ不揮発性の溶質を加えると、溶媒の化学ポテンシャルが変化し、固体と液体が平衡になる温度も変わります。

OpenStaxは、希薄溶液で見られる束一的性質として、凝固点降下と沸点上昇を説明しています。

水へ塩を溶かすと、純水より低い温度まで液体が安定になるため、凝固点が下がります。この性質が道路の凍結防止や不凍液に利用されています。

したがって、融点・凝固点を比較するときには、試料が純物質なのか溶液なのかを確認する必要があります。

溶質があると沸点が上がることもある

不揮発性の溶質を溶かすと、同じ温度での溶媒の蒸気圧が純溶媒より低くなる場合があります。

沸騰するには蒸気圧が外部圧力へ到達する必要があるため、より高い温度まで加熱しなければなりません。これが沸点上昇です。

つまり、外部圧力だけでなく、液体の組成も沸点を変える条件になります。

「水の沸点は100℃」という値は、1気圧付近の純水という条件を暗黙に含んでいます。

混合物では相転移温度が幅を持つことがある

純物質では、一定圧力のもとで融解・沸騰が比較的明瞭な温度に現れます。

一方、多成分の混合物では、相転移が一つの温度だけで完了せず、一定の温度範囲にわたって進むことがあります。

たとえば合金では、冷却するとある温度で固相が生じ始め、さらに温度が下がるにつれて固相の割合が増え、別の温度で完全に固まる場合があります。

NISTの相平衡データが温度・圧力・組成を組み合わせて整理されているのは、混合物では組成まで含めないと相転移条件を決められないためです。

過冷却では凝固点を下回っても液体が残る

液体を静かに冷やすと、平衡凝固点より低い温度まで液体のまま残ることがあります。これが過冷却です。

日本化学会の「三態変化と状態図」でも、熱力学的には別の相が安定であっても、転移が速度論的に起こりにくい場合には準安定相が存在し続けることが説明されています。

過冷却液体は、平衡上は固体の方が安定でも、最初の結晶核を作るための障壁を越えられていない状態です。

つまり「凝固点以下なのに凍らない」という現象は、凝固点そのものが消えたのではなく、核生成が遅れているために起こります。

核生成には小さなエネルギー障壁がある

液体から固体が生まれるとき、最初に非常に小さな結晶核が形成されます。

小さな核を作ると新しい固液界面が増えるため、界面エネルギーが必要です。核が小さすぎるうちは、この表面コストが大きく、すぐに消えてしまうことがあります。

一定以上の大きさになった核は、固相を形成することで得られる自由エネルギー低下が優勢になり、成長を続けられます。

この核生成障壁が、実際の凝固開始温度を平衡凝固点より低くする原因になります。

容器表面やほこりがあると凍りやすくなる

核生成は液体内部で完全に自発的に起こるだけではありません。

容器表面の傷、ほこり、別の結晶粒子などがあると、その表面が核生成の足場になり、必要な界面形成エネルギーを小さくできる場合があります。

その結果、非常に清浄な容器の純液体より、不純物や表面欠陥のある試料の方が平衡凝固点に近い温度で凍り始めることがあります。

同じ温度・組成でも、試料の清浄度や容器の状態によって実際の転移開始が変わる理由です。

種結晶を入れると過冷却が解除される

過冷却した液体へ、その物質の小さな結晶を入れると、急速に結晶化が始まることがあります。

種結晶はすでに安定な固体表面を持っているため、新しい核を一から作る必要がありません。

そのため、核生成障壁が大きく下がり、固相が急速に成長します。

この現象は、平衡温度と実際の転移開始温度の違いが「核生成のしやすさ」によって生じることをわかりやすく示します。

沸騰でも核生成が必要になる

沸騰でも、液体内部に気泡を作る必要があります。

気泡が形成されるには液体と気体の界面を作る必要があるため、非常に滑らかな容器で静かに加熱すると、沸点を超えても気泡が生じにくいことがあります。これが過熱です。

そこへ振動や小さな粒子が加わると、急激に気泡が発生して突沸する場合があります。

沸石を入れるのは、気泡が生じる場所を確保し、過度な過熱を防ぐためです。

冷却速度が速いと過冷却が大きくなりやすい

冷却を非常にゆっくり行えば、平衡凝固点付近で核生成が起こる時間を十分に確保できます。

一方、急速に冷却すると、核生成が追いつかないまま温度だけが下がり、より大きな過冷却状態へ入ることがあります。

さらに急冷すると、物質によっては粒子が規則正しい結晶を作る時間を失い、ガラスのような非晶質状態になる場合もあります。

このため、同じ最終温度でも、冷却速度によって得られる固体の構造や結晶粒径が変わることがあります。

加熱速度が速いと転移温度がずれて見えることがある

実験で相転移温度を測るとき、試料全体が完全に均一な温度になるには時間がかかります。

加熱速度が速すぎると、温度計が示す温度と試料内部の温度に差が生じたり、転移が進む前に次の温度へ進んだりします。

その結果、観測された融解開始・終了温度が平衡値からずれて見えることがあります。

正確な相転移温度を測定するには、十分にゆっくり温度を変え、試料が熱平衡へ近づく時間を取ることが重要です。

昇温と降温で転移温度が一致しないことがある

相転移の種類によっては、加熱時と冷却時で観測される転移温度が異なることがあります。

この差をヒステリシスと呼びます。

冷却時には新しい固相の核生成が必要でも、加熱時には既存の固相がすでに存在するなど、転移経路やエネルギー障壁が異なるためです。

材料の相転移や磁気・構造転移では、温度履歴によって相の状態が変わることがあり、「何℃か」だけでなく加熱中か冷却中かも重要になります。

結晶多形があると別の転移温度が現れることがある

同じ化学組成でも複数の結晶構造を持つ物質では、温度・圧力によって固体相同士の転移も起こります。

NISTの相平衡データは、材料の組成、温度、圧力に対してどの結晶相が安定かを評価するために使われています。

ある結晶相から別の結晶相へ転移した後で融解する場合、単純な「固体→液体」だけでは説明できない複数の転移が観察されることがあります。

状態変化の条件を扱うときには、固体相が一種類とは限らない点にも注意が必要です。

相転移中は加えた熱が潜熱に使われる

融解や沸騰の最中は、熱を加えていても温度がほぼ一定に保たれることがあります。

OpenStaxは、相転移中に加えられた熱が、粒子間相互作用や配置を変えるための潜熱として使われると説明しています。

そのため、加熱曲線では温度上昇が止まったように見える区間が現れます。

ただし混合物や非平衡条件では相転移が温度範囲に広がり、純物質の理想的な加熱曲線ほど明瞭な一定温度を示さないこともあります。

状態変化の条件を比べるときは測定条件をそろえる

相転移温度のデータを比較するときは、少なくとも圧力、組成、試料純度、加熱・冷却速度、測定方法を確認する必要があります。

同じ物質名でも、純物質と溶液では凝固点・沸点が違います。圧力が違えば沸点も変わります。核生成条件が違えば、実際に観察される凍結開始温度も変わります。

「融点」「沸点」「凝固点」という値は、適切な条件を付けて初めて比較可能な物性値になります。

NISTの相平衡データが温度・圧力・組成を明示して整理されているのも、この条件依存性があるためです。

状態変化を理解する五つの条件

状態変化がなぜ条件によって変わるかを整理するときは、五つの視点に分けると理解しやすくなります。

第一は温度です。各相の自由エネルギーを変え、相境界を横切る基本変数です。

第二は圧力です。沸点、融点、昇華条件、三重点などを変えます。

第三は組成です。溶質・不純物は蒸気圧や凝固平衡を変え、沸点上昇・凝固点降下を起こします。

第四は核生成条件です。容器表面、ほこり、種結晶、気泡核などが実際の転移開始を左右します。

第五は時間と履歴です。冷却・加熱速度、過冷却・過熱、ヒステリシスによって観測される転移温度が変わります。

まとめ

状態変化の温度や起こり方が条件によって変わるのは、相転移が「平衡条件」と「転移速度」の両方に支配されるからです。

圧力を変えると相図上の境界が変わり、沸点や融点、昇華経路が変化します。溶質や不純物を加えると蒸気圧や固液平衡が変わり、沸点上昇や凝固点降下が起こります。

さらに、実際に新しい相が生まれるには核生成が必要です。そのため、非常に清浄な液体では過冷却や過熱が起こり、種結晶や容器表面によって転移開始温度が変わることがあります。冷却・加熱速度や履歴も観測値へ影響します。

状態変化を正しく理解するには、「何℃で変わったか」だけでなく、「何Paで、どんな組成・純度で、どのような速度と履歴で測ったか」を見ることが重要です。

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